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2020年05月12日(Tue)
今こそ強靭な精神を取り戻そう
(産経新聞「正論」2020年5月11日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平

seiron.png世界的大流行(パンデミック)となった新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた必死の戦いが続いている。今後を占う上で最近、気になる調査結果がふたつあった。ひとつは米誌「USニュース&ワールド・リポート」が1月に発表した「世界最高の国ランキング2020」。日本は文化的影響力などが評価され、対象73ヶ国中3位にランクされている。

もう一つはギャラップ・インターナショナル・アソシエーションが3月、世界30カ国で行ったコロナウイルスに関する世論調査。「拡散防止に役立つなら自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない?」の考えに、オーストリアの95%をトップに平均で75%が「そう思う」と答えた。対する日本の肯定的回答は最下位の32%。


豊かで平和な戦後社会を反映

双方とも平和で豊かな戦後日本社会を反映した結果であろう。しかし、各国に比べ圧倒的に低い32%の数字は、強力な感染力を持つウイルスとの戦いでの“弱さ”に繋がる。わが国では、欧米など多くの国が打ち出している罰則付きの外出禁止令や都市封鎖(ロックダウン)といった強硬策は法制上も難しく、国民の広範な支持がなければ強力な対策はとりにくいからだ。

自由で豊かな戦後社会の中で、日本の良き伝統である自助努力や共助の精神は希薄になり、権利意識と義務・責任感のバランスも崩れつつある。結果、国民は政治頼み・待ちの姿勢を強め、日本社会をリードした官界は国の明日より保身に走り、政治も国の大論より聞こえがよ政策を競う合う傾向にある。

財務相の諮問機関である財政制度等審議会は18年末、平成30年間の財政運営を「受益の拡大と負担の軽減・先送りを求める圧力に抗(あらが)えなかった時代」と総括した。国債と借入金を合わせ1100兆円にも達した国の借金はその結果である。


政治に欠ける迫力と説得力

新型コロナ対策では、収入が落ち込んだ世帯に30万円を給付する当初案が最終的に1人10万円の一律給付に変更された。所得格差が拡大する中、何故、一律なのか。当初案に比べ、さらに8兆円の財源も必要だ。資金繰りに窮する中小企業や中小事業者への支援、高齢者から子供対策まで必要な資金は限りなく、カネはいくらあっても足りない。財政論を含め国会で厳しい論戦が見られなかったのは残念な気がする。

戦前の帝国議会で粛軍演説、反軍演説を行い、衆議院議員を除名された立憲民主党の齋藤隆夫は今も議会史に名を残す。国難の中、緊急事態を宣言して国民に外出自粛や大型イベントの中止、小中高の休校を求める以上、政治はもっと迫力と説得力を持たなければならない。

もうひとつ深刻化する医療関係者への偏見・差別。医師や看護師本人に対する差別だけでなく、その子供の登園を自粛するよう求めた保育園のケースや、人事異動が決まった医師の引っ越し作業を業者が拒否した話を耳にすると、驚きを禁じ得ない。防護服やマスクが不足する中、医療関係者の懸命の努力でわが国の医療は何とか持ちこたえ、感染者・死者数も欧米に比べ低く抑えられている。

ウイルス感染は誰でも怖い。だからこそ皆で助け合い戦うしかないのだ。医療関係者を差別して、どうなると言うのか。自分や身の回りの感染だけは防ぎたい、といった自分主義が透けて見え、日本人がいつここまで劣化したのか、不思議な気さえする。長年、ハンセン病に対する偏見・差別の撤廃を国際社会に訴えてきた立場からも看過できない。

戦後日本には「戦争がなければ平和だ」とする根強い考えがある。しかし、災害大国日本は常に自然災害と隣り合わせにある。つい最近も、富士山で1707年の宝永噴火と同規模の噴火が起きると、首都圏は大量の降灰で機能マヒに陥る、あるいは北海道沖から岩手県沖でマグニチュード(M)9級の巨大地震が起きると30メートル近い大津波が押し寄せる、といった警戒情報が政府の中央防災会議などから発表された。


立ち直るのは容易ではない


コロナウイルスの大流行も2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、12年の中東呼吸器症候群(MERS)に次いで今世紀で3回目。 “対岸の火事”で済んだ日本は今回の新型コロナ禍で、SARS、MERSを体験した台湾、韓国のような備えを欠いた。あらゆる災害に対する備えが急務である。誰もが、災害に「想定外」がないことを改めて肝に銘ずる必要がある。

資源の乏しいわが国は永年、教育を国づくりの柱に据え、大地震など数々の災害や大不況、多くの苦難を乗り越えてきた。その中で培われた強靭な精神は誰もがDNAの中に引き継いでいる。

コロナ禍の出口はいまだ見えない。あらゆる動きが止まった国際社会は1929年の大恐慌以来の混乱の渦中にある。非常時とはいえ外国からの入国を禁止し、国内でも他府県からの訪問を拒否せざるを得なかった一連の対応は大きな傷跡を残し、立ち直るのは容易ではない。そういう時だからこそ、互いに助け合って逞しく生きる日本人の強靭な精神を誰もが取り戻す必要がある。

タグ:日本財団 正論
カテゴリ:世界







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