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2020年01月14日(Tue)
基本法で子供育成の新理念示せ
(産経新聞「正論」2020年1月10日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平

seiron.png「世界中で日本ほど子供が大切に扱われる国はない」。明治初期、東京大学で生物学を教え、大森貝塚を発見した米国のエドワード・モースが著書「日本その日その日」に記した言葉である。同時期に日本各地を旅した英国の女性旅行家イザベラ・バードも「これほど自分の子供をかわいがる人々を見たことがない」(日本奥地紀行)と書き残している。

以後、約1世紀半、わが国は近代化が進み、格段に便利で豊かなになった。その一方で育児不安や児童虐待が増え、児童相談所が2018年度に対応した心理的虐待、身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)など児童虐待は過去最高の15万9850件(厚生労働省速報値)に上っている。

薄れる「子供は宝」の文化

背景には核家族化や少子高齢化、地域社会の崩壊が進み、子供を「社会の宝」として地域全体で見守り・育てる日本の伝統文化が急速に薄れてきた現実がある。この際、新たな子育て文化の確立が必要と考える。そのためにも新しい子育ての理念・基本方針を盛り込んだ「子供基本法」(仮称)の制定を提案したい。

世界196カ国が批准する「子供の権利条約」は、すべての子供の「生きる権利」、「育つ権利」、「守られる権利」、「参加する権利」を定めている。わが国も1994年に批准し、児童虐待防止法や少年法に加え2016年の児童福祉法改正では、児童養護を施設中心から家庭中心に転換する方針を打ち出している。

しかし、各法令を主管する省庁間の縦割り行政の限界もあり、急速な社会の変化に対応できていない。権利条約採択30年の昨年夏、公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が15歳から80代まで全国約3万人を対象に実施した調査では、子供世代、大人世代とも、日本で守られていない子供の権利のトップに条約第19条が規定する「子供は親から暴力やむごい扱いを受けないよう守られている」(虐待・放任からの保護)を挙げた。

残念なことに18年3月には東京・目黒区で5歳の女児、昨年1月には千葉県野田市で10歳の女児が父親の虐待で死亡する痛ましい事件も起きた。国連子どもの権利委員会も昨年、日本政府に宛てた総括所見で「子供への暴力、性的な虐待や搾取が高い頻度で発生している」と懸念を表明し、子供本人による虐待被害の訴えや報告を可能にする機関を創設するよう求めている。


保護対象ではなく権利の主体

英国などで導入されている子供コミッショナーやオンブズマン制度が参考になろう。これらの制度では、子供の権利や利益が守られているか調べ、必要に応じ政策提言を行うなど実効を上げているようだ。

日本社会は時に、「子供の人権が軽視される半面で親の権利が強すぎる」と評される。
子供に対する大人社会の目線を「保護の対象」から「権利を持つ主体」に切り替え、子供が発するSOSに社会全体がもっと敏感になる必要がある。地域や家庭、学校、職場が一体となった子育て支援、母親に負担が集中している育児を社会全体で担う仕組みに切り替える努力も急務である。

政府は、子供権利条約の内容は既存の法令で実施可能として基本法の制定には消極的とも聞く。しかし、子供を取り巻く問題はあまりに多様で奥深い。基本法を制定して子育ての新たな理念を明確にし、広く社会全体で共有すれば、各法令のより効率的な運用にも道が開ける。

さらに近年、顕著となっているわが子にしか興味を示さない親の目線を広げ、少子高齢化時代にふさわしい新たな「地域ぐるみで子供を育てる」文化の創造につながると期待する。

わが国には日本財団が主導的に関わった07年の海洋基本法をはじめ計50の基本法がある。子供の健全育成に関しては既に自民党の「児童の養護と未来を考える議員連盟」、超党派の「児童虐待から子どもを守る議員の会」が発足しており、昨年12月の合同勉強会には筆者も出席、子供コミッショナーが果たす役割について話させていただいた。


超党派の議員立法で制定を

昨年末に厚生労働省が発表した19年の出生数は86万4000人と第一次ベビーブーム期の3分の1以下に落ち込んだ。予想を上回る少子化の進行の原因として、未婚率の上昇や晩婚・晩産化、仕事と子育てが両立しにくい社会環境などが指摘されている。換言すれば、それだけ子供を育てる環境の整備が遅れているということにもなる。

次代を担う子供を健全に育てるためにも、子供基本法は超党派の議員による議員立法として制定されるよう望みたい。モースらが見た子供を大切にする社会を取り戻すためにも、与野党を超えた活発な議論に期待する。

タグ:日本財団 正論
カテゴリ:こども・教育







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