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2019年12月02日(Mon)
ケアポート事業が加速した「高齢者ケア」
(リベラルタイム 2020年1月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

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人生の最終ステージをいかに生きがいを持って快適に暮らせる場所にするかー。日本財団の前身である日本船舶振興会は一九九〇年から、こんなテーマについて専門家を交え福祉先進国である北欧諸国の視察や国際シンポジウムを重ね、四年後、その成果を「高齢者ケアビジョン」にまとめた。柱は全国三ヵ所での未来型高齢者施設「ケアポート」の開設。
多くの候補から最終的に「ケアポート庄川」(富山県砺波市)、「ケアポートよしだ」(島根県雲南市)、「ケアポートみまき」(長野県東御市)が選び、九二年から九五年にかけ竣工した。「庄川」がデイサービスセンターなどを備えた介護老人保健施設、「よしだ」が居住ゾーンを持つ通所型施設、「みまき」が入所型モデル施設とそれぞれタイプは異なるが、どの施設にもベット、トイレ、洗面施設などを備えた個室が設けられた。四人部屋が標準仕様だった当時の老人ホームでは突出した存在で「贅沢だ」、「運営費が掛かり過ぎる」といった批判も出た。
 
このうち「よしだ」には天然温泉を活用した温水プールもあり、その後、小規模多機能型の居宅介護施設、住宅型有料老人ホームも併設され、「たたら製鉄」で知られる人口千六百四十人(二〇一九年一〇月末現在)の吉田町の中枢施設に発展。地方創生の観点からも全国から注目される存在となっている。

十一月二日に町を挙げて行われた発足二十五周年式典の席に着きながら、故竹下登元首相やケアポート建設委員会の委員長を務められた故日野原重明・聖路加看護大学学長らが出席して盛大に行われた四半世紀前の竣工式をしばし思い出した。当時の船舶振興会は運営や人事をめぐり月刊誌、週刊誌などメディアの激しい批判にさらされ、船舶振興会職員の収賄事件に関連して警視庁の家宅捜索も受けた。モーターボートの売り上げもバブル経済の崩壊で九一年度の二兆二千億円をピークに減少に転じ、船舶振興会は文字通り逆風の最中にあった。

竹下元首相は近くの雲南市掛合町の出身で、当時、首相を退任されて五年余。竣工式前夜、少数の関係者を集め慰労会を開催いただき、式典当日は地元政界など多数の出席者を前に「ケアポートは日本の将来を見据えた施設だ」とあいさつされ、船舶振興会に関しても「世のため人のため国家が行き届かないところを補てんしている」と高い評価を頂いた。筆者は船舶振興会の総務部長として笹川陽平理事長(現日本財団会長)に随行する形で式典に出席したが、「気遣いの人」と言われた元首相の温かい言葉に身が震えたのを今も鮮明に記憶している。

個室にこだわったケアポートに批判的だった国も〇一年から標準仕様を四人部屋から個室中心に切り替えている。北欧諸国で完全個室の福祉施設を見るたびに感じた「自分も入ってみたい」と思う施設が日本でもようやく実現しつつあり、ケアポートが正しい選択であったことを実感する。

しかし、施設に対する評価は出来栄えではなく、一年後、三年後、五年後にいかに地域社会に活用され、役立っているかが全てである。建設から二十年を経た一四年、専門家に依頼して事業評価を行った結果、あらためてケアポートの先駆性が確認され、さらに充実したケアモデルを追及するため一六年から三ヵ年計画で新たな「スリーポート連携事業」をスタートさせた。現在も若手の研究者を中心に今後の高齢者ケアの在り方、ケアポートの一層の強化策の研究を進めている。

過疎と高齢化が同時に進行し、高齢者の十人に一人、一千万人を超す人が何らかの障害を抱える時代が目前に来ていると言われる。引き続き日本型の新しい高齢者ケアの在り方を追求する必要を痛感している。







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