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2019年11月26日(Tue)
《徒然に…》有為な国際人材が持続可能な海を開く
日本財団 アドバイザー 佐野 慎輔

徒然に…ロゴあるとき、いや正確に言えば1898(明治31)年の夏のことだが、病を得て渥美半島の突端、伊良湖岬に療養していた東京帝国大学生、松岡國男は浜辺を歩いていて椰子の実を拾う。どこか沖の小島からこぼれ落ち、はるかな波路をこえて浜にうち上げられたはずの椰子の実は、しかし意外なことに新しい姿のままであった。

松岡は帰京後、文学雑誌を通して知りあった島崎藤村に新鮮な驚きとともに椰子の実の話をした。藤村は松岡の話をもとに「名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実ひとつ」と始まる名詩『椰子の実』を書きあげる。

一方、大学卒業後、農商務省に進み役人となった松岡は柳田家に養子に入り、のちに民俗学者、柳田國男となっていく。椰子の実の故事は名著『海上の道』に収められた。

海がくれた“小さな贈り物”は日本文学と民俗学に大きな足跡を残したといえよう。


贈り物はペットボトル

あれから120年余、波に寄せて浜辺にうち上げられる贈り物は椰子の実ではなく、ペットボトルやビニール袋である。

時代は移り、白砂青松を愛でた海は汚されて、使い古されたフレーズではあるが、「海は悲鳴をあげている」のだ。

海が直面する課題、難題は海ごみだけにとどまらない。

気候変動に伴う海洋環境の変化は太平洋島嶼国の住環境に危機的な状況をもたらし、大型化した台風や津波は容赦なく海辺を襲う。違法(Illegal)・無報告(Unreported)・無規制(Unregulated)の「IUU」と呼ばれる不法操業は水産資源に甚大な被害を与え続ける。

また、海賊行為やテロの横行、密輸や人身売買などの組織犯罪、難民の移動といった社会不安はいま国境を越え、世界的な規模で広がっている。こうした海洋事案への取り組みは、初動対応を求められる日本の海上保安庁など世界の海上保安機関にとって喫緊の課題である。先日、東京で開催された『第2回世界海上保安機関長官級会合』では国、地域を越えた「海の危機」に対処すべく、より一層の連携・協力の強化が確認された。


情報共有も人材育成から

連携・協力の第一義は情報共有である。台風など自然災害に例を取れば被災地からの情報であり、災害時対応の知見に他ならない。災害予測のための情報を共有し、先進事例を取り込み、対策を講じておくことが求められる。組織犯罪や海賊、テロなどへの対応もまた、正確な情報把握が不可欠だ。

こうした課題に速やかに対応していくためには、人材の確保が必要であることは言を待たない。専門知識を有した人材を集め、その英知の結集によってはじめて課題解決に向けて動き出すのである。

だからこそ、日本財団はこれまでも海洋で活躍する人材の育成に力をいれてきた。

2011−14年、アジア5カ国の海上保安機関の若手幹部24人に能力向上のための研修プログラムを実施。15年からは海上保安庁やJICA(国際協力機構)などと一緒に、国際的な視座に立った海上保安官育成のための修士プログラム「海上保安政策過程」を政策研究大学院に設置。これまでにアジア6カ国から32人が修士号を取得している。

また2008年から、日本をはじめオーストラリア、アメリカ3国政府と協力してミクロネシア3カ国の海上保安能力強化支援事業を続けている。

パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島は国土こそ小さいものの、3カ国合わせた排他的経済水域(EEZ)は560万平方kmにも及ぶ。世界6番目の広さを誇る日本のEEZよりも約110万平方kmも広い。

一方で豊富な漁場としても知られ、IUU操業が深刻化している。小さな島嶼国では十分な監視体制をとることもできない状況にあり、日本財団が手を差し伸べて、日・豪・米の支援を引き出したのだった。


人材こそが海を救う

こうした支援の手はアジア、オセアニア、あるいは海上保安人材にとどまらない。スウェーデンにある世界海事大学への長年にわたるサポートや各種海洋人材育成プログラムにも現れている。プログラムからは海事行政に関わる人材や海洋学者、海底地図制作のための技術者、海洋法学者など、130か国1300人以上の人材が輩出。大きな人材ネットワークを構築している。

来年から、日本財団は海上保安庁と一緒になって人材教育のパイロットプログラムを実施、新たな海上保安の人材育成を始める。そこにネットワークをつくる彼らの英知を集めれば、課題解決の道は開くかもしれない。

海は地球の表面積の7割を占め、生命誕生の源となった。その海はいま、人の手によって危機に瀕している。救うのは人である。行政や法律、科学などに精通している人に他ならない。

海に、柳田國男や島崎藤村のような抒情を取り戻すことはもはや不可能かもしれない。それでも次の世代へ、「持続可能な海」としてバトンを渡したい。せめてもの海へのお返しである。


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