2018年09月03日(Mon)
自然災害の増加に備え「民」の力の強化を
(リベラルタイム2018年10月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿 ![]() 1995年の阪神淡路大震災あたりから、大規模自然災害の発生が増加傾向にある。昨年の九州北部豪雨や先の西日本豪雨のように「50年に一度の大雨」(気象庁)が各地で発生し、その一方で「生命に危険を及ぼすレベル」(同)の異常高温も続発している。 |
世界気象機関(WMO)の「長期的な地球温暖化の傾向と関係している」との指摘を待つまでもなく、素人目には世界が完全な異常気象サイクルに入ったように見える。まして日本は、南海トラフ地震など大地震がいつ発生してもおかしくない状況にある。
我国の防災を強化するために筆者は少なくとも2点の改革が急務と考える。ひとつは国土開発の在り方だ。4年前の8月、広島市安佐北区、安佐南区で77人が死亡した土砂崩れ現場を訪れた際、無残に破壊された住宅街を前に「このような土地で何故、住宅開発が認められたのか」、素朴な疑問を持った。 広島県は平野部が狭く、国土交通省によると全国で約66万カ所に上る「土砂災害警戒区域」のうち約5万カ所が同県に集中する。訪れた被災地には山裾ギリギリにニュータウンが造成され、山の中腹に計画された砂防壁が完成しないまま、折からの豪雨で大規模な土砂崩れが起きた。 広島県ほどではないとしても、国土の7割を山岳地帯が占める我国では、同様の危険地域での住宅開発が全国各地で進められてきた。国交省によると、14府県で計226人に上った今回の西日本豪雨の死者のうち、少なくとも約100人は土砂災害による犠牲者という。 災害はそこに人が住んでいるから発生する。人が住んでいなければ単なる地崩れなど地表の変化に過ぎない。仮に建築基準法などを満たしていたとしても、こうした地域での土地開発は極力、規制されるべきではないか。土砂災害の危険性がある土地に砂防壁を設け開発を進める姿勢は安全な街づくりにそぐわない。 治山治水は国家の要である。急速な少子高齢化、人口減少が進む中、有効に活用できる平野部の土地は急速に増えている。安全確保第一に国土開発計画を見直す時期に来ている。 もう1点は「民」の力の活用である。異常気象に伴う災害や地震は今後も確実に増えると思われる。高齢化が進む地方都市を中心に、自衛隊はもちろんNPOやNGOの支援に対する依存度は必然的に高まる。日本財団では過去50年間、被災地支援だけでなく、あらゆる社会福祉事業でNPOを支援してきた。しかし、組織や事業内容が大きく伸びた組織は見当たらない。 制度上、公益法人には公益法人認定法で公益目的事業の収支がゼロまたは赤字であるよう求める「収支相償」の規制があり、ともすれば運転資金、事業が縮小傾向をたどるのが一因のようだ。これでは新たな人材の確保は難しく、組織の活力も失われ、災害多発時代に対応して民の活動を拡大するのは難しい。 個人としてはNPOが新たな人材確保、組織の基盤を整備できるよう資金の内部留保を認め、日本財団のような助成財団の援助対象も非営利団体だけでなく営利を目指す団体にまで広げるのが一つの解決策と考える。 現在、被災地支援活動の多くを非営利組織で活動する人々の善意に依存している。しかし善意だけに頼る現状は限界にきている。何時起きてもおかしくない大災害に備えるためにも制度を抜本的に見直し、全国各地に受け皿となる優良なNPOを育成することが急務である。 |