精神障害者の権利擁護活動を行い、安心してかかれる精神医療の実現を目指している同センターは2017年6月、権利擁護システム研究会を設立した。強制入院制度の抜本的見直しと権利擁護システム制度を構築するための理論的考察を行い、その実践に向けた中長期的計画を立案・検討することが目的。当事者、家族、医療福祉従事者、弁護士、医師ら17年度参加メンバー26人が「強制入院」をテーマに、それぞれの立場から、その原因や問題点を検討してきた。
精神保健福祉法(正式名称:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)では大きく分けて、任意入院、医療保護入院、措置入院の3つの入院形態があり、うち医療保護入院と措置入院が強制入院。研究会のコーディネーターである竹端寛・兵庫県立大准教授によると、議論の中で研究会が主に着目したのが医療保護入院。この日のパネルディスカッションは、その「中間報告」の位置付けで実施した。
司会・進行役も務めた竹端先生は「現時点での医療保護入院を否定するのが、きょうの目的ではない」と念を押した上で「任意入院と措置入院の話は置いておいて、きょう私たちが考えたいのは、医療保護入院は一体何のために、誰のためにあるのか。そしてその数はどれくらいあるのか、構造的問題はどういうことなのか、そういうことを討論していきたい」と呼び掛けた。
来場者を交えた討論風景
入院させなければ自傷他害の恐れがある人を対象とする措置入院。医療および保護の必要がある時に、精神保健指定医の診察プラス「家族等の同意」(配偶者、親権者、扶養義務者、後見人または保佐人)を必要とする医療保護入院。この《家族等の同意》の問題について同人権センター元代表の里見和夫・弁護士は「家族のうちの誰か1人でも同意すれば、他の家族が反対していても、賛成した意見だけが優先権を持つ、という合理的根拠はどこにあるのか、何ら説明されていない。そもそも本人が同意していない強制入院について、家族に同意する権限があるのか、ということについても、全く合理的な説明がされていない」と指摘した。
基調報告「増え続ける医療保護入院の実情」の説明画面から
基調報告「法的な観点から医療保護入院の問題点を考える」の説明画面から
研究会の分析から浮かび上がった実態や要因を、より深く、正しく来場者に理解してもらおうと、研究会のメンバー計5人がこの後、討論の材料となる3件の基調報告を行った。
1件目は医療保護入院が一体どれほどあるのか実情を取り上げ「ひところは減り始めた時期があったが、2000年から反転しはじめた」などと説明し、なぜこんなに増え続けているのか、診療報酬などの精神医療政策から点検した。2件目は医療保護入院には矛盾点、不合理な点があまりにも多いとして、法的な観点から医療保護入院の問題点を指摘。3件目は本人や家族が負担や困難を抱え込まないためにも、本人と家族だけでは対応できない問題を解決するには本当に入院しかないのか、医療保護入院の背景や入院以外の選択肢を考えた。
会場からの質問も多数寄せられ、竹端先生と5人のパネリストが順次答える形で議論を続けた。