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2018年02月28日(Wed)
ソーシャルイノベーターの挑戦(下)
優秀賞受賞の川口良さん
都市と地方を繋ぐ“ドア”


「日本財団ソーシャルイノベーションアワード2017」(昨年12月14日実施)で優秀賞を受賞した3人目は、川口良Work Anywhere代表理事(34)だ。大都市と地方のように、離れた場所とそこにいる人々が、同じ部屋にいるかのように共有できる遠隔コミュニケーションの実現を目指している。マンガ「ドラえもん」で人気がある「どこでもドア」をモデルにした電子機器ともいえる。

事務所で集合写真に納まる(左から)福垣さん、川口さん、キャンベルさん、アレギさん

事務所で集合写真に納まる(左から)福垣さん、川口さん、キャンベルさん、アレギさん



小田急代々木八幡駅近くに、コンクリート格子のユニークなビルがある。その2階が、川口さんたちが作業や討論に使う事務所だ。この日は、プロジェクト・チームのメンバー4人が集まり、今後の製品制作のアイディアを出し合っていた。川口さんのほか、プロダクトデザイナーのタージ・キャンベルさん(32)、UXデザイナーのアルバロ・アレギさん(35)、それに建築家であり、アートホテルなどを経営するBnA(株)創立者の福垣慶吾さん(32)の4人だ。全員が流暢な英語で意見を出し合っていた。

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付箋を壁に貼りながらアイディアを出し合う4人のメンバー



メンバー15人中、9人が外国人
川口さんは神奈川県橋本市出身。生物学者になろうと東京大理科2類に入学したが、「教養課程の講義がおもしろくなかったので」スタートアップなどを転々としながらも、最終的には中退し米国に渡った。西海岸のシリコンバレーにあるカレッジからイリノイ州立大学に入り、2年間勉強した。その後、グーグルに入社し、6年半、グーグル・マップの開発に携わった。
そこで一緒に働いていたキャンベルさんに「会社を辞めて一緒に仕事をやろう」と誘われた。なかなか決心がつかなかったが、最後は根負けしてグーグルを退職した。そして一緒に立ち上げたのがContinuum(コンティニュアム)プロジェクトだ。ネーミングは相対性理論の用語からキャンベルさんが思いついた。時空連続体を意味するその言葉が「空間をつなぎ、ひとをつなぐ」新事業のコンセプトと重なっていたからだ。
川口さんとタッグを組むタージ・キャンベルさん

川口さんとタッグを組むタージ・キャンベルさん

プロジェクト・チームは多い時で総勢15人だったが、このうち9人が米国、スペイン、フランスなどから集まった外国人だ。アレギさんはスペインから来た、ブランディングや製品デザインを手がけるデザイナーだ。

東京の一極集中を改善へ
川口さんは東京に移ってきて、日本の4分の1以上の人が住んでいるメトロポリスだが、一極集中が様々な問題を引き起こしていることに気付いた。
「東京に住んでいるサラリーマンの55%が通勤に片道1時間以上かかっていて、家族と過ごす時間が減っている。それもあって46%の人が地方移住を希望している。この状況を改善するために、遠隔作業用のツールやサービスを地方と都市部をつなぐことに使いたいと考えた」
そのため、川口さんらは空間を擬似的につなげる「ポータル機能」、遠隔地の仲間がどんな状況にあるかをリアルタイムで表示する「プレゼンス機能」、議事録を自動的に記録・要約・共有したり、専用アプリで日報を作成したりする「ストーリー機能」の3つを実現することを目指している。

東京・有楽町の東京創業ステーションで起業を目指す人向けに講演する川口さん(左)と花岡隼人・日本財団ソーシャルイノベーション推進チームリーダー

東京・有楽町の東京創業ステーションで起業を目指す人向けに講演する川口さん(左)と花岡隼人・日本財団ソーシャルイノベーション推進チームリーダー

このプロジェクトを始めた昨年4月頃、日本財団のソーシャルイノベーター募集の記事をメーリングマガジンで知った。「これほど助成金の規模が大きいものは存在しないので、チャレンジだけはしようと思って申し込んだ。締め切りの2週間前で、いいタイミングだった」と川口さんは振り返る。

申請はしたものの、チームの半数以上が外国人で、日本企業についての感覚がまったくない人が多かった。そのうえ、申請後、初めて行われた日本財団との面接では「なぜ日本財団経由でなければいけないのか」など、シビアな質問が多く、不安だったという。

プロジェクト・チームで、資金計画を元に試算したところ、システムのモデルを作って量産する体制を作るまでに最低2年半から3年かかるという結果が出た。川口さんは「最初は大きなデバイスをつくるが、途中から小型化していき、最後は家庭でも使えるものにする。リアルタイムで映し出す画面は、米国なら家族が集まるキッチンに置けばいいが、日本の場合はどこか、まだ分からない。会社なら休憩室で気軽に使えるようにしたい」と話している。

ドラえもんの「どこでもドア」のように、人が反対側に行ける訳ではないが、ドア越しに話ができれば人々の夢の半分は実現することになる。 
(終わり)








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