• もっと見る

前の記事 «  トップページ  » 次の記事
2017年12月26日(Tue)
「今、行動を起こさなければ・・」
“海の限界”に強い危機感
ネレウスプログラム国際シンポ


海の未来を総合的に予測する「日本財団ネレウスプログラム」の国際シンポジウムが12月21、22両日、東京・赤坂の日本財団ビルで開催された。「海の限界」をテーマに「気候変動と海」、「海と健康」など5項目を中心に講演が行われ、特に気候変動に関しては、海の生態系に大きな影響を与えている現実をあらためて指摘した上、「今、行動を起こさなければ残された対応も失われる」など厳しい現状認識が示された。

出席者でパネルディスカッションも

出席者でパネルディスカッションも


ネレウスプログラムは現在、日本財団と17の国際研究機関の共同プロジェクトとして運営され、今回のシンポジウムには世界の8大学・研究機関の専門家や「鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来」の著者として知られる米国の作家ポール・グリーンバーグ氏らが出席。冒頭、挨拶に立った笹川陽平・日本財団会長は「持続性を持つ海洋こそ人類にとって最も大切」とした上で、「現状のままでは海は500年、1000年、うまく行って2000年、地球年で見れば“瞬きの瞬間”しか持たない」と海の危機を訴えた。

海洋の危機を訴える笹川会長

海洋の危機を訴える笹川会長



8大学・研究機関の専門家が出席

8大学・研究機関の専門家が出席



気候変動に関しては、これまでの研究成果を基に(1)海面に近い水が温まり栄養豊富な深層水と混ざりにくくなった結果、プランクトンが減り、これを餌にする魚種が減少している(2)海水温が1度上昇すると漁獲量が340万トン 減る可能性がある(3)比較的冷たい海水を好んで回遊する魚が高緯度海域に移動しつつある(4)海水温度が上昇すると海の生き物の代謝が活性化し、より多くの酸素が必要となる半面、海水に溶ける酸素の量が減るため魚は小型化するーなど、海洋にも深刻な影響が出ている現状があらためて報告された。

さらに気候変動に伴い海のバランスが影響を受け、2050年前後には魚種の20%近くが減る可能性があるほか、温暖化に伴う海面上昇に直面する島嶼国は陸ばかりか、魚を主なタンパク源とする食の安全保障にも大きな影響を受ける恐れが指摘され、グリーンバーグ氏は著書を基に「米国の魚市場はサケ、スズキ、タラ、マグロの4種類に特化され多様性は失われた」と述べた。

海と環境問題に焦点を当てる米国人作家グリーンバーグ氏

海と環境問題に焦点を当てる米国人作家グリーンバーグ氏



一方、2050年には90億人を突破すると見られる世界の人口増と途上国を中心にした1人当たりの魚消費量の増加が進む中、世界の漁獲量は1990年代以降、9000万トン前後でほぼ横ばいの状態にあり、近年、漁業資源をめぐる国際紛争も目立っている。こうした現実に対しシンポジウムでは「漁獲圧力を下げなければバイオマス(生物資源の量)は上昇しない」、「海洋の生産性は限界を越えており、養殖を増やすしかない」、「陸の食糧との調和を図る必要がある」といった指摘が出された。

このほか気候変動の原因となっているCO2(二酸化炭素)の削減では「洋上発電基地を増やし再生可能エネルギーの生産だけでなく養魚場としても活用する」、「CO2を多く取り込む特性を持つ昆布類の森をつくる」といった案と同時に、海洋の立場でさらに多くのオプションを模索する必要性を指摘する声も出た。


● 日本財団ネレウスプログラム ウェブサイト
カテゴリ:海洋







 【学生が見た日本財団】ニュースは誰でも届けられる!  « トップページ  »  「今年一番印象に残ったこと」