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2017年12月06日(Wed)
摂食障害の症状や治療の理解を深めよう!
専門の医師と歯科医師が講演
「放置せず、医師に相談を」


若い女性を中心に、拒食症や過食症に苦しむ人が増えているため、一般社団法人・日本摂食障害協会は日本財団の助成を受け、啓発のための講習会を全国で開催している。12月2日、東京・六本木の政策研究大学院大学で行われた「摂食障害ってどんな病気ですか?」と題する講習会の模様を紹介する。

摂食障害への対応について話し合う(左から)鈴木理事、大津さん、林さん

摂食障害への対応について話し合う(左から)鈴木理事、大津さん、林さん


日本摂食障害協会は、摂食障害の支援、啓発、予防のため、専門医らが中心になって2015年に設立、咋年3月に法人化した。昨年8月、民間会社のウエブ(会員向けアプリ)を使って14歳から63歳までの女性4,017人にアンケート調査したところ、「摂食障害は、ダイエットが一番の原因」「拒食症の人は自分の意思で拒食をしている」などと誤解している人が多いことが分かった。このため摂食障害を正しく理解してもらい、病気への対処法を知ってもらおうと今年度、(1)一般、当事者、家族向け(2)アスリート、トレーナー向け(3)管理栄養士、心理士などの専門家向けの3種類に分けて東京、大阪、札幌、愛媛・熊本の5ヵ所で計12回の講習会を計画した。

この日の講習会には、特定医療法人群馬会・群馬病院精神科の林公輔医師、日本歯科大学附属病院の大津光寛准教授が講師として出席した。受講したのは障害の当事者やその家族、医療関係者ら約100人。まず、鈴木真理・協会理事(内科医)が講習会を始めた理由などについて説明。「すでに11カ所で開催したが、毎回、多くの方に参加していただいた。来年以降も講習会を開いていきたい」と述べた。

講習会について説明する鈴木理事

講習会について説明する鈴木理事


講習会では、最初に林医師が「摂食障害のこころ」と題して、障害当事者や家族と接してきた体験を元に、約1時間講演した。人には「健康なこころ」と「病気のこころ」があるが、しばしば両方の境界があいまいになるとして「健康なこころと手を結ぶこと、2つのこころの間に線を引くことが治療では重要」と指摘した。

また、林医師は「摂食障害患者のこころは閉じている」としてその具体例を3つ挙げた。
(1)食べるところを見られることを嫌う→1人で食べる。他者が介入しなくなる
(2)母子関係は父の情緒的不在により、2者関係に閉じていく
(3)食事や体重にとらわれ、決まったものしか食べなくなる→興味の範囲が狭まり、他に開
   かれていかない
   このため、摂食障害の治療では「閉じているもの」を「開く」ことが重要だと述べ、
  (1)症状が良くなると患者は世界に開かれていく
  (2)食べ物以外へ興味が広がり、母親以外との対人関係もできてくる
  (3)こころが広がりを見せる
     と指摘。「閉塞モデル」から「循環モデル」へ転換する具体的な解決法として入院
     を勧めた。林医師は「入院すれば起床時間や消灯時間が決まっていて、自分のやり
     方を手放さざるを得なくなる。入院に同意した時点で大きな進歩だ」と述べた。

患者のこころを開く方法を説明する林医師

患者のこころを開く方法を説明する林医師


続いて、大津准教授が「摂食障害の歯科的問題とその対応」について約1時間講演した。人間の歯はエナメル質で覆われていて、鉄より硬いが酸に弱く、強い酸にさらされると穴が開く。ただし、唾液が出れば酸を中性に変え、虫歯になるのを防ぐことができる。だが、飲食回数が多いと唾液の出る時間が少なくなり、虫歯になりやすい。つまり、虫歯を予防する決め手は、上手な歯磨きと規則正しい食事ということになる。

では、摂食障害患者の場合はどうか。拒食症だと1日にわずかの量しか食事はとらないが、その他の時間、アメやガムを長時間口にしていると、口の中が長時間酸性になり、虫歯は重症化する。また、長時間かけて過食をする患者も同様となる。さらに、食べ吐きが頻繁になると、歯が溶けて本来の形が失われてしまう。大津准教授は「歯科医師は、全体として摂食障害への対応が不十分だ。医師と歯科医師が協力すればうまくいくと思う」と述べた。

食障害と歯の関係について説明する大津准教授

摂食障害と歯の関係について説明する大津准教授


最後に、鈴木理事、林医師、大津准教授の3人が並び、会場からの質問に答える形で討論した。質問は、摂食障害患者を抱えた親からの切実なものが多かった。ある親は「子どもがやせすぎていることを認めないし、自覚していない。このまま放置しておくのが怖い」と質問。これに対し、鈴木理事は「血液検査だけでもいいからと言って患者を病院に連れてきてください。放っておくと自分は病気ではないと言い続けるので、プロと話をさせてください」と呼びかけた。

また、林医師は「私たちにも分からないことが多いが、私たちと話したほうがお子さんの安心につながり、プラスに働くかもしれない」と答えた。



● 日本摂食障害協会 ウェブサイト







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