• もっと見る

前の記事 «  トップページ  » 次の記事
2017年10月25日(Wed)
日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展フォーラム
「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」
暴風雨の中、約160人が参加


開催中の日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」に関連するフォーラムが10月22日、東京・南青山のスパイラルホールで開かれた。台風21号が接近、暴風雨が強まる中、約160人が参加し、キュレーターや出展作家らの討論を熱心に聞いていた。展覧会には、障害者や元SMAP・香取慎吾さんの作品など、計約500点が展示されていて、今月31日まで続けられる。

アートを巡って討論するキュレーターと出展作家たち。右端はやまなみ工房の山下施設長

アートを巡って討論するキュレーターと出展作家たち。右端はやまなみ工房の山下施設長


日本財団は、多様な個性に寛容なインクルーシブな社会の実現を目指し、障害者のアート活動を中心に多様性の意義と価値を広く伝え、障害者と健常者がともに楽しく鑑賞できるプロジェクトに取り組んでいる。この日のフォーラムは、スパイラル3階のホールで行われ、展覧会の企画段階から参画したキュレーター、建築家、障害者らのチームに、出展作家らが加わり、これまでの活動や入場者の反応などを報告した。

フォーラムは3部構成で行われ、第1部では「アート」と題し、キュレーターのロジャー・マクドナルドさん、塩見有子さん、やまなみ工房の山下完和(まさと)施設長、それに出展作家4人が出席した。ロジャーさん、塩見さんが司会役を務め、まず塩見さんが「アートを心理的、精神的に安定した状態をもたらす道具と捉え、作品や会場構成を通して能動的に参加できる工夫をこらしている」と説明した。

続いてロジャーさんが、恩師である英国の美術評論家、ロジャー・カーディナルさんとのインタビューを基に、「生活や生きることの一部にアートがある」「アートは感覚を解放し、最終的には主体性を再生する試みである」と述べた。

続いて、出展作家3人を出した山下やまなみ工房施設長が、施設内のアーティストが制作した作品をプリントした服を着用して登場、「私は動く広告塔です」と言って笑わせた。工房には現在、83人の障害者がいるが「アートをやるように強制したことはない。彼らを尊重し、希望をかなえ、笑顔で満たしたいという思いだけです」と強調した。

(左から)塩見さん、ロジャーさんと語り合う山下施設長

(左から)塩見さん、ロジャーさんと語り合う山下施設長


この後、出展作家の青山悟さん、川内理香子さん、ピーター・マクドナルドさん、土屋信子さんがそれぞれ、アートへの思いを語った。ロジャーさんの弟でロンドン在住のピーターさんは「美大で色々考えたが、卒業してから自分の言葉を探したような気がする」と話した。ロジャーさんが青山さんに「アートは独学がほとんどですよね」」と話を向けると、ロンドンやシカゴの美大で学んだ青山さんは「美大で疑問を持ち、先生に相談したら『それではアーティストになれないよ』と言われたが、自分が表現したいモノがあればアーティストだ」と、話していた。

一方、山下施設長は「我々の工房では、美術を学ぶという意識は見られない。20年間、寝ている時以外はずっとインスタントラーメンの包み紙を触っている女性がいるが、理由は分からない」と述べた。

休憩後、第2部の「アーキテクチャー」(建築・構造)に移り、展覧会場でアクセシビリティ(参加可能性)に取り組んだNPO法人アトリエ・ワンの塚本由晴・東工大大学院教授と貝島桃代・筑波大准教授が登壇した。貝島さんは「昔よくスパイラルの2階の窓辺に来て青山通りを見ていたので、窓辺をそのまま残して通れるようにした。中心会場のアトリウムの真ん中に段ボールで座り場所を作った。高さが120cmなので、座って周りを見られるようになっている」と説明した。

また、塚本教授はギャラリーから2階のエスプラナード(大階段)へ行くまでに、くねくね曲がったスロープがあるので、「すいませんスロープ」と呼んでいると紹介。「スパイラルは30年前にできた建物なので、当時は車いすで行けなくてもいいと思っていた。今であれば、できるだけそういうところは減らそうとなるが、当時は社会全体がそうだったので悪いとはいえない」と話していた。

会場の構成などについて語る(左から)塚本教授と貝島准教授

会場の構成などについて語る(左から)塚本教授と貝島准教授


第3部は「アクセス・アート・プログラム」のタイトルで、NPO法人エイブル・アート・ジャパンの柴崎由美子・代表理事、視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップの林建太代表、美術と手話プロジェクトの西岡克浩代表の3人がラーニング(学び)について報告した。まず柴崎さんが、参加者の主体的な関わりを大切にし、アートを通じて得た感動や発見、疑問を共有することを目指して10ヵ月間活動してきたと述べた。

ワークショップなどの活動を報告する(左から)柴崎さん、西岡さん、林さん

ワークショップなどの活動を報告する(左から)柴崎さん、西岡さん、林さん


その後、西岡さんが耳の聞こえない人がどんな不便を感じているかを手話通訳のサポートを受けながら語り、10月14日に行われた「聞こえない人とつくる『対話』をテーマにしたワークショップ」について説明した。まず、聞こえない人が楽しめるテンポで進めるため、聞こえない人が司会役を務め、気持ち良いコミュニケーションが行えるよう、参加者8人が2グループに分かれて作品を鑑賞した。車いすの人がいたので、皆で座って作品を見上げながらの対話も行った。

ワークショップの後、意見交換し、「視線の高さによって印象が違う」「触ることができるサンプルは会話を盛り上げる」などの感想が出たという。

西岡さんは「美術館ではまだワークショップへの協力や手話通訳に対する対策が十分講じられていない。色々な人たちとともに美術鑑賞を体験し、共に考えることが必要だ」と総括した。

一方、林さんは10月15日と18日に行われた「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」について報告した。全盲と弱視の人が加わり、7,8人でグループを作って実施。まずアトリウムを上から眺めることから始めたところ、作品だけでなく、人の動きや光や音まで分かり、「劇場みたい」との感想が多かった。その後、近くで見たり、離れてみたりすることを行ったが、全盲のスタッフは「見ると眺めるは一連のもので、分かれていない」と語っていたという。今回のワークショップについて林さんは「まだ考えがまとまっていないが、作品を見ても感想を言葉にするのが難しく、共有できないものがあることが分かった」と話していた。



● 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS ウェブサイト
● ミュージアム・オブ・トゥギャザー ウェブサイト







 津波防災の新しい合図「オレンジフラッグ」  « トップページ  »  隔離のなかの食 −生きるために 悦びのために−