2017年10月05日(Thu)
障害者と共に楽しむ 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展(4)
「障害者の芸術活動と言うと、作る人の側に焦点があたっているが、人間が文化的に豊かな時間を享受するということは、見るとか、楽しむとかというところにも文化活動の可能性があるはず。ところが、障害者には鑑賞することに対しても、それがしにくいような壁がある」。そう強調するのは、NPO法人エイブル・アート・ジャパンの柴崎由美子代表理事。
奈良市の財団法人たんぽぽの家で長年勤務していた柴崎代表理事によると、聴覚障害者が美術館に行き、チケットを買おうとしても、館員から何を聞かれているか分からないうえ、ギャラリー側からアートに関する情報提供があっても、手話のサポートがないと分からないという。このため、手話通訳をつけるよう主催者側に要求しても、かなりの費用がかかることから社会的に必要とはみなされていないとし、「文化を楽しむという機会の手前で止まっている」と語っていた。 ![]() インタビューに答える柴崎代表理事 その一方、柴崎代表理事は障害の部位によって理解度が異なる可能性もあると、次のように語る。 「視覚障害者は目では見えないが耳では聞こえていて、キュレーターの説明も直接的な情報として受け止められる。一方、聴覚障害者は作品を眼で見ているが、キュレーターの説明は手話通訳を通じてしか分からないので、理解度には差が出る。ただ、目の見えない人も色々な人との対話で深いところが見えてくる。同じように、聴覚障害の人も対話をしているうちに深いところが見えてくることが分かってきた。そこで今回の展覧会では、障害者向けのプログラムを丁寧に準備して進めていこうと話合い、進めてきた」 現代アートを中心に、様々なジャンルの意欲的な展覧会を開催している六本木ヒルズの森美術館(森タワー53階)では、2003年の開館時からラーニング・プログラム(当初の名称はパブリック・プログラム)を実施している。ラーニング・プログラムの中に、主に聴覚障害者、視覚障害者に向けたプログラムとして「アクセス・プログラム」を実施しているが、健常者の参加も受け付けている。 定番のアクセス・プログラムは@聴覚障害者が対象の「手話ツアー」、A視覚障害者対象の「耳で見るアート」の2つで、いずれも展覧会に合わせて1,2回実施している。そのほか、昨年4,5,6月には、目が見える人も見えない人も参加できる「視覚のない国をデザインしよう」というワークショップを実施し、「もしも、私たちの日常生活が視覚のない世界だとしたら?」をテーマに、社会やアートがどのように変わるのかというアイディアを出し合った。 白木栄世アソシエイト・ラーニング・キュレーターは「私たちは森美術館近くの駅まで障害者を迎えに行くところから寄り添うことで、その人の障害の程度から特性を理解したうえで、彼らに合ったプログラムを展開するよう務めている」と話していた。 ![]() 手話ツアー風景(「N.S.ハルシャ展」森美術館、2017年) 撮影:御厨慎一郎、写真提供:森美術館 また、障害者と健常者が趣味を通じて一緒にアート鑑賞会を行っている団体もある。そのうちの1つ、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」(林建太代表)は、2012年6月に設立され、この5年間に宮城県から沖縄県まで計12都府県の美術館で約120回の鑑賞会を開いている。 林代表は「フェイスブックやネットで参加者を呼びかけ、1チーム7,8人の2チームで実施している。視覚障害者と晴眼者各1人がナビ役になり、作品の感想などを述べ合っている。参加者延べ約1,500人のうち、視覚障害者が約3割で、残りは晴眼者」と語る。鑑賞会のやり方は、対象作品を自分たちで3点ほど選び、1作品について30分くらい見てから各人が感想を述べ合う場合が多いという。林代表は鑑賞会の意義について「目の見えない人と見える人が同じものを見ても、違う経験をしている。そのズレから発する言葉が大切で、その瞬間に新たな発見がある」と話していた。 ![]() インタビューに答える林代表 今回の展覧会では、ラーニングの主な活動として、「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」(15日と18日の2回)、「聞こえない人とつくる『対話』をテーマとしたワークショップ」(14日と27日の2回)、「知的障害、発達障害、精神障害のある人と考えよう!展覧会の楽しみ方」(24日)が開催される。 第5回はこちら ● 障害者と共に楽しむ 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展(5) ● 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS ウェブサイト ● ミュージアム・オブ・トゥギャザー ウェブサイト |