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触法障がい者と就労 [2021年03月18日(Thu)]

 2001年度からエヌポケットが県から委託されている事業の一つに障害のある人の雇用に関わる企業と、そこで働こうとする障害のある人の間にたって活動するジョブコーチ事業があります。当初からジョブコーチとなったメンバーにはスキルアップ研修が課せられ、多くのことを学んできています。テーマはその都度実際の支援で学びの必要性を感じるメンバーから希望があったものがほとんどで、今回は「触法障がい者と就労」をテーマに開いたセミナーについての投稿です。

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 ジョブコーチ(JC)支援の現場で、対象者に前科があることがわかりJCとして企業にそれを伝えるべきかどうかを悩む事例がありました。弁護士の理事に相談し、罪を償った後、個人の不利益になる事は伝えなくてもよい、伝えなかった事でJCが法的に問われることはないとのアドバイスをいただきました。ただし、履歴書等の書類に記載欄がある場合は記載が必要であることも学びました。しかし、逮捕歴はなくても企業や同僚の金銭を何度か盗んだ事がある事を知っている場合など、企業に黙っていてよいものか悩むこともあります。そこで今回、認定NPO法人静岡司法福祉ネット「明日の空」の代表 飯田智子氏に講師を依頼し、「触法障がい者と就労」についてのスキルアップ研修を行いました。

◆検挙と起訴の状況
 検挙件数のうち刑務所に収容されるのは2%未満。弁償・引受・反省があれば起訴が回避できることが多いため、起訴が回避できないのは、貧困かつ身寄りがなく弁償できない、知的障害などにより反省の態度が示せない場合が多くなっているとのことでした。
刑務所に入ることで、社会から排除され孤立し一層社会性をなく弊害があります。しかし、刑務所に入らず、釈放・不起訴・執行猶予の場合には公的な支援がなく、障害者にとってどちらも厳しい状況であると言えます。

◆福祉の壁、就労の壁
 福祉に繋がっていない、手帳がない、申請後のスピード感がない、管理されるように感じる不信感等から福祉に関わりたくない、と拒否するなど福祉の壁が大きく立ちはだかっているとのこと。手厚い福祉や制度があっても、一人一人に向き合うやさしさが無ければ福祉への不信感となってしまう事があると思いました。
 雇用先が少なかったり、障害であるがゆえにブラック企業に搾取されてしまったりと就労への壁もまた高い現実があります。

◆就労支援を考える
 良好な対人関係を築く、相談できる場や人・力を得るための支援、再犯の可能性を減少させる、金銭管理、生活習慣を整えるなど支援の連携先を増やす、よりそい支援の実践が必要です。JC支援でも「関係機関と連携」が重要ですが、こちらの気持ちを押し付けることなく、対象者の気持ちをきちんとくみ取ったうえで繋げる事がさらに重要だと思いました。オープンかクローズかの選択は両方のメリットとデメリットを説明して本人に決めてもらう事、しかし途中で本人の気持ちが変わることもあるのでアドバイスが必要というお話でした。オープンにする場合は、現在頑張っている現状もしっかり伝える事が支援者としてとても大切であると感じました。
 JCとして企業への支援も重要です。ロッカーに鍵をかける、財布や現金を見える所に置かないなど犯罪を未然に防ぐための環境整備を企業にアドバイスすることが対象者を守ることにも繋がります。
浜井浩一著『日本の刑務所はなぜ、社会的弱者でいっぱいなのか』の中の以下の言葉が紹介されました。
「刑務所は、社会の中で唯一受入れを拒否したり、たらい廻しをしたり、途中で追い出したりできない施設。福祉を中心とするセーフティネットが十分に機能せず、社会が排他的になれば、居場所を失った人が最後に行きつく場所は刑務所である。(中略)社会の中に居場所が作れなければ、回転ドアのように受刑者は刑務所に戻ってきて、最後は刑務所で死を迎えるしかない。」
 社会が刑務所より厳しいところでない日本にしていかなければなりません。「判決」では終わらない司法ソーシャルワーク、支援のリレーというお話がありました。JCとしてできる事は限られますが、様々な社会資源を知り、活用し、関係機関と連携してリレーの一部となりたいと思いました。今回「明日の空」の存在を知ることができた事は何よりの力となりました。
(ジョブコーチ事業担当 島田江津子)