障害のある人の在宅就労支援事業「ぽけっと工房」を振り返って [2024年09月02日(Mon)]
「ぽけっと工房」をふりかえる パソコンを使った障害のある人の在宅就労支援事業「ぽけっと工房」は2024年3月をもって終了となりました。18年の長きにわたる事業を振り返ります。 ◆事業のはじまり 事業が正式にスタートしたのは2006年。その年に静岡県の「バーチャル工房支援事業」を県内唯一の委託先として採択されたのでした。それ以前から、N-Pocketが管理運営していた「静岡県西部障害者マルチメディア情報センター」で習得したIT技術を、仕事に生かしたいという障害のある方からの声があり、自主事業としてWebページ作成をコツコツとやってきたという経緯があります。 ◆働く人、仕事、支える人をつなげる 事業は、現場では働きにくいけれどパソコンを使った在宅就労したいという人(以下テレワーカー)とテレワーカーに仕事を頼みたいという事業者や個人などを結び付け、テレワーカー、発注元双方に対して、受発注や支払いのやり取り、品質管理・工程管理、納品に責任をもつというもの。実績のない中で委託事業として、テレワーカーの募集、技術や働き方そのものを学ぶ研修会、発注元の開拓など手探りでやってきました。 テレワーカーの登録者はのべ42名にのぼりました。障害の程度は重度から軽度、他の人といっしょに働きにくいという人まで。またバリバリ働いた経験のある人から一度も働いたことがない人。年齢も10代から60代まで。本当にいろいろな人に出会いました。技術的にも文字入力をようやく覚えた人からプログラマだった人までさまざま。それぞれの人が大変困難な状況にあったり、痛みや悲しみ、怒り、悩みを経験されたりしてきていますが、どなたも仕事をしたい、社会とつながりたいという思いで、非常に熱心に仕事に取り組んでくれました。ご家族から、「中途で車いすになって塞ぎがちだったけど、仕事をするようになってから笑顔がでてきた」とか、「遊びに連れ出そうとしたら『今仕事しているからダメ』と断られたとか、うれしい報告をいただいたりしました。 受注も自治体、大学、企業、NPO法人、団体、個人などから、Webページ作成、Webページメンテナンス、ブログ記事作成、テープ起こし、デザイン作成、点訳、墨字訳、文字入力、数字入力、アンケート集計など多岐にわたりました。事業の意義を理解してあえて発注してくださるところも多く、期待にそえる水準の納品を心掛けました。 誰にでも見やすく情報が得やすいかどうかのウェブサイトのユニバーサルデザインチェックは、障害当事者だからこその業務で、皆ではりきって意見を出し合いました。会議、講演、インタビューなどの録音データを文字化するテープ起こしは視覚障害の方の得意業務。仕事が早くて評判でした。一つ一つの業務がそれぞれに思い出深く枚挙にいとまがありませんが、長期に手掛けた静岡県弁護士会のWebページに関わる仕事については次号で報告いたします。 これらの業務を遂行するにあたってはHさんとMさんの親身に寄り添った技術支援なくしては語れません。どんどん進化するIT技術。品質やセキュリティにも厳しい目がありますが、その都度、要望に対応できるように適切にアドバイスいただきました。感謝です。 ◆活動の意義 テレワーカーひとりひとりの個性、強み、適正、環境などを考慮して受注業務の切り分けとマッチング、さらに業務中のバックアップ体制を大切にしてきました。ここを丁寧にすることが、テレワーカーにも発注元にも満足度の高い納品につながります。 しかし残念ながら、県の委託事業も途中で打ち切りとなり、2014年度からは自主事業で何とか継続してきました。一般社会では、ツールの向上、経費削減、情報管理などから業務の内製化が進みました。社員や健常な人が在宅で仕事をすることも特殊ではなくなりました。そんな要因もあって発注は激変しました。仕事をしたい人はたくさんいるけれど受注業務がないという状態。そこをうまく乗り越えられなかったのは力及ばずでした。 障害者雇用の動きは進み、働く現場で合理的配慮をしながら働く権利を保障するという認識は広まっています。在宅就労であっても、いや在宅就労であるからこそ、仕事をやり遂げて対価を得る喜びは、社会とつながっている実感となります。そうした現場に立ち会えたことは、私にとって大きな学びと励みの場でありました。 これからも社会はますます変容していくでしょうけれど、どんな時でも働く喜び、つながる喜びを分かち合える社会であってほしいと願います。N-Pocketとして、出会った人とつながり続け、できることをやっていきたいと思います。 ◆テレワーカーからの声 テレワーカーからメッセージをいただきましたのでその一部を紹介します。少しは事業の成果があったのかなとの思いでいます。 ★Nさん ぽけっと工房が終わることを知り、驚きました。 自分の歴史を振り返ることができました。 初めて自分のしたことに対してお金をいただくという経験をさせていただきました。 また、パソコンの勉強や活字での決まり事も学ばせていただきました。 なにより、わたしも仕事ができるんだと自信が持てたことはこの事業に関わらせていただいた大きな宝物でした。 ★Tさん 沢山の学びと出会いがあり、スタッフの皆様のご指導のもとで微力ながら楽しくお仕事をさせていただきました。気が付けばここは私の大切な居場所となっていました。 ★Oさん 当時から、ここで自立していくことはできないよと言われるのが分かるほど案件の数も多くなく、収入としても微々たるものでしたが、作業者の個性やハンデにレッテルを貼ることなく受け入れてくれて、環境等を考慮してサポートしてくれながら、不安を少なくして取り組めたり継続できることは、今でも他の仕事ではまず見受けられません。 私の人生の中でも細く浅く、しかし長く無理なくできた、数少ない仕事経験でありました。 ★Tさん ザザシティのPC教室から、入力のお仕事いただいたり、スタッフの方に色々ご指導いただき有り難うございました。懐かしく思います。 私は、結構高齢になって、パソコンも入力程度ですが、どうにか在宅の仕事にしがみついております。現実は、PCの進化と共に、PCのプログラム作成ができる人が入ってきて、 手入力の仕事が少なくなっているので、いつまでもやれるか不安もあります。 N-Pocketさん、終了してしまわれる事に寂しさを感じます。時々、HPを拝見させていただいたりしております。これからもこっそりHPを拝見させていただきたいと思います。皆さんのご活躍とご健康を心からお祈りいたします。 ★Mさん 先行き見えない病気を抱えて社会的な居場所がなくて不安120%だった時に、ぽけっと工房に出会って関わって「ここからできることがある」「ひとりじゃない」「できることを増やすサポートをしてくれる人たちがいる」そんな前向きで暖かい気持ちを持てたことがどれだけの救いになったことか。浜松から焼津に帰る道すがらついにこにこしたことを今も覚えています。 ついつい日々の生活で手一杯になってしまいがちだけど、ささやかでもこういうことを コツコツ発信していこうと改めて思いました。本当に本当にぽけっと工房には感謝しかないです! (ぽけっと工房事業担当 大野木里美) |