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〔ショスタコーヴィチ作曲《弦楽四重奏曲第8番》(1960)について その2〕[2016年02月14日(Sun)]
 作曲家ショスタコーヴィチが自分自身の思い出に捧げたという《弦楽四重奏曲第8番》。でも「自分自身の思い出に捧げる」とは、どういうことなのか? その秘密をとく鍵は、作品の冒頭でチェロが演奏する「4つの音からなる音型(※譜例の画像参照)」に隠されている。

dsch-01.png


 譜例の画像にもあるように、この4つの音(レ・ミ♭・ド・シ/DSCH)は、ロシア語のキリル文字をドイツ語のアルファベット転写したDmitri SCHostakowitschというスペルから抜き出したもの。こうした手法は「音名象徴」と呼ばれ、古くから用いられてきた作曲手法であるのだが(とりわけ知られているのは「BACH音型」であろう)、これが偶然ではなく確かに彼の名前に由来するものであることはショスタコーヴィチ本人が明言しているので間違いない。この彼自身を表す「DSCH音型」が変奏(変装)しながら、全5楽章にわたって登場する。これにより、この楽曲の主人公が自分自身であることを暗示しているのだ。

 加えて「DSCH音型」と共に、過去の様々な作品から「引用」された旋律などが登場するのも興味深い。例えば第1楽章では、ショスタコーヴィチが19歳の頃に作曲された「交響曲第1番(1926年初演)」の冒頭が引用されている。つまりは自分の若い頃、もっとはっきり言えばソビエト連邦の実権をヨシフ・スターリンが握り、大粛清をはじめる1930年代より前を暗示しているように思われる。ショスタコーヴィチはこうした方法をもちいて、「自分自身の思い出に捧げる」作品であることを暗示的に表現したのだ。

 そのような音楽であるから、実際に作品を聴くと人それぞれ異なる、様々なストーリーを頭のなかに思い描かれることになろう。例えば、第1楽章は「思索的な作曲者自身の自画像」、第2楽章は「大粛清による恐怖政治のはじまり」、第3楽章は「悪魔(スターリン)と踊る死の舞踏(ワルツ)」、第4楽章は「秘密警察(KGB)による粛清の静かなる恐怖」、第5楽章は「生き残るため、共産党に迎合」といったように。

 とはいえ繰り返しになるが、音楽が表現しているのはあくまでも暗示的な範囲にとどまっているため、ストーリーに答えがあるわけではない。でも、だからこそ自由に聴くことも出来るともいえるのだ。生前、作曲者自身は個人的内情を公にせずに、(ドイツでの東京大空襲にあたる)ドレスデン大空襲に触発された「ファシズムと戦争の犠牲者に捧げる」作品だと表向きには語っていたし、事実そのように聴くこともできる。
 
 2月27日、実際にこの作品を聴いてどのようなことを感じたのか。是非皆さまと演奏後のダイアローグで語れれば幸いである。


♪《弦楽四重奏曲第8番》ボロディン弦楽四重奏団による演奏(1987年10月録音)

 
 
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⇒ショスタコーヴィチ室内楽作品の最高峰《弦楽四重奏曲第8番》が聴けるコンサートはこちら!

【公演概要】
 Music Dialogue@東京国立近代美術館
 日時…2016年2月27日(土)15:00開演 (14:30開場)
 会場…東京国立近代美術館 講堂
    東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分
    http://www.momat.go.jp/am/visit/
 出演…水谷晃(ヴァイオリン)、枝並千花(ヴァイオリン)、
    大山平一郎(ヴィオラ)、加藤文枝(チェロ)、吉田誠(クラリネット)
 曲目…ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 Op. 110
    モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K581
 料金…一般 4,000円/学生 2,000円
 お申込み… https://pro.form-mailer.jp/fms/904c5e4691068
 お問い合わせ… info@music-dialogue.org
〔ショスタコーヴィチ作曲《弦楽四重奏曲第8番》(1960)について その1〕[2016年02月14日(Sun)]
 1954年、ドミトリー・ショスタコーヴィチが48歳のとき、妻ニーナが癌で死んだ。夫婦仲は決して良好ではなかったものの(実のところ「W不倫」状態に近かったという…)、2人の子供を育てながら家庭を守り、浮世離れしているところのある夫ドミトリーの創作活動を支えたのは紛れもなく亡き妻ニーナだった。さらに翌1955年には女手一つでドミトリーを育てた母ソフィアも死去。こうした諸々が重なったためか、ショスタコーヴィチの創作活動は停滞期に突入してしまう。
 
 それから6年の歳月が経ち(その間、ショスタコーヴィチは再婚し、わずか3年ほどで離婚している)、創作のペースも戻り始めた頃、彼に新たな試練がのしかかった。つかず離れずの関係を維持してきた共産党が「党の役職を与えるから入党しろ」と強く要請してきたのだ。抵抗むなしく、共産党員にならざるをえない状況に追い込まれたショスタコーヴィチは精神的に衰弱してしまい、仕事に手がつかなくなってしまう。そんな状況の中、わずか3日間のあいだに作曲されたのが《弦楽四重奏曲第8番》だ。その経緯について、作曲者自身が次のように手紙にしたためている。

「映画の仕事をスケッチしようとどんなにがんばっても、ちっとも出来ませんでした。その代わり、だれにも不必要で、思想的にも有害な弦楽四重奏曲を作曲しました。よくよく考えましたが、もし、私がいつの日か死んだとしても、だれかが、私の思い出に捧げる作品を書いてくれることは、とてもありそうにないでしょう。だから、私自身がそれを書こうと決心したのです。表紙には、こう書くこともできます――「この弦楽四重奏曲の作曲者の思い出に捧げる」と。(千葉潤 訳)」


♪《弦楽四重奏曲第8番》ボロディン弦楽四重奏団による演奏(1987年10月録音)

 
 
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⇒ショスタコーヴィチ室内楽作品の最高峰《弦楽四重奏曲第8番》が聴けるコンサートはこちら!

【公演概要】
 Music Dialogue@東京国立近代美術館
 日時…2016年2月27日(土)15:00開演 (14:30開場)
 会場…東京国立近代美術館 講堂
    東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分
    http://www.momat.go.jp/am/visit/
 出演…水谷晃(ヴァイオリン)、枝並千花(ヴァイオリン)、
    大山平一郎(ヴィオラ)、加藤文枝(チェロ)、吉田誠(クラリネット)
 曲目…ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 Op. 110
    モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K581
 料金…一般 4,000円/学生 2,000円
 お申込み… https://pro.form-mailer.jp/fms/904c5e4691068
 お問い合わせ… info@music-dialogue.org
〔作曲家ショスタコーヴィチについて〕[2016年02月14日(Sun)]
 クラシック音楽の熱心な聴き手にとっては、名実ともに「20世紀の古典」を占める作曲家としてショスタコーヴィチは既にお馴染みの存在かと思います。しかし、そうではない方にとっては、いまいち聞き馴染みのない名前かもしれません。教科書に名前が載っていたわけでもないですし、音楽室に肖像も飾られていませんでしたから。

Shostakovich ドミトリー・ショスタコーヴィチは1906年、ロシア帝国に生まれました。彼が10代の頃にロシア革命が起きて、ソビエト連邦が成立。以後、1975年に68歳で亡くなるまで社会主義国家のなかで、思うように自由な表現活動が出来ないことに悩み抜きながら創作を続けた「苦悩の作曲家」です。

 数ある代表作のなかでもとりわけ人気の高いのは《交響曲第5番》でしょう。この作品は、20世紀に生まれた作曲家による交響曲のなかで、最も演奏頻度の高いものといってほぼ間違いありません。まるでベートーヴェンのように苦悩を乗り越え、歓喜のファンファーレに至るこの音楽は、世界中の音楽家と聴衆に感動を与えているのです。

♪初演者ムラヴィンスキーの指揮による《交響曲第5番》より第4楽章

 
 
 ところが感動話も一筋縄でいかないのが、ショスタコーヴィチらしいところであります。なんと彼の死後に出版された回想録において「歓喜のファンファーレ」が単なる歓喜ではなく社会主義国家によって「強制された歓喜である」、そう作曲家自身が主張していたと書かれたのです。生前、ショスタコーヴィチは社会主義国家に従順な体制派の作曲家としての地位にいたため、これにはソビエト連邦政府も大慌て。ソビエトだけでなく、世界中で論争を巻き起こしました。

 ソビエト連邦も崩壊した現在においては、「強制された歓喜」と主張していた回想録は「偽書」であると結論づけられました。しかし他の多くの作品においてもショスタコーヴィチの音楽には含みが有るため真意がどこにあるのかはっきりとせず、21世紀の現在においても人々を戸惑わせています。謎も含めて、この作曲家の魅力なのです。(小室 敬幸)
 
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⇒ショスタコーヴィチ室内楽作品の最高峰《弦楽四重奏曲第8番》が聴けるコンサートはこちら!

【公演概要】
 Music Dialogue@東京国立近代美術館
 日時…2016年2月27日(土)15:00開演 (14:30開場)
 会場…東京国立近代美術館 講堂
    東京メトロ東西線竹橋駅 1b出口より徒歩3分
    http://www.momat.go.jp/am/visit/
 出演…水谷晃(ヴァイオリン)、枝並千花(ヴァイオリン)、
    大山平一郎(ヴィオラ)、加藤文枝(チェロ)、吉田誠(クラリネット)
 曲目…ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第8番 ハ短調 Op. 110
    モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K581
 料金…一般 4,000円/学生 2,000円
 お申込み… https://pro.form-mailer.jp/fms/904c5e4691068
 お問い合わせ… info@music-dialogue.org