高齢になると何故運転能力が衰退するか? [2019年06月15日(Sat)]
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いきなりですが、「ベイズ階層予測コーディング」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、認知科学全体に広まりつつある着想です。 「脳は利用可能な意味論的情報をどのように選び出し、用いているのか」という問いかけに対する答えとして非常に有力視されております。 ベイズとは、トマス・ベイズ牧師のことであり、彼は人の事前の予期を基礎にして、確率を計算する方法を開発したそうです。 本題に入りますが、「ベイズ階層予測コーディング」とは、ダニエル・C・デネット、タフツ大学教授の説明がもっとも分かりやすいので、以下に掲載します。 「私たちは物体には背面があり、後ろに回り込めばそれが見えるようになる、という予期、ドアは開けられるという予期、階段は上れるという予期、コップには液体を注げるという予期を行っている。これらをはじめとする、ありとあらゆる種類の予測が、1つのネットワークからあふれ出してくる。このネットワークは、じっと座って情報を受動的に待ち受けるのではなく、むしろ下位レベルからの入力として、直後に何を受け取りそうかを、直前に受け取ったものにもとづき、絶え間なく推測し続けている。・・・<脳はどのように学習するのか>という問題にベイズ的思考を応用することには、格別の魅力がある。・・・ベイズ的思考を応用して考察するなら、脳は絶え間なく「先取りモデル」ないし確率論的な予測を創り出し、得られた情報をー必要に応じてー正確さを高めるための情報の刈り込みに利用する、という戦略をとっていることになる。 このような生物が、極めてなじみ深いなわばりの中で、万事うまくやれている場合、上層へ戻ってくる修正はごくわずかとなり、脳は妨げられずに推測を行い、それによって生物は、次になすべきことを、首尾良く開始することができるようになるのだ。」 いかがでしょうか? 何が言いたいのか、ちんぷんかんぷんかも知れません。 クルマを運転する際に、人は周囲の情報をどのように脳で処理しているのかを説明する一助になる考察ですね。 下位レベルの入力を脳の上層部に毎回上げることなく、下位レベルの情報を瞬時に修正を加えながら、反射的に環境に適応している様が想像できれば十分です。 高齢者の自動車事故が何故起こりやすいのかを理解する際に、このようなベイズ階層予測コーディングの考え方が随分と役に立ちます。 いわゆる高齢者の反射神経の衰えというのは、このような脳の特性が背後に控えている訳ですね。まさに高次の脳機能です。これが加齢によって衰える訳です。もちろん、このような衰えは自分では認識できません。滞りなくクルマを運転出来、家事も滞りなくやれていれば、このような衰えは、通常、認識することはありません。 しかし、ブレーキとアクセルの踏み間違いをしてしまう時には、このような脳の高次の環境認識能力の減退があるものと考えられます。クルマの走行中に、周囲の環境を脳が適切に処理できない、或いは、間違って環境を認識してしまう現象が起こることがあり得る訳です。 これは、ドライバーにとっては、まさに何が何だか分からない状況です。この時、人はいわゆる「パニック」に陥るのでしょう。そうなると、正常な動作に戻す経路を冷静に見定めることが非常に困難になります。その時、いわゆる金縛り状態になるものと思われます。 では、こうした脳の特性を踏まえた上で、事故を誘発しないためにはどうすれば良いのでしょうか? 1つは、トレーニングです。周囲の環境の認識能力の衰えを感知するためのトレーニングですね。これは、意識的に行うことが必要です。漫然と従来通りのドライビングをしていては駄目でしょう。走行中にどこをどう見てどう判断するか?を絶えず考えながら、自らの周囲の状況の認識能力を高めるためのトレーニングを普段に行うことです。 2つ目は、慣れた道路だけを走ることです。毎日通っている道路なら、その道路の環境特性が前もってインプットされおりますので、脳に対して道路状況に対するドライビングの正しいあり方についても自然と誘導されます。欧米には、地域限定の免許制度があると聞いておりますが、それはこのようなことが背景にあるものと思われます。 3つ目は、いわゆる自動運転のレベルの高いクルマに乗ることです。加齢に伴う以上のような「能力の減退」を是として、それを補うための自動運転テクノロジーをトコトン利用することです。 そのためには、今、政府が検討している高齢者に対するサポートカー限定免許の施策などは役に立つでしょう。 4つ目は、以上の3つの対策を講じることができないお方は、免許を返上しクルマの運転から引退することです。ご自身でも分からない脳内の変化がある訳ですので、それが分からないご自分が社会にとって如何に危険な存在かを認識して欲しいと思います。 |



