本会の活動基本となっている、「転ばぬ先の安全読本」は、当時の東京都府中青年の家2004年度の活動の集大成として作成され、2005年に刊行されました。
既に刊行されてから10年が経ちましたが、今読み返してみても、当時の森林ボランティアの安全に対する真摯な取り組みが表れており、森林ボランティアの「安全」に関する教本として、未だに遜色ないものだと思います。
しかし、時の流れには逆らえず、当時最新の情報も陳腐化し修正が必要な箇所があることも事実です。
本会では、安全白書の改訂作業をプロジェクトとして開始したいと考えて準備を進めていますが、その一環としてこのブログで「安全読本を振り返って」ということで、「安全読本」を紐解き、当時の話題なども織り込みながら、読み進めていきます。
まずは、府中青年の家の北岡所長の挨拶から掲載開始します。
森林ボランティア事業の新たな発展のために
東京都青年の家として誇るべき事業は森林ボランティア事業の実施です。1986年に東京都五日市青年の家で主催事業として取り組まれた「木と人のネットワーク」がその始まりで、その後、大阪府、神奈川県、静岡県でも始まり、1990年代に入ると全国的に盛んに行われるようになりました。
現在この事業は、府中青年の家に引き継がれ、内容を深化させ、森林再生と自然保護を願う青少年、市民が多く参加し、好評を得ています。新たな森林ボランティアの動きも生まれ、その数、現在では全国で1165団体にもなっています。(林野庁調査、2003年)
また、森林ボランティア団体と、林業家、行政関係者等が一堂に集まって話し合う集いが開催されるなどネットワークづくりも盛んになってきました。 この森林ボランティア事業は、林業家のフィールドの提供と技術的な支援、この事業で、育ったスタッフ、そして青年の家職員との連携・協力により運営されています。
しかし、この事業が活発になり参加層が広がるとともに課題も出てきました。森林での活動はダイナミックで活動後の爽快感が得られる反面危険が伴うことです。昨年活動中に死亡事故が発生しています。
指導者は危険を予測して回避し、安全を確保する義務がありますが、安全の話を聞けば聞くほど活動が萎縮してしまいます。一方、活動を通して安全に対する意識、行動力を高めることもできます。森林は安全教育の場でもあるのです。しかし、森林活動に合った「教科書」はなく、心配しながらも一般的知識と経験で活動してきたのが実態です。
東京都西多摩郡を活動の場としている森林ボランティア団体と、林業家、行政関係者が集まって、これまで蓄積した経験と知恵を出し合って作り上げたものがこの「安全白書」です。
この「安全白書」は現時点で西多摩郡において活動する指導者向けに作られたものです。安全についてはこれが完璧というものはなく、時代、場所、指導者、参加者により考え方や対応を変えなければならないものもあります。
府中青年の家は今年度でなくなりますが、「森づくりグループ安全白書作成委員会」の委員が中心となって今後とも内容の充実に努めてまいりたいと思っております。
お読みになられた皆さんの忌憚のない、ご批判、ご意見をお願いいたします。
森林ボランティア事業の関係者が交流して、課題を検討すること自体にも意義があります。さらに、「安全白書」としてまとめあげるには並大抵の努力ではできません。忙しい中、執筆いただいた皆様に深く感謝いたします。本当にありがとうございました。
この「安全白書」が、森林ボランティア事業の新たな発展に寄与することを期待しております。
府中青年の家 所長 北岡文夫
北岡所長の挨拶にもありますように、当時、安全読本作成メンバーの多くが、この本を常に活動の中心においておけるようにという願いをもっていました。
その現れとして、本書のバリエーションとして、ポケット版を作れないかと、メンバーの中でポケット版の大きさ(どの位の大きさならば、ポケットに入れて持ち歩けるか)や、紙材質(汗や雨で濡れても大丈夫な材質はなにか等)といったことが、真剣に検討されていました。
予算の関係、時間的な関係でポケット版は幻に終わってしまいましたが、当時の意気込みはそこまであったのです。
また、2005年3月の終わり、いよいよ「安全読本」が刷り上がり納品された時に、最後のミーティングを行いましたが、その際にも、「安全読本」をもちいた実践的な活動(安全教育や、各団体に会った安全資料の作成方法講習など)をして行きたいとメンバーみんなの思いも多く語られました。
次に、委員長の挨拶を掲載します。
委員長あいさつ
現在、西多摩地域で森林ボランティアの活動は多く行われています。わたしは、数団体しか関わったことはありませんが、まず参加するときは、自分の連絡先と緊急連絡先を伝えるぐらいでしょう。もしかしたら、自分から連絡しただけで参加できる団体もあるかもしれません。そして、当日作業が行われ、何ごともなかったかのようにみんなで帰っていく。この活動中に、刃物による切傷や、転倒などにより発生した捻挫などの軽傷は、「自分も悪かったし」などと思ってケガをした当人も団体に報告をしていなかったり、団体側も当人が「大丈夫です」などというからそのままにしているところが多いと思われます。
わたし自身もはじめの頃は、安全管理など考えずに勢いやノリだけで活動に参加し、大きなケガがなければすぐに忘れて何ごともなかったように家路についていました。 しかし、その考えを一転させられたのは、五日市青年の家主催事業「森のワークキャンプ 2000」での出来事でした。その一例をあげます。
活動中にハチに刺された参加者がいたのですが、ハチも小さかったのでかゆみ止めの薬を塗布しました。しばらくたってから、その参加者は不調を訴え、その後10分程度で 意識がなくなったのです。作業現場での出来事、まずは作業道まで搬出しないと何もできないので、作業道まで運びました。幸運にもその参加者は、作業道に搬出される途中で意識が戻りました。それからわたしは病院への搬送はどうするのかと思ったのですが、 その場の雰囲気は、本人も大丈夫といっているので搬送の必要はない、というものでした。
わたしは自分が介護職だった経験などから容態を確認したところ、じん麻疹(ましん)が下肢に見られたため念のため病院への受診を強く勧めたのです。病院へ行く許可を受け参加者にも説明して病院に行きました。診断は蜂アレルギーによるアナフィラキシーショック。念のため一日入院となりました。
このように、意識をなくすようなことはめったにないと思います。しかし、ちょっと対応が違うだけで大変なことになる場合もあります。ここまでひどいことはないにせよ、小さなケガは多くの団体では当たり前のことであり、本人が大丈夫といったら病院へ行くことはないかもしれません。
安全のことをいくら考えて、いろいろな経験を積んでも、事故はさけられないと思います。それは、だれでも人間はミスを犯すからです。完璧な人などいません。だから、いろいろな活動に参加する人は、自分自身を守るためにも活動を共にする仲間を守るためにも、この本を読んでもらいたいと思います。
府中青年の家
森づくりグループ安全白書作成委員会
委員長 今泉進一
当時、委員長であった今泉は、森林ボランティアがあまりにもケガや事故について自己負担をして行かなくてはならない状況に疑問を感じ、周囲に同じような疑問をもった人がいないかを投げかけ、ぶつけて、このプロジェクトを発起させた張本人でもあります。
「安全読本」プロジェクト終了ののちに、彼はその時のメンバーを誘って、本会の前身である「森林ボランティア応急救護研究会」を立ち上げます。
その後、「森林ボランティア応急救護研究会」は、メンバーの移り変わりと共に本会「森の安全を考える会」として活動を開始することになりました。