タンザニア市民共同発電所setumei.pdf NPO法人森のエネルギーフォーラム理事長の杉村先生(福井県立大学教授)が設置した太陽光発電:タンザニアの首都ドドマ周辺のゴゴ農牧民の生活調査(杉村をリーダーに日本人研究者7−8名、ドドマ大学、ダルエスサラーム大学などの共同研究者4−5名)において、主要幹線から離れた地域にはいまだ電気は全く届かず、夜間は暗闇の中で、石油ランプの光に依存する生活を送っている。また今後10年くらいは送電される見込みはない。杉村はそうした地域の一つの集落(マンジランジB地区)で調査を開始するにあたって、居候した家屋の屋根にソーラーパネルを設置し、LEDランプを利用して夜間の明かりを灯した。
携帯電話の充電の要望:以上の未電化地区の一軒の家屋へのソーラーパネルを設置するプロセスの中で、村の住民から強く要望されたのは、電灯以上にソーラーパネルからの電源を活かして携帯電話の充電のための器具を設置することであった。調査を継続している農牧民のゴゴ社会はタンザニアの中でも農業近代化の最も遅れた貧しいん地域であるが、ここ5−6年の間に住民の携帯電話の保有率は急速に高まっている。
住民は農産物の収穫時期には、それを販売して、一定のまとまった収入を得るが、その現金の用途は、今日ではしばしばこの携帯電話の購入に充てられ、すでに住民の半数程度の人が購入するという状況が生まれている。しかし地区内には電源となるものがなく、携帯電話の充電ためには地区から14−15キロメートル離れた主要幹線沿いの小さな町まで行く必要があり、携帯電話は保有しているものの、概ね使用できない状態が生まれている。そういう状況の中で、杉村が村人の要望を受け入れて、ソーラーパネルの電源から携帯電話の充電を可能にすると、翌日から多くの村人が杉村の居候する家庭に携帯電話の充電のために訪れるようになった。
そして数日たって、その家の主人は、携帯電話のチャージの小さな商売を始めるようになった。この仕事は一定の収入をもたらし、60ワットのソーラーパネル一台(60万シル、日本円で3万円ぐらい)で、70−80万シルの収入があり、一年でその設置の全費用を回収することができる。村内では杉村先生の試みをきっかけにソーラーパネルを購入する住民が生まれてきている。
最近では地域の近隣で定期的に開かれる牛市でもソーラーパネルが販売されるようになり、また農牧民のゴゴの中には、30頭以上の牛持ちの富裕農家も少なからずおり、牛一頭は60−80万シルであり、自主電化の意味を理解すれば、自ら購入することも可能である。携帯電話の保有者率は、今後さらに増えると予想され、その電源として、ソーラーパネルの設置はますます重要性を帯びてくると考えられる。
テレビ映画館の自主運営;杉村先生を中心とした農牧民ゴゴの調査は、今後も長期にわたって継続されるものであり、その調査活動と住民の内発的発展に寄与するものとして、宿泊施設もある集会場を作ることが計画された。その集会場は杉村の居候家屋と比較すると2−3倍大きいもので、より大きいソーラーを設置することが計画された。住民は全く計画の初期段階で、村人は新しい家を作って少し大きいソーラーパネルを設置するならということで、是非実現して欲しいことととして、老若によらず、テレビの設置を強く要望してきた。
一見唐突に見える要望であったが村人との議論の中で一定の理由のあることがわかってきた。村から14−15キロメートル離れたところに小さな町があり、すでにそこまでは電気が来て、そこにはテレビが設置されており、村人はそこでサッカーなどを観戦することを楽しみにしている。しかしそのためには大きな労力が必要である。もし村の中にテレビがあったらそうした労力は、全くいらない.しかも街場ではお金は外部に流出していく.もし村の中にあれば、お金は外には出ないということになり、村の地区の財源にもなりうる。
町のテレビ映画を見る時には入場料は1回500シル、だいたい一度行くと2回ぐらい見るという。ただここでは一回見るということにしよう。一週間に二回見るとすると一ヶ月で9回くらい見ることになり、村からこのような形でテレビ映画館に通っている人が100名ほどいるとしよう。
一週間に2回500シル×100人×9回=45万シル
一ヶ月 45万シル、一年 540万シル
となり相当の収入を得ることが予想された。
ただし村の内部で行うこの事業はビジネスではなく、あくまでも社会全体の社会福祉と向上に資することが目的である。それゆえ所得の少ない家庭の人も参加できるように入場料を大人300シルと町での入場得ようと比べると極めて低いものに設定した。またサッカーの試合の観戦は上記の入場料とするが毎日のニュース、教育番組は無料で見られるようにした。
以上のような取組みによって、テレビ映画館の収入は当初の予想よりも多くないが、テレビの何回かの故障や、番組の購入などはすべてテレビ映画館の収入によって賄っている。すでに2年以上続けてきたが、サッカーの入場者は今日でも100人以上の場合があり、地区の公共の事業として定着してきている。またこの事業の継続のためには、そのリーダーシップの確保が重要であるが、これは地区内の4人の実行委員メンバーと村外から来ている杉村の調査助手によって、うまく行われてきた。
今日ではこのメンバーが、テレビ映画館の運営だけでなく、地区の内発的発展の事業として識字教育や養鶏の仕事を始めており、また有機農法の実践地にもなりつつあり、区外から高い評価を受け始めている。
電気がタンザニアの農村にもたらす展望
杉村先生がマンジランジで始めたことは、非電化の小さなコミュニティにソーラーパネルを設置したことであるが、その電源を携帯チャージ、テレビ映画館という形で、共同的に利用することによって、小さな電化が村の活性化の触媒となる社会的効果を生み出している。多くの村人は、小さな電化の中に巻き込まれて、身近なところに電気のあるこれまでとは異なる新しい未来像を感じ始めている。
重要なことは、タンザニアの末端の村でも、また極めて貧しい村であってもその事業に参画できることである。タンザニアの農村において、その地域的問題の克服に向けて壁となる事柄は、改善のための資金が末端の、しかも最も問題の集中する村に届かないということである。その中で末端の地域が自ら改善のための運用できる資金を持つことはなかった。この事業は、小さなコミュニティの小さな開発が基礎となっており、村の人が自力でも参加できる等身大の事業であるが、一つの小さなkコミュニティで事業がうまく展開すれば、十分他のコミュニティでも容易に続いていける可能性を持っている。すでにマンジランジ地区でのテレビ映画館の成功を受けて、近隣の人々が事業に大きな関心を持ち始めており、村の行政当局もこれらの近隣の区長を集めて、説明の機会を設けたが大変好評であった。このようにコミュニティーベースの小さな電力と開発は、アフリアの未電化地域に、これまでの大型電力事業とは異なる、地域の内発的発展を伴う新しい未来像を提供し始めている。