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一音成仏 巨竹横山勝也師逝く [2010年07月24日(Sat)]






尺八界の巨竹が十一年間、無音のまま朽ちた。
一音に込める真剣な情熱、豪放磊落な64才の男か
ら、突如尺八を取り上げてしまった天をどんなに
か恨んだことだろう。あまりに残酷な話である。

横山勝也といえばすぐ頭に浮かぶのは、そう。
ニューヨークフィルと武満徹の「ノベンバー・ステ
ップス」を琵琶の鶴田錦史と小沢征爾指揮でリンカ
―ンセンターで演奏し、世界のど肝を抜いたこと。
この金字塔に満足せず、邦山、鈴慕と尺八三本会を
結成、尺八の魅力を存分に発揮した。これを聴いて
発奮。尺八を始めた人がいかに多かったことか。
さらに学校教育に伝統音楽を取り入れるように文部省
に働きかけ、やっと和楽器が取り上げられた。
この功績は意外に知られていない。大きな功績だ。
また、岡山県の美星町に「国際尺八研修館」を設立。
外国人を含む優秀な演奏家を大勢育て上げた。
文部大臣賞や紫綬褒章など多くの賞を受賞された。

4月21日逝去。各界から惜しむ声が多いが、音楽之
友堀内社長の言葉が胸に残る。「あなたが世界に提示
した尺八音楽は、今や日本精神の象徴として、世界で
受け入れられております。先生はこの11年来の不自
由さから解き放たれ、天上の世界は、今ごろ先生の吹
く深く美しい音色で満たされていることでしょう」
野坂操壽氏は「サーカスの綱渡りは落ちたら命が無い。
音楽家は間違えても命に別状が無いから真剣さが足り
ない」と云われたそうだ。
弟子の古屋輝夫氏は「何だその屁みたいな音は。これ
が今の私の命がけの音ですと神仏に言えるか?」と
叱咤されたと言う。

私も横山先生には、忘れられない思い出がある。
ある夏に瀬戸内の小さな島で3日間の研修会があった。
四国の尺八製管師が主催。講師は他に山本邦山、沢井
忠夫といった豪華な顔ぶれ。
夕食後の雑談会の時に、話が途切れ、私が質問した。
「一音成仏はあるのか」との唐突な質問に邦山師は即、
「そんなことはあり得ないよ」と否定された。
だが横山師は「それはある。一心に雑念を払い吹き込
めば、仏になることが出来る」と断言された。
いつも和顔で人と接する師とは違った真剣な表情だ。
瀬戸内の波が足を洗ったような清々しさを30年近く
経った今も鮮明に覚えている。

長管を咥えて、目をつぶって吹く独特の師の風貌が尺
八を構えて吹く瞬間、ふと目に浮かぶ。
一言が私の一生の宝となった。ご冥福を祈ります
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