最終合意、冷静で柔軟な対応を
[2016年01月07日(Thu)]
共同文書見送りが招いた混乱
朴大統領の決断を見守るべきi
昨年末の日韓外相会談で“最終合意”した慰安婦問題の先行きに不透明感が漂っている。合意は正式な共同文書にされておらず、内容の詳細も明らかにされていない。「口約束で拘束力は弱い」との懸念を裏付けるように、日本政府の10億円拠出についても日本の岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相の解釈の違いが表面化している。
焦点の一つがソウル日本使館前に設置された少女像(慰安婦像)の撤去問題。岸田外相は「適切に移設されると認識している」としているが、共同会見で「努力する」とした尹外相は、その後、「民間が自発的に設置したもので、政府がどうこう指示できる事案ではない」と語っている。尹外相の説明でいけば“撤去はあくまで努力目標”にとどまり、「撤去が10億円拠出の前提」とする日本側との差は大きい。
合意内容の文書化を見送ったのに伴う“食い違い”ともいえるが、背景には韓国の歴代政権がともすれば国内世論に流され、政権が交代する度に慰安婦問題が再燃してきた経過に対する日本側の不信感がある。文書化は国内世論の動向を懸念する韓国側の要請で見送られたと報じられているが、このままでは双方の認識の差が埋まらぬまま「新たな火だね」として、「問題は最終的かつ不可逆的に解決される」とした歴史的合意を無にする恐れさえある。
しかし共同文書がないとはいえ、共同会見の模様は世界に報道され、「合意内容の履行が日韓摩擦の緩和につながる」、「日米韓の協力に向けた障壁が取り除かれる」と歓迎した米政府の言葉を待つまでもなく、世界は日韓両政府、とりわけ韓国政府がどのように最終合意の実現に向け約束を守るか、注目している。
朴大統領は就任以来、慰安婦問題解決を政権の最大の外交テーマに掲げ、“告げ口外交”などと揶揄されながらも一貫して「被害者が受け入れ可能で、国民が納得できる解決策」を日本に求め、ともすれば韓国でタカ派の烙印を押されている安倍晋三首相と最終合意に踏み切った。
「あいまいで不完全な合意」、「被害者と国民を裏切った外交的談合」などとする野党や「韓国挺身隊問題対策協議会」(挺身協)の反発は当然、予想された結果であり、それを承知で「日韓関係改善と大局的見地から、被害者も国民も今回の合意を理解してほしい」と呼び掛ける朴大統領の姿勢に、従来とは違う「覚悟」をあえて読み取りたく思う。
今回の合意は慰安婦問題に終止符を打つ最後の機会となると思う。ここで破綻すれば、両国民の間に「反日」、「嫌韓」がさらに深く沈殿し、日韓関係の修復、未来志向の構築は遠い将来まで不可能となる。新年早々の北朝鮮による核開発を見るまでもなく、東アジアには日韓が手を携えて対応すべき喫緊の課題は多く、当の韓国にとっても、植民地統治に由来する「反日」に過度にこだわり続けるのは、この国の将来にとって好ましいとは思えない。
過去の歴史を見ると、歴代大統領の多くが就任に当たり「日本政府に物質的要求はしない」、「今後、過去の問題は出さない」などと言明したが、結局、国内世論に流され、態度を翻さざるを得なかった。これでは国と国の約束、外交は成り立たず、不毛な両国関係が続いてきた。
韓国の政権にとって、韓国司法や米国内の韓国人団体のハードルもある。2011年、韓国憲法裁判所は日韓請求権協定をめぐる訴訟で「慰安婦の個人請求権の有無の解釈に争いがあり、韓国政府が解決の努力をしないのは違憲」との趣旨の判断を示し、当時の李明博大統領が一転して対日強硬策に転じた。米国内の韓国人団体の動きも強硬で、国務省のマーク・トナー副報道官が合意をきっかけに少女像設置活動の自制を要請したが、かえって反発が強まっているとも報じられている。
日本側に目を転ずれば、譲歩の繰り返しが問題を解決するどころか、かえって事態を悪化させてきた経過もある。こうした悪循環を断ち切るためにも、今回の合意で確認されたように、互いが非難、批判することを自制し、冷静かつ柔軟に対応することで事態を打開してほしく思う。
現状認識の甘さを指摘されるだろうが、信頼関係の構築は過去に対する過度のこだわりより前向き思考こそ必要である。そんな思いをこめ、慰安婦問題決着に向けた今後の双方の動きを見守りたく思う。(了)