インド体験記(下) 美の基準
[2006年02月16日(Thu)]
インド体験記(下) 美の基準
スリム志向
IT部門を中心に経済が活況を呈し、外資系企業の参入が相次ぐインド。車がひしめき合うデリー、コルカタの幹線道路脇には欧米企業の看板広告が並び、スリムな金髪女性が通行人に微笑み掛ける。
「ふっくらとした体型こそインド美人」と、素朴に信ずる身にはいささかの違和感も。
価値観は時代とともに変化し、女性の美しさに対する基準も例外ではない。欧米文化の流入でインドの伝統美も変わりつつあるのかー。わずかな体験を基に予断を持って言えば、その兆しはあるものの、大勢は依然、インドの伝統美の中にある。
デリーに住むNGO関係者によると、経済自由化に伴い欧米文化の流入が進むに連れ、若者を中心に太った女性より痩せた女性を美しいとする美意識が台頭。デリー市内ではフィットネスクラブやエステが大盛況という。そう言えば、日本でも、ダイエット効果が高いといわれる「ホットヨガ」が女性に好評と聞く。
伝統美
ガイドブックや資料によると、同じインドでも北と南では民族、風土が違う。美人の定義も、アーリア人が多く住む北インドでは、南に比べ色白を良しとする美白信仰が強いというが、日本流に言えばやや小太りのふっくら型に美の基準を置く点では大きな違いはないようだ。
ヒンズー教の女神も、ふっくらとした体型をしており、日本の吉祥天女に当たる「ラクシュミー神」、さらに世界遺産であるカジュラホの寺院外壁に彫られた天女象やミトゥナ像(男女交合像)も太目の官能的な体型をしている。
それでは大衆文化の象徴でもある映画はどうか。インドは年間1000本近い製作本数、30億人近くに上る観客数とも世界1。最大の娯楽であり、影響も大きい。日本でも時々,BSなどで放映され、見る限り女優は長い黒髪、くっきりとした目鼻立ちとともに、どちらかと言えば、ふっくら系である。
実際に街を歩いてみた。ガイドブックが「ふくよかで人懐っこい」と記す南部、コルカタの都心。女性の大半は、ゆったりしたワンピースにズボン、ドゥパタと呼ばれる長いスカーフからなるパンジャビスーツかサリー姿。サリーを辞書を引くと「ヒンズー教徒の女性が着る巻き布。幅1メートル、長さ5〜11メートル。ペティコート、チョリと呼ぶ半そでブラウスを着た上、腰から肩に巻き、余りを肩から後ろにまわしたり、頭にかぶる」とある。余りを頭にかぶるのは、年上の男性の前で顔を隠すのが本来の目的とも。
ノーマルサイズ
コルカタでハンセン病の式典が開かれた1月30日。会場近くの広場で談笑するサリー姿の2人の女性が目に付いた。ともに30歳前後でぽっちゃりとした体型。上質のサリーなのか、全体にカラフルな刺繍が施され裾には金色の縁取りがある。柔らかなサリーの布地が体に沿って柔らかなラインを描く。笑顔で話す姿は「これぞインド美人」といった趣き。
一緒にいたWHOの地元関係者は両脇の腹部にのぞく素肌を指した上、「ここがふっくらしているのが美人の条件」と解説した。解説に従えば、やや肥満型の腹部が好ましい、ということになる。確かに腹線が透けて見えるようなスリムな体型とサリーはマッチしないような気もする。
ホテルに戻り茶店で、現地を案内してくれたコルカタ在住30年の日本婦人にこの話題を持ち掛けた。インド人のウエイター2人も話しに加わり、やはり「痩せすぎの女性は駄目だ」と言う。そこに、インド訪問メンバーのうちの女性が一人、パンジャビスーツ姿で帰着した。日本流に言えばやや太め。本人に失礼を承知でホテルマンに感想を求めると、そろって「何の問題もない。かわいい」との返事。同席した日本婦人も「インドでは彼女こそノーマルサイズ」と言い切った。
(了)
スリム志向
IT部門を中心に経済が活況を呈し、外資系企業の参入が相次ぐインド。車がひしめき合うデリー、コルカタの幹線道路脇には欧米企業の看板広告が並び、スリムな金髪女性が通行人に微笑み掛ける。
「ふっくらとした体型こそインド美人」と、素朴に信ずる身にはいささかの違和感も。
価値観は時代とともに変化し、女性の美しさに対する基準も例外ではない。欧米文化の流入でインドの伝統美も変わりつつあるのかー。わずかな体験を基に予断を持って言えば、その兆しはあるものの、大勢は依然、インドの伝統美の中にある。
デリーに住むNGO関係者によると、経済自由化に伴い欧米文化の流入が進むに連れ、若者を中心に太った女性より痩せた女性を美しいとする美意識が台頭。デリー市内ではフィットネスクラブやエステが大盛況という。そう言えば、日本でも、ダイエット効果が高いといわれる「ホットヨガ」が女性に好評と聞く。
伝統美
ガイドブックや資料によると、同じインドでも北と南では民族、風土が違う。美人の定義も、アーリア人が多く住む北インドでは、南に比べ色白を良しとする美白信仰が強いというが、日本流に言えばやや小太りのふっくら型に美の基準を置く点では大きな違いはないようだ。
ヒンズー教の女神も、ふっくらとした体型をしており、日本の吉祥天女に当たる「ラクシュミー神」、さらに世界遺産であるカジュラホの寺院外壁に彫られた天女象やミトゥナ像(男女交合像)も太目の官能的な体型をしている。
それでは大衆文化の象徴でもある映画はどうか。インドは年間1000本近い製作本数、30億人近くに上る観客数とも世界1。最大の娯楽であり、影響も大きい。日本でも時々,BSなどで放映され、見る限り女優は長い黒髪、くっきりとした目鼻立ちとともに、どちらかと言えば、ふっくら系である。
実際に街を歩いてみた。ガイドブックが「ふくよかで人懐っこい」と記す南部、コルカタの都心。女性の大半は、ゆったりしたワンピースにズボン、ドゥパタと呼ばれる長いスカーフからなるパンジャビスーツかサリー姿。サリーを辞書を引くと「ヒンズー教徒の女性が着る巻き布。幅1メートル、長さ5〜11メートル。ペティコート、チョリと呼ぶ半そでブラウスを着た上、腰から肩に巻き、余りを肩から後ろにまわしたり、頭にかぶる」とある。余りを頭にかぶるのは、年上の男性の前で顔を隠すのが本来の目的とも。
ノーマルサイズ
コルカタでハンセン病の式典が開かれた1月30日。会場近くの広場で談笑するサリー姿の2人の女性が目に付いた。ともに30歳前後でぽっちゃりとした体型。上質のサリーなのか、全体にカラフルな刺繍が施され裾には金色の縁取りがある。柔らかなサリーの布地が体に沿って柔らかなラインを描く。笑顔で話す姿は「これぞインド美人」といった趣き。
一緒にいたWHOの地元関係者は両脇の腹部にのぞく素肌を指した上、「ここがふっくらしているのが美人の条件」と解説した。解説に従えば、やや肥満型の腹部が好ましい、ということになる。確かに腹線が透けて見えるようなスリムな体型とサリーはマッチしないような気もする。
ホテルに戻り茶店で、現地を案内してくれたコルカタ在住30年の日本婦人にこの話題を持ち掛けた。インド人のウエイター2人も話しに加わり、やはり「痩せすぎの女性は駄目だ」と言う。そこに、インド訪問メンバーのうちの女性が一人、パンジャビスーツ姿で帰着した。日本流に言えばやや太め。本人に失礼を承知でホテルマンに感想を求めると、そろって「何の問題もない。かわいい」との返事。同席した日本婦人も「インドでは彼女こそノーマルサイズ」と言い切った。
(了)