臓器移植法施行20年―低迷する日本の移植医療
[2017年08月09日(Wed)]
5年後、現在の10倍・年間1000件目指す
世界最低水準 欧米では既に一般医療に
脳死を中心とした臓器移植が一般医療として各国で広く定着する中、日本だけが大きく取り残されているー。日本財団がこの度、日本臓器移植ネットワーク(JOT)の運営支援に乗り出すのを受け、日本医学会会長でもある門田守人JOT理事長らから話しを聞くうち、かつて厚生省(現厚生労働省)クラブ詰めとして我国の脳死判定基準を取材した1985年当時に比べ、各国との差が著しく拡大しているのを改めて実感する。
日本移植学会・ファクトブック2016より
1968年に札幌医科大で行われた我国初の「和田心臓移植」に対する疑念や心停止をもって人の死とする傾向が強い日本人の死生観など、いくつかの原因が考えられるが、少なくとも和田心臓移植が行われた50年前、日本の移植医療は世界のほぼ最先端にあった。
人工臓器の開発やがん治療における先進医療の発展など医学の世界は大きく進歩しているが、小児の心臓疾患など臓器移植でしか治療の見込みのない疾患は多く、超高齢化社会の到来で臓器移植を必要とする高齢者も確実に増えつつある。
▼日本人お断り
JOTによると臓器移植法の施行(1997年)から20年経った現在の我国の臓器提供数は人口100万人当たり0・7人、“移植大国”と呼ばれる米国の37分の1、隣国・韓国の12分の1と世界でも最も低い水準にあり、2016年の臓器提供数は脳死後64件、心停止後32件に留まる。
この結果、これまでに1341人がJOTに登録した心臓移植で見ると、実際に移植を受けられた人は338人、ほぼ同数の313人は移植を受けることなく死亡している。こうした事情もあって1984年から2013年までに156人が海外で心臓移植を受けている(日本移植学会資料)が、2008年、国際移植学会はイスタンブール宣言で「自国民の臓器移植は自国で行うよう」各国に求め、欧州各国や豪州は日本人の受け入れを禁止する措置を取っている。
臓器提供数の少なさを反映して我国では、親族など生存中のドナーが肝臓や腎臓を提供する生体移植が多いが、健康な生体にメスを入れるのは医療の在り方としても問題がある。そうした認識に立ち、ドナーと移植希望者(レシピエント)をつなぐ国内唯一の機関であるJOTと日本財団が脳死や心停止後の臓器移植の拡大を目指すことになった。当面、5年後の脳死移植を現在の10倍、1000件まで増やすのを目標に、脳死に対する啓蒙活動や臓器提供(摘出手術)が可能な約900の大学附属病院など医療施設のネットワーク化、臓器移植コーディネーターの増員などを急ぐことになった。
2010年の改正臓器移植法で本人の意思が不明な場合も家族の承諾があれば脳死後の臓器提供が可能となり、脳死移植に対する国民の理解も改善傾向にある。JOTによると「臓器提供をしたい」とする人は、この15年間で10%以上増加、2013年現在43・1%と「提供したくない」(23・8%)を上回っており、今後の取り組み次第で我国の臓器移植が大きく前進する可能性もある。
▼高齢者の社会参画促すためにも
高齢化時代を迎え大きな課題となっている腎不全を見ても、今年4月現在の人工透析患者は32万人に上り、腎臓移植は生体、献腎を合わせ1670件、0・5%に過ぎない。人工透析は週に3回程度、1回5時間も掛かり、患者は行動を大きく制約されるが、腎臓移植の場合は健康な人とほぼ同様の日常生活が可能。費用も人工透析が年間600万円前後掛かるのに対し、臓器移植の場合は初年度こそほぼ同額が必要だが、2年目以降は3分の1程度で済むとされる。一人でも多くの高齢者の社会参加を求める高齢化社会の要請に応えるためにも臓器移植の普及が望ましいのは言うまでもない。
現在、心臓移植で日本人を受け入れているのは米国とカナダに限られる。関係者によると、米国が外国人の受け入れを認めているのは米国籍を持たない人からの臓器提供が全体の10%以上を占める現実があるからであり、カナダは外国人の受け入れを移植施設ごとに前年実績の5%以下に限定している。いずれにしても日本のように経済的に豊かで医療技術も発達している国が、何時までも外国での臓器提供に頼るのは許されないということだ。
JOTが目指す年間1000件は、イスラエル、韓国、ニュージーランドのレベルを指す。好むと好まざるにかかわらず移植医療を拡大させない限り、国民の健康、ひいては保健医療制度を健全に維持していくことが難しい時代となっていることを広く認識される必要がある。
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