3月14日イランへのさらなる爆撃をちらつかせた後、
トランプ大統領は中国、フランス、日本、韓国、英国に対し、海峡の安全確保のために軍艦を派遣するよう要請した。トランプ大統領は、
ホルムズ海峡の恩恵を受けている国々が、そこで悪いことが起きないよう確保する手助けをするのは当然のことだと主張し、もし(積極的)反応がないか、否定的な反応をすれば、北大西洋条約機構(NATO)の将来は非常に悪いことになるだろう、と脅した。こうした中、
3月19日に高市総理の訪米・首脳会談が予定されている日本の対応に国際社会の注目が集まっている。
1.トランプ発言(以下3月15日付アルジャジーラ報道より)
3月14日、トランプ氏は自身のソーシャルメディアプラットフォーム「Truth Social」に「イランの軍事力は100%破壊された。イランは、ドローンを1、2機飛ばしたり、機雷を敷設したり、近距離ミサイルをこの海峡沿い、あるいは海峡内に発射したりする可能性がある。この
人為的な制約の影響を受けている中国、フランス、日本、韓国、英国、その他諸国が、ホルムズ海峡に艦船を派遣し、完全に首を切り落とされた国(注:イランのこと)による脅威がなくなることを願う。その間、米国は沿岸部を徹底的に爆撃し、イランの船舶を次々と撃沈していく。いずれにせよ、
我々は間もなくホルムズ海峡を開放し、安全で自由な海峡にするだろう!」と投稿した。
3月15日、トランプ米大統領は、ホルムズ海峡を航行する船舶の安全を確保するための艦船派遣を巡り、中国が前向きな動きを示さなければ、
3月末から予定する訪問と習近平国家主席との会談を「延期するかもしれない」と語った。欧州各国に対しても、協力しなければ米欧の同盟関係は「極めて厳しい未来」になるとも警告した。
2.イラン側反応
(1)イラン革命防衛隊海軍司令官のアリレザ・タンシリ氏は声明で、米国がイラン海軍を壊滅させた、あるいは石油タンカーの安全な護衛を提供しているという主張は虚偽であるとして、
「ホルムズ海峡は軍事的に封鎖されておらず、単に管理下にあるだけだ」と声明で述べた。
(2)イランのアラグチ外相は、「
ホルムズ海峡は開放されている。閉鎖されているのは、我々の敵、我々とその同盟国を攻撃している国のタンカーや船舶だけだ。その他の船舶は自由に航行できる」と述べた。
3.国際社会の反応
現在までのところ、トランプ大統領のホルムズ海峡警護のための軍艦派遣要請に公に同意した国はない。
(1)英国:、エド・ミリバンド英エネルギー相は、「海峡の再開は極めて重要であり、同盟国と協力し、
何ができるかを精力的に検討している」と述べた。
(2)中国:外務省当局者は、北京は敵対行為の停止を求めており、「
すべての当事者が安定した円滑なエネルギー供給を確保する責任を負っている」と述べた。
(3)日本:自民党の小林孝之政調会長は、3月15日のNHKの番組で、「法的には可能性を排除しないが、紛争が続いている現状を鑑みると、非常に慎重に検討すべきだと考えている。」と述べ、自衛隊による船舶防護について「
非常にハードルが高い」と指摘。「トランプ氏の発言はその時々で変化する」とも述べ、
首脳会談で真意を見極める必要があると主張した。」と述べた。
(4)フランス:仏外務省は3月14日の声明で、「
姿勢は変わっていない。依然として防衛的な姿勢だ」と述べ、マクロン大統領がフランスはイランとの戦争には参加しないと表明したことに言及した。
(5)韓国:石油の70%を湾岸諸国から輸入している韓国は、
トランプ大統領の発言を「注視している」とし、「エネルギー輸送ルートの安全を確保するため、様々な措置を包括的に検討・模索している」と述べた。
(6)豪州:アルバニージー首相率いる豪内閣キング運輸インフラ相は16日、豪放送局ABCラジオに対し、中東情勢の結果として生じている経済危機にこの国は十分備えているが、艦船を派遣する計画はない、と語った。
4.イランと協議しているとみられる国々
(1)インド:液化石油ガス(LPG)を積んだインド船籍のタンカー2隻がホルムズ海峡を通過した。インドはLPG輸入の80%をこの海峡に依存している。イランとの戦争により、
インドの3億3300万世帯で調理用ガスが深刻な不足に陥っている。インドは長年イランと関係を築いてきたが、開戦直前にイスラエルを公式訪問してネタニヤフ首相との友好関係をアピールした
モディ首相率いるインド政府はアリー・ハメネイ師の殺害を非難していない。一方、
数百万人のインド国民が働き、毎年510億ドルもの送金を本国に送っている湾岸諸国へのイランの報復攻撃は非難している。イランのモハマド・ファタリ駐インド大使は、テヘランが封鎖の例外として一部のインド船舶のホルムズ海峡通過を許可したと述べたが、船舶の数は明らかにしなかった。
(2)トルコ:トルコ所有の船舶も先週、
アンカラがテヘランと直接交渉した結果、同様に通過許可を得た。さらに14隻のトルコ船舶が通過許可を待っているとのこと。
(3)フランスとイタリア:、自国船舶の海峡通過を認める協定を交渉するため、
イラン当局と協議を開始したと報じられているが、公式な確認はまだない。
https://www.aljazeera.com/news/2026/3/15/trump-calls-for-naval-coalition-to-open-strait-of-hormuz-can-it-work(参考1)アラグチ・イラン外相のCBSとのインタビュー(2026年3月15日)
Qイランは停戦を求めたのか
A.いいえ、
我々は停戦を求めたことは一度もありませんし、交渉を求めたことも一度もありません。我々は必要な限り自衛する用意があります。そして、我々はこれまでそうしてきましたし、トランプ大統領が、
これが勝利のない違法な戦争だと認めるまで、そうし続けるつもりです。ご存知のように、トランプ大統領が楽しみたいというだけの理由で、人々が殺されているのです。彼はこう言っています。ですから、私たちは――ええ、彼が言ったように、彼らは船を沈めたり、さまざまな場所を標的にしたりするのは楽しいからだというのです。そして、
戦争(国防)長官は、慈悲はないと言っています。これは
実際には戦争犯罪です。そう言うこと自体が戦争犯罪です。ですから、これは
トランプ大統領とアメリカ合衆国による選択戦争であり、私たちは自衛を続けていきます。
Qこれはイランにとっての生存戦争か
Aいいえ、これは
生存戦争ではありません。私たちは、ご存知のように、安定していて十分に強いのです。私たちは、
この侵略行為から国民を守っているだけです。そして、アメリカ人と話し合う理由が全く見当たりません。
なぜなら、彼らが私たちを攻撃することを決めた時、私たちは彼らと話し合っていたからです。しかも、それは二度目(25年6月の攻撃を指す)のことでした。アメリカ人と話し合って良い経験などありません。
私たちは話し合っていたのに、なぜ彼らは私たちを攻撃することにしたのでしょうか?もう一度話し合いに戻っても、何のメリットがあるというのでしょうか?
Qイランは、湾岸地域におけるアメリカの同盟国である近隣諸国にドローンとミサイルを送り込んでいる。戦争前、イラン政府はこれらの国々と貿易を行い、関係を築いていた。
もしイラン政府がこの紛争を生き延びたとして、ドローンを送り込み民間人を標的にしている国々と、どうやって再びビジネス関係を築けるのか?
A明らかにこれらの国々は、アメリカ軍が
我々を攻撃するために自国の領土を明け渡した国々です。では、我々はどうするのでしょうか?
ただ座って、アメリカ軍が自国の領土から我々を攻撃しているのを見ているだけでしょうか。
Qイランのドローンは、民間地域で、施設やホテルや民間人を攻撃したのではないか
Aいいえ、これは事実ではありません。我々は
アメリカの資産、アメリカの施設、アメリカの軍事基地だけを標的にしています。すべてはアメリカ人のものであり、
彼らがその土地を利用しているというのは事実です。例はたくさんあります。つい昨日も、彼らはHIMARS砲弾ロケットを使って我々の島々を攻撃しました。これは低射程のロケットで、
彼らはUAEの領土を使って我々を攻撃しています。1週間ほど前には、3機のF-15戦闘機がクウェートで味方の誤射で撃墜されたようです。しかし、
誰も彼らがクウェートで何をしていたのかを問いませんでした。彼らはクウェート、つまり
友好国である隣国の領土を使って我々を攻撃していたのです。ですから、我々がこれについて沈黙を守ることはできないのは明らかです。
Qフィナンシャル・タイムズ紙は、
フランスとイタリアは、船舶の安全な航行を確保するため、貴国政府と協議していると報じている。石油・ガス輸送船の航行再開について、貴国は前向きな姿勢を持っているのか?
A私たちは
船舶の安全な航行について話し合いたい国からの申し出を歓迎します。それは私たちの状況によります。
特定の国名を挙げることはできませんが、多くの国から船舶の安全な航行を求める申し出を受けています。これは
軍が決定することであり、軍は既に、様々な国の船舶群が安全に航行できるよう許可することを決定しました。我々は海峡を閉鎖していないため、
船舶の安全を確保しています。米国の侵略行為による治安の悪化のため、船舶が自ら航行できないのです。
(以下省略)
https://www.cbsnews.com/news/iranian-foreign-minister-abbas-araghchi-face-the-nation-transcript-03-15-2026/(参考2)メローニ・イタリア首相のイタリア上院での発言(3月11日)
メローニ首相は11日、上院で演説し、米国とイスラエルによるイラン攻撃について、
「国際法の範囲外」の介入であり、イタリアはこの介入に参加しておらず、参加する意思もない。
国際法の範囲外で実施される一方的な介入が増えている中、米国とイスラエルによるイランへの介入もこれに位置づけなければいけない、とも強調し、米・イスラエルの軍事行動から距離を置く姿勢を改めて示した。
https://www.asahi.com/articles/ASV3C73G0V3CUHBI001M.html(参考3)フォン・デア・ライエンEU委員長発言とイランの反応
フォン・デア・ライエン委員長は3月9日のX(オンライン掲示板)への投稿で、
「イラン国民は自由、尊厳、そして自らの未来を決定する権利を持つに値する。たとえそれが戦争中および戦後において危険と不安定に満ちたものとなることを承知していたとしてもだ。我々は今、予期せぬ結果をもたらす地域紛争を目の当たりにしている。キプロスにある英国軍基地が標的となった。私はキプロスへの全面的な連帯を改めて表明したい」と述べた。これに対して、イラン外務省バカイ報道官は自身のXアカウントへの投稿で、フォン・デア・ライエン委員長の発言に対し、「偽善はやめてほしい。あなたは歴史の誤った側に立つことでキャリアを築いてきた。
占領、ジェノサイド、残虐行為を容認し、今度はイラン人に対する米国とイスラエルの侵略犯罪と戦争犯罪を隠蔽しようとしている。ミナブ市で165人以上の罪のないイランの幼い天使たちが虐殺された時、あなたはどこにいたのか。病院、史跡、石油施設、外交警察本部、消防署、住宅街が残虐に標的にされた時、
なぜ何も言わないのか」イラン報道官は欧州当局者に問い詰めた。「無法行為と残虐行為を前に沈黙することは、共犯に他ならない。あなたの投稿への反応で、
人々があなたの『犯罪者の隠蔽』についてどう思っているか、よく見てほしい」と投稿
https://www.tasnimnews.ir/en/news/2026/03/10/3537054/iran-condemns-von-der-leyen-s-hypocritical-comments-amid-us-israeli-aggression
(参考4)2019年の米国主導のホルムズ海峡護衛のための有志連合形成の例
2019年5月12日にフジャイラ沖で4隻のタンカー等が爆発損傷し、続いて安倍総理のイランの最高指導者ハメネイ師との会談当日6月13日早朝に、ホルムズ海峡付近で日本船舶を含むタンカー2隻が爆発損傷した。米国は、これらの爆発損傷行為の主体はイランであるとみなし、一方、イラン側は完全否定してきた。
米国は、ホルムズ海峡等の航行の自由と安全を確保するためとして、海峡を航行する船舶護衛のための「有志連合」構想への参加を日本を含む各国に呼びかけ、「国際海上保安機構」(仮称)と称する組織を立ち上げた。こうした中同年9月14日、サウジのアラムコ石油施設が何者かによる飛翔体による攻撃をうけ炎上し、その生産能力の約半分を失ったという報道が世界を駆け巡り、国際石油市場に激震が走った。米、サウジはイランに攻撃の責任があると非難したが、当時はイエメンのフーシ派が犯行声明を発出する一方、イラン、イラク方面からの飛翔体攻撃をうけたとの見方も有力で、現在まで攻撃を行った当事者は、特定されていない。
2019年11月7日、アラビア半島周辺海域では、米国のイニシアティブで、船舶の安全航行を守るための「有志連合」とよばれる国際海事安全機構International Maritime Security Construct (IMSC)が正式に立ち上がった。有志連合には、
米、英、豪、バーレーン、サウジ、UAE、韓国、アルバニアが参加した。一方、当時のローハニ・イラン大統領は、2019年9月25日「ホルムズ平和の努力」(HOPE)を提案し、
ペルシャ湾の安全航行は、域内の周辺国が中心になって取り組むべきであるとの構想を発表した。当時、仏は欧州主導の有志連合構想を模索したが、実行には移されなかった。
日本は、周辺海域に調査研究目的の海上自衛隊艦艇を派遣することを決定した。
中国は、終始慎重姿勢を貫き、インドは独自に艦艇を派遣するとした。イスラエルは参加しなかった。
(コメント)米国・イスラエルのイラン攻撃とイランによる湾岸諸国を巻き込む反撃ならびにホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けて、国際世論は、この戦争の人道上ならびに国際エネルギー市場への甚大なる悪影響を懸念する観点から、
早期に停戦を実現してほしいとする立場と、米・イスラエルのイラン攻撃は棚上げにして、ホルムズ海峡の通航に悪影響を及ぼし、
湾岸アラブ諸国に攻撃を加えるイランを非難する立場に大きく分かれている。西側指導者の反応も分かれている。今回の米・イスラエルによるイラン攻撃を明確な国際法違反と指摘したスペインのサンチェス首相発言だけでなく、トランプ大統領に極めて近いと言われてきた
メローニ・イタリア首相は3月11日、イタリア上院で演説し、米国とイスラエルによるイラン攻撃について、「国際法の範囲外」の介入であり、イタリアとして軍事行動に参加することはないと明言した。一方、フォン・デア・ライエン委員長は3月9日のX(オンライン掲示板)への投稿で、「イラン国民は自由、尊厳、そして自らの未来を決定する権利を持つに値する」と述べ、
暗に米・イスラエルのイラン攻撃を擁護し、イラン国民が体制転換の行動に出ることを支持した。こうした中、米軍のイランの石油輸送の9割を担うカーグ島への攻撃に対し、
イランもUAEなどの米国関連施設を攻撃し、ペルシャ湾をはさむ戦闘はますます激しさを増している。
トランプ大統領は、ホルムズ海峡の安全航行を守るため、
新たな有志連合がまもなく形成されると述べた後、
ホルムズ海峡の恩恵を受けている国々が、そこで悪いことが起きないよう確保する手助けをするのは当然のことだと主張し、もし(積極的)反応がないか、否定的な反応をすれば、北大西洋条約機構(NATO)の将来は非常に悪いことになるだろう、と脅した。新たな有志連合に、どの国が参加するかは明らかになっていないものの、有志連合結成が現実となる場合には、米国のほか、イランの攻撃を受けている湾岸諸国の幾つか、具体的には、
現実に大きな被害をうけているUAE、バーレーン、サウジなどが参加するとみられる。トランプ大統領としては、
有志連合の正当性を高めるために、できる限り多くの国の参加を求めているとみられ、中でも、
英国など欧州主要国ならびに中国など石油・LNGの大半をこの地域からの輸入に頼っている
北東アジアの国々の参加を強く求めてくるとみられる。トランプ大統領は、
中国には、月末のトランプ訪中の前にも、行動をとるよう求めてきており、場合によっては、訪中延期もあり得ると警告を発した。こうした中、日本の高市総理がまもなく訪米する。2019年には、
調査研究目的で、海上自衛隊派遣というぎりぎりのラインで対応したが、今回は、どのような対応で、
日本の法律上の制約とトランプ大統領との良好な関係の維持のバランスをとるのか、非常に難しい決断を迫られている。