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イスラエルにとって「必要悪」から「抹殺対象」に変化したヒズボラ政治指導者[2024年09月28日(Sat)]
イスラエル軍は、ヒズボラのテロ指導者ハッサン・ナスラッラー書記長を暗殺する作戦を「新秩序(New Order)」と名付けたと発表した。イスラエル軍のハガリ報道官は9月27日、レバノンの首都ベイルートにあるヒズボラの本部のある住宅地に「精密攻撃」の実施を発表していた。民間の建物の下層にある「ヒズボラの本部」を狙ったもので、イスラエル・ラジオによればバンカーバスター型の地下施設も一挙に破壊する大型攻撃が実施された。ハガリ報道官は「意図的にレバノン市民を人間の盾として使っていた」と主張。また、攻撃は「イスラエル国民を守るために必要な措置だった」と述べていた。  この発表ではナスラッラー師の生死にかかる言及はなかった。しかし、イスラエル軍は9月28日、ヒズボラの最高指導者ナスラッラー師を殺害したと発表した。イランのIRGC系タスニム通信は、27日時点でナスラッラー師は無事であると報じたが、その後の安否確認の報道はないヒズボラのアル・マナールTVも安否報道はなされていない。他方、ナスラッラー師とは、通信が取れない状況が続いている由。レバノン当局は、6名が死亡したとされる。

(コメント)イスラエル軍のハガリ報道官が、ヒズボラはレバノン市民を「人間の盾」として使っていたと述べたことに対して、強い違和感を感じざるをえない。そもそも、今回の攻撃は、イスラエル国内ではなく、隣国レバノンの首都で実施された。レバノン軍やヒズボラはイスラエルの領空侵犯に対して、それを効果的に防御できる防空システムも航空戦力も有していない。イスラエルとレバノン側との戦闘は、イスラエル軍がその気になればなんでもできる非対象戦力によるものである。すなわち、明らかに国際法違反の攻撃であり、他国に侵入した軍が、「人間の盾」という主張を行うことは受け入れがたい。ナスラッラー書記長は、92年に三代目書記長として就任し、以後32年にわたって、ヒズボラのトップとして、ヒズボラをまとめてきた。ヒズボラは軍事組織だけではなく、レバノン議会でも13議席を有し、閣僚も出し、福祉社会活動にも参加している総合的な組織である。イスラエル歴代政権も、92年にアッバース・ムーサウィ前書記長を殺害して以来、ナスラッラー書記長については、敵ながら全面的な対立回避を理解できる指導者として、「必要悪」として、暗殺は控えてきた印象がある。しかし、7月31日のテヘランでのハニーヤ・ハマス政治指導者の殺害以降、もはやヒズボラのあらゆる指導者、司令官は、イスラエルにとって敵とみなせば、危険な人物は、どこに居ても誰であっても殺害するという「新秩序」構築を打ち出したとしか思えない。イスラエル軍は過去1週間にベイルート南部郊外を4回攻撃し、少なくとも3人のヒズボラ司令官であるイブラヒーム・アーキル、アハメド・ワフビー、イブラヒーム・クバイシを殺害した。レバノン保健省によると、イスラエルの攻撃で少なくとも1,300人が死亡したとされる。通信機器の一斉爆破でも民間人多数が殺害され、駐レバノン・イラン大使も失明したとされる。イスラエルは、何をやっても許されるのであろうか。国際社会は、ネタニヤフ首相が国連演説で述べたように、イスラエルの安全を脅かすとみなせば、如何なる攻撃も正当化されるのか、国際社会は、それを認めるしかないのか、技術力と軍事力が優る勢力に屈服するしかない方向に世界がシフトしていることを感じざるをえない。
https://www.timesofisrael.com/idf-says-hezbollah-terror-chief-nasrallah-other-top-commanders-killed-in-beirut-strike/

Posted by 八木 at 19:45 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

ミシガン州のイエメン系アメリカ人イスラム教徒市長によるトランプ候補への支持表明[2024年09月24日(Tue)]
9月23日付のミドル・イースト・アイの記事によれば、来る11月の大統領選挙での激戦州のひとつミシガン州のデトロイトからわずか数分の位置にあるハムトラムク市のアーメル・ガーリブ市長は、9月22日のフェイスブック投稿で、「トランプ大統領と私はすべてにおいては、意見が一致しないかもしれないが、彼が信念を貫く人であることはわかっている。この重要な時期に彼が正しい選択だと信じている。結果がどうなろうと、私は自分の決断を後悔することはなく、その結果に立ち向かう覚悟ができている」として、トランプ前大統領を支持すると発表した。24年1月、ガーリブ市長はバイデン政権が中東でのイエメン空爆に資金援助していることに抗議し、ホワイトハウスからの全米市長会議への招待を断った。当時同市長は、多くのイスラム教徒やアラブ系アメリカ人と同様に、民主党に裏切られ、疎外されたと感じていると表明した。

ガーリブ市長は、共和党候補の予定されていた選挙集会のわずか1週間前にミシガン州フリントでトランプ氏と初めて会談した。会談は20分間続き、同じく同席していたイエメン系アメリカ人のハムトラムク市議会議員、ハリール・リファイ議員は、トランプ候補が、2017年の大統領就任早々に入国阻止を試みたムスリム・コミュニティの支持を取り戻すために働きかけがあったたこと示唆した。「ムスリムバン(イスラム教徒入国禁止令)」として一般に知られるこの大統領令は、共和党系判事が多数を占める最高裁で、イエメンをリストに載せたままで、トランプ政権による3回目の改訂を支持した。
リファイ議員は、トランプ候補は単独で来たのではなく、末娘ティファニーの義父で著名なレバノン人実業家マサド・ボウロス氏を連れてきた。ボウロス氏は、イスラエルの手による中東での膨大な死者数に対する民主党の無視に幻滅したアラブ人コミュニティにトランプ陣営が働きかけるのを支援してきた。この動きは、今年初めにはほとんど効果がなかった。しかし、最近まで民主党員として登録されており、現在はトランプを支持するアラブ系米国人会長を務めているハーバード大学の元研究者ビシャラ・バーバ氏は、「バイデン大統領やハリス副大統領の政策にはガザ停戦に向けての影響力が全くなかった」と語り、トランプ氏は「戦争全般に強く反対しており、ガザでの戦争の終結を望んでいる、また、(イスラエルのベンヤミン)ネタニヤフ首相が恐れているのは、世界中でトランプ大統領だけだと私は信じている」と語った。トランプ候補は、停戦に関する立場を明確にすることなく、イスラエルにガザでの「任務を終わらせる」と繰り返し述べている。

(参考)トランプ大統領のイスラム教徒入国禁止措置(いわゆるムスリムバン)
1.ムスリムバン第一弾
•2017年1月27日、トランプ大統領が署名した最初の大統領令(13769)は、米国への入国をすべての難民について120日間、シリア難民については無期限に禁止し、2017年の難民受け入れの上限を5万人に設定し、さらにムスリムが多数を占める7か国(イラン、ソマリア、イラク、リビア、スーダン、シリア、イエメン)の国民の入国も禁止した。
•トランプの大統領令は、迫害や戦争を逃れてきた避難民の保護を拒否するもの。因みに、標的とされた7つのムスリム多数国出身の移民または難民が米国本土にテロ攻撃を行ない、死者を出したことはない。
•トランプ政権は、これは「ムスリムバン(ムスリム禁止令)」ではないと主張したものの、中東・アフリカ地域でムスリムが多数の国民を一律入国禁止措置をとるものであり、ムスリム禁止令とみなされてしかたがない。
•この渡航禁止令が拙速に実施されたために、米国にやってきた人びとが入国を阻まれ、空港で収容され、はては退去強制の対象になった。
•これに対して、標的とされた国の国民と連携するデモや抗議行動が全米で繰り広げられ、連邦地裁は、大統領令の一時差し止めを命じた。
2.ムスリムバン第2弾
•トランプ大統領は、2017年3月6日に第1弾をやや緩和した大統領令第2弾(13780)を発動し、これによって当初の法的懸念への対応がなされたことを願うと述べた。第2弾は、第1弾で対象となったムスリムが大多数を占める7か国のうち、イラクを除く6か国の出身者について90日間、またすべての難民について120日間、入国を禁止するという内容。
•迫害を受けている宗教的マイノリティに関する条項は削除され、またグリーンカードおよび査証保持者には適用されないこととされた。
•この大統領令は、ハワイ州とメリーランド州の連邦裁判官によって差し止められた。裁判官らの判断は、この直近の禁止令はムスリムに対する差別であり、したがって宗教の自由について定めた連邦憲法の規定に違反するというものだった。トランプ大統領は、これは国家安全保障のために、また米国をテロリストの攻撃から守るために必要であると主張した。連邦司法省は、より保守的な連邦第4巡回区控訴裁判所に上訴するとし、トランプ大統領は、最終的には、連邦最高裁までこの問題を持ちこむ意思を明らかにした。
•2017年6月27日、米国最高裁判所は、政府が禁止の一部を縮小して実行することを許可した。裁判所の判決は、政府が6か国の国民の90日間の入国禁止または難民の120日間の入国禁止のいずれかを、米国の個人または団体との「誠実な関係」を主張できる個人に適用することを禁じた。
3.ムスリムバン第3弾
•2017年9月24日、トランプ大統領は就任以来3回目となるベネズエラ、北朝鮮、イラン、リビア、ソマリア、シリア、イエメン、チャドの8か国入国禁止を宣言( Presidential Proclamation9645)。
•第3弾に対して米連邦最高裁判所は2017年12月4日、イスラム圏や北朝鮮など8カ国の国民の入国を禁じる大統領令については、ベネズエラ、北朝鮮を除く6か国については 「ムスリム禁止令」にあたるとして訴訟が提起されていたが、関連の審議が継続している間は、禁止令の執行停止を認めない判断を下した
•最高裁の判事9人のうち7人が禁止令の執行を差し止めた下級審命令を無効とした一方、2名の判事は反対した。
•米連邦最高裁判所は2018年6月26日、ドナルド・トランプ米大統領が2017年9月に出したイスラム圏5カ国からの入国制限措置を支持する判断を示した。トランプ大統領は同日、この判断を称賛した(注:チャドは、第2弾のイラクに続いて、テロ情報の共有などの取り組みに改善が見られたとして対象から外れた)。
•下級裁判所は入国禁止令を違憲としていたが、9人いる最高裁判事のうち保守派の5人が禁止令を支持し、賛成5、反対4でこれを覆した。
•トランプ氏は、メキシコ国境に壁を作る自分の計画を話し合ったホワイトハウスでの会合で、最高裁の判断は「素晴らしい成功」だと称賛した。下級審が下した判断を最高裁が変更したその決定は、トランプ政権の勝利と見なされている。
•イラン、リビア、ソマリア、シリア、イエメンの5カ国から米国を訪れようとする大半の人について、米国入国禁止が確定した。
4.ムスリムバンの撤回
•バイデン大統領は、2021年1月20日の就任初日に「ムスリムの入国禁止」の撤回を含む6つの移民関連の大統領令に署名した。
•ムスリムバンは2017年に制定され、シリア、イラン、イラク、スーダン、リビア、ソマリア、イエメンから米国への渡航と移民を制限し、2020年には、エリトリア、ナイジェリア、ミャンマー、キルギスタン、タンザニアを追加した。国務省はこれらの国のビザ申請を再開するように指示された。
•上記の国の一部の人は一時的なビザを取得することを許可されていたが、グリーンカードで米国に居住することは許可されておらず、ビザ申請者のごく一部の人だけが渡航禁止の免除を許可されていた。
•2020年7月20日に、イスラム教徒の票取り込みを意識した民主党のジョー・バイデン大統領候補はイスラム教徒の政治組主催の3千人が参加するバーチャル会議に出席し、自身が大統領に選出された暁には、就任「初日に」ムスリムバンを取り消すと語っていた。

(コメント)イエメン系のイスラム教徒であるミシガン州のハムトラムク市のガーリブ市長が、トランプ大統領候補への支持を表明したことは、驚きである。2017年の大統領就任直後に、トランプ大統領は、メキシコ国境に物理的な壁を建設することを命じたほか、シリア、イラン、イラク、スーダン、リビア、ソマリア、イエメンから米国への渡航と移民を制限するいわゆる「ムスリムバン」の措置を実施した。ムスリムにとっては受け入れがたい差別であり、民主党議員や支持者は、トランプ大統領の政策の中止を求めた。しかし、最高裁の支持もうけて、トランプ大統領は、ムスリムバンを微修正しながら、その骨格を維持してきた。こうした中、大統領選の激戦州であるミシガン州内のガーリブ市長が「トランプ大統領と私はすべてにおいては意見が一致しないかもしれないが、彼が信念を貫く人であることはわかっている。この重要な時期に彼が正しい選択だと信じている。」としてトランプ支持を表明し、トランプ候補自身とも20分間会談したと報じられた。この決断は、如何に一部のムスリム市民が、ガザ停戦に向け、ネタニヤフ政権に十分な圧力を行使せず、むしろ、ネタニヤフ政権の延命と中東紛争のエスカレーションに歯止めをかけようとしない、あるいは歯止めをかけることのできないバイデン政権とその中核にいるハリス候補への失望の表れでもある。現在、バイデン大統領からハリス副大統領に民主党候補が変更となり、勢いを得たハリス候補ではあるが、現下の中東政策で、民主党支持を離れ、もしかすると、トランプ大統領であれば、今の状況を変えてくれるかもしれないとの一縷の望みをかけ、トランプ支持に鞍替えするムスリム市民も存在する可能性があることをバイデン政権は認識し、早急なガザ停戦と、エスカレートしているレバノン危機を抑制するためにあらゆる努力を惜しむべきではないと思われる。
https://www.middleeasteye.net/news/michigan-muslim-mayors-support-trump-stems-alienation-democrats-conservative-religious-values

Posted by 八木 at 16:35 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

急速に不法移民排斥に動き出した欧州諸国[2024年09月23日(Mon)]
オランダ政府は9月18日、欧州共通庇護制度からの適用除外(opt-out)をEU委員会に申し入れたことを明らかにした。欧州共通庇護制度(参考1)は、EU内で、域外からの庇護申請者を原則として最初の上陸国で審査するというダブリン規則をはじめとする域内共通ルールを制度化したものである。これに先立ち、オランダ政府は9月13日、2024年5月の連立合意に基づき、庇護と移民に対する重大な制限を含む計画を発表した(参考2)。適用除外要請については、オランダ政府は先行のデンマークに倣ったとしている。さらに、輪番制で現EU議長国のハンガリーも共通庇護制度からの離脱を申請する意向を表明した(参考3)。EU内では、イタリアが地中海で身柄を確保した庇護申請者の庇護審査をEU域外のアルバニアで行うための協定を2023年11月アルバニアと結んでいる(注:アルバニア議会は、2024年2月協定を支持可決)。ドイツは、チューリンゲン州議会議員選挙などで極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進をうけ(注:9月22日のブランデンブルグ州選挙では、シュルツ首相率いる社会民主党が、かろうじてAfDをおさえ、勝利した)、危機感を覚えたシュルツ政権は、8月30日裁判で有罪が確定したアフガニスタン人28名をカタールの協力を得て、本国に強制送還したほか、9月16日からシェンゲン規則の事実上の停止を意味する半年間、9つの陸上国境すべてで国境管理を再開するとともに、ダブリン規則を履行せず、最初のEUメンバー国で庇護申請せず、ドイツで庇護申請した域外人の最初の到着国への移送を迅速かつ厳密に実施することを決定した。もはやEU加盟国でない英国のスターマー首相は、7月の就任直後、スナク前政権が約束していた非正規移民の庇護申請をルワンダに移送の上実施する計画を廃棄する旨表明したが、9月16日イタリアを訪問し、メローニ首相と会談し、イタリアへの不法移民の到着数が減少傾向を示していることも踏まえ、メローニ政権の移民政策、とりわけアルバニアでの庇護申請制度から学びを得たい旨表明した。英国では、7月末から8月上旬にかけての国内大騒乱事件でも明らかになったように、不法移民の大半がムスリムであるとみなされており、移民排斥、ムスリム・ヘイトの動きが強まっている。極右の「UKリフォーム」は不法移民の仏送還を主張している。フランスでは7月の国民議会(下院)選挙で、マクロン大統領の与党連合が第2勢力に転落。フランス下院は左派の政党連合「新人民戦線(NFP)」と、極右の流れをくむ右翼「国民連合(RN)」による三つの勢力間で分裂状態になっており、特に第一党となったNFPは、マクロン大統領と新内閣への反発を強めている。バルニエ首相は今回の組閣で、移民問題や治安を担当する内相に、共和党の中でも移民に最も厳しい立場をとるとされるルタイヨ氏を起用した。また、移民排斥を訴えてきた極右の国民連合が、政権にまでは手が届かなかったものの、3番目に大きな議会勢力に躍進しており、新政権が不安定化する中、移民排斥の声はますます強くなるものとみられている。

(参考1)欧州共通庇護制度
EUは、庇護希望者が申請場所を問わず、透明性があり、公正な制度で平等に扱われることを保証するために、共通の基準と協力を定めている。この制度は、5 つの立法手段と 1 つの機関によって管理されている。
@ 庇護手続き指令右矢印1公正で迅速かつ質の高い庇護決定の条件を定めることを目的としている。特別な支援を必要とする庇護希望者は、その主張を説明するために必要な支援を受け、特に保護者のいない未成年者と拷問の被害者の保護が保証される。
A 受入条件指令右矢印1EU 全域の庇護希望者に、基本権憲章に従って尊厳ある生活水準を保証するために、受入条件 (住居、食料、衣服、一定の条件の下での医療、教育、雇用へのアクセスなど) の共通基準が提供される。
B 資格指令右矢印1国際保護を付与する根拠を明確にし、庇護決定をより強固なものにする。また、国際保護の受益者に対して、権利へのアクセスと統合措置を提供する。
C ダブリン規則右矢印1庇護申請の審査を担当する国を定めるプロセス(原則として最初の上陸国が庇護申請審査の責任を負う)。庇護希望者の保護を強化し、国家間の関係を規定する規則を明確化する。国の庇護申請への対応または受け入れシステムにおける問題を早期に検出し、危機に発展する前にその根本原因に対処する。
D EURODAC規則右矢印1ダブリン規則に基づく加盟国の責任の決定をサポートし、殺人やテロなどの最も深刻な犯罪を防止、検出、または調査するために、法執行機関が厳密に制限された状況下で庇護希望者の指紋を記録保存したEUデータベースにアクセスできるようにする。
E 欧州連合庇護庁右矢印1共通欧州庇護制度の機能と実施の改善に貢献する。欧州全域での国際保護の申請の評価において、加盟国に運用および技術支援を提供する。

(参考2)オランダに居住する第三国人に対する権利行使の厳格化
@帰化(国籍取得)要件の厳格化
政府は、オランダ国籍を取得するための要件を厳格化している。言語要件はB1レベルに引き上げられ、帰化の待機期間は5年から10年に延長される。さらに、政府は、特定の例外が適用されない限り、可能な限り、新国民が元の国籍を放棄することを目指している。
A選択的かつ対象を絞った労働移民政策
政府は、移民労働者の削減を目指しており、低賃金雇用を制限し、劣悪な労働条件を見直すための厳格な措置を導入する。家族移民、難民、許可を取得する可能性のある庇護希望者を含むオランダ居住者は、オランダの労働市場に参加するよう奨励される。
B留学生の流入に対する管理強化と高等教育の「英語化」の制限
政府は留学生の流入をより適切に規制し、オランダの高等教育の「英語化」を制限することを目指している。大学やカレッジには、留学生の受け入れを調整し、オランダ語の役割を強化し、受け入れ人数上限設定を拡大することが求められる。
Cウクライナ難民の自立と参加
政府はウクライナ難民の自立と統合に引き続き重点を置く。2024年夏以降、政府は就労による十分な収入がある難民に対する生活手当の段階的廃止を開始した。「ウ」難民には、可能な場合は居住費を負担することも求められる。

(追加)庇護希望者に対する制限右矢印1政府は「庇護に関する危機」を宣言し、両院の即時承認なしに庇護希望者の流入を管理する暫定措置を認めた。承認は後日行われる予定。
(1)庇護認定者は、居住資格を少なくとも2年間保持し、適切な住居を持ち、「安定して十分な収入」がある場合に限り、家族呼び寄せができる。成人した子供の家族再統合にも制限が設けられる。
(2)庇護申請が繰り返される場合は、新たな事実や状況についてより厳格に精査される。庇護に関する危機法の導入により、既存の規制も変更される。新たな庇護申請は停止され、受け入れ施設は格下げされ、滞在権のない個人は強制的に退去させられる可能性がある。
(3)庇護希望者は5年後に自動的に永住許可を受けるという規則は廃止される。オランダに5年以上滞在している庇護希望者は、安全と判断された場合には母国に帰国するよう求められる可能性がある。

(参考3)ハンガリーの欧州共通庇護制度への対応
ハンガリーは長い間EU共通庇護制度を事実上無視してきた。近年、オルバン首相率いる国家主義的ハンガリー政府は、難民申請手続きに関するEUの規則に縛られないことで、事実上の制度「適用免除」を演出してきた。ルクセンブルクの欧州司法裁判所は、ハンガリーによるセルビアとの国境警備は違法であると繰り返し判決を下している。同裁判所は最新の判決で、難民申請者が国境で難民申請できず、キエフとベオグラードのハンガリー大使館でしか申請できないのは違法であるとの判断を示した。ハンガリー政府はこの慣行を変えることを拒否したため、裁判所はハンガリーに2億ユーロ(2億2,300万ドル)の罰金と1日100万ユーロの罰金を課した。オルバン首相は罰金を支払うつもりはないと公言した。9月18日、EU委員会は、EU司法裁判所が2024年6月にハンガリーに対し、EU難民法の「前例のない、極めて重大な違反」を理由に科した2億ユーロの罰金(不遵守日数1日につき100万ユーロの追加支払いの対象)を回収するための特別手続きを開始した。ハンガリーは罰金の支払いを公式に拒否し、その後1回目は8月下旬、2回目は9月17日の2回の支払い期限を守らなかった。その結果、EU委員会はハンガリーに対するEU予算から今後の支払い額2億ユーロを差し引く「相殺手続き」を開始した。 EUが相殺手続きを開始した翌日、ハンガリーのゾルターン・コヴァーチ国際関係担当国務大臣は、ハンガリーは「EU裁判所の移民判決に対処するための交渉を開始し、罰金を支払うことなく状況を解決することを目指している」と投稿した。コヴァーチは、欧州連合担当大臣のボカ・ヤーノシュの言葉を引用し、「ハンガリーの目標は、問題を解決しながら1日100万ユーロの罰金を止めることである」と述べ、双方は「継続中の協議のチャネルで合意し、さらなる交渉の明確なスケジュールを設定した」と述べた。
因みにこうしたハンガリー政府の対応もあり、2023年の統計をみてもハンガリーへの庇護申請者は、ほとんどいない。
(参考)2023年EU諸国への出身国別庇護申請登録者数
1) ハンガリー: 25名のみ(ロシア10名、アゼルバイジャン5名、その他10名

2) オランダ:38180名(シリア1万3030名、トルコ2865名、エリトリア2345名、イエメン1985名、ソマリア1805名、その他1万6150名)
3) ドイツ:32万9035名 (シリア10万2930名、トルコ6万1180名、アフガニスタン5万1275名、イラク1万1150名、イラン9385名、その他9万3115名)

(コメント)移民・難民に一時期寛容であった欧州の移民排斥の動きが止まらない。こうした中、2023年11月の総選挙で勝利したヘルト・ウィルダース率いる極右政党自由党(PVV)が主導権を握るオランダの4党新連立政権(7月2日発足)は、欧州共通庇護制度の適用除外をEU委員会に正式に申し入れるとともに、「史上最も厳格な難民制度」を構築することを表明した。オランダに先立ち、既にデンマークが適用除外を申し入れており、さらに、ハンガリーも同様の申し入れを行うことを表明した。オランダは、EU創設メンバー国のひとつであり、EUの連帯にくさびをうちこむ前例のない動きに出たことになる。但し、9月18日、オランダのファーバー移民難民相は、欧州委員会のイルバ・ヨハンソン内務委員に宛てた書簡の中で、「オランダは、同国への移民の量を大幅に削減することを目指しており、オランダがこの目的を達成できるように、条約改正があった場合、オランダ政府は欧州の難民・移民制度からの適用除外を求める」として、適用除外条項はEU条約の改定が行われた場合にのみ達成できると認めており、オランダに対する欧州共通庇護制度の適用除外は、容易に達成できるものではないことを認識している。すなわち、今回の申し入れは、選挙で、ウィルダース党首の自由党などを支持した有権者へのアピールであるとともに、国内法のもとで外国人のオランダ居住の条件を厳格化することで、移民難民の流入をできるかぎり阻止するとの意思を内外に示すものである。ハンガリーに至っては、2023年の庇護申請数25名から判る通り、実質的に欧州共通庇護制度をスルーしている。オランダは、2024年5月に、2020年9月のフォンデアライエンEU委員長の提案から4年近くの厳しい交渉の末に成立した移民と庇護に関する新協定の実施に賛成票を投じているところ、この改正の最大の目玉である「強制連帯」制度の下で、一定数の庇護希望者を受け入れるか、あるいは、拒否した庇護希望者1人につき2万ユーロを支払うかの選択の中では、資金支払いオプションを選択するのではないかとみられている。
https://www.dw.com/en/hungary-and-the-netherlands-want-to-exit-eu-asylum-policy/a-70278674
https://migrant-integration.ec.europa.eu/news/netherlands-government-presents-new-asylum-and-migration-restrictions_en
https://www.euronews.com/my-europe/2024/09/18/netherlands-requests-opt-out-clause-from-eu-asylum-rules-a-bold-move-with-low-chances-of-s
https://home-affairs.ec.europa.eu/policies/migration-and-asylum/common-european-asylum-system_en

Posted by 八木 at 12:21 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

イスラエル情報部によるとみられる新型大規模攻撃を受けてのナスラッラー・ヒズボラ書記長演説の注目点[2024年09月20日(Fri)]
2024年9月17日、18日の通信機器を介したレバノン国内への短時間、大規模一斉攻撃では、9月19日現在、少なくとも37名が死亡し、眼球破損なども含め約3千名が負傷したと報じられているところ、19日ヒズボラの最高指導者ナスラッラー書記長が、場所を明らかにしないまま、テレビ演説を行い、その注目点は次のとおり。
1.今回の攻撃について右矢印1一線を越えた大量虐殺であり、宣戦布告とみなす
イスラエルの敵が17日に数千台のポケベルを同時に爆破したことで一線を越えた。敵は社会の多くの層が使用する民間の道具を使い、18日には無線機器を爆破することで再び同じことをした。敵はポケベルの数が4000台を超えると想定し、故意に1分間に4000人を殺害するつもりであった。敵は2日目にも数千人を殺害するつもりだった。つまり、イスラエルの敵は2日間で数分間で5000人以上を殺害しようとしたのであり、起きたことは大量虐殺であり、この地域にこの癌の腫瘍ができて以来敵が犯してきた恐ろしい虐殺に加わるものだ。これは宣戦布告とも言える

2.破壊工作の調査右矢印1委員会を立ち上げ、破壊工作の全貌を調査中
抵抗グループが最新の攻撃を調査するために技術委員会とセキュリティ委員会を結成した。仮説が検討されており、ほぼ結論に達している。このファイルは調査中であり、(武器として使用された)不正ポケベルにどの製造業者、輸送業者、販売業者、税関が関与したのかなども含め、綿密にフォローアップされている。

3.被害について右矢印1攻撃が大きな打撃であることを認めたが、ヒズボラの組織構造は被害を受けていないことを強調
我々が安全保障と人道レベルで前例のない大きな打撃を受けたことは間違いない。我々の敵は、西側諸国の支援を受けているため、技術的に優位に立っていることはわかっている、17日、18日は血なまぐさい日々だったが、我々はこの試練を乗り越えることができ、この打撃で我々は倒れることはないだろう。

4.ガザ危機への影響右矢印1ガザ支援を継続
ガザを支援する(ヒズボラによる)レバノン戦線は効果的であり、イスラエルの敵に大きな圧力をかけていると強調した。敵が北部での出来事を『イスラエル』にとって初の歴史的敗北と表現するのは、我々の戦線の有効性を示すもうひとつの証拠だ。敵はレバノン戦線をガザ戦線から分離させようとし、この戦線を阻止するためにレバノン国家、国民、レバノンの抵抗勢力に圧力をかけようと戦争をちらつかせた。 我々は、この攻撃の目的はあなたたちがガザへの支援をやめることだというメッセージを受け取った、そして我々はガラント国防相とネタニヤフ首相に、ガザへの攻撃が止まらない限り、レバノン前線は止まらない、と断言している。レバノンの抵抗は、ガザ、ヨルダン川西岸、そしてそれらの聖地で抑圧されている人々への支援と援助をやめないだろう。

5.レバノン南部侵攻と安全保障地帯設置の可能性右矢印1レバノン南部に侵攻すれば迎え撃つ
レバノン領内にいわゆる安全地帯を設置するよう求めたイスラエル北部司令部の長官の提案について、私はそう願っていると長官に伝えた。シオニスト軍は北部戦線で身を隠す手段に訴えており、我々は彼らと彼らの戦車を狙っているが、もし彼らが(レバノン領内への)移動を決断すれば(迎撃の絶好の機会として)歓迎する。イスラエル軍がレバノン領に侵入すれば、抵抗グループにとって歴史的なチャンスになる。我々の土地に来たいなら、安全地帯はあなた方の軍隊にとって地獄と化すだろう。あなた方は、17日と18日に決意を新たにしたために負傷した何百人もの人々に出会うことになるだろう」と述べた。

6.報復右矢印1報復は、秘密裏に必ず実行する
今日は違う口調で話させてほしい。この攻撃は秘密裏に行われた。報復は必ずやってくる。そしてそれは厳しいものになるであろう。それは彼らが想像もできないような情報源から来るであろう。日付や時間については話さない。それが起こった時に知ることになる。それ以前には聞くことはないであろう。ガラント国防相とネタニヤフ首相は「彼らの組織を奈落の底へと導いている」

(コメント)ナスラッラー書記長は、今年の2月頃にメンバーにスマートフォンの使用を止めるように指示したとされる。これについては、一般的には、ガザで、ハマスメンバーのスマートフォンによる通信により、誰が使用しているのかをAIを利用して確認して、ドローンによる「ピンポント」殺害が実行されていることを警戒して、ヒズボラメンバーも同じように標的になることを避けるためであったという見方もありえるが、その可能性よりもヒズボラ幹部により具体的な情報がもたらされ、それによって、ナスラッラー師のスマートフォン使用停止指示につながった可能性が高い。その場合、その情報は、イスラエル情報部によってより具体的緊急性のある警告としてもたらされ、危機感を抱いたヒズボラ幹部が、位置情報を察知されにくい一見時代遅れとも思われる「ポケベル」に通信手段を切り替える動きに出て、そこで、イスラエル情報部が新たな通信手段のヒズボラからの一斉発注のタイミングに合わせて、もともと台湾製や日本製であった通信機器を欧州内のイスラエル関連の工場内に持ち込み少量の爆発物を仕組み、特殊信号をうけて爆発するように改変され、ヒズボラ組織内で通常の交信手段として使用されたことを見極めて、爆破工作に至ったものと考えるのが自然である。ナスラッラー師は、自身の指示で通信機器が交換されたことで責任を感じており、真相解明を急ぐとみられる。既に技術委員会とセキュリティ委員会が立ち上げられ、破壊工作の仮説が検討されており、その仮説は、ほぼ結論に達していることを表明しており、どの段階でイスラエルが関与したのか、ヒズボラ内部に、通信機器の変更を促す工作員が紛れ込んでいたのかなどが、突き止められることになるとみられる。なお、ナスラッラー師は、今回の破壊攻撃でヒズボラおよびレバノン社会が大きな打撃を受けたこと、ならびに技術的にイスラエルが優位に立っていることを率直に認めている。そのうえで、イスラエルが2000年5月の撤退以来、再びレバノン南部に侵入し、安全保障地帯を築こうとすれば、イスラエル軍にとっての「地獄」になると警告している。
(参考)イスラエルの南レバノンからの撤退
イスラエル軍は、1978年3月、最初の大規模なレバノン侵攻を実施。国連安保理は決議425を採択してイスラエル軍の即時攻撃中止と撤退を求めたが、イスラエルは南レバノンに自由レバノン軍(のちの南レバノン軍SLA:South Lebanon Army)を組織して、ヨルダンからレバノンに逃れていたPLO攻撃の盾としていた。1982年には首都ベイルートに侵攻してアラファト議長率いるPLO勢力をレバノンからチュニジアに駆逐した。 PLOにかわって対イスラエル闘争の前線にたったのが、アマル(1974年結成)やアマルから枝分かれしたヒズボラ(1982年結成)などのシーア派民兵組織であった。1985年、イスラエル軍はレバノン中央部からの撤退を余儀なくされたが、このとき、南レバノンに一方的に「安全保障地帯」を設置、事実上の占領が続いた。1996年のイスラエル軍による「怒りのぶどう作戦」では、空と海からの攻撃でレバノンは大きな被害をうけた。 イスラエル国内では、自国兵士の死傷者が多いことから南レバノン占領を見直す動きが出始め、1998年4月、安全保障閣議が条件つきで国連安保理決議425の承認を決めた。イスラエルのバラク首相は、就任直後に1年以内の南レバノンからの撤退を決めたが、ヒズボラなどの攻撃が激しく、予定を前倒しして2000年5月に、係争地であるシェバア農場を除いて撤退を完了した。同年6月、国連のアナン事務総長がイスラエル軍の撤退とSLAの解体を確認する報告書を提出した。仮にイスラエルがレバノンに再侵攻し、安全保障地帯を設置すれば、24年ぶりとなる。因みに、ヒズボラは、イスラエルや米国、EUからはテロ組織とみなされているが、レバノンでは、軍事部門だけでなく、議会の議員や閣僚も出し、社会福祉事業も実施する組織で、1975年以来15年続いたレバノン内戦終結にあたっても武装解除を免れたレバノン国内唯一の武装組織である。ナスラッラー書記長は、1992年にイスラエルの暗殺によって死亡したアッバース・ムーサウィ前書記長の後任となったヒズボラトップとしては3代目であり、32年間現ポストを維持している。今回の発言でも、今回大きな被害を受けたことやイスラエルに比較し、技術的に劣っていることを率直に認めており、その冷静さや客観的な判断ができる人物であり、そのこともあり、すくなくともこれまでは、「必要悪」として、イスラエルによる暗殺を免れてきたのではないかとみられる。
https://english.almanar.com.lb/2202466

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ヒズボラ内部のサプライチェーンにまで深く侵入して爆破工作を敢行したとみられる恐るべしイスラエル情報機関[2024年09月18日(Wed)]
レバノンで2024年9月17日、同国に拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラの戦闘員らが利用しているポケットベルとみられる通信機器の爆発が相次いだ。
1. 何が起きたのか
レバノンの武装組織ヒズボラのポケベル数百台が、ベイルートだけでなく、ベッカー高原も含め、レバノン全土で同時に爆発した。最初の爆発は現地時間午後3時45分ごろに発生。その後、一連の爆発が約1時間にわたり続いた。
2.死傷者:確定していないものの、17日時点で治安当局とレバノン保健相によると、少なくとも9人が死亡、2,750人が負傷している。死者の中には8歳の少女1人が含まれていることが確認されている。ヒズボラのアリ・アンマール議員の息子、ムハンマド・マフディ・アンマール氏も死亡したと報じられている。ヒズボラは戦闘員2人が死亡したことを確認した。レバノンのフィラス・アビアド保健相はアルジャジーラに対し、「約2,750人が負傷し、そのうち200人以上が重体」で、負傷者の多くは顔、手、腹部に及んでいると報告されていると語った。イランのモジタバ・アマーニ駐レバノン大使も爆発で負傷した。
3.ヒズボラのポケベル
ヒズボラが使用していたポケベルは、電話回線を介して中央オペレーターに中継された短いテキスト メッセージをユーザーに表示する。ヒズボラはセキュリティ上の理由から、内部通信にはスマートフォンよりもポケベルの使用を開始していた。爆発したポケベルは、ヒズボラのナスラッラー師がイスラエルの諜報機関に追跡される恐れがあると警告し、メンバーにスマートフォンの使用をやめるよう命じた後、ヒズボラが新たに入手したものだった。ヒズボラの関係者はAP通信に対し、爆発したポケベルは同組織がこれまで使用したことのないここ数カ月に導入した最新モデルだった、ことをみとめた。スマートフォンとは異なり、ポケベルは電波で動作し、オペレーターはインターネットではなく、受信者のデバイスに固有の無線周波数でメッセージを送信する。ポケベルで使用される基本技術と物理的なハードウェアへの依存により、監視が困難になり、また、ハッキングも容易でなく通信傍受も回避することができる。
4.攻撃実行者
ヒズボラを含む多くの機関、団体、分析者、メディアは、イスラエル情報機関が実行者とみている。ヒズボラは声明で、「我々は、この犯罪的侵略に対してイスラエルの敵に全責任があると考えている」と述べ、イスラエルは「この罪深い侵略に対して当然の罰を受けるだろう」と付け加えた。レバノンのジアド・マカリ情報大臣も同様の非難をしている。イスラエル自身はこれまで同様に口を閉ざしたままである。
5.攻撃の手口
米国に拠点を置くシンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」の元CIAアナリスト、マイク・ディミノ氏は、負傷者の画像から判断すると、バッテリーの過熱ではなく、機器内に埋め込まれた「非常に小さな爆発物」が原因である可能性が最も高いと述べた。「これは典型的な破壊工作だ」と同氏はXで述べ、このような工作は「何ヶ月、いや何年」もかけて計画すると述べた。ドバイに拠点を置くアナリスト、リアド・カワジ氏は、イスラエルはヒズボラがスマートフォンからポケベルに移行したタイミングを利用したと述べ、イスラエルの諜報機関は「最もプロフェッショナルな作戦」を実施したとして「間違いなく、イスラエルが所有する工場の1つが、本日爆発した爆発装置を製造し出荷した」と同氏は述べた。イスラエルはポケベルのサプライチェーンに侵入し、数百台のヒズボラのポケベルを同時に爆発させ、レバノンのテロ組織とそのイランの支援者に打撃を与えるという諜報活動で大きな成功を収めたとみている。爆発したポケベルは、ヒズボラが最近輸入した1,000台のポケベルの積荷に関するもので、出所で破壊工作が行われたとみられている。スカイニュースアラビアは、情報筋の話として、モサド諜報機関がヒズボラの通信機器をテロ組織に引き渡される前に入手したと報じた。イスラエルの情報機関は、機器のバッテリーに大量の爆発性の高い物質であるPETNを置き、遠くからバッテリーの温度を上げて爆発させたと、情報筋は語った。アルジャジーラが引用したレバノンの治安筋は、各ポケベルに20グラム未満の爆発物が仕込まれていたと述べた。「モサドはサプライチェーンに侵入した」と、イスラエルの諜報機関に言及して、中東研究所のチャールズ・リスター氏は「バッテリーの横に小型のプラスチック爆弾が隠されていたのはほぼ確実で、電話や呼び出しによる遠隔爆発が可能だった」と述べた。
(追加)レバノン治安当局高官によると、ヒズボラは台湾のゴールド・アポロというメーカーが製造した通信機器5000個を発注。複数の関係者によれば、機器は今春にレバノンに持ち込まれたという。同高官はこの機器のモデル「AP924」の写真を確認した。その上で、モサドによって機器が「製造レベル」で改造されたとし、「モサドはコードを受信する爆発物を搭載した基板を内部に埋め込んだ。どのような手段でも検知するのは難しい。どんな装置やスキャナーを使ってもだ」と語った。コード化されたメッセージが送られて同時に爆発物が作動し、3000個の機器が爆発したという(ロイター報道)。一方、台湾企業ゴールド・アポロは9月18日、レバノンで17日に起きた爆発に使われたポケットベルについて、自社が製造したものではないと創業者の許清光氏が記者団に語った。許氏によると、ポケベルは自社のブランドを使う権利を持つハンガリーのブダペストにあるBACコンサルティングという会社が製造・販売したもので、「われわれのブランドが付いているだけだ」と説明した。メディアのBACコンサルティングの住所先訪問によれば、建物入り口にはいくつかの社名のある貼り紙がしてあるだけで、人の出入りは感じられないとのことで、実体の乏しいペーパー会社の可能性もありうる由。
(追加2)レバノンの首都ベイルート近郊を含む各地で前日に続き、9月18日、ヒズボラメンバーなどが使用している無線機などの通信機器がほぼ同時に爆発し、保健省によると14人が死亡、450人以上が負傷した。ロイター通信は、爆発した無線機に日本の通信機器メーカー「アイコム」(大阪市)の社名と「日本製」の記載があったと報じた。同通信機器は、 Icom IC-V82 walkie-talkiesとみられている。「アイコム」は大阪市平野区に本社を置いている無線通信機器の制作会社で、日本初の可搬型機を開発し、携帯用無線機メーカーの草分け的存在とされる。メーカーの中東地域への輸出を担当するヨーロッパ現地法人はANNの取材に対して、「指摘されている製品は数年前に生産を終了していて、これまでもレバノン向けの大量の取引はない」、「中東地域へは輸出管理が厳格なため、エンドユーザーなどを確認したうえでの輸出となり、正規品とは考えにくい」などと説明したとのこと。「アイコム」は、同社のロゴ入りラベルが貼付された無線機がレバノンで爆発したとの報道について、偽造品防止のホログラムシールが貼られていないことなどから、「当社から出荷した製品かどうかは確認できない」とのコメントを出した。新たな情報が把握できたら改めて公表するとしている。アイコムは同モデルについて、約10年前に販売を終了したと説明。バッテリーの生産も終え、画像に映る機器には偽造品防止のためのホログラムシールが貼付されていないとコメントしている。


(コメント)今回の実行者は、特定されていないものの、イスラエルのメディアも含め、モサドの犯行ではないかとみられている。2024年7月31日のハニーヤ・ハマス政治局長(当時)のテヘランでの爆死もイスラエル情報機関の仕業(おそらくベッドの下に爆発物を仕掛け、殺害)であるとみられている。2023年10月のガザ危機をきっかけにハマスだけではなく、イスラエル北部のシーア派民兵組織ヒズボラ、はるか南部に位置するイエメンのフーシ派、さらにイラクの親イラン民兵組織から、イスラエル領内を標的にした攻撃が継続しており、これに対して、イスラエル軍は、ヒズボラ司令官の殺害やイラン関連のシリア領内の軍事拠点への攻撃を繰り返してきた。今回の攻撃が大方の見立て通りイスラエル情報部の工作によるものであるとすれば、イスラエルは、ヒズボラの通信機器のスマートフォンからポケベルへのシフトに際して、新型ポケベル製造過程あるいは出荷過程において、工作員をサプライチェーン内に送り込んで、通信機器がヒズボラ隊員間で通常使用されることを見極めた上で、特殊指示を発信し、一斉爆破を実行したことになる。それぞれの爆発の規模自体は大きくはないものの、その範囲は、レバノン全土、あるいはシリア領内にまで及んでおり、イスラエルは、誰がどこに居ようがイスラエルに脅威を与える者は、狙うことができるという強烈なメッセージをヒズボラならびにその後ろ盾のイラン、さらには、親イラン民兵組織全体に送ることになったと思われる。また、今回の爆破工作によって、攻撃を受けたすべての工作員の名前と居場所がイスラエル側によって確認されることになり、今後の攻撃あるいは暗殺準備に稀有で貴重な情報を提供することになったとみられる。モサドのコーエン元長官は、退任にあたっての2021年6月11日のイスラエルのチャンネル12に放送されたインタビューの中で、@2021年4月11日のナタンツ核施設での爆発に関し、爆発物は、遠心分離機の土台となる大理石の中に仕組まれて、ナタンツ地下の遠心分離施設に持ち込まれていたことが明らかにした。具体的な証言を行うことで、事件はモサドが仕組んだことを事実上認め、また、A2020年11月27日のイランの核科学第一人者であったモホセン・ファクリザデ博士のテヘラン郊外での待ち伏せ殺害についても、イスラエルが関与したことをほぼ認め、イランの核開発に協力する科学者たちに転職を勧め、天国で友人たちと再会することにならないよう警告を発している。
https://www.aljazeera.com/news/2024/9/17/how-did-hezbollahs-pagers-explode-in-lebanon
https://www.timesofisrael.com/analysts-say-mossad-likely-hid-explosives-in-pagers-before-they-reached-hezbollah/
https://jp.reuters.com/world/security/2TPRMJE6BBLSBPHAS4WIJTRLCU-2024-09-17/
https://jp.reuters.com/world/security/KV2TEE6UCNNC5GTKMXMZEHI6UM-2024-09-18/

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米軍のイラク撤退合意[2024年09月09日(Mon)]
イラクに駐留する米軍主導の有志連合について、9月6日ロイター通信は、米軍撤退について米・イラク両国政府が、大筋合意したと伝えた。2014年に米軍を中心に結成された有志連合は、過激派組織IS掃討作戦のためにイラクに駐留し、ISが支配地域を失ったあとも現地にとどまっている。イラクと米政府は、米軍撤退問題について、2020年1月3日、イランのIRGCコッズ部隊カーセム・ソレイマニ司令官とイラクのPMF(人民動員部隊)のアブ・マフディ・アルムハンディス副司令官がバグダッド空港を車両で出ようとした際米軍のドローン攻撃で殺害され、それ以降イラク国内で米軍撤退の声が強まり、両国政府は撤退に向けて、議論をかわしてきた。2021年には両国協議を経て同年12月末までに米軍の戦闘部隊がイラクから撤退することになっていたが、訓練や助言その他の役割の軍隊はイラクに留まることで合意したものの、未だ約2500名の部隊が現地にとどまり親イラン・シーア派民兵組織は、それを偽りの撤退とみなしていた。2024年1月24日、米国とイラクは、イラクに駐留する米軍主導の有志連合軍の撤収と、それに代わる二国間関係のあり方に関する協議を開始することが駐イラク米大使からイラクのフセイン外相に手渡した書簡で明らかになっていた。今回の合意は、イランに支援されたイラクの武装集団がイラクの基地に駐留する米軍を攻撃する中、ムハンマド・シーア・アル・スーダーニ首相が本年1月に開始した6ヶ月以上の二国間協議によるもので、7月23日には、アッバースィ・イラク国防相がオースチン米国防長官とペンタゴンで会談している。今般明らかになった計画では、米軍は、2025年9月までにアイン・アルアラブ空軍基地やバグダッド周辺に駐留する数百人の部隊を撤退させるほか、残る北部クルディスタン地域のエルビル駐留部隊についても2026年末までに撤退させる予定。一方で、部隊の撤退のあとも米軍の一部については、イラク側を支援するために駐留を続ける可能性があるとされる。

(コメント)米国は、2014年に結成された連合軍の一員として、イラクに約2500人、隣国シリアに900人の部隊を配置している。イラクの民兵組織は、2020年1月8日、アイン・アルアサド空軍基地とエルビルの基地に向け、ソレイマニ司令官とイラクのPMF(人民動員部隊)のアブ・マフディ・アルムハンディス副司令官殺害への報復攻撃を実行し、死者は出なかったものの、複数の兵士にトラウマ的障害が発生したと報じられている。その後も、米軍基地への攻撃は、なくなっておらず、親イラン民兵組織は、2023年10月7日のハマスによる越境攻撃後イスラエル軍がガザに大規模侵攻して以降、イラク駐留米軍に対し少なくとも70回の攻撃を仕掛けている。また、1月28日には、イラク民兵組織「カターイブ・ヒズボラ」によるとみられる無人機による攻撃でシリア国境に近いヨルダン領内タワー22基地内で3人の米軍兵士が殺害され、40名以上の負傷者を出した。米軍は1月4日、米国はバグダッドでドローン攻撃を仕掛け、イラク・シーア派民兵組織の統括組織である人民動員部隊(PMF)のムシュタク・ターレブ・アル・サイーディ上級司令官を殺害した。数回にわたって報復攻撃を実行している。
これらの攻撃の応酬をうけ、イラク政府と米軍イラク駐留司令官らが協議を継続し、今回の米軍撤退の基本合意に至ったとされる。親イランのシーア派民兵組織は当然、この撤退合意をながらく待ち望んでいたものとして歓迎している。一方で、2021年の撤退合意のように、別の形での一部部隊の駐留継続、あるいは新たな理由による撤退見直しを警戒している。この撤退計画が実施されるとしても、本年11月の米大統領選挙の後の実施となる。トランプ候補が仮に大統領に復帰すれば、撤退合意を履行するのか撤回するのか、あるいは修正するのかは不透明である。イラクからの米軍撤退は、当然、シリアからの米軍撤退とも大きく関係している。シリアでは、米軍が、シリア北東部を実行支配するシリアのクルド人勢力を支援している。同地域は、シリアの石油・ガスの主要産出地であるが、米軍が撤退するとアサド政権が支配権奪回に動くことは確実である。一時期、アサド政権と冷え切った関係にあったトルコのエルドアン政権は、トルコがテロ集団とみなすPKK(クルド労働者党)と同根のテロ集団とみなすシリアのYPG(クルド人民防衛隊)・YPJ(女性部隊)あるいはクルド人勢力を主体とするシリア民主軍(SDF)からの脅威を取り除くため、アサド政権との関係修復に乗り出している。また、8月、トルコとイラクは、イラク北部のトルコ基地をイラク軍に移管し、トルコとイラクの合同訓練協力センターをそこで運営することに合意し、対PKK作戦で協力することとなった。トルコのエルドアン大統領は、9月7日、ガザで米・トルコ二重国籍の女性がイスラエル軍に殺害されたあとのコメントで、トルコがエジプトやシリアとの関係改善に踏み切っており、これは「増大する(イスラエルの)拡張主義の脅威に対抗する連帯路線を形成する」ことが目的であり、それ(拡張主義)がレバノンとシリアにも脅威を与えているからであると述べ、シリアとの関係改善に意欲的であることを明らかにしている。

(参考)イラクの流動的な政治情勢
2021年10月10日、イラクは第5回目の議会選挙を行った。 投票率は41%と低調であった。民兵グループと関係を共有し、長い間イラクの政治を支配してきたイランが支援するシーア派政党ブロックであるファタハ連合は、前回の48議席から17議席へと激減した。 ポピュリストのシーア派聖職者ムクタダー・アル・サドル師が率いるサドル潮流は最大の勝利者であり、議会で最大のブロックである329議席の組織で合計73議席(前回54議席)を獲得した。 スンニー派のタカダム同盟が2位で、マーリキー元首相率いる法治国家連合(シーア派)が33議席で第3位、クルド政党のKDPが31議席を確保し、クルド政党では第一位となった。総選挙で、サドル潮流は73議席を確保して、当然サドル潮流が組閣にあたるべきだとの立場であるが、シーア派調整グループは、88議席を集めたとして、同グループが組閣にあたるべきとの考えを示し、シーア派内の抗争が激化した。22年6月 イラク議会が政権樹立に何度も失敗して8カ月近く経った後、影響力のあるシーア派の宗教指導者であり、イラクの10月の議会選挙で最大の勝利を収めたムクタダ・サドル師は、もう我慢できないと決断し、サドル派の議員73名に辞表を提出するよう命じ、議員らは辞表を提出した。イラク国民議会は2022年10月27日、ムハンマド・シーア・アルスーダーニ氏を首相とする内閣を承認し、新政権が発足した。2021年10月の総選挙から1年近く続いた政治的停滞にようやく区切りがついた。再選挙を求めるサドル派による抗議活動が行われ、22年7月にはデモ隊が政府施設や各国大使館が集まるグリーンゾーン内に突入して議会を一時的に占拠した。8月下旬にもデモ隊がグリーンゾーン突入を試み、治安部隊との衝突で30人以上が死亡する事態も発生していた。

(最終確定数)2021年11月30日発表された当選者に基づく各ブロックが獲得した議席数(21年12月27日の連邦最高裁の決定で確定)
@サドル潮流(ムクタダー・サドル師):73議席を獲得右矢印1シーア派第一位。前回の54議席から大躍進。首相任命の主導権をとるとみられていた。
Aタカダム同盟(ムハンマド・アル・ハルブシ前議会議長)37議席右矢印1スンニー派第一位。アズム同盟と接近の動きあり。
B法治国家連合(ヌーリー・アル・マーリキー元首相)33議席右矢印1シーア派第二位
Cクルディスタン民主党(KDP)(マスウード・バルザーニ党首)31議席右矢印1クルド第一位
D独立系 43議席
Eクルディスタン愛国同盟(PUK)17議席右矢印1クルド第二位(独立系1人を加えて18議席との見方あり)
Fアルファタハ連合(ハーディ・アルアーミリィ・バドル機構代表)17議席右矢印1シーア派第三位。前回の48議席から激減
Gアズム同盟(ハンジャル・イラクのアラブプロジェクト事務局長)14議席右矢印1スンニー派第二位
H新世代 9議席右矢印1クルド政党
Iイムティダード 9議席
Jイシュラーカート・カーヌーン6議席右矢印1法律への参加の意味
Kタスミーム5議席
Lアーキッド・ワタニー4議席
M勝利同盟 4議席右矢印1ハイダルアバーディ元首相の政党
Nバビロン運動 4議席右矢印1キリスト教カトリック系
Oハスム運動 3議席
Pアイデンティティ連合 3議席
   その他、 17政党が1議席のみ確保 
https://www.reuters.com/world/us-iraq-deal-would-see-hundreds-troops-withdraw-first-year-sources-say-2024-09-06/
https://jp.reuters.com/world/security/VJ3AZGJBYZMKJJCCCS6M6HRR7A-2024-01-24/
https://www.defense.gov/News/News-Stories/Article/Article/3659809/3-us-service-members-killed-others-injured-in-jordan-following-drone-attack/
https://www.middleeasteye.net/news/us-and-iraq-agree-plan-withdraw-us-troops-report
https://www.timesofisrael.com/liveblog_entry/turkeys-erdogan-calls-for-islamic-countries-to-ally-against-growing-threat-of-expansionism-from-israel/

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