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英国政府による「過激主義」の再定義[2024年03月15日(Fri)]
2024年3月14日、英国議会において、マイケル・ゴーブ住宅・コミュニティ・地方自治大臣は、「過激主義」の定義を、2011 年のテロ対策戦略で定められていた以前の定義から改めたと表明した。
住宅・コミュニティ・地方自治省局は声明で、報告されている反ユダヤ主義および反イスラム教徒のヘイトクライムの増加を挙げ、「10月7日のイスラエルでのテロ攻撃以来、過激派の脅威が増大している」ことに適切に対処するため定義が更新されたと述べた。新しい定義は政府省庁や当局者が「過激派組織、個人、行動」を特定するのに利用されるだろうと述べた。一方、この定義は法的規定ではなく、現行の刑法には影響を及ぼさず、政府の運営自体に適用されるとしている。
1.過激主義の新たな定義
過激主義とは、暴力、憎悪、または不寛容に基づくイデオロギーの推進または進捗を図るものであり、次のことを目的としている。
(1)他者の基本的権利および自由を否定または破壊する。 または
(2)英国の自由議会制民主主義および民主的権利の制度を弱体化し、覆し、または置き換える。 または
(3)上記(1) または(2)の結果を達成するために、他者が許容できる環境を意図的に創生する
2.新しい定義の下で「過激主義」を評価されることになる組織名
@ 英国の国家社会主義運動British National Socialist Movement
A 愛国的な代替Patriotic Alternative
B 英国ムスリム協会 - ムスリム同胞団の英国支部Muslim Association of Britain - the British affiliate of the Muslim Brotherhood
C ムスリム擁護アドボカシー非営利法人CAGE
D 「ムスリムへの約束と発展」非営利法人MEND:Muslim Engagement & development
https://www.mabonline.net/about-us
https://www.cage.ngo/about
https://www.mend.org.uk/about-mend/aims-and-objectives/

(コメント)ゴーブ大臣は、新定義の下で、再評価を行うと述べた5つの組織のうち、最初の2つの団体は「ネオナチのイデオロギーを促進する」団体であり、他の3つの団体は「イスラム主義的指向と見解に対する懸念を引き起こす」団体であると述べた。すなわち、5つのうち、3つがイスラム関連組織であり、それらの組織は、イスラエルによる対テロ戦争という名目の下でのガザ侵攻を批判しており、イスラエル寄りの姿勢を維持している英国政府の方針に異議を唱えている。ガザ危機においては、英国を含め、世界の各地で、パレスチナ人の被害の拡大を懸念し即時停戦を求めるグループハマス殲滅を含む対テロ戦争の正当性を訴えるグループの両陣営が対立し、分断がますます拡大している。そうした中で、一方では、イスラム教徒への偏見、差別、排斥の動きが拡大し、他方では、反ユダヤ主義の動きも活発化している。今回、英国政府は、「過激主義」の再定義は、法的措置ではないとしつつ、政府の活動において、過激主義を有すると政府が判断した団体への監視と資金の流れなどへの規制を強めていくことを明らかにしている。当然、上記3つのイスラム系団体は、英国政府がこのタイミングでイスラム系団体を特定し、標的とする姿勢を示したことに反発を強めている。そもそも、「テロリズム」や「過激主義」を定義づけること、その対象の範囲を線引きすることは極めて困難である。ある国の政府機関が一旦、特定団体をテロ組織、過激組織と位置付ければ超法規的に何を行っても許されるという実態があり、一般人は、テロや過激分子の脅威を「無力化」「無害化」したとの説明を受け入れるしかない状態におかれる。この定義が、少なくとも、ガザ危機への即時停戦を求める市民運動を抑え込む口実にならないことを願う次第である。
https://www.bbc.com/news/uk-68564429
https://www.middleeasteye.net/news/uk-government-targets-islamists-new-definition-extremism

Posted by 八木 at 11:44 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

インド・モディ政権による市民権改正法(CAA)実施の国内外へのインパクト[2024年03月12日(Tue)]
2024年3月11日、インド内務省の報道官は、4年以上前に成立していた市民権改正法(CAA)についてCAA実施規則を発表し、資格のある個人は「完全なオンラインモード」で申請書を提出できると述べ、5月までに実施される見通しのインドの総選挙を前に、CAAが実施に移されることを明らかにした。申請者には、それ以外の書類は求められないという。CAAは、2019年12月11日にインド上院で可決成立しており、2014年12月31日以前にインドへ入国したアフガニスタン、バングラデシュ及びパキスタンからのヒンドゥー教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、ゾロアスター教徒、キリスト教徒の非正規移民に対して、インドの市民権が与えられることになった。主要宗教の信者としては唯一イスラム教徒(ムスリム)が除外されている。 これについてモディ首相は、新法がイスラム教徒を対象外としているのは、これら3か国ではイスラム教徒が多数を占めており、迫害される危険がないからだと説明してきた。 この新法をめぐって国民の間で怒りが広まり、国内各地で大規模な抗議活動に発展していた。抗議活動の中心となっているインド北東部では、新法によって、ヒンドゥー教徒が大半を占めるバングラデシュ移民に市民権が付与されるのではないかと懸念されている。2020年1月10日CAAは有効になったものの、この法律の実施規則が未成立で、内務省は、8回に渡って、規則整備のための期限延長を求め、実施されていなかった。アミット・シャー内務大臣は以前ツイッター(現在X)に「これらの規則により、パキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンで宗教上の理由で迫害されている少数派が我が国で市民権を取得できるようになる」と書きこんでいた。
https://www.ndtv.com/india-news/4-years-after-bill-passed-citizenship-law-caa-becomes-reality-5218643
(参考)CAA実施に際してのNDTV報道のポイント(2024年3月11日)
1. この法律は、2014 年 12 月 31 日までにバングラデシュ、パキスタン、アフガニスタンからインドに入国したヒンドゥー教徒、ジャイナ教徒、キリスト教徒、シーク教徒、仏教徒、パールシー教徒に市民権を与えることを目的としている。
2. インド市民権は、過去 1 年間および過去 14 年間のうち少なくとも 5 年間にインドに居住した移民に付与される。 以前は移民の市民権獲得には11年必要であった。
3. この法律は、アッサム州カルビ・アンロン部族地域、メガラヤ州ガロ・ヒルズ部族地域、ミゾラム州チャクマ地区、ミゾラム州部族地域地区を含む、憲法第 6 附則に含まれるアッサム州、メガラヤ州、ミゾラム州、トリプラ州の部族地域を除外している。
4. CAAが2019年12月に議会を通過し、大統領の同意を得た後、北東部を含む国内の一部地域で大規模な抗議活動が起きた。
5. アミット・シャー内務大臣は以前、CAA の規則はサバ州の投票前に通知され、施行されるだろうと述べていた。
https://www.ndtv.com/india-news/citizenship-amendment-act-explained-5-points-5218339

(コメント)インドでは、本年5月までに総選挙が実施される予定で、政権3期目を目指すBJP党首のモディ首相は、ヒンドゥー教徒の支持を集めるために、アピール性の高い行動を次々に実施している。例を挙げれば、次のとおり。
@ 2024年1月22日、インドのウッタル・プラデシュ州アヨーディヤで1992年にヒンドゥー至上主義者により破壊されたイスラム教のバブリーモスクの跡地に建設されたヒンドゥー教のラーマ寺院の落成式が、モディ首相他、7千人以上のヒンドゥー教聖職者、政治家、実業界指導者、著名映画俳優、スポーツ選手などを含む招待客が出席して執り行われた。モディ首相が儀式の中心的な役割を演じた。https://blog.canpan.info/meis/archive/553
A 2024年2月25日、モディ首相はグジャラート州のアラビア海沿岸で海に潜り、古代都市ドワルカの王と呼ばれるクリシュナの死後にドワルカが水没したと信じられている場所で祈りをささげた。グジャラート州のゴムティ川とアラビア海の先端に位置する荘厳なドワルカディシュ寺院は、ヴァイシュナ派、特にクリシュナ神の信者にとって重要なヒンドゥー教の巡礼地であり、ドワルカディシュ寺院の主神はドワルカディシュ、またはクリシュナ神とされる。モディ首相は水没した寺院のある場所に潜り、孔雀の羽の杖を奉納した。
B 2024年3月7日、モディ首相は、政府が5年前の2019年に憲法第370号の無効を宣言し、この地域の自治権を剥奪して以来初めてカシミール渓谷を訪問した。同州最大の都市シュリーナガルで開催されたモディ首相の集会には、数千人の警察官と民兵隊員が動員された。モディ首相は群衆に向かって、「私たちが何十年も待ち望んでいたのは、新しいジャンムーとカシミールだ」と語った。第370条により、イスラム教徒が多数を占めるジャンムー・カシミール州では、70年以上にわたって独自の憲法や法律、土地、文化の保護を含む独自の形態の自治権が付与されてきた。
(廃止された憲法第370条とは)憲法370条は、外交や防衛、通信分野については中央政府の管轄となっている一方で、ジャンムー・カシミール州に、独自の立法・行政・司法制度といった一定の自治性を認めており、法案作成も自由に行なえる権限を付与してきた。同州には、国旗とは別に、州旗が存在していた。市民権や財産所有権、基本的権利に関する独自の規定があるほか、州外からのインド人が、州内で物件を購入したり、定住することも禁止していた。

市民権改正法(CAA)の実施は、モディ首相にとっての選挙キャンペーンの重要な政治行為であり、2014年12月31日までにアフガニスタン、バングラデシュ、パキスタンからヒンズー教徒が多数派のインドに移り住んだヒンドゥー教徒、パールシー教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、キリスト教徒に市民権獲得の早道を提供するものである。この法律は、イスラム教徒を除外しており、人口14億人を抱えるヒンドゥー教徒多数のインドの中で、少数宗派人口としては最大の約2億人を擁するイスラム教徒が強く反発してきた。反発の理由は、単に、CAAからイスラム教徒のみが排除されているということだけではない。インドでは2019年8月31日、北東部アッサム(Assam)州の国民登録簿(NRC)が発表された。申請者約3032万人のうち約190万人は、資格なしと判断されて登録簿から除外された者は無国籍状態に置かれ、収容所に送られるか、国外追放される危機に直面することとなった。このうち大多数を占めているのがイスラム教徒であった。 モディ首相の側近アミト・シャー(Amit Shah)内相は、「侵入者」を排除する目的で、2024年までに国民登録簿を全国的に整備すると言明した。 モディ首相は、1期目には多くのイスラム風の地名を変更し、歴史の教科書からインドにおけるイスラム教徒の役割を削除した。このためイスラム教徒は、シャー内相の国民登録簿の整備はイスラム教徒を念頭に置いて、市民権を奪うことにつながるのではないかと懸念している。
このようにイスラム教徒の反発を承知のうえ、ヒンドゥー教徒に強くアピールする政策・行動を次々に繰り出すモディ首相に、イスラム世界の指導者は批判するのではなく、むしろモディ首相との関係を強化している。サウジのMBS皇太子は、2023年9月のG20首脳会合では、インドとサウジ、イスラエル、欧州を結ぶ新経済回廊構想の覚書に署名した。UAEのMBZ大統領は、2024年2月13日、来訪のモディ首相との間で、投資協定他の二国間協定署名や、ガザ危機の発生にもかかわらず、新経済回廊構想が消滅していないことを示す二国間覚書の署名にも立ち会った。インドは、中国やロシアも参加する拡大BRICSの重要メンバー国であるが、欧米は、中国をけん制する狙いもあり、インド取り込みを図っており、欧米と対立するロシアのプーチン大統領も、原油の重要取引先であるインドのモディ首相をあらゆる機会に持ち上げている。世界は、宗教や民族や人権や強権国家であるか民主主義国家であるかの問題より、その国がどれくらい政治力、経済力を有するのか、自国にとってどれくらい利益があるのかの損得勘定によって、対外関係を判断するようになっている。そうした中で、分裂する世界の中で、最も求心力を有する国の筆頭が、インドであるといえる。
https://www.narendramodi.in/prime-minister-narendra-modis-meeting-with-president-of-the-uae-579375

Posted by 八木 at 14:27 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)