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称賛と懸念が入り混じるインド・アヨーディヤのラーマ寺院の落成式[2024年01月23日(Tue)]
2024年1月22日、インドのウッタル・プラデシュ州アヨーディヤでラーマ寺院の落成式が、モディ首相他、7千人以上のヒンドゥー教聖職者、政治家、実業界指導者、著名映画俳優、スポーツ選手などを含む招待客が出席して執り行われた。同寺院の起工式は、2020年8月であり、約3年半の工事を経て今回の落成式にこぎつけた。寺院は、推定 2 億 1,700 万ドルの費用をかけて建設され、約 3 ヘクタール (7.4 エーカー) の敷地面積を有する。但し、寺院全体が完成したわけではない。ラーマ(ラームとも称される)は、叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公でもある。
伝統的なクルタ衣装を身に着けたモディ首相は、高さ1.3メートル(4.3フィート)のラームの像が設置された寺院の内でヒンドゥー教聖職者らが賛美歌を唱える中、式典を主導した。モディ首相は、集まった招待客に対し、「今日、私たちの主ラームは、何世紀も待ち続けた後、ついに到着した。 私たちのラームの像はもはやテント内に留まらない。私たちのラームの像は、これからは神殿に留まり続ける。1月22日の太陽は素晴らしいオーラをもたらした。2024年1月22日は単なるカレンダー上の日付ではなく、新たな時代の始まりであり、千年後でも人々はこの日のことを語り継ぐであろう」と述べた。落成式の模様は、寺院の外の大型スクリーンに映しだされた他、全国にテレビ中継された。
この寺院建設は、2019年11月にインドの最高裁判所がウッタル・プラデシュ州の係争中の土地にヒンドゥー教寺院を建設することを認めた判決に従ったもので、多くのヒンドゥー教徒は、彼らの神ラーマがその場所で生まれたと信じており、イスラム教の皇帝バーブルがその神聖な場所の上にモスクを建てたと主張している。モディ首相率いるインド人民党(BJP)が選挙マニフェストで長い間、カシミールの係争中の地域ジャム・カシミール州の自治を剥奪し、ムガール時代のモスクがかつて建っていた場所にヒンドゥー教のラーマ寺院を建設することを公約していたため、モディ首相にとっては、公約を実現したということになる。インドではことし4月ないし5月に実施される予定の総選挙を前にして、モディ首相は、国民総人口の約8割を占めるヒンドゥー教徒に、寺院建設を進めてきた実績を強くアピールすることになった。

(コメント)2019年11月のインドの最高裁判所判決は、ヒンドゥー教徒過激派によるモスク破壊行為を違法と判断しつつ、インドの多数派であるヒンドゥー教徒のラーマ信仰の想いを、イスラム教徒が中世以来現実に維持してきたモスクの所有権の上に位置づけたことになる。高裁段階での同じ敷地内の2/3をヒンドゥー教徒側が、1/3をムスリム側が管理するという案を覆し、敷地全体をヒンドゥー教徒側に与え、ムスリム側には、別の土地を与えるという最高裁が下した解決策は、現場での衝突を避けるための知恵であるとの見方もできないではないが、結局のところ、多数派ヒンドゥー教徒の声を重視したものであり、現在のBJPの「ヒンドゥー至上主義」に寄り添う流れからは、イスラム教徒の反発は避けられそうにない。2020年の起工式段階では式典に招待された中に、最高裁判所の訴訟で主なイスラム教徒の訴訟者となったイクバル・アンサリ氏が含まれており、同人はアヨーディヤでのヒンドゥー教寺院の建設を支持しているようである。しかし、アンサリ氏の対応がヒンドゥー教徒とイスラム教徒の融和を意味するものとは考えられていない。因みに別の土地を与えられてイスラム教徒側のモスク建設は未だ開始されていない。隣国のパキスタンは、取り壊されたモスクの跡地に寺院が建てられたことはインドの民主主義に汚点が残ると述べ、この式典を非難した。
パキスタン外務省は声明で「同様の冒涜と破壊の脅威にさらされているモスクが増えている」と述べ、 国際社会に対し、インドのイスラム遺産を「ヒンドゥー過激派グループ」から救い、少数派の権利が確実に保護されるよう支援するよう求めた。インド北部にある少なくとも3つの歴史あるモスクが、寺院遺跡の上に建てられたとするヒンドゥー民族主義者らの主張をめぐって法廷紛争に巻き込まれているとされる。インドのイスラム教徒の懸念は、モスクが立つ土地の所有権だけではない。インドでは、2020年1月にインドに不法に入国したヒンドゥー教、シーク教、仏教、ジャイナ教、パールシー教、キリスト教の各教徒について、イスラム教徒が多数を占めるパキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンのいずれかの出身だと証明できれば、インドの市民権を申請できる「インド市民権改正法(CAA)」が成立している(但し、実施細則は未だ整備されていない模様)。これについては、イスラム教徒は対象外で、差別的だとする抗議行動が各地で続いてきた。更に、2019年8月5日、モディ政権は、議会における大統領の署名を経て、イスラム教徒多数のジャンムー・カシミール州に自治権を認めた憲法370条を廃止した。2019年10月31日、法律が発効しジャンムー・カシミール州は西部の「ジャンムー・カシミール」と東部の「ラダック」に2分割され、中央政府の直轄領となった。2023年12月、最高裁は、政府の決定を支持した。2019年8月、アッサム州では国民登録簿から除外された190万人(大半がイスラム教徒)が無国籍状態の危機にさらされることになった。加えて、インドでは10前後の州で、改宗禁止法が施行されている。これは、主に、イスラム教徒男性が、ヒンドゥー教徒女性など他宗教の女性と結婚した際、イスラム教への改宗を強いられることを阻止する狙いがあるとみられている。

インドは、人口14億人を抱えるグローバルサウスの中心国家であり、欧米との良好な関係を維持しつつ、欧米とは一線を画す10か国で構成されることになったBRICSの主要メンバーある。ウクライナ侵攻で世界の批判を集めているロシアからも原油を輸入し、2023年国別輸入量は、ロシア産が、伝統的に主要な供給国であったサウジやイラクからの輸入量を上回った。インドは、安価なロシア産原油を精製し、その石油製品を欧米に輸出することにもためらいのないしたたかな国でもある。2024年BRICS首脳会議を主催するロシアが、インドのモディ政権を持ち上げる機会が増えている。
(バブリー・モスクとラーマ寺院建設を巡る経緯等)https://blog.canpan.info/meis/archive/428
(参考記事1)https://apnews.com/article/india-modi-temple-hindu-muslims-ayodhya-election-12102e8dd13a677b15d8760b4252aa7a
(参考記事2)https://edition.cnn.com/asia/live-news/india-ram-mandir-ayodhya-inauguration-24-01-22-intl-hnk/index.html

Posted by 八木 at 11:18 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)