バイデン大統領のサウジ訪問の成果[2022年07月19日(Tue)]
2022年7月15日、ジッダでムハンマド・ビン・サルマン(通称MBS)皇太子と会談したバイデン大統領は、会談後、米・サウジ共同声明を発表した。この概要は次のとおり。
(概要)
両国は、80年前にアブドルアジーズ・アルサウード国王とフランクリンD.ルーズベルト大統領との会談で確認された戦略的パートナーシップを強化し続けることの重要性を強調した。
@ 米国は、持続的な経済成長と世界の石油市場の安定のバランスをとるというサウジアラビアのコミットメントを歓迎。 双方は、短期的および長期的に世界のエネルギー市場について定期的に協議することを決定。
米国にとってOPECプラスの現行の減産調整終了後の原油増産をサウジに働きかける場とする
A 米国は、サウジアラビアのグリーンイニシアチブと中東のグリーンイニシアチブを賞賛
サウジは、2030年までに発電量の50%を再生可能エネルギーで賄う(注:2021年発表されたグリーンイニシアティブには、国内100億本の植樹などが含まれる)
B クリーンエネルギーへの移行と気候変動への取り組みへの投資推進
C サウジアラビアの安全保障
米国は、サウジアラビアの安全保障と領土防衛を支援し、サウジアラビアの国民と領土を外部の脅威から守るために必要な能力を獲得する王国の能力を促進するという米国の継続的なコミットメントを確認。
D イランの核開発、テロ活動阻止
双方は、他国の内政へのイランの干渉、代理人によるテロ支援、そして地域の安全と安定を不安定にする努力をさらに阻止する必要性を強調。サウジアラビア王国と米国は、イランが核兵器を取得するのを防ぐことの重要性を強調
E 国際水路における船舶の安全航行の維持
双方は、バーブ・アル・マンデブ海峡やホルムズ海峡のような戦略的国際水路を通じた商業取引の自由な往来を維持することの重要性を強調。紅海のバーブ・アル・マンデブ海峡に焦点を当て、イエメンへの不法な密輸をさらに阻止する、新しく設立された複合タスクフォース153設置を歓迎。
F 5G/6GオープンRAN(注:無線基地局の仕様をオープンかつ標準化することにより、さまざまな販売業者の機器やシステムとの相互接続を可能とする 仕組み)協力
サウジが5Gの展開と6Gの将来の開発のための地域のハブになることを期待
G サイバーセキュリティ協力
H 宇宙:サウジアラビア王国がアルテミス合意(月や火星などの宇宙探査や宇宙利用に関する基本原則を定めた国際的な合意。2020年に当初8か国が署名)に署名したことを歓迎
I ティーラーン島開発
エジプトからサウジにアカバ湾出口のティーラーン島、サナーフィル島が移管されたことに伴い、多国籍軍監視団(MFO)をティーラーン島から撤去。その後、イスラエルも含めた地域開発、とりわけ巨大プロジェクトNEOM推進
J 民間航空機のサウジ領空通過承認
趣旨は、イスラエル航空機のサウジ領空通過承認(現実には、サウジは、UAE・イスラエル間のフライト領空通過を既に認めている)
K ビジョン2030
サウジ経済の脱石油、経済の多角化を目指すサウジの取り組みを歓迎。サウジは世界万博2030立候補
L 地域協力
ウクライナの穀物輸送支持。イエメン停戦を歓迎。イラクへのGCCからの電力網接続ほか
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/07/15/the-jeddah-communique-a-joint-statement-between-the-united-states-of-america-and-the-kingdom-of-saudi-arabia/
(コメント)今回のバイデン大統領のサウジ訪問の成果は、なんといっても、2018年10月2日のイスタンブールのサウジ領事館で発生した著名なサウジ人ジャーナリストでワシントンポストのコラムニストでもあったジャマール・カショギ氏のサウジ政府派遣グループによる殺害をうけて、冷え切っていたバイデン大統領の下での米国とサウジアラビアとの両国関係が首脳レベルで再開したということである。注目のエネルギー価格を抑制するためのサウジによる原油増産については、明確な数値や方向性は示されなかった。しかし、サウジ側は、エネルギー市場にかかる問題、すなわち、原油の生産等について、米国と協議する場を設けることで合意した。サウジがOPECプラスの枠内で、2020年5月以来開始した減産調整(当初970万b/dの減産でスタートし、毎月減産幅を縮小)は、2022年8月でいったん終了する。サウジは、ロシアとの間の合意を維持してきたことになる。しかし、その後サウジが原油生産の方向性をどのように判断するのかが注目されている。サウジは、ロシアとも米国とも協議を行うことで、どちらか一方に加担しないような姿勢を貫くのではないかと思われる。サウジの原油生産は、現在1200万b/dで、増産余力は100万b/dとみられている。安易に米国の増産要請を受け入れて、原油価格の下落を招くと、サウジは財政収入の悪化に陥ることになる。ロシアは、依然、中国やインドへの原油輸出が継続しているといわれる一方で、ウクライナ危機開始後の原油輸出のピークより30%程度両国への輸出量が落ち込んでいるといわれる。ロシアが欧米の制裁に耐えていられるのも、原油価格の高騰が維持されているためであり、原油価格の下落は、プーチン大統領のウクライナ対応ならびに政権維持にも大きなリスクとなる。MBS皇太子は、サウジの財政もさることながら、このようなロシアを取り巻く状況も十分認識しており、プーチンを追い詰めすぎないよう配慮していると思われる。さらに、MBS皇太子にとって、米国の本年11月の中間選挙が迫る中、バイデン政権を応援するような形で、増産に踏み切ると、これまでMBSと蜜月関係にあったトランプ前共和党政権支持者から反発を受ける可能性もある。MBSは、これらの状況を踏まえて、原油政策については、当面バイデン、プーチンのどちらか一方にのめり込むような立場をとることはないとみられる。
(概要)
両国は、80年前にアブドルアジーズ・アルサウード国王とフランクリンD.ルーズベルト大統領との会談で確認された戦略的パートナーシップを強化し続けることの重要性を強調した。
@ 米国は、持続的な経済成長と世界の石油市場の安定のバランスをとるというサウジアラビアのコミットメントを歓迎。 双方は、短期的および長期的に世界のエネルギー市場について定期的に協議することを決定。

A 米国は、サウジアラビアのグリーンイニシアチブと中東のグリーンイニシアチブを賞賛

B クリーンエネルギーへの移行と気候変動への取り組みへの投資推進
C サウジアラビアの安全保障

D イランの核開発、テロ活動阻止

E 国際水路における船舶の安全航行の維持

F 5G/6GオープンRAN(注:無線基地局の仕様をオープンかつ標準化することにより、さまざまな販売業者の機器やシステムとの相互接続を可能とする 仕組み)協力

G サイバーセキュリティ協力
H 宇宙:サウジアラビア王国がアルテミス合意(月や火星などの宇宙探査や宇宙利用に関する基本原則を定めた国際的な合意。2020年に当初8か国が署名)に署名したことを歓迎
I ティーラーン島開発

J 民間航空機のサウジ領空通過承認

K ビジョン2030

L 地域協力

https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/07/15/the-jeddah-communique-a-joint-statement-between-the-united-states-of-america-and-the-kingdom-of-saudi-arabia/
(コメント)今回のバイデン大統領のサウジ訪問の成果は、なんといっても、2018年10月2日のイスタンブールのサウジ領事館で発生した著名なサウジ人ジャーナリストでワシントンポストのコラムニストでもあったジャマール・カショギ氏のサウジ政府派遣グループによる殺害をうけて、冷え切っていたバイデン大統領の下での米国とサウジアラビアとの両国関係が首脳レベルで再開したということである。注目のエネルギー価格を抑制するためのサウジによる原油増産については、明確な数値や方向性は示されなかった。しかし、サウジ側は、エネルギー市場にかかる問題、すなわち、原油の生産等について、米国と協議する場を設けることで合意した。サウジがOPECプラスの枠内で、2020年5月以来開始した減産調整(当初970万b/dの減産でスタートし、毎月減産幅を縮小)は、2022年8月でいったん終了する。サウジは、ロシアとの間の合意を維持してきたことになる。しかし、その後サウジが原油生産の方向性をどのように判断するのかが注目されている。サウジは、ロシアとも米国とも協議を行うことで、どちらか一方に加担しないような姿勢を貫くのではないかと思われる。サウジの原油生産は、現在1200万b/dで、増産余力は100万b/dとみられている。安易に米国の増産要請を受け入れて、原油価格の下落を招くと、サウジは財政収入の悪化に陥ることになる。ロシアは、依然、中国やインドへの原油輸出が継続しているといわれる一方で、ウクライナ危機開始後の原油輸出のピークより30%程度両国への輸出量が落ち込んでいるといわれる。ロシアが欧米の制裁に耐えていられるのも、原油価格の高騰が維持されているためであり、原油価格の下落は、プーチン大統領のウクライナ対応ならびに政権維持にも大きなリスクとなる。MBS皇太子は、サウジの財政もさることながら、このようなロシアを取り巻く状況も十分認識しており、プーチンを追い詰めすぎないよう配慮していると思われる。さらに、MBS皇太子にとって、米国の本年11月の中間選挙が迫る中、バイデン政権を応援するような形で、増産に踏み切ると、これまでMBSと蜜月関係にあったトランプ前共和党政権支持者から反発を受ける可能性もある。MBSは、これらの状況を踏まえて、原油政策については、当面バイデン、プーチンのどちらか一方にのめり込むような立場をとることはないとみられる。
Posted by 八木 at 10:16 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)