7月19日、イランの
イスラム革命防衛隊(IRGC)海上部隊は、英国のタンカー2隻を拿捕。うち
1隻はまもなく解放したものの、ペルシャ湾ホルムズ海峡での船舶の航行を巡って
更なる緊張が高まっている。
1. 英国タンカー2隻の拿捕に関する事実関係
●IRGCはホルムズ海峡で英国の石油タンカー
Stena Imperoを拿捕した。英当局は、このStena Bulkが所有する3万トンのタンカーStena Imperoはサウジアラビアのアルジュベイル港に向かうはずであったが、国際的なシーレーンを離れてイランのQeshm島に向かって北上したことが、海上交通追跡データで確認されている。
●イランの軍事筋は国営メディアに対して、英国のタンカーが拿捕された理由は、ホルムズ海峡の
海上ルートを守らず、自動識別システム(AIS)をオフにし、国際水域を汚染し、イランの警告無視したためであると語った。
●英国当局は、同船が国際海域を航行してホルムズ海峡を通過中に、正体不明の小型船とヘリコプターの接近を受け、北のイラン側に向かった
乗組員23名の船舶に連絡することは不可能であり、現在、事案を評価しているところである、と述べた。
●別のタンカーであるリベリアの旗を掲げた
メスダール号は19日夜突然コースを変え、船は英国企業が所有し、サウジアラビアのラス・タヌーラ(Ras Tanura)に向かう予定であった。そのタンカーは
その日の後半に解放され、追跡データは船が19日遅くにイランから西へ向かって航行を開始したことを確認。イランのTasnim通信社は、当該船舶が
安全性と環境問題について当局から警告を受けた後、進路の航行継続を許可されたと報じた。船舶所有会社は、船舶との交信が再開され、船長は武装した警護員が退去し、船舶は自由に航海を続けることができることを確認。すべての乗組員の状態は、安全で順調である、と声明の中で明らかにした。
(参考)大型タンカー「メスダール」:英国グラスゴーのNew Ocean Shipping Venture Ltdが所有。グラスゴーのNorbulk Shipping UK Ltdが運航。
2.英国政府の反応
英国のジェレミー・ハント外相は、イランにペルシャ湾で2隻の艦船が拿捕された結果について警告を発した。そのうち1隻は解放された。外相は、
英国の対応は「断固たるもの」であるが、英国は
外交を通じて危機を解決することを望んでおり、
軍事的選択肢は考えていないと付言。ハント外相は、すでにマイク・ポンペイオ米国務長官とこの件について話し合っており、イラン人のカウンターパートであるザリーフ外相とも話をする予定であると述べた。同相は、
拿捕は断じて容認できない、と非難し、
航行の自由が制限されれば、イランが「最大の敗者」になるだろうと言明。ハント外相によれば、どちらの船の乗組員にも英国人はいないものの、駐イラン英国大使がすでに状況の解決に向けイランの外務省と連絡を取り始めていると付言。
(コメント)
米政府は19日、ワシントンの国務省に日本を含む各国代表を招き、中東のホルムズ海峡等で船舶航行の安全を目的とする
有志連合構想を説明した。会合には
60カ国以上が招待され、非公開で行われた。日本は市川在米大使館公使が出席した。25日、中東を管轄する米中央軍の司令部がある
フロリダ州タンパで追加会合を開き、詳細を協議する模様。
米中央軍は19日の声明(下記参考参照)で、有志連合構想に関し、航行の自由を保全するために中東の主要航路の監視を強化する
「センチネルSentinel(番人)作戦」を進めていると表明。「ペルシャ湾出口のホルムズ海峡、紅海出口のバーブ・アル・マンデブ海峡、オマーン湾を通る国際水路における海上航行の安全、無害航行の確保を目指すとしている。
19日のタンカーStena Impero拿捕については、イラン側は、
タンカーが漁船と衝突し、イラン側からタンカー側に通信しようと試みたが、返答がなく、当局の要請でIRGC海上部隊がイランの港に曳航したとされる。乗組員23名のうち、18名はインド人の趣き。
次のタイムラインでもわかるように、今回のイラン側の拿捕は、ジブラルタル当局がイラン・タンカーの
30日の追加拘束を決定したことに対するメッセージであった可能性が強い。おりから米国務省で、ペルシャ湾の安全航行等に関する有志連合構想の説明会が行われており、米国は、
今回の事件も利用して、「番人」作戦立ち上げと、国際的な連合形成を働きかけていくものとみられる。安全航行枠組みに参加する国々は、米中央軍の声明にもあるとおり、ペルシャ湾等を通過する船舶に護衛船をつけるほか、実施体制維持のための応分の貢献、負担を求められることになり、ペルシャ湾を通じた海上輸送のコストは跳ね上がることになる。
(タイムライン)
5月12日 フジャイラ沖で、サウジタンカー2隻、ノールウェー・タンカー1隻、UAE船舶1隻爆発物によるとみられる損傷発生
6月13日 ホルムズ海峡近郊のオマーン湾で日本所有を含むタンカー2隻が爆発物によるとみられる損傷発生。
7月04日 英領ジブラルタル当局は、英国海兵隊部隊により、イラン・大型タンカー「グレース1」をシリア向け石油輸送の疑いで拿捕。
7月14日 IRGC海上部隊がUAEをベースとする小型タンカー「Riah」を燃料密輸の疑いで拿捕。
7月19日 英領ジブラルタルの裁判所は、4日に拿捕したイラン・タンカーの拘束期間を30日延長することを決定。
7月19日 IRGCは英国のタンカー2隻を、海上航行ルール違反、自動識別システム(AIS)をオフにし、追跡を妨げたこと、国際水域の汚染、イラン側パトロールの警告無視の疑いで拿捕。うち、1隻については、同日中に解放。
(参考)米中央軍声明(2019年7月19日)
●米国中央司令部は、アラビア湾岸地域での最近の出来事に照らして航行の自由を確保するために中東の主要水路の監視と安全性を高めるために
多国籍海上「番人(Sentinel)」作戦を展開している。番人作戦の目標は、アラビア湾、ホルムズ海峡、バーブ・エル・マンデブ海峡、オマーン湾の至るまで、海上航行の安定を促進し、安全な通過を確保し、緊張を緩和させることである。
●この海上安全保障の枠組みにより、各国は、調整および海上交通領域の自覚と監視の強化のために参加国の協力を利用しながら、
自国の旗艦船舶に護衛を提供することが可能になる。
●米国はこのイニシアチブを支援することを約束したが、成功するためには
地域および国際的なパートナーからの貢献とリーダーシップが必要とされる。
米当局は、欧州、アジア、中東の同盟国およびパートナーと、「番人」作戦に必要な詳細および機能について調整を続け、この海域での航行の自由を可能にし、重要な輸送レーンを保護する。
https://www.centcom.mil/MEDIA/STATEMENTS/Statements-View/Article/1911282/us-central-command-statement-on-operation-sentinel/