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社会デザイン学会で承認された中東イスラム世界社会統合研究会が運営する団体ブログです。
中東イスラム世界社会統合研究会公式サイト http://meis.or.jp
社会デザイン学会研究会案内 http://www.socialdesign-academy.org/study/study_application.htm
日本とイスラム世界とのネットワーク強化を目的として、以下の項目で記事を発信していきたいと考えています。
日本とイスラム世界との出会い:日本人や日本がどのようなきっかけでイスラム世界への扉を開いていったかを紹介します。
イスラム世界で今注目されている人物:イスラム教徒であるか否かを問わず、イスラム世界で注目されている人物を紹介していきます。
イスラムへの偏見をなくすための特色のある活動:イスラムフォビア(Islamophobia)と呼ばれるイスラム教への偏見、イスラム教徒排斥、イスラム教徒警戒の動きが非イスラム世界で高まっています。これらの偏見や排斥をなくすための世界の各地で行われている特色のある活動を紹介していきます。
中東イスラム世界に関心を抱くあなたへの助言:さまざまな分野で中東・イスラム世界に関心を抱き、これから現実に接点を持っていこうと考えておられるあなたへのアドバイスを掲載します。

情報共有:当研究会のテーマに関連したイベント、活動、寄稿などの情報を提供しています。

新着情報:中東イスラム世界社会統合研究会公式サイトの「中東イスラム世界への扉」に、現地駐在の本田圭さんから投稿のあった2020年11月の「UAE、ある日の砂漠」と題する紀行文を掲載しました。UAEの砂漠がとても魅力的なので、ぜひ一度アクセスしてみてください。
http://meis.or.jp/products/door2me/OnceUponATimeInUAEDesert01.php




孤立感を深めるロシアのプーチン大統領[2023年08月24日(Thu)]
8月23日午後6時11分(GMT15時11分)オンライン追跡機関Flightradar24は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの創始者で代表のプリゴジン氏搭乗の自家用航空機エンブラエル・レガシー600(飛行機番号RA-02795)がレーダーから機影が消滅したことを確認した。

ソーシャルメディアに投稿されたビデオクリップには、プライベートジェットとみられる飛行機が地上に落下する様子が映っていた。

民間航空機関によれば、レガシー 600 は 2002 年に就航を開始し、2020 年に生産が終了するまで 300 機近くが生産された。その間、レガシー600が関係した事故は2006年9月29日にブラジルから米国に向かう途中で同国の国内線として運航されていたボーイング737とエンブラエル・レガシー600がブラジル内陸部で空中衝突を起こしたゴル航空1907便墜落事故(Gol Transportes Aéreos Flight 1907)1件のみとされる。その事故で、エンブラエル機は墜落を免れたが、ボーイング737型機は左翼を大きく損傷し機体制御を失ったまま空中分解して墜落、乗員乗客154名全員が死亡した。レガシー600の機体は損傷したが、パイロットは着陸し、死傷者は出なかった。

このケースはあくまで、空中衝突であり、レガシー600は技術的問題が少なかったことがわかる。プリゴジン氏一行は当然、搭乗前に、綿密に機体チェックを行っていたと考えられ、ここで浮上するのは、レガシー600が撃墜されたのではないかという疑惑である。

モスクワからサンクトペテルブルクに向かって飛行中であったレガシー600機は北西部トベリ州で墜落し、搭乗機には、プリゴジン氏に加えて、元ロシア特殊部隊オペレーターで民間軍事会社の共同創設者とされるドミトリー・ウトキン氏も搭乗し、米国がワグネル副長官とみているワレリー・チェカロフ氏も搭乗していた。他の乗客はセルゲイ・プロプースチン、エフゲニー・マカリアン、アレクサンダー・トットミン、ニコライ・マトゥエフの4名で、乗組員3名と合わせて10名が犠牲になったとみられる。

ワグネル系のSNS「グレーゾーン」は、プリゴジン「暗殺」は壊滅的な結果をもたらすだろう。命令発出者は軍の雰囲気や士気を全く理解していない。これは全ての者への教訓である。 最後まで行きつくことになるであろう、と指摘し、ロシア軍の対空防御システムが飛行機を撃墜したことを示唆した。 同報告によると、近くの住民らは墜落前に「特徴的な防空射撃が2度行われた」と聞いたという。 「これは、ビデオの1つにある上空での反転の痕跡によって確認されている」と付け加えた。 SNSテレグラムのマッシュ報道によると、地元住民は衝突前に2回大きな衝撃音を聞いたとされる。他にも、航空機搭乗前に、高級ワインを入れた箱が送られ、その中に爆薬が仕掛けられたという憶測である。バイデン大統領は、事実関係は承知していないとしていながらも、この出来事は「驚き」ではないとコメントした。すなわち、墜落を巡る状況は、プリゴジン氏とワグネルの幹部が一緒に移動する機会を狙って、政権上層部の指示で、搭乗機が撃墜された、すなわち、プリゴジン氏とその幹部が、6月の軍事クーデターの試みの代償を払って、形を整えて粛清されたとみられることである。因みに、8月18日付で、ワグネルと関係が深いとみられていた国軍副司令官で航空宇宙軍司令官のスロビキン大将が解任されている。
プリゴジン氏搭乗機が墜落した8月23日には、クリミア半島西側の村に設置されていたロシア軍が誇るS-400対空防衛システムが、同日午前10時にウクライナ軍によって破壊炎上する画像も広く流された。クリミア半島はもはや安全ではなく、戦場になるというメッセージである。8月23日、ブリンケン国務長官は、ビデオメッセージで、「クリミアは、ウクライナの領土であり、米国はロシアの違法な併合を認めず、クリミアを含む全ての領土への支配回復を支援する」と述べた。

ウクライナ戦線には、米国製戦闘機F-16の投入も決定しており、米国の外交トップがクリミア半島も戦場となるお墨付きを与えたことで、プーチン大統領は、今後の戦場での被害拡大に備える必要が出てくる一方で、かつての強力な友軍を「おそらく」自らの手で粛清するという事態に陥り、内憂外患の様相を呈しはじめている。プーチン大統領の権威失墜を象徴するかのように、8月20日、ロシアの月への無人探査機スプートニクは月面に衝突しミッションは失敗したが、インドの無人探査機「チャンドラヤーン3号」は8月23日、月の南極地点への着陸に成功し、モディ首相の威信を高めた。8月22日、ヨハネスブルグで開始されたBRICSサミットでビデオメッセージを送ったプーチン大統領は、事前に録画したが映像を送り、17分のスピーチは、生の声ではなく、吹き替えであったとされる。クレムリンのウェブサイトからは、生の声が聴けるものの、何回もせき込む様子が確認され、非常に不安定な精神状態・健康状態にあったのではないかと想像される。

ただ、ロシアのトップが孤立感を深めることが世界の安全につながるかといえば、おそらくそうではなく、緊急事態を避けるためのプーチン大統領と直接話し合える外国の指導者の存在はますます重要になってきている。
https://www.rt.com/russia/581735-prigozhin-plane-crash-facts/
https://www.trtworld.com/europe/russias-prigozhin-is-dead-in-plane-crash-wagner-group-confirms-14624886
https://www.newsweek.com/video-huge-explosion-crimea-ukraine-targets-russia-missiles-1821837

Posted by 八木 at 12:41 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

本日開催のBRICS首脳会議での議論の注目点 [2023年08月22日(Tue)]
世界の目は今、南アフリカの首都ヨハネスブルグに向けられている。第15回BRICS首脳会議は8月22日から24日まで同地で開催される。BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字である。正式メンバー5か国の首脳のうち、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が発出されているロシアのプーチン大統領を除いて、4か国首脳は対面で参加し、ロシアはラブロフ外相を派遣し、プーチン大統領はオンラインで参加が予定されている。南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領から69カ国の首脳がサミットに招待されており、イランのライシ大統領は既に南アに向け出発したとされる。

BRICSには、40カ国以上が加盟に関心を示し、うち、23カ国が正式に申請書を提出したとされる。23か国には、アラブ8か国アルジェリア、バーレーン、エジプト、クウェート、モロッコ、パレスチナ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)が含まれ、さらに、バングラデシュ、イラン、カザフスタン、ナイジェリア、セネガル、エチオピア、ベラルーシ、ボリビア、アルゼンチン、ベネズエラ、ベトナム、キューバ、ホンジュラス、インドネシア、タイが含まれている。サウジアラビアやUAE、イランをはじめとして、エネルギー資源国が多数含まれていることがわかる。

現在のロシアを除くBRICSメンバー国は、欧米の対ロシア制裁には参加していない。加盟を正式に申請したとされる国々にも対ロシア制裁に加わっている国は見当たらない。こうした中、南アで開催されるサミットの注目点を挙げれば次のとおり。
@メンバー国拡大の可能性右矢印1一部の国々の参加が承認されるのではないかとの観測が出ている。新たにブロックに参加する可能性が高いのは、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、アルゼンチンの3カ国との見方が出ている。
ABRICS新通貨発行右矢印1ブロック内では、ロシアが欧米の金融制裁を受けている関係で、石油やガス取引をドルやユーロでなく自国通貨で行うケースが増えているとされる。米国がドルを金融制裁の武器として使用していることから、ロシアだけでなく、メンバー国外のイランやベネズエラなど制裁下にある国々も、拡大BRICSで使用できる通貨ができれば、より貿易の幅が広がると期待している。
BBRICS新開発銀行右矢印1BRICS加盟国は、欧米が事実上支配する世銀やIMFではなく、BRICSとして独自に開発銀行を立ち上げ、途上国、新興国を積極的に支援していく必要性を認識し始めている。但し、それには、資金力が必要であり、そのためにも、サウジやUAEといった主要な産油国をBRICSのメンバーとして受け入れるのではないかとの観測が出ている。

(解説)国際社会において、いわゆるグローバル・サウスの存在感が増している。5月のG7広島サミットでも、招待国として、オーストラリア、ブラジル、コモロ〔アフリカ連合(AU)議長国〕、クック諸島〔[太平洋諸島フォーラム(PIF)議長国〕、インド(G20議長国)、インドネシア(ASEAN議長国)、韓国、ベトナムが参加し、グローバル・サウスをG7陣営に如何に取り込むかが重要なアプローチのひとつであった。2023年5月に開催された上海協力機構(SCO)外相会談の最重要議題の一つは、加盟国間取引の脱ドル化であった。インドとロシアはすでに貿易関係において自国の通貨を使用し始めている。 ウクライナ危機を受けた西側の対ロシア制裁をうけて、ロシア政府は米ドルとユーロへの依存を減らすために貿易決済に各国通貨を利用することに熱心である。 国際システムにおける脱ドル化プロセスの加速については、中国も貿易における自国通貨「元」の使用を働きかけている。 SCO での議論には、自国通貨の使用を拡大したいという地域大国の意図も反映されていた。2023年7月4日、オンライン形式で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議には、ロシア同様米国の金融制裁を科されているイランが9番目のメンバー国として正式に承認された。首脳会議で発出されたニューデリー宣言には、「加盟国は、関心のある加盟国間で自国通貨による貿易決済の比率の段階的な拡大に向けたロードマップの実施に賛成した。」と記載されている。ロシアのウクライナ侵攻開始後、ロシアの値引きされた原油のインドへの輸出量が大幅に拡大しているものの、ロシアは、インド・ルピーを手に入れても、それで購入できる産品は限られており、BRICS共通通貨のようなより使い勝手のよい、使用範囲が限定されない通貨に関心を有していると思われ、一方、中国は、「元」取引が拡大する中で、BRICS共通通貨にこだわる理由は少ないと思われる。但し、BRICS各国ならびに加盟に関心を持つ国々の中では、取引の脱ドル化の方向性を支持する国が多いと思われ、その点でも、BRICS拡大会合の議論が注目される。さらに、BRICSにサウジアラビアやUAEあるいはG20のメンバー国であるアルゼンチンを正式メンバーあるいは準メンバーに迎入れるのか否かも注目される。SCOもBRICSも他の枠組みと対立あるいは競合するものではないとの建前ではあるものの、欧米主導の国際枠組みへの挑戦であることは疑いなく、欧米は、BRICS内でも特に関係が良好なインドなどと密接に連絡を取り合い、BRICSが中国やロシアの意向を反映しすぎないよう牽制するものとみられる。
https://watcher.guru/news/8-arab-countries-request-to-join-brics-alliance#google_vignette
https://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/brics-economies-catching-up-with-combined-gdp-of-g7-countries-piyush-goyal/articleshow/102917384.cms?from=mdr
https://newseu.cgtn.com/news/2023-08-20/2023-BRICS-Summit-The-Agenda-1mnl4xlQb8k/index.html

Posted by 八木 at 11:51 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

サウジアラビアのサッカー・クラブへの大物スター選手移籍の背景 [2023年08月16日(Wed)]
2023年8月15日、サウジアラビアのサッカー1部リーグのアル・ヒラールは2025年までに2年契約でパリ・サンジェルマン(PSG)からブラジル代表FWネイマール(現在31歳)を獲得したことを発表した。

サウジアラビアとアジアで最も成功したクラブのひとつであるアル・ヒラールは66のトロフィーを獲得し、リーグ優勝18回、アジアチャンピオンズリーグ優勝4回の記録を保持している。サウジの政府系ファンドである公的投資基金(PIF)は、2023年6月にリーグチャンピオンのアル・イティハド、アル・アハリー、アル・ナスル、アル・ヒラールが関与するスポーツクラブへの投資・民営化計画を発表して以来、リヤドに本拠を置くサッカー・クラブにとってチーム戦力の強化は優先事項となっている。サウジプロリーグのシーズンは、5億ドル近くを費やして欧州のチームから多くの有力選手やコーチを招聘し、11日に開幕した。

ポルトガル代表フォワードのクリスティアーノ・ロナウドは昨シーズン、カタール・ワールドカップ直後にアル・ナスルに加入し、一方アル・イティハドはレアル・マドリードから仏人ストライカーのカリム・ベンゼマと契約した。欧州サッカー連盟(UEFA)チャンピオンズリーグ優勝者のリヤド・マフレズ、エドゥアール・メンディ、ロベルト・フィルミーノがアル・アハリーと契約した。

ネイマールは2017年、世界最高額となる2億2200万ユーロでバルセロナからカタールの政府系ファンドが所有するパリ・サンジェルマン(PSG)へと加入。通算173試合で118ゴールを記録し、5度のリーグ優勝などのタイトル獲得に貢献してきた。しかし先般、ルイス・エンリケ新監督から戦力外通知を受けたとされる。移籍金額は、公式には発表されていないものの、3億ドルが保証されているとされる。

なお、サウジの有力選手獲得は失敗した事例もあり、バルセロナとPSGでネイマールの長年のチームメイトであるアルゼンチン代表のメッシは、アル・ヒラールを訪問し、サウジアラビア訪問でPSGから出場停止処分を受けた後、一説によれば3億ドルのサウジプロリーグとの大型契約を回避し、本年6月に米国のデビッド・ベッカム率いるMLSクラブのインテル・マイアミへの加入を決めた。アル・ヒラールはエムバペにも史上最高額の7億7,500万ドルの1年契約を提示したが、獲得を逃したとされる。

(解説)サウジの実質的指導者ムハンマド・ビン・サルマン(通称MBS)皇太子が2016年に立ち上げた国家開発計画「ビジョン2030」((計画発表当時は副皇太子)に向け、サウジアラビアは、経済・財政の脱石油、経済構造の多角化・多様化を推進し、若者や女性に雇用や娯楽を提供し、政権への長期にわたる国民の支持を得ようとしている。そのなかで、スポーツも国民の支持と世界の注目を集めるうえでの重要なツールとなっている。サウジアラビアは、2030年の「ビジョン2030」達成の記念行事をいくつも考えていると思われ、例えば、2029年に砂漠の国サウジで、人工雪を降らせて、アジア冬季スポーツ大会をメガプロジェクトNEOM(新未来の意味)領域内トロイェナで開催ホストすることが既に決まっている。そして、2030年にはFIFAワールドカップのホスト国のひとつになることも狙っている。2022年11月、MBS皇太子は、訪日の観測もあった中で、カタールでのFIFAワールドカップ・ドーハ大会の開幕式に駆け付け、インファンティーノFIFA会長と親しく懇談した。サウジは、2021年英国内でも反対意見が強かったサッカーのイングランド・プレミアリーグに所属するニューカッスル・ユナイテッドの買収を完了した。買収額は3億500万ポンドとされる。これらの関連資金拠出は、サウジの石油売却資金がベースとなる公的投資基金PIFのファンドから実施されている。サウジの財政均衡石油価格は、IMFの2023年の予測で80.9ドルと推測されている。すなわち、サウジのスポーツ分野を含む巨大プロジェクトを動かしていくには、バレル80ドル以上の石油価格を維持する必要があり、そのため、様々な欧米首脳からのアプローチにかかわらず、サウジはOPECプラスの枠内で、減産調整を維持し、石油価格の維持に努めている。
https://jp.reuters.com/article/soccer-saudi-alh-neymar-idCAKBN2ZQ1E1
https://www.forbes.com/sites/brianbushard/2023/08/15/neymar-joins-saudi-club-al-hilal-with-record-300-million-contract-report-says/?sh=715c2a051575

Posted by 八木 at 10:50 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

トルコによるシリア難民の本国帰還促進と非正規移民通過阻止[2023年08月15日(Tue)]
2023年5月の大統領選挙での争点のひとつは、トルコが難民条約の枠内ではなく、「一時保護」の対象者として受け入れてきたシリア難民の本国帰還問題であった。野党候補のクルチダルオール氏は、2年以内のシリア人の本国帰還を公約に掲げていた。3百数十万人のシリア人を受け入れてきたエルドアン大統領も、トルコ国民の支持を得るため、シリア人の本国帰還に言及せざるを得ない立場にあった。選挙から2か月以上が過ぎ、エルドアン政権は、この問題でどのような取り組みを始めているのか、さらに欧州を目指すイラクやイラン、アフガニスタン人、パキスタン人等のトルコ通過をどのように阻止しようとしているのかをトルコの政権に近いデイリーサバーハ紙が次のとおり伝えている。
1. トルコによるシリア難民本国帰還促進への取り組み
●トルコのサバーハ紙によると、トルコ政府はシリア難民の祖国への送還を促進するための「アレッポモデル」実施と、不法移民のトルコ通過を阻止し、出身国に帰還させるための包括的な計画の立ち上げに向けて準備を進めている。国内の難民や不法移民に関するあらゆる問題を解消する計画の一環としてエルドアン大統領率いる与党公正発展党(AKP)と同党運営委員会、内務省は迅速な行動と法的措置を講じるための三者機構を結成した。
●トルコには、2011年にシリア内戦が勃発した際、自国の迫害や残虐行為から逃れてきた最大約370万人のシリア人が住んできた(本年4月の統計では約341万人)。シリア内戦の 10年間の戦闘で少なくとも50万人のシリア人が死亡し、1,400万人以上が人道支援を必要としているとされる。シリア北部では、トルコ政府は反政府勢力が政権軍に対する停戦・緊張緩和を維持するのを支援する一方、トルコのクルド人武装勢力掃討作戦である2016年8月の「ユーフラテスの盾」作戦、2018年1月の「オリーブの枝」作戦、2019年10月の「平和の泉」作戦が、PKKや米国が支援するPKKのシリア支部YPGなどのテロ組織から広範囲の領土を解放し、民間人の安全な再定住を可能にした。
●これまでに約55万4,000人のシリア人がトルコから新しい学校、病院、組織化された工業用地、より良いインフラが整備された(トルコ支配)地域に戻った。 トルコ南部とシリア北部で合わせて5万6000人以上の死者を出した大地震の後も、帰還者は増加した。現在、多数のシリア人が、アフリンに建てられた約10万7,000戸の仮設住宅に住んでいる。「アレッポモデル」における優先事項には、戦争で荒廃したシリア国内の住宅と失業問題の解決が含まれる。
●トルコはすでにカタールと協力し、今後3年間でイドリブとアフリン地域に設備の整った約24万戸の住宅建設の取り組みを開始している。 共同の「自主的、安全、名誉ある帰還プロジェクト」は、トルコ国境のすぐ南にあるアレッポ県に属する都市ジャラブルスで2023年5月に着工した。
●当局によると、このプロジェクトには住宅に加え、農地、商業施設、生産・工業地域、教育から医療に至るあらゆる社会設備が含まれる。シリアと国境を接するトルコ南部の県の雇用主もまた、商業活動を活性化させ、地域住民の雇用を創出するために、安全地帯から始めて隣国で事業を始めることに熱心である。
●主な焦点はアレッポでのモデルの実施であり、トルコ政府は現在、このモデルに向けてダマスカスおよびモスクワの政権と協議している。一方、トルコ当局者は以前、国境地域だけでなくシリア全土への組織的な帰還プロセスがすでにシリアとの協議の一部となっていると伝えている。 ロシアはイランとともに、アサド政権を軍事的に支援することでシリア危機に加担してきたが、両国は近年、トルコ政府とアサド政権との関係改善を助けることにも取り組んでいる
シリアやロシアとの今後の協議は、シリア人の帰還を確実にする可能性があるアレッポを中心に据え、社会経済生活を復興させることに焦点を当てることになる。国連のシリア特使は5月、庇護を求めてきた一部のシリア人はヨルダン、レバノン、イラク、エジプトなどでの雇用機会の不足や安全などの理由から、来年中に帰国するつもりだと述べた。
●エルドアン大統領は、トルコ政府が「強制的に」シリア人を送還することはできないとし、送還努力に「人道的、良心的、イスラム的」な側面を取り入れることの重要性をしばしば強調している。
2.非正規移民対策
●アレッポモデルへの取り組みと同時に、政府は非正規移民に対する措置を講じる予定である。 トルコ政府は、近年不法入国者の流入が急増しているパキスタンやアフガニスタンなどとの関係に注力している。 トルコ当局は非正規移民を自国に強制送還する一方で、(移民出身国の)受け入れを支援するために国営航空を利用している。
●もう一つの措置は、90日間のビザを持ってトルコに到着し、その後延長を希望する訪問者に対するEUの例に従うことになる。 これらの人々は、銀行口座や収入情報のほか、権利書や健康保険などの書類の提供を求められる。 かかる書類が提出されない場合、申請者にはビザや滞在許可が与えられない
●一方、トルコの労働社会保障省は不法労働者の雇用を取り締まる予定。 また、外国人労働者向けのロードマップも発表する予定で、それによると、外国人を雇用する企業は研修を受け、規制を想起し、どのような条件で外国人を雇用できるかを教える必要がある。
合計489万3,752人の外国人が暮らすトルコでは、2022年には移住民が大幅に減少したことが7月のトルコ統計局の年次移民報告書で明らかになった。流入移住民の数は前年比33.2%減の49万4,052人で、移住民の多くはロシア人であり、トルコに到着する移住民数や移住民の国籍に大きな変化が見られた。トルコ政府は「国際的不正義」が不規則移民の主な原因であるとみなしている。 トルコ当局者らは、不法移民の出身国の条件改善が必要であるとともに、摘発された不法移民に対する国際基準に沿った自主帰国の必要性があると述べている。
●トルコは、この問題への対処は国際協力が必要であると考えており、協力を確実にするために二国間、地域的、国際的なグループを設立するよう努めている。このため7月には、20以上の国や国際機関と連携し、不法移民や人身売買を防止し取り組むための「ローマ・プロセス」を立ち上げた。8月初旬、トルコは英国と協力して、欧州に向かう途中で自国の領土を通過する不法移民の流れを阻止することで合意した。 トルコと英国の警察で構成される新たな作戦センターは、人身売買グループの阻止と解体、小型ボートの横断を可能にする資材の製造と供給のため、税関データ、情報と諜報、人材と技術の共有で協力する。
https://www.dailysabah.com/politics/turkiye-eyes-new-model-for-safe-return-of-syrians/news
(参考1)「ローマ・プロセス」とは
●欧州への非正規移民流入阻止に向けての協力・連携を深めるための会合で、2023年7月23日、イタリアがホストし、アルジェリア、バーレーン、エジプト、エチオピア、ギリシャ、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、マルタ、モーリタニア、モロッコ、ニジェール、カタール、オマーン、サウジアラビア、スペイン、チュニジア、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、キプロス政府はプロセスと共同行動について合意した。
(参考2)トルコへの流入・流出移住民数
●トルコ統計局のデータによると、2022年流入移住民の数は前年比33.2%減の49万4,052人で、そのうち52.9%が男性、47.1%が女性だった。2022年の流入移住民人口を国籍別にみると、94,409人がトルコ人、399,643人が外国人であった。最も注目すべきは、外国人移住人口のうち、ロシア人が25%を占め第1位となったことで、ウクライナ人は8.1%で続き、次いでイランが6.5%、アフガニスタンが5.4%、イラクが4.8%となった。一方2022年のトルコからの流出移住民人口は46万6,914人で、2021年と比べて62.3%増加した。このうち13万9,531人がトルコ人、32万7,383人が外国人だった。外国人流出移住民人口ではイラク人が20%で第1位となった。次いでイラン人が10.6%、ウズベキスタン人が7%、アフガニスタン人が6%、トルクメニスタン人が4.8%と続いた。

(解説)これまでに約55万4,000人のシリア人がトルコから新しい学校、病院、組織化された工業用地、より良いインフラが整備された(トルコ支配)地域に戻ったとされる。トルコが掲げる「アレッポモデル」構想はシリア人の帰還をさらに促進するための計画である。この計画は、急に持ち上がったものではない。エルドアン・トルコ大統領は、クルド人武装勢力駆逐のために実施した「平和の泉」作戦直後の2019年10月30日、トルコはトルコ国境南方のシリア領内のタル・アブヤドとラスアルアインの間のいわゆる「安全地帯」に総額1,510億リラ(260億ドル)の予算で「(シリア)難民の町」を建設する計画を立てたと述べた。同年10月31日大統領は、来訪したグテーレス国連事務総長と会談し、地域でのシリア難民の再定住のためのアンカラの計画に資金を提供するためにドナー会議開催を要請した。エルドアン大統領は、トルコが引き受けている当時350万人規模のシリア難民のうち、100万人ないし200万人を「安全地帯」に移動させ、シリア難民の町を建設する計画を有していることを明らかにしていた。2022年5月2日、エルドアン大統領は、トルコが影響力を有するシリア北西部の反体制派の拠点イドリブに住宅10万戸、モスク、学校、保健センターなどを建設し、シリア難民を百万人単位で、自主的に帰還させると宣言。しかし、1週間後、エルドアン大統領は「強制帰還」を否定した。今回のトルコ紙報道で、トルコは、アサド政権と距離を置くカタールと協力してイドリブとアフリンに24万戸の住宅建設を進めていることが明らかになった。アサド支配地区でも、シリア人の帰還を巡って、アサド政権ならびに後ろ盾のロシアとトルコは、帰還問題を話し合っていることが示されている。更に、トルコは、2023年8月のトルコ国内での非正規移民監視センターの設置支援に関する英・トルコ合意や、イタリアがホストした本年7月の「ローマ・プロセス」会合出席で示されたとおり、シリア難民の本国帰還だけでなく、トルコを経由して、欧州に向かうシリア人以外の非正規移民の流れも阻止しようとしていることがわかる。
https://www.gov.uk/government/publications/uk-turkey-joint-statement-on-illegal-migration/uk-turkey-joint-statement-on-illegal-migration

Posted by 八木 at 13:43 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

米・イラン収監者交換とイラン凍結資金解放合意[2023年08月11日(Fri)]
イランが最重要事項として取り組んでいる諸外国によるイランの凍結資金の解放に向け、各種報道ならびに米国務長官のコメント等から進展があったとみられる。

1.8月10日ニューヨーク・タイムズが報じたところによれば、米・イラン両政府は、米国で収監されているイラン人数人と引き換えに、イランで収監されている米国人5人(イランとの二重国籍者)の解放と、最終的に韓国の銀行で凍結されているイランの石油販売代金約60億ドルへのアクセスを認めることで合意に達した。イランはイラン系米国人の二重国籍者5人を軟禁状態で刑務所から釈放した。悪名高きイランのエヴィン刑務所から解放されたのは、シアマック・ナマジ氏、エマド・シャルギ氏、モラド・タフバズ氏で、いずれも根拠が不明確なスパイ容疑で投獄されてきた。名前を公表していない他の2人のうち1人は科学者、もう1人は実業家とされる。うち一人は女性で、すでに刑務所を出て軟禁状態にあったとされる。

(1)拘束されていた米国人解放に向けてのイラン・米間の秘密交渉
●米国とイランの交渉に詳しい関係者らによると、オマーン、カタール、スイスが仲介した合意はここ数カ月で具体化され、双方が数週間にわたって最終調整に取り組んできた。ホワイトハウスの中東・北アフリカ調整官ブレット・H・マクガーク氏は2023年5月初めにオマーンの当局者らと会談し、イランとの捕虜交換について協議した。オマーン滞在中、マクガーク氏はイラン当局者らとの間接協議を行い、イランがウラン燃料の濃縮を核兵器の製造に必要なレベル以下に制限し、対ロシアへの軍事援助を制限するという目標を掲げ、その見返りに、米国は国際場裡でイランに対する制裁を強化したり、その他の特定の懲罰的措置を追求しないことを伝え働きかけを行っていたとされる。
(2)拘束されていた米国人のイラン出国に向けての行程
●米国は、韓国で凍結されてきたイランの石油販売代金である凍結資産約60億ドルをカタール中央銀行の口座に移すことを了承。 この口座はカタール政府によって管理され、イランが医薬品や食品などの人道的購入の代金を業者に支払う場合にのみこの資金にアクセスできるようになる。
@凍結資金が韓国の銀行からカタールの銀行口座に到着次第、拘束されていた米国人はイランからの出国を許可されるが、イランに帰属する多額の資金を移動させるために必要な許可や制裁免除の事務手続きが複雑なため、手続きには4〜6週間かかると予想されている。
Aカタールが合意の仲介で中心的な役割を果たしたことから、イランで拘束されてきた5名の米国人は政府専用機でカタールの首都ドーハに搬送される見通し。
B米国で拘束されているイラン人数名も交換のためにドーハへ出国することができる。 しかし、多くの人が家族とともに米国に住んでおり、彼らがそれを望むかどうかは不明。
https://www.nytimes.com/2023/08/10/us/politics/iran-us-prisoner-swap.html?campaign_id=190&emc=edit_ufn_20230810&instance_id=99750&nl=from-the-times
2.今回の合意に関するブリンケン国務長官のコメント(2023年8月10日 於:ワシントンD.C.)
●イランで不当に拘束されている5人の米国人に関しては、まず彼らが刑務所から釈放されて自宅軟禁に移されたことは前向きな一歩だ。 しかし、これは彼らの米国への帰国につながることを私は期待し、期待するプロセスの始まりにすぎない。 私が何度も言っているのを聞いたことがあると思うが、私にとって世界中でイランを含む多くの国で不当に拘束されている米国人の安全、安寧に配慮し、特に負傷者を帰国させるためにできる限りのことを行う以上の優先事項はない。
●この5人の米国人については、彼らの刑務所への拘留は現政権よりも前から行われており、長期にわたって続いている。 一人はイランで8年間不法投獄されている。 したがって、今回の動きは前向きな一歩である。 しかし、私は結論を先取りしたくない。なぜなら、彼らを実際に帰国させるためには、やるべきことがまだあるからである。 私の信念は、これは彼らの悪夢と彼らの家族が経験した悪夢の終わりの始まりであるということである。 このプロセスの完了と同胞の帰国を危険にさらしたくないので、我々が何をしているのか、あるいは取り組んでいるのかについては、詳細には立ち入るつもりはない。
●いくつかのことをはっきりさせておきたい。今回の対応のすべてにおいて、イランはいかなる制裁緩和も受けることはない。 我々が米国人をイランから帰国させるための取り組みを行う場合、イラン自身の資金が使用され、制限された口座に送金されることになり、その資金は人道的目的にのみ使用できる。 我々が科している制裁において人道的活動に対する免除は最初から存在している。
●我々は(イランに対する)すべての制裁を引き続き実行する。 我々は、ウクライナに対する侵略戦争のためにロシアに無人機を供給するなど、地域内外におけるイランの不安定化活動に対して断固として反発し続ける。 そして、今回の努力のどれもがそれを損なうものではない。 これらは完全に別のトラックの話である。 我々は米国民を帰国させることに注力してきたが、我々や他の多くの国が強く反対しているイランの他の活動に対しては引き続き強力な行動をとっていく。
●国務省は米国人5人と連絡をとっている。 今日我々は彼らと話をした。 言うまでもなく、彼らは刑務所から出られてとても喜んでいると思うが、我々はこのプロセスを確実に完了させ、彼らを家族の元に連れ帰りたいと考えている。
https://www.state.gov/secretary-antony-j-blinken-and-mexican-foreign-secretary-alicia-barcena-at-a-joint-press-availability/
(補足)この合意の下ではイランは、食糧と医薬品、および軍事用途を持たない限定的な医療機器など人道的な商品に限ってしかドーハの銀行に発注することができず、ドーハの銀行が韓国から送金された口座の資金の中から商品の代金を支払い、カタールの企業が商品をイランに配送することになり、イランは解放される資金には直接アクセスすることはできないとされる。すなわち、イラン側には外貨はもたらされない。米国バイデン政権は、イランにさまざまな制裁を科しているが、人道目的の取引はそもそも制裁の対象になっておらず、イランは米国から見て地域の安定に害を与える活動に資金を投入することはできず、また、今回の合意の最重要な狙いは、不当に拘束されてきた米国人の解放であるとして、今回の合意を正当化している。米国内では、ペンス元副大統領はじめ共和党の有力政治家が、バイデン政権の今回の取り組みを非難している。イラン政府は、韓国からの石油販売代金の回収について、韓国側はこれまで幾度も支払う用意があるとイラン側に伝えてきたにもかかわらず、一向に約束を果たそうとはしていないとして、苛立ちを隠しておらず、凍結資金の回収を巡って、国際調停に訴える意見も出ていた。イランは、2022年3月に英国からシャー時代の戦車代金前払い金の回収に成功しており、また、本年6月にはイラク政府もイランへのエネルギー代金支払いに同意したと報じられており、凍結資金の解放に向けては、資金の用途に対する制限付きながら一歩一歩成果を積み上げている。なお、今回の米・イラン間の合意成立においても、2021年のアフガニスタンに関する米・タリバーン間の合意にカタールが貢献したこと、2015年のイラン核合意成立前の米・イラン秘密交渉にオマーンが貢献したことなど、対外的に多様なパイプを有する湾岸のアラブ国家が重要な役割を演じてきたことが伺われる。

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アサド・シリア大統領のインタビュー注目点[2023年08月10日(Thu)]
スカイニュース・アラブは、2023年8月9日、シリアのバッシャール・アサド大統領との単独インタビューの模様を放映したところ、主要点とコメント以下のとおり。
1. シリア内戦の回避
●我々がシリアに突き付けられたさまざまな課題を含むすべての要求に応じていれば、理論的には戦争は回避できたであろう。その最たるものはシリアの権利の放棄であるが、 理論的な観点から言えば、我々はこの方向には行くことはない。我々がこの方向に行くと仮定すれば、戦争は回避されるが、我々は後ではるかに高い代償を支払うことになったであろう。右矢印1アラブの春がシリアに波及し、2011年に勃発したシリア内戦は、外国勢力の要求を完全に受け入れれば回避されたが、それは国家主権放棄につながり、その選択肢はなかったとのアサド大統領の従来の立場を表明したもの。

2. 反体制派による破壊の規模
●我々は、どのような陰謀が準備されていたのか知らなかったため、これほどの破壊規模になるとは予想していなかった。 我々はシリアに対して企みが準備されていることを知っていしたし、それが一部の人が考えていたような偶発的な危機ではなく、長期にわたると分かっていたが、その詳細については、誰も予想できていなかった。「反対勢力」について、それは国内で生まれた反対勢力のことであり、対外的に作られたものであるべきではない。 地元で生まれたということは、国内に支持の基盤があり、全国的なプログラムがあり、全国的な認知度があることを意味する。右矢印1この発言は、アサド体制に反対する勢力が国内で培われて発展してきた勢力ではなく、外部の意図により、外部の支援を受けて出来たことを指摘している。
3.シリア脱出を考えたか
●大統領を辞任せよとの国内の要求はなかった。外部の干渉や外部の戦争によるものではなく、シリア国民がそれを要求したときに、大統領が辞任すること、より正確に言えばその職責を離れることは重要である。 国内的な理由により、辞任することは普通であるが、外部から仕掛けられた戦争による場合は脱出あるいは逃亡と呼ばれる。私に逃げるという選択肢はなかった右矢印1シリアにおけるアラブの春勃発で、反体制派の要求は、アサドの退陣であったが、アサド大統領は、外部の企てで仕掛けられた戦争には立ち向かうしかないとの立場を強調したもの。
4.アラブ諸国との関係修復
●予測はできないが、期待はできる。我々は(関係修復の)制度を構築できることを願っている。 問題は、アラブ陣営内で制度に基づいて関係(を修復する制度)を構築しなかったことである。二国間関係について言えば、この理由とアラブ連盟を通じた集団的関係性に留まるせいで二国間関係は脆弱である。アラブ連盟は本当の意味で制度を構築するように変わっていないからである。これこそが私たちが目指しているものであり、我々は、それを克服できることを望んでいる。右矢印1シリアは、2023年5月7日のアラブ連盟外相会議で、2011年以来12年ぶりにアラブ連盟復帰が承認された。しかし、アラブ諸国との二国間関係は、順調には発展していない
5.対イスラエル関係
●シリア領土に対するイスラエルの侵略は、シリア軍が主にイランの駐留という口実の下に標的にされており、イスラエルがシリアの敵である限りそれは続くだろう。 たとえ部分的であってもテロリスト(シリアからみた敵対勢力)の計画を阻止できる限り、(イスラエルの)攻撃は継続するだろう。なぜなら、これらの攻撃はシリア軍が従事している戦闘で勝利を収め始めたときに始まったものであり、戦争は未だ継続しており、シリア軍が戦闘を終えていないためである。 右矢印1ここ数年、イスラエル軍のシリア軍あるいは、シリアに駐留する親イラン民兵組織等への空爆やミサイル攻撃がしばしば実施されており、2023年8月7日にもゴラン高原付近からダマスカス郊外にミサイル攻撃があり、4名のシリア人兵士が死亡したと報じられている。
6.対トルコ関係
●(トルコのエルドアン大統領との会談の可能性)前提条件のない会談とは議題のないことを意味し、議題のないことは準備のないことを意味し、準備のないことは結果のないことを意味するのに、なぜエルドアンと私が会うのか。 我々は明確な目標を達成したいと考えている。 我々の目標はシリアの土地からのトルコの撤退であるが、エルドアン大統領の目標はシリアにおけるトルコの占領の存在を正当化することである。 したがって、エルドアン大統領との(前提条件のない)会談は開催できない。右矢印1トルコは、2016年8月にユーフラテス川西岸のジャラブルスに越境進軍(「ユーフラテス川の盾」作戦)し、国境地帯を実効支配したほか、2018年1月には、シリア北西部アフリン地区に進軍(「オリーブの枝」作戦)し、2019年10月には、ユーフラテス川東方のタルアブヤド・ラスアルアイン間の帯状地帯に進軍(「平和の泉」作戦)し、現在も駐留を続けている。また、トルコは、2023年4月段階で、341万人のシリア難民を「一時保護」対象者として受け入れている。シリアとトルコの外交関係は、2012年3月以降断絶しているが、2022年12月29日にはモスクワでのシリア問題に関する関係国会合の機会に、トルコ側アカル国防相(当時)、フィダンMIT長官(当時)とシリア側アリー・マハムード・アッバース国防相、アリー・マムルーク諜報部長との会談が実施されている。
https://sana.sy/en/?p=314755
https://news.sky.com/story/syrias-president-assad-would-welcome-home-refugees-12936973

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注目の日・イラン外相会談(イラン側の最大関心事は、凍結状態にあるイラン資金の解放)[2023年08月08日(Tue)]
2023年8月7日、午後3時から約90分間、林芳正外務大臣は、訪日中のホセイン・アミール・アブドラヒアン・イラン・イスラム共和国外務大臣(H.E. Dr. Hossein Amir Abdollahian, Minister of Foreign Affairs of the Islamic Republic of Iran)と外相会談を行った。この会談では、日本側から、@イランの核関連活動の拡大への深刻な懸念と、国際原子力機関(IAEA)との共同声明の完全かつ無条件の協力を含むイランの建設的な対応、Aイラン側からの軍事ドローンの提供を含むロシアへの軍事支援等の抑制を働きかけたことは間違いない。イラン側は、@については、交渉を通じたイラン核合意復活を追求しているとして、日本側の外交努力に謝意を表したものの、Aについては、イランはウクライナ戦争において、ロシアにいかなる武器、軍事用ドローンの提供も行っていないと日本側の懸念を突っぱねたとみられる。この会談におけるイラン側の最大関心事項のひとつは、イランからのエネルギー輸出に関連した日本の銀行で凍結状態にある未払い代金の回収にあるとみられる。これを裏付けるように、8月7日、ナセル・カナニ・イラン外務省報道官は、テヘランでの定例記者会見において同国は日本を含む各国で凍結資産の解除を確保するための取り組みを継続すると述べた。日本との凍結資産解放の問題は、2022年10月にニューヨークで開催された国連総会の機会をとらえた会談において、イランのエブラヒム・ライシ大統領から日本の岸田総理に提起されたとされる。カナニ報道官は、日本政府は債務を解決する用意があると繰り返し表明しており、そのために努力していると強調し、凍結資金解放問題に突破口が開かれることに期待を表明した。イラン側は、この問題をこれまでも繰り返し提起しており、たとえば、2021年8月22日、イランを訪問した茂木外務大臣(当時)は、ザリーフ外相(当時。退任するザリーフ外相にとって最後の外国要人との会談)、ライシ大統領、カラバフ国会議長と相次いで会談した。その際、イラン核合意を巡る問題や緊張状態にあったアフガン情勢のほか、日本がイランに負っている15億ドル相当(報道のまま)の債務問題が話し合われたとされる。茂木外相が表敬したライシ大統領は、日本の銀行で債務返済が滞っていることは正当化できないと強調した。カリバフ国会議長は、コロナウイルスのパンデミックとの戦いを緩和するために、日本政府がイランの資産を凍結解除するために真剣に行動することを期待していると述べていた。2021年7月13日、米国務省ブリンケン長官が、米国議会に行った通知によれば、米国務省は、韓国、日本国内の金融機関の口座で凍結されていたイランの資金を利用して、両国の輸出業者がイランに販売した制裁対象ではない商品、サービスの代金回収に凍結資金を利用することを可能にしたと発表しており、イラン側は、米政府がライシ新政権との関係改善を進める善意の証として、資産凍結解除に異議を唱えないと表明していたことを踏まえ、日本、韓国との債務問題の解消を図ろうとしたものとみられる。凍結資産の解放は、外貨不足に悩むイラン政府にとって最重要課題のひとつであり、イランは日本以外にも凍結資産の解放を働きかけてきており、一部の国々との間では、進展もみられる。
https://en.irna.ir/news/85191797/Iran-to-keep-up-work-to-secure-release-of-assets-blocked-abroad
(参考)凍結債務を抱えてきた各国の対応
(イラク)2023年6月、フアード・フセインイラク外相によれば、イラクはイランへの債務返済に際して米国の制裁を免除するとのブリンケン国務長官の言質をリヤドでの会合の機会に得たとして、イランからのガスと電気供給に対する凍結債務のうち約27.6億ドルをイランに支払うことに同意した。しかし、イラクの対イラン債務は100億ドルを超えているとの見方もあり、また、支払われる資金の用途に制限(イラン人の巡礼資金に充てられるとの見通しも出ていた)があり、送金のメカニズムも整えられていないため、この問題の全面的解決は依然見通せていない。
https://www.iranintl.com/en/202306125102?__cf_chl_tk=11ruzZrtrex6_6AcVmcR_Re.2H.6SeXm_WSm6efYUNU-1691473332-0-gaNycGzNC3s
(韓国)2021年段階で、韓国のイラン凍結資金は70億ドルとみられている。韓国は、イラン産原油の主要輸入国の一つであったが、トランプ政権が宣言した2019年5月以降のイラン産原油輸入による第三国への金融制裁を回避するため、イランに支払うべき代金を韓国の銀行内に凍結していた。2021年1月、韓国のケミカル・タンカーが、イランのIRGCに拿捕され、同年2月上旬に船員の一部は解放されたが、船と船長は解放されず、イラン韓国間の外交問題に発展していた。イランは、ケミカル・タンカーをいわば人質にとったともいえる状況にあった。しかし、同年4月に入って、イランと欧米とのイラン核合意を巡る協議再開と並行して、進展が見られた。韓国首相としては44年ぶりの丁世均(チョン・セギュン)首相(当時)のイラン訪問を直前に控え、同年4月9日、韓国外務省は、タンカー「Hankuk Chemi 」が解放されたことを確認した。当時、KBSならびにイラン国営通信などはと、韓国は、トランプ政権下で、凍結させていたイラン資産の一部を、自国内で製造しているアストラゼネカ・ワクチンのイランへの供給を通じて返済することで合意したと報じた。凍結債務の一部は支払われたとみられるが、依然、債務の大部分が残っているものとみられる。2023年5月下旬、米政府は、イランのウラン濃縮活動を抑制ならびにイランに拘束されている米・イラン二重国籍者の解放の見返りとして、韓国、イラクに凍結されている資金の一部解放を提案したとされる。さらに、6月上旬、イスラエルのハアレツ紙は、米政府は韓国とイラクとIMFが抑えている合計200億ドルの凍結資金の解放を提案とも伝えた。
https://www.iranintl.com/en/202306125102
(英国)イランは、1970年代のシャー時代に代金前払いで発注した英国製戦車1,500両の注文が1979年に起きたイラン・イスラム革命によりキャンセルされた結果、英国はイランに約4億ポンドの負債を負っていると主張してきたが、イラン側への負債の支払いを英国政府は長らく躊躇ってきた。英国政府は、オマーンの仲介もあり、2022年3月までに、債務を支払ったとされる。 2016年4月 英国とイランの二重国籍者ナザニン・ザガリ・ラトクリフが娘を連れて、英国旅券を使用し、イラン人両親の元に里帰りした際、出国時テヘラン空港でスパイ容疑で逮捕された。以後彼女は、6年にわたりイランで拘束、出国禁止措置をうけたが、英国政府のイランへの戦車代金支払いが確認された直後の2022年3月16日にイラン当局から解放されて英国に6年ぶりに帰還した。同年3月21日の記者会見で、自身は本来6年前に解放されるべきであったと語り、解放が遅れた責任の一端が、英国政府にあることを示唆した。
https://www.bbc.com/news/uk-60819018

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驚きのアルバニア当局によるイランの反体制組織ムジャヒディーン・ハルクの活動制限[2023年08月07日(Mon)]
タスニム通信ほかイラン系メディアによれば、アルバニア政府は、8月初旬アルバニアの首都ティラナ北西部郊外のアシュラフ3キャンプを拠点にイラン革命体制への反対活動を実行してきた反体制組織ムジャヒディーン・ハルク組織(MKO、あるいはMEK)のリーダーで、イラン国民抵抗評議会(NCRI)マルヤム・ラジャヴィ暫定議長の入国を禁止した。NCRIは、1981年7月29日にマスウード・ラジャヴィ(Massoud Rajavi)が設立を発表したイランのレジスタンス評議会が前身で、1993年8月、NCRIは、マスウードの妻であるマルヤム・ラジャヴィをイランの将来の大統領に選出し、以来、マルヤムは、暫定議長の座にある。NCRIは、5つの組織の連合体で、約540名の評議員で構成されている。NCRIの中心組織であるMKOについては、2012年に米国がMKOをテロ支援組織から解除し、その後MKOは2013年にアルバニアに拠点を移して、反イラン体制運動を活発化させてきており、毎年パリで大規模集会を開催し、集会には欧米、イスラエル等から要人多数が出席しており、特にトランプ政権下では、ジョン・ボルトン大使(元大統領国家安全保障補佐官)やジュリアーニ元ニューヨーク市長(元大統領顧問弁護士)といったトランプ大統領を支えてきた側近が出席したことがあり、これまでイランと厳しく対立してきたサウジアラビアのトルキー・アルファイサル元駐英・駐米大使も、過去の集会に参加した経緯がある。ペンス元副大統領もMKOとの関係が深い政治家のひとりである。このように反イラン革命政権に反発する世界の指導者の支持を集めてきたMKOの拠点がアルバニア警察に急襲され、代表がアルバニア国外に逃れ、入国を禁じられたのが事実であるとすれば、驚きの展開である。とくに2022年9月13日、ヒジャブ着用を義務づける法律に違反したとして、22歳のマフサ・アミニさんが、イランの首都テヘランで風紀警察に逮捕・拘束され、死亡した事案に対して、イラン国内外でイラン政府への強い批判が巻き起こり、MKOもその流れに乗って、イラン革命政権の打倒を訴えていた中での、今回のアルバニア政府の措置は事実であれば意外であり、その背景に何があるのか探る必要があると思われる。
最近の流れを整理すると次のとおり。
@ 2023年6月ごろ、仏政府は、毎年7月にパリで開催されていたNCRIの大規模集会開催の要請を、治安を理由に拒否した。
A 2023年6月20日、アルバニア警察は、外国機関に対する「テロとサイバー攻撃」を理由にMKOが拠点とするアシュラフ3キャンプを急襲し、少なくとも1人のMKO幹部が死亡、数十人が負傷した。また、警察部隊は150台のコンピューターデバイスを押収した。この襲撃で殺害されたMKOメンバーは「アブドルバハブ・ファラジ」であり、軍事エンジニアリング作戦の専門知識を持つ対外交策グループの著名な指揮官であり、MKOが1988年7月イランに対して開始した作戦で技術およびエンジニアリング部門を担当していた。
B ラジャヴィ暫定議長は6月下旬にアルバニアからフランスに緊急避難した。
C 2023年7月29日、イランの犯罪裁判所は、マルヤム・ラジャヴィ暫定議長を含むMKOメンバー104名を公表し、1か月以内に裁判のために代理人(弁護士)を用意するよう求めた。
D アルバニアの特別腐敗対策機構(Special Anti-Corruption Structure:SPAK)は、8月初旬イラン国民抵抗評議会(NCRI)マルヤム・ラジャヴィ暫定議長の入国を禁止した。
E 8月上旬、アルバニア警察は、警察の許可証取得者以外のアシュラフ3キャンプへの出入りを禁止した。
(補足)今回のアルバニア政府によるMKO活動制限措置は、フランスのマクロン政権と連携していることは間違いない。今回のアルバニア警察のアシュラフ3急襲は、マクロン大統領が、例年パリで開催されてきた「フリーイラン」の大規模集会開催要請を拒否したことで可能になったと思われる。MKOやMKOを支えるイスラエルや欧米の政治家にとって、イラン革命政権は、イラン国民を苦しめる政権であり、イラン国民に打倒されるべき存在であるとみられている。一方、イラン政府からみれば、MKOは、1979年のイラン革命後、17,161名のイラン人の市民、政府関係者を殺害してきたテロ組織と位置付けられ、とくに、イラクのサッダーム政権下では、同政権に庇護され、反イラン革命政権活動を展開してきたことで、米国、EU、カナダ、日本からテロ組織として扱われ、その後2003年の米国のイラク侵攻で、サッダーム政権が崩壊した後誕生したマーリキー政権にイラクから追放されたものの、欧米やイスラエルの政治家の働きかけで、2012年に米国のテロ支援組織から解除され、2013年にアルバニアがMKOの受け入れに同意し、約3千名のメンバーがアルバニアのアシュラフ3キャンプに移動したとされる。当初、MKOは、アルバニア移動を拒否していたが、米国が国連難民機関を通じて、2千万ドル寄付したとされ、2016年には、追加で280名が同キャンプに移動している。今回の措置の背景は明らかにはなっていないが、本年3月、中国の仲介でイランとサウジアラビアが関係を正常化し、イランが中国を通じて、欧州のMKOへの対応を変更するよう働きかけた可能性がある。また、ロシアへの軍事協力を強化するイランを牽制する取引材料として、フランスがアルバニアに働きかけた可能性も否定できない。なお、ラジャヴィ暫定議長のSNSでは、アルバニア政府のキャンプ急襲やラジャヴィ暫定議長の入国禁止措置に触れた発信はなく、また、西側メディアのカバーも極めて少ない。
https://www.tasnimnews.com/en/news/2023/08/03/2935377/mko-terrorist-ringleader-rajavi-banned-from-entering-albania
https://nournews.ir/En/News/146002/Dozen-of-MKO-members-including-Rajavis-will-face-trial-in-Iran
https://www.tasnimnews.com/en/news/2021/12/04/2619827/members-of-mko-terror-group-arrested-in-albania-for-drug-trafficking-human-smuggling
https://www.tasnimnews.com/en/news/2023/08/06/2936415/albania-puts-new-restrictions-on-mko-terrorist-camp

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アサド大統領のUAE公式訪問の意味(シリアのアラブ陣営復帰に向けた動き)[2023年03月20日(Mon)]
シリアのバシャール・アル・アサド大統領は夫人アスマーを同伴し、2023年3月18日、アラブ首長国連邦(UAE)に到着し、アサド大統領は、UAEのシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン(通称:MBZ)大統領と会談した。MBZ大統領は、ツイッターの声明で、両国は「両国間の関係を発展させることを目的とした建設的な会談を行った。我々の話し合いでは、シリアとその地域の安定と進歩を加速するための協力を強化する方法を探求した」と語った。シリア大統領府は、夫人アスマーが2011年以来初めてのアサド大統領に同伴した外国公式訪問の機会に、MBZ大統領の母親(故ザーイド大統領妻)でUAEでは「国家の母」と見なされているシェイク・ファーティマ・ビント・ムバラクと会談すると述べた。
アサド大統領にとっての湾岸諸国訪問は、2月6日のトルコとシリアを襲った壊滅的な地震以来、2月20日のオマーン訪問に続いて2回目となる。一方、エジプトのシュクリー外相、UAEのアブドッラー外相は、2月にそれぞれダマスカスを訪問していた。
2018 年12月に国際的に孤立したアサド政権との関係を正常化したUAEは、2 月 6 日の地震被災者支援のため積極的な支援活動を展開してきた。UAE は、地震に見舞われたシリアへの支援として 1 億ドル以上を約束した。また、捜索救助チームを派遣し、数千トンの緊急救援物資を提供し、首長国連邦の病院でシリア地震の犠牲者に治療を提供した。
UAEの上級大統領顧問アンワル・ガルガーシュは、「UAEのシリアに対するアプローチと取り組みは、アラブと地域の安定を強化することを目的としたより深いビジョンとより広範なアプローチの一部である。シリアがアラブ世界での地位に戻り、その地域での正当性を取り戻す必要があることに関して、UAEの立場は明らかだ。これは、今日のアサド大統領との会談でシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド殿下によって確認された」とはツイッターで述べた。
(参考)シリアとアラブ諸国関係修復に向けての主な動き
1. UAE:2018年12月27日、ダマスカスの大使館を2011年のアラブの春勃発で閉鎖して以来初めて再開。アブドッラーUAE外相は、2023年2月12日、シリア地震後初めてのアラブ高官として、シリアを訪問し、アサド大統領と会談。同外相は、2023年1月にもシリアを訪問している。アサド大統領は、2022年3月18日、ドバイとアブダビをそれぞれ訪問し、ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥームUAE副大統領兼首相(ドバイ首長)と会談したほか、アブダビのMBZ皇太子(当時、現在大統領)と会談した。国際的に孤立していたアサド大統領の外国訪問は、ロシアとイランに限られていた。
2. サウジ:サウジも高官のシリア訪問は実現していないが、アサド政権支配下の地域を含め、地震被災者救援の活動を実施している。過去には、2021年5月3日サウジのハーリド・フメイダン総合諜報庁長官が、このレベルのサウジの高官の訪問としては10年ぶりにダマスカスを訪問し、アサド大統領と会談したとされる。同長官は、ダマスカスでシリアのカウンターパートであるアリー・マムルーク(Ali Mamlouk)と会談した模様。同年5月26日、シリアの観光大臣ムハンマド・ラーミー・マルティーニ(Mohammed Rami Martini)は、2011年の内戦が始まって以来、シリア政府当局者として初めてサウジアラビアを訪問した。
3. ヨルダン:2023年2月15日、アイマン・サファディ・ヨルダン外務大臣がダマスカスを、ヨルダン外相としてはアラブの春以来となる訪問を実施した。過去には、2021年9月8日 ハラ・ザワティ・ヨルダンエネルギー・鉱物資源大臣、タレク・エル・モラ・エジプト石油・鉱物資源大臣、バッサム・トーメ・シリア石油・鉱物資源大臣、レイモンド・ガジャール・レバノン・エネルギー・水大臣がヨルダンの首都アンマンで会合し、エジプトの天然ガスのアラブパイプラインを通じたシリア経由、レバノンへの輸送のアクションプランを整えていくことに合意。同年9月29日 ヨルダンは、物流の往来のためヨルダン・シリア国境ジャーベル検問所の通過を完全開放した。
4. エジプト:シリア地震発生直後の2023年2月7日、エルシーシ・エジプト大統領は、アラブの春以降エジプト大統領としては初めて、アサド大統領に電話し、見舞いのメッセージを伝えた。2月27日、シュクリー外相も、エルシーシ政権誕生後初めて、ダマスカスを訪問した。シュクリー外相は、2021年9月国連総会の機会にメクダード・シリア外相と会談した経緯はある。
5. オマーン:2023年2月20日、アサド大統領はマスカットを公式訪問し、ハイサム国王の出迎えを受けた。オマーンは外交関係を維持してきたが、アラブ諸国内で先陣を切る形で、オマーンがアサド訪問を受け入れたことは、シリアのアラブ陣営復帰に向けた動きとして注目された。
6. バーレーン:2023年2月7日、ハマド国王は、アラブの春後初めてアサド大統領と電話会談し、お見舞いのメッセージを伝えた。バーレーンは、2018年12月のUAE大使館のダマスカス復帰に続き、外交使節の再開は行っていた。
(コメント)2021年5月26日に実施されたシリア大統領選挙で、現職バッシャール・アサド(Bashar al-Assad)が1354万0860票、得票率95.1%で任期7年の4選を果たした。欧米諸国は、多くのシリア国民がボイコットする中で、選挙自体が有効ではないとして、アサド大統領の退陣を求め、制裁を継続してきている。特に、2020年6月、トランプ政権下の米政府はシリアの中央銀行の資金洗浄疑惑、シリア政権中枢の戦争犯罪を理由に、シーザー・シリア市民保護法を発動した。当時のポンペイオ国務長官は、米財務省と国務省がシーザー法と大統領令第13894号に従い、39の個人・団体を制裁対象に指定したと発表した。それは、シリア政府に経済的・政治的な圧力をかけ、その収入を断ち、それが戦争やシリア国民の大量虐殺に拠出されるのを食い止める持続的なキャンペーンを開始するのが目的とされる。制裁対象に指定されたのは、バッシャール・アサド大統領、アスマー夫人、ビジネスマンのムハンマド・ハムシュー氏、ファーティミーユーン旅団(注:イランがアレンジしたアフガニスタンのハザラ人の武装集団)、アサド大統領の弟のマーヘル・アサド准将、姉のブシュラー・アサド、マーヘル准将の妻のマナール・アサドなど。これをきっかけにシリアポンドは大暴落し、さらに、シリア政権側のレバノンにおける銀行口座も打撃をうけ、レバノンの金融危機にも発展した。一方で、ロシアの後ろ盾を得て国土の7割程度を回復してきたアサド政権が、2021年5月の大統領再選も受けて当面崩壊する見通しはなく、10年以上続いてきたシリア孤立政策を見直す動きも、UAEを筆頭としてアラブ諸国内で出始めていた。そうした中で、2023年2月6日、トルコで発生した大地震は、トルコだけではなく、トルコに避難していたシリア人、シリア北西部の最後の反体制派の拠点といわれたイドリブのシリア人ならびにクルド人支配地域のシリア人ならびにアサド政権の支配地域のシリア人にも大きな被害をもたらした。欧米諸国は、シリア人救済のために、アサド政権との接触を持つことを依然躊躇っており、シリア人被災者救援に積極的に動こうとはしていない。そこに、その隙間を埋めるような形で、アラブ諸国のアサド政権へのアプローチが活発化している。2021年以来出始めていたシリアのアラブ連盟復帰の動きがなかなか現実のものとならないのは、サウジアラビアがゴーサインを出さないためであるとの見方が根強かった。今回の地震被害で、米国もシリアの地震被害復旧のための取り組みについては、関与した者への制裁を一時見合わせると発表しており、3月10日に、イランとの外交関係再開合意を発表したサウジが、アサド政権下のシリアのアラブ陣営復帰を認めるタイミングに来たのではないかと考えられる。最近、一時トルコとの関係が冷え切っていたUAE、サウジ、エジプトとトルコの関係が改善してきており、地震で被害を受けた反体制派陣営のシリア人、トルコに一時避難した350万人規模のシリア人のシリアへの安全な帰還に向けても、アラブ諸国とトルコが、アサド政権との間で、実務的な問題解決の動きを進めることが期待される。それがなされなければ、2015年のシリア避難民の欧州等への大量移動が再現されることにもなりかねない。
https://www.aljazeera.com/news/2023/3/19/424

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イラン・サウジ間の外交関係正常化に向けてのイラクの役割[2023年03月12日(Sun)]
3月10日、アリー・シャムハニ最高国家安全保障会議書記は、イラク首相ムハンマド・シーア・アル・スーダーニとの電話会談で、イランとサウジアラビアの間の5回の交渉をホストしてきたイラクの努力を高く評価し、イラクがイランとサウジアラビアの間の緊張緩和を達成するための土台を整えるために貴重な努力を払ってきたと述べた。

3月6日から10日まで北京での集中的な会談の後、イランとサウジアラビアは3月10日、両国が外交関係を正常化し、大使館再開と外交使節団交換を最大2か月以内に実施することに合意した。

スーダーニ・イラク首相は、本年2月シャルキルアウサト紙とのインタビューで、イラク政府はサウジ・イラン間の緊張した関係を修復することを目的として両国代表間での和解交渉の新しいラウンドを組織するために取り組んでいると述べ、交渉のレベルをこれまでの秘密裏の治安担当レベルから公の外交レベルに引き上げる後押しをしていると示唆していた。

(コメント)イラン・サウジ間の最初の接触は、2021年4月9日、当時のカーディミ・イラク首相の招待をうけたサウジの情報機関責任者ハーリド・ビン・アリー・アル=フメイダーン(Khalid bin Ali AL Humaidan)とイランのイスラム革命防衛隊 (IRGC)のエスマイール・カーニィ(Esmail Qaani)(2020年1月米軍に殺害されたカーセム・ソレイマニ・コッズ部隊司令官後任)の間で行われたとされる。その後、4回、計5回治安担当レベルで、秘密裏に協議が実施されてきた。こうした中、サウジとイランの外交関係正常化に向けての協議実施と合意が、北京でしかも習近平国家主席の全人代での3期目決定のタイミングで実施されたことは、中国がこの件で外交的得点をあげることに対して、サウジ、イラン、イラクがともに中国に花を持たせることを了解したとも解釈できる。関係3国は、今後の中国からの経済的な見返りも期待していると考えるのが自然である。他方、これから2か月以内にサウジ・イラン外相間で、大使館再開・外交使節交換に向けての具体的な話し合いがもたれることになるが、その際は、イラクが再び、協議の場所を提供することになると予想される。

https://www.tasnimnews.com/en/news/2023/03/10/2865424/iran-lauds-iraq-for-hosting-talks-that-led-to-rapprochement-with-saudis
https://financialtribune.com/articles/national/117066/baghdad-working-to-advance-iran-saudi-talks

Posted by 八木 at 10:19 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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