シリアのクルド人組織の武装解除・解散実現に向けたトルコ政府の思惑[2025年03月24日(Mon)]
3月20日付トルコのデイリー・サバーハ紙は、シリアのクルド人武装組織YPGに関して、1週間前にトルコ国防大臣や MIT 長官を含むトルコの最高代表団を率いてダマスカスを訪れ、アハマド・シャラア・シリア暫定大統領と会談したフィダン外相の発言として、要旨次のとおり、報じている。
@米国は、トルコの抗議にもかかわらず、ISに対する「戦い」を口実に、PKKのシリア支部であるYPG(クルド人民防衛隊)と同盟を組んできた。米・トルコともPKKをテロ組織とみなしている。
A3月初旬(10日)、シリア暫定政府は、停戦と(YPGの)シリア国軍への統合を含むYPG主導のSDFとの間で合意に達した。これは、24年12月に独裁者バッシャール・アサドの追放を主導したグループ(HTS)が率いる政府の支配下にシリアの大部分を置くことになる画期的な出来事である。この合意は、SDFが管理するシリア北東部の民間および軍事施設、および同地の国境検問所、空港、石油・ガス田の(国家への)移管を規定している。
B但し、トルコ政府は、暫定大統領アフマド・シャラアと、(トルコが)指名手配中の SDF 首謀者フェルハト・アブディ・シャヒン(コードネーム「マズルーム・コバニ」)が署名した合意について慎重であり、短期的にはこのプロセスを注意深く監視する。
C会談は主に YPG の問題に焦点を当て、トルコ側は、組織の意図、能力、エネルギー資源の支配といった問題に関するトルコ側の見解を明確に伝えた。トルコ側からは長年の対テロ活動の経験とPKKに関する知識に基づき、懸念事項を強調し、同時に、シリア政権が我々と同じ意図と見解を共有していることにも気づいた。
D(YPGなどの)組織の軍事力を破壊することがトルコにとって極めて重要な側面であることを強調し、(シリアのクルドの)既存の組織が自ら解散し、政府の管理下に入ることが不可欠であり、クルド人側が武器生産、ミサイル製造、防空システムなどの重要な能力を保有することは容認できない。
Eもう一つの問題は、海外からYPGに加わる外国人に関してだ。彼らに居場所など全くない。既存の勢力は解散し、武装解除し、政府の完全な管理下に置かれなければならない。これは必要不可欠である。シリア政府は指揮統制を引き受ける能力を持たなければならない
Fシリアにおける米軍の存在にはコストが伴う。米国民はシリアに米軍を駐留させることのメリットに疑問を持ち始めている。以前は、イラン、ロシア、アサド政権などの要因がシリアで役割を果たしていたが、現在の状況は変化している。
GISのような脅威に対抗するため地域協力を呼びかけ、ヨルダン、イラク、レバノンを含む近隣諸国との共同情報・作戦センター設立に向けた取り組みが進行している。ISが活動している国々はシリアと国境を接しており、シリアの主権と領土保全を確保する上でこうした取り組みが重要である。
H(IS関係者を収容している)アルホール収容所は最も広範囲に取り組まれている問題の一つであり、「解決に最も近い問題の一つ」であり、収容所の人口は約4万人である。アルホール収容所はPKK/YPGが運営しており、シリア、イラク、その他60カ国から来た数万人のISISメンバー容疑者とその家族が収容されており、居住者の半数以上が子供である。ISのイラク人とシリア人については、両政府が自国民を収容できる。しかし、刑務所に残っている(外国の)人々については別の方法が必要だ。彼らは拘留されたままである必要があり、我々はその問題に関して(解決のための)努力を続ける
https://www.dailysabah.com/politics/war-on-terror/turkiye-says-trump-should-be-convinced-of-us-pullout-from-syria
(コメント)エルドアン大統領にも近いデイリー・サバーハ紙の記事は、極めて率直にトルコ政府としては、シリアのクルド人武装勢力YPGを武装解除・解散させ、シリア政府の統制、監理下に置く必要性を、フィダン外相の発言という形で明確に表明している。トルコ政府は、3月10日のYPGが主体のシリア民主軍(SDF)のアブディ司令官とアハマド・シャラア暫定大統領との合意を評価する一方で、クルド側がそれを履行するのか、注意深く監視すると述べている。すなわち、SDFが管理するシリア北東部の民間および軍事施設、および同地の国境検問所、空港、石油・ガス田の(国家への)移管を規定している合意を歓迎する一方で、その履行が進むのか、慎重に判断し、停滞すれば、HTS政権側にはっぱをかけるだけでなく、必要があれば、合意で停戦が規定されたにもかかわらずトルコ傀儡のSNF(シリア国民軍)などを活用し、SDFに軍事的攻勢を加えることを含め、クルド人側へのあらゆる側面での圧力を行使することを躊躇わないという姿勢を明らかにしたといえる。加えて、IS対策を口実にSDFを支えてきたトランプ米政権は、米軍駐留のコストを抑えるために、シリア撤退を検討中であり、近く実施される可能性のあるエルドアン大統領の訪米とトランプ大統領との会談で、米軍のシリア完全撤退を促す考えも披露したことになる。その際、重要となるのが、IS収容者の問題で、アルコール収容所だけで4万人のIS隊員・家族が収容されており、うち、シリア人、イラク人のIS関係者は、それぞれの政府が引き取るものの、外国人IS関係者の引き取りを西側諸国、特に欧州が拒否しており、その部分が進んでいないため、その点でもアラブ諸国の協力も得えて解決の見通しをつけて、米軍のシリア撤退を促すとの考えを示唆している。ひとたび、米軍がシリアから撤退すれば、YPGも後ろ盾を失い、これまでの強気を通すことができなくなり、シリア暫定政権側の要求に応じざるを得なくなるとトルコ政府は期待していると思われる。しかし、ISとの戦いで、1万人以上が犠牲になり、シリアの拠点からISを駆逐したYPG主体のSDFが実質的見返りなく、トルコ政府の思惑通りに、暫定政権側の要求に応じるとは思われず、イラクのクルドが実現したようなシリア北東部での「自治」の実現など、民族的悲願達成に向けて、合意した事項のあらゆる側面において本格的交渉がスタートすることは間違いないと思われる。
@米国は、トルコの抗議にもかかわらず、ISに対する「戦い」を口実に、PKKのシリア支部であるYPG(クルド人民防衛隊)と同盟を組んできた。米・トルコともPKKをテロ組織とみなしている。
A3月初旬(10日)、シリア暫定政府は、停戦と(YPGの)シリア国軍への統合を含むYPG主導のSDFとの間で合意に達した。これは、24年12月に独裁者バッシャール・アサドの追放を主導したグループ(HTS)が率いる政府の支配下にシリアの大部分を置くことになる画期的な出来事である。この合意は、SDFが管理するシリア北東部の民間および軍事施設、および同地の国境検問所、空港、石油・ガス田の(国家への)移管を規定している。
B但し、トルコ政府は、暫定大統領アフマド・シャラアと、(トルコが)指名手配中の SDF 首謀者フェルハト・アブディ・シャヒン(コードネーム「マズルーム・コバニ」)が署名した合意について慎重であり、短期的にはこのプロセスを注意深く監視する。
C会談は主に YPG の問題に焦点を当て、トルコ側は、組織の意図、能力、エネルギー資源の支配といった問題に関するトルコ側の見解を明確に伝えた。トルコ側からは長年の対テロ活動の経験とPKKに関する知識に基づき、懸念事項を強調し、同時に、シリア政権が我々と同じ意図と見解を共有していることにも気づいた。
D(YPGなどの)組織の軍事力を破壊することがトルコにとって極めて重要な側面であることを強調し、(シリアのクルドの)既存の組織が自ら解散し、政府の管理下に入ることが不可欠であり、クルド人側が武器生産、ミサイル製造、防空システムなどの重要な能力を保有することは容認できない。
Eもう一つの問題は、海外からYPGに加わる外国人に関してだ。彼らに居場所など全くない。既存の勢力は解散し、武装解除し、政府の完全な管理下に置かれなければならない。これは必要不可欠である。シリア政府は指揮統制を引き受ける能力を持たなければならない
Fシリアにおける米軍の存在にはコストが伴う。米国民はシリアに米軍を駐留させることのメリットに疑問を持ち始めている。以前は、イラン、ロシア、アサド政権などの要因がシリアで役割を果たしていたが、現在の状況は変化している。
GISのような脅威に対抗するため地域協力を呼びかけ、ヨルダン、イラク、レバノンを含む近隣諸国との共同情報・作戦センター設立に向けた取り組みが進行している。ISが活動している国々はシリアと国境を接しており、シリアの主権と領土保全を確保する上でこうした取り組みが重要である。
H(IS関係者を収容している)アルホール収容所は最も広範囲に取り組まれている問題の一つであり、「解決に最も近い問題の一つ」であり、収容所の人口は約4万人である。アルホール収容所はPKK/YPGが運営しており、シリア、イラク、その他60カ国から来た数万人のISISメンバー容疑者とその家族が収容されており、居住者の半数以上が子供である。ISのイラク人とシリア人については、両政府が自国民を収容できる。しかし、刑務所に残っている(外国の)人々については別の方法が必要だ。彼らは拘留されたままである必要があり、我々はその問題に関して(解決のための)努力を続ける
https://www.dailysabah.com/politics/war-on-terror/turkiye-says-trump-should-be-convinced-of-us-pullout-from-syria
(コメント)エルドアン大統領にも近いデイリー・サバーハ紙の記事は、極めて率直にトルコ政府としては、シリアのクルド人武装勢力YPGを武装解除・解散させ、シリア政府の統制、監理下に置く必要性を、フィダン外相の発言という形で明確に表明している。トルコ政府は、3月10日のYPGが主体のシリア民主軍(SDF)のアブディ司令官とアハマド・シャラア暫定大統領との合意を評価する一方で、クルド側がそれを履行するのか、注意深く監視すると述べている。すなわち、SDFが管理するシリア北東部の民間および軍事施設、および同地の国境検問所、空港、石油・ガス田の(国家への)移管を規定している合意を歓迎する一方で、その履行が進むのか、慎重に判断し、停滞すれば、HTS政権側にはっぱをかけるだけでなく、必要があれば、合意で停戦が規定されたにもかかわらずトルコ傀儡のSNF(シリア国民軍)などを活用し、SDFに軍事的攻勢を加えることを含め、クルド人側へのあらゆる側面での圧力を行使することを躊躇わないという姿勢を明らかにしたといえる。加えて、IS対策を口実にSDFを支えてきたトランプ米政権は、米軍駐留のコストを抑えるために、シリア撤退を検討中であり、近く実施される可能性のあるエルドアン大統領の訪米とトランプ大統領との会談で、米軍のシリア完全撤退を促す考えも披露したことになる。その際、重要となるのが、IS収容者の問題で、アルコール収容所だけで4万人のIS隊員・家族が収容されており、うち、シリア人、イラク人のIS関係者は、それぞれの政府が引き取るものの、外国人IS関係者の引き取りを西側諸国、特に欧州が拒否しており、その部分が進んでいないため、その点でもアラブ諸国の協力も得えて解決の見通しをつけて、米軍のシリア撤退を促すとの考えを示唆している。ひとたび、米軍がシリアから撤退すれば、YPGも後ろ盾を失い、これまでの強気を通すことができなくなり、シリア暫定政権側の要求に応じざるを得なくなるとトルコ政府は期待していると思われる。しかし、ISとの戦いで、1万人以上が犠牲になり、シリアの拠点からISを駆逐したYPG主体のSDFが実質的見返りなく、トルコ政府の思惑通りに、暫定政権側の要求に応じるとは思われず、イラクのクルドが実現したようなシリア北東部での「自治」の実現など、民族的悲願達成に向けて、合意した事項のあらゆる側面において本格的交渉がスタートすることは間違いないと思われる。
Posted by 八木 at 16:34 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)