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ヒズボラ内部のサプライチェーンにまで深く侵入して爆破工作を敢行したとみられる恐るべしイスラエル情報機関[2024年09月18日(Wed)]
レバノンで2024年9月17日、同国に拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラの戦闘員らが利用しているポケットベルとみられる通信機器の爆発が相次いだ。
1. 何が起きたのか
レバノンの武装組織ヒズボラのポケベル数百台が、ベイルートだけでなく、ベッカー高原も含め、レバノン全土で同時に爆発した。最初の爆発は現地時間午後3時45分ごろに発生。その後、一連の爆発が約1時間にわたり続いた。
2.死傷者:確定していないものの、17日時点で治安当局とレバノン保健相によると、少なくとも9人が死亡、2,750人が負傷している。死者の中には8歳の少女1人が含まれていることが確認されている。ヒズボラのアリ・アンマール議員の息子、ムハンマド・マフディ・アンマール氏も死亡したと報じられている。ヒズボラは戦闘員2人が死亡したことを確認した。レバノンのフィラス・アビアド保健相はアルジャジーラに対し、「約2,750人が負傷し、そのうち200人以上が重体」で、負傷者の多くは顔、手、腹部に及んでいると報告されていると語った。イランのモジタバ・アマーニ駐レバノン大使も爆発で負傷した。
3.ヒズボラのポケベル
ヒズボラが使用していたポケベルは、電話回線を介して中央オペレーターに中継された短いテキスト メッセージをユーザーに表示する。ヒズボラはセキュリティ上の理由から、内部通信にはスマートフォンよりもポケベルの使用を開始していた。爆発したポケベルは、ヒズボラのナスラッラー師がイスラエルの諜報機関に追跡される恐れがあると警告し、メンバーにスマートフォンの使用をやめるよう命じた後、ヒズボラが新たに入手したものだった。ヒズボラの関係者はAP通信に対し、爆発したポケベルは同組織がこれまで使用したことのないここ数カ月に導入した最新モデルだった、ことをみとめた。スマートフォンとは異なり、ポケベルは電波で動作し、オペレーターはインターネットではなく、受信者のデバイスに固有の無線周波数でメッセージを送信する。ポケベルで使用される基本技術と物理的なハードウェアへの依存により、監視が困難になり、また、ハッキングも容易でなく通信傍受も回避することができる。
4.攻撃実行者
ヒズボラを含む多くの機関、団体、分析者、メディアは、イスラエル情報機関が実行者とみている。ヒズボラは声明で、「我々は、この犯罪的侵略に対してイスラエルの敵に全責任があると考えている」と述べ、イスラエルは「この罪深い侵略に対して当然の罰を受けるだろう」と付け加えた。レバノンのジアド・マカリ情報大臣も同様の非難をしている。イスラエル自身はこれまで同様に口を閉ざしたままである。
5.攻撃の手口
米国に拠点を置くシンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」の元CIAアナリスト、マイク・ディミノ氏は、負傷者の画像から判断すると、バッテリーの過熱ではなく、機器内に埋め込まれた「非常に小さな爆発物」が原因である可能性が最も高いと述べた。「これは典型的な破壊工作だ」と同氏はXで述べ、このような工作は「何ヶ月、いや何年」もかけて計画すると述べた。ドバイに拠点を置くアナリスト、リアド・カワジ氏は、イスラエルはヒズボラがスマートフォンからポケベルに移行したタイミングを利用したと述べ、イスラエルの諜報機関は「最もプロフェッショナルな作戦」を実施したとして「間違いなく、イスラエルが所有する工場の1つが、本日爆発した爆発装置を製造し出荷した」と同氏は述べた。イスラエルはポケベルのサプライチェーンに侵入し、数百台のヒズボラのポケベルを同時に爆発させ、レバノンのテロ組織とそのイランの支援者に打撃を与えるという諜報活動で大きな成功を収めたとみている。爆発したポケベルは、ヒズボラが最近輸入した1,000台のポケベルの積荷に関するもので、出所で破壊工作が行われたとみられている。スカイニュースアラビアは、情報筋の話として、モサド諜報機関がヒズボラの通信機器をテロ組織に引き渡される前に入手したと報じた。イスラエルの情報機関は、機器のバッテリーに大量の爆発性の高い物質であるPETNを置き、遠くからバッテリーの温度を上げて爆発させたと、情報筋は語った。アルジャジーラが引用したレバノンの治安筋は、各ポケベルに20グラム未満の爆発物が仕込まれていたと述べた。「モサドはサプライチェーンに侵入した」と、イスラエルの諜報機関に言及して、中東研究所のチャールズ・リスター氏は「バッテリーの横に小型のプラスチック爆弾が隠されていたのはほぼ確実で、電話や呼び出しによる遠隔爆発が可能だった」と述べた。
(追加)レバノン治安当局高官によると、ヒズボラは台湾のゴールド・アポロというメーカーが製造した通信機器5000個を発注。複数の関係者によれば、機器は今春にレバノンに持ち込まれたという。同高官はこの機器のモデル「AP924」の写真を確認した。その上で、モサドによって機器が「製造レベル」で改造されたとし、「モサドはコードを受信する爆発物を搭載した基板を内部に埋め込んだ。どのような手段でも検知するのは難しい。どんな装置やスキャナーを使ってもだ」と語った。コード化されたメッセージが送られて同時に爆発物が作動し、3000個の機器が爆発したという(ロイター報道)。一方、台湾企業ゴールド・アポロは9月18日、レバノンで17日に起きた爆発に使われたポケットベルについて、自社が製造したものではないと創業者の許清光氏が記者団に語った。許氏によると、ポケベルは自社のブランドを使う権利を持つハンガリーのブダペストにあるBACコンサルティングという会社が製造・販売したもので、「われわれのブランドが付いているだけだ」と説明した。メディアのBACコンサルティングの住所先訪問によれば、建物入り口にはいくつかの社名のある貼り紙がしてあるだけで、人の出入りは感じられないとのことで、実体の乏しいペーパー会社の可能性もありうる由。
(追加2)レバノンの首都ベイルート近郊を含む各地で前日に続き、9月18日、ヒズボラメンバーなどが使用している無線機などの通信機器がほぼ同時に爆発し、保健省によると14人が死亡、450人以上が負傷した。ロイター通信は、爆発した無線機に日本の通信機器メーカー「アイコム」(大阪市)の社名と「日本製」の記載があったと報じた。同通信機器は、 Icom IC-V82 walkie-talkiesとみられている。「アイコム」は大阪市平野区に本社を置いている無線通信機器の制作会社で、日本初の可搬型機を開発し、携帯用無線機メーカーの草分け的存在とされる。メーカーの中東地域への輸出を担当するヨーロッパ現地法人はANNの取材に対して、「指摘されている製品は数年前に生産を終了していて、これまでもレバノン向けの大量の取引はない」、「中東地域へは輸出管理が厳格なため、エンドユーザーなどを確認したうえでの輸出となり、正規品とは考えにくい」などと説明したとのこと。「アイコム」は、同社のロゴ入りラベルが貼付された無線機がレバノンで爆発したとの報道について、偽造品防止のホログラムシールが貼られていないことなどから、「当社から出荷した製品かどうかは確認できない」とのコメントを出した。新たな情報が把握できたら改めて公表するとしている。アイコムは同モデルについて、約10年前に販売を終了したと説明。バッテリーの生産も終え、画像に映る機器には偽造品防止のためのホログラムシールが貼付されていないとコメントしている。


(コメント)今回の実行者は、特定されていないものの、イスラエルのメディアも含め、モサドの犯行ではないかとみられている。2024年7月31日のハニーヤ・ハマス政治局長(当時)のテヘランでの爆死もイスラエル情報機関の仕業(おそらくベッドの下に爆発物を仕掛け、殺害)であるとみられている。2023年10月のガザ危機をきっかけにハマスだけではなく、イスラエル北部のシーア派民兵組織ヒズボラ、はるか南部に位置するイエメンのフーシ派、さらにイラクの親イラン民兵組織から、イスラエル領内を標的にした攻撃が継続しており、これに対して、イスラエル軍は、ヒズボラ司令官の殺害やイラン関連のシリア領内の軍事拠点への攻撃を繰り返してきた。今回の攻撃が大方の見立て通りイスラエル情報部の工作によるものであるとすれば、イスラエルは、ヒズボラの通信機器のスマートフォンからポケベルへのシフトに際して、新型ポケベル製造過程あるいは出荷過程において、工作員をサプライチェーン内に送り込んで、通信機器がヒズボラ隊員間で通常使用されることを見極めた上で、特殊指示を発信し、一斉爆破を実行したことになる。それぞれの爆発の規模自体は大きくはないものの、その範囲は、レバノン全土、あるいはシリア領内にまで及んでおり、イスラエルは、誰がどこに居ようがイスラエルに脅威を与える者は、狙うことができるという強烈なメッセージをヒズボラならびにその後ろ盾のイラン、さらには、親イラン民兵組織全体に送ることになったと思われる。また、今回の爆破工作によって、攻撃を受けたすべての工作員の名前と居場所がイスラエル側によって確認されることになり、今後の攻撃あるいは暗殺準備に稀有で貴重な情報を提供することになったとみられる。モサドのコーエン元長官は、退任にあたっての2021年6月11日のイスラエルのチャンネル12に放送されたインタビューの中で、@2021年4月11日のナタンツ核施設での爆発に関し、爆発物は、遠心分離機の土台となる大理石の中に仕組まれて、ナタンツ地下の遠心分離施設に持ち込まれていたことが明らかにした。具体的な証言を行うことで、事件はモサドが仕組んだことを事実上認め、また、A2020年11月27日のイランの核科学第一人者であったモホセン・ファクリザデ博士のテヘラン郊外での待ち伏せ殺害についても、イスラエルが関与したことをほぼ認め、イランの核開発に協力する科学者たちに転職を勧め、天国で友人たちと再会することにならないよう警告を発している。
https://www.aljazeera.com/news/2024/9/17/how-did-hezbollahs-pagers-explode-in-lebanon
https://www.timesofisrael.com/analysts-say-mossad-likely-hid-explosives-in-pagers-before-they-reached-hezbollah/
https://jp.reuters.com/world/security/2TPRMJE6BBLSBPHAS4WIJTRLCU-2024-09-17/
https://jp.reuters.com/world/security/KV2TEE6UCNNC5GTKMXMZEHI6UM-2024-09-18/

Posted by 八木 at 11:55 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)