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トランプ大統領に嫌われる2人目の世界的ムスリム市長の誕生確実となる[2025年11月05日(Wed)]
現地時間11月4日投票が行われたニューヨーク市長選挙で、民主党の候補ゾーラン・クワメ・マムダニ氏の当選が確実になった。マムダニ氏は、無所属で立候補したクオモ前ニューヨーク州知事と共和党スリワ氏を大差で破り去る情勢となった。2月の投票率1%未満という劣勢からスタートしたが、わずか4ヶ月後、草の根運動を展開し、数万人を動員して市内100万戸以上を戸別訪問し、56%の得票率で予備選を制し、民主党の市長候補の座を奪い取った。マムダニ氏のカリスマ性、キャッチーな動画、そして「ニューヨーク市を誰もが住みやすい場所にする」という彼の強い思いを発信し、有権者の心をつかんだ。
1)マムダニ氏生い立ち:マムダニ氏はウガンダのカンパラで、ウガンダ系インド人の父とインド人の母の間に生まれた。父マフムード・マムダニ氏は著名な学者で、植民地主義と帝国主義について多くの著作を残している。父親は1946年、インドのボンベイ(現ムンバイ)で、インドのグジャラート州にルーツを持つタンザニア系イスラム教徒の両親のもとに生まれた。1979年にアミンが打倒されると、マフムードはウガンダに戻り、その後ケープタウン大学、ダルエスサラーム大学、マケレレ大学などで教鞭をとり、現在はコロンビア大学人類学部のハーバート・レーマン政治学教授である。マムダニの母、ミーラー・ナイルは、人種、ジェンダー、階級に関する従来の見方に異議を唱える、アカデミー賞ノミネート経験のある著名な独立系映画監督で、彼女は1957年、インド東部のオリッサ州でパンジャブ系ヒンドゥー教徒の家庭に生まれた。マムダニが7歳の時、家族はニューヨーク市に移住した。高校卒業後、マムダニ氏はメイン州ブランズウィックのボウディン大学でアフリカ系アメリカ人研究を学び、批判的人種理論家や反植民地主義作家フランツ・ファノンの作品などを研究した。また、学生新聞の編集者として働き、同意に関する意見記事を執筆した。マムダニ氏はまた、「パレスチナ正義のための学生」の大学支部を設立した。アラブの春でムバラク政権が倒れたあとの2013年には、カイロのアラビア語学校に通っていた。
2)選挙キャンペーン:2024年10月23日、マムダニ氏はニューヨーク市長選への立候補を表明した。運動開始当時当時「テレビカメラは1台もなかった」と述べ、何ヶ月もの間、誰も彼に注目していなかった。選挙活動では、ウルドゥー語、スペイン語、アラビア語で長編ビデオに出演し、イディッシュ語のチラシを配布した。また、イマーム(イスラム教指導者)、ラビ(ユダヤ教指導者)、ヒンドゥー教徒のコミュニティを訪問し、面談を行った。洗練されたソーシャルメディア戦略や支持層の戸別訪問作戦も成功し、支持率1%台からの番狂わせを演じたことになる。
3)訴えた政策:マムダニ氏は、ニューヨークに住むすべての人にとって住みやすい街にすることを最優先とする政策を掲げて選挙戦を展開してきた。彼の政策案には、100万戸のアパートの家賃凍結、20万戸の低所得者向け住宅の建設、高速バスの無料化、5歳未満児の保育料無料を含むユニバーサル・チャイルドケアなどが含まれている。「家賃を凍結」「全ての人に保育を」「バスを速く、無料に」が、マムダニ氏が、最も強く訴えてきたキャッチフレーズである。
4)政敵の反応:マムダニ氏の社会主義的な政治的傾向とイスラム教徒としてのアイデンティティは、テロリスト、反イスラエル、反警察、反米主義者との非難の中で、党派を超えた攻撃の標的となってきた。トランプ米大統領は、一貫して彼を「共産主義者」と呼び、当選した場合、ニューヨーク市への資金提供を削減する可能性を示唆してきており、最終版ではクオモ元州知事支持を表明した。彼の最大のライバルであるクオモ氏と現ニューヨーク市長のエリック・アダムズ氏は、選挙日の2週間前にイスラム恐怖症に基づく攻撃を開始した。10月クオモ候補は、「神よ、再び9.11が起きることをお許しください。マムダニ氏が議席に就く姿を想像できますか?」と述べた。これに対し、マムダニ氏は後に「これはアンドリュー・クオモ氏の公職生活最後の瞬間なのに、彼はそれを人種差別的な攻撃に費やすことを選んだのだ。」と反論した。
https://www.middleeasteye.net/profile/who-is-zohran-mamdani-new-york-mayor
(コメント)トランプ大統領に嫌われている国際的な大都市の代表的市長は、サーディク・カーン・ロンドン市長である。カーン市長は、2021年5月選挙で再選された人気の高いパキスタン系ムスリムである。2025年7月末、 4日間の非公式夏季訪問中のスコットランドで行われた記者会見でトランプ大統領は、カーン・ロンドン市長を「ひどい仕事をした」「意地悪な人物」と非難した。2025年9月18日国賓として、英国に招かれたトランプ大統領は、カーン市長を「世界最悪の市長の一人だ」と酷評した。晩さん会には、カーン市長の姿はなかった。さらに、国賓訪英を終えたトランプ米大統領は9月18日、カーン市長を「世界最悪の市長の一人だ」と酷評した。25年9月23日トランプ大統領は国連総会で、 「ロンドンにはひどい市長がいる。今はシャリア法をやろうとしている。でも国が違う。そんなことできない」と主張した。2019年6月の英国訪問に際し、トランプ大統領(第一期目)はこう書き込んだ。「ロンドン市長としてひどい仕事をしたと誰もが認めるサーディク・カーン氏は、英国にとって間違いなく最も重要な同盟国である米国大統領に対し、愚かにも『意地悪』な態度を取った。彼は冷酷な負け犬で、ロンドンの犯罪に焦点を当てるべきであって、私ではない。カーン氏は、同じくひどい仕事をした、非常に愚かで無能なニューヨーク市長、デブラシオ氏を強く思い起こさせる。身長は彼の半分しかない」と述べていた。これに対して、サーディク・カーン・ロンドン市長報道官は、「(トランプ氏の)とんでもない、偏見に満ちた発言をまともに相手にして、回答するつもりはない、ロンドンは世界で最も偉大な都市で、米国の主要都市よりも安全だ。私たちは、記録的な数でここに移住している米国民を歓迎する」とコメントしていた。
今回マムダニ氏の勝利が予想される中、トランプ大統領は、マムダニ氏を共産主義者と称し、当選した場合、ニューヨーク市への資金提供を削減ないし廃止の可能性を示唆していた。世界中がトランプ旋風に巻き込まれて、トランプ大統領にいかに気に入られるか、取り入られるかで世界の多くの指導者が競い合っている中、トランプ大統領の足元で、トランプ旋風とは別の風が吹き始めていることを感じざるを得ない。マムダニ氏については、ニューヨーク初のムスリム市長になるが、ムスリムでありながら、ユダヤ教のラビやヒンドゥー教のコミュニティとも良好な関係を築こうとしており、中でも、インフレで苦しんできたニューヨークの低中所得層に焦点をあてて、まさに富裕層と戦う姿勢を見せていることである。来年11月の中間選挙を見据えて、米国民の意識も変化していく可能性があることに注目すべきであろう。

Posted by 八木 at 18:37 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

着地点の見えないシリア暫定政府・SDF合意の行く末[2025年09月01日(Mon)]
1.8月31日付ANF通信によれば、北東部シリア民主自治行政区を代表するクルド政党PYD(クルド民主統一党)の有力メンバーであるサーレハ・ムスリムはクルディスタンNweとのインタビューで要旨次のとおり語った。
@シリア暫定政権との関係:シリア政府との意見の相違は平和的に解決したい。戦争は解決策ではなく、我々はシリア分割も求めていない。クルド問題は国際問題であり、国際的な努力によって解決されなければならない。国際勢力もまた、戦争で勝利する者はいないため、中東和平を望んでいる。しかし、ダマスカスは不公平な平和を求めているのに対し、我々は公正な平和を求めている。公正な平和なしには、シリアにおける永続的な平和は実現しない。抑圧的で独裁的な国家は解決策ではない。西クルディスタン(シリアのクルド地区)にとって唯一実現可能な道は民主主義である。
A統治体制:この地域にとって最善の体制は地方分権であり、それは自治、地域統治、連邦制、さらには連合制など、様々な形態を取り得る。我々は、シリアにおける完全な中央集権体制への回帰も、2011年以前の状況も決して受け入れない。もしシリアの新政府が地方分権を認めなければ、我々は独立を要求せざるを得なくなるだろう。
BSDFシリア民主軍(SDF)の解散は受け入れられない。我々の地域は我々自身の軍隊によって守られ続けなければならない。これがSDF設立の理念である。
Cトルコとの関係:トルコは国内で平和を要求しながら、同時に西クルディスタンのクルド人を脅かすことはできない。そのため、トルコ政府はこの問題に関する立場を変えざるを得ない。我々クルド人はトルコに敵対しておらず、トルコとの間に問題を抱えているわけでもない。シリアにおける我々の権利を要求するために武器を取ったのだ。トルコはクルド人問題を解決するため、ダマスカス政府に圧力をかけなければならない。
Dクルディスタンの4つの地域におけるクルド人の関係:クルド人はクルディスタンの4つの地域すべてで団結し続けなければならない。西クルディスタンと南クルディスタン(イラクのクルド地区)の関係は特に緊密であり、特にクルド愛国者同盟(PUK)との関係は良好だ。2014年に(PUKの)ペシュメルガ部隊がコバニ(トルコ国境に近いシリアの町で、ISISとSDFの激戦の地であった)に進駐した際、クルド人全体が彼らを大喜びで歓迎した。PYDとPUKは戦略的な関係を維持している。PYDの設立以来、PUKは一貫して支援を続けており、このパートナーシップはさらに拡大していく可能性がある。PUKは、対ISIS国際連合の枠組みを含め、西クルディスタンのあらゆる成果を支援してきた。
https://anfenglishmobile.com/news/salih-muslim-we-will-never-accept-a-return-to-a-fully-centralised-system-in-syria-81044

2.8月30日SDFのマズルーム・アブディ司令官はドイツで開催されたクルド人青年イベントに送ったビデオメッセージで次のとおり述べた。
1)シリア北東部では数ヶ月にわたり停戦と安定が保たれてきたが、最終合意に至っていないため、敵対行為が再発する可能性は依然として残っている。紛争が再発しないことを願う一方で、我々は常に我々の組織と国民を守る用意がある。我々は(和平)交渉の成功を望んでいる。15年間続いたシリア内戦は必ず終結しなければならないと信じている。
2)前進する唯一の道は分権化されたシステムであり、その目標に向けて努力を続けている。そのための努力は進行中である。シリア国民と国際部隊の全員が、徐々にこれが適切だと認識するようになると信じている。2011年以前のシリアの全体主義的で超中央集権的なシステムは復活しないだろう。
https://www.rudaw.net/english/middleeast/syria/300820252
(コメント)二人のシリアのクルド人の政治的・軍事的指導者が相次いで発信したメッセージは、北東部シリアを事実上自治運営しているクルド人勢力にとって、シリアにおける中央集権的なシステムへの回帰は認めないSDFの国軍への統合は認めても、解散するのではなく、北東部シリアの防衛部隊として存続させる、との原則的立場を改めて強調したものとなっている。これは、シリア暫定政権側の「国の中の国」、「軍隊の中の軍隊」は認めないとする立場と相いれない。シャラア暫定大統領は、9月にシリアの北東部のクルド支配地区と南部のドゥルーズ支配地区を除外する形で、人民議会選挙を実施し、自身の権力基盤を固めようとしているものの、ドゥルーズ支配地区については、イスラエル軍に保護されており、シリア北東部については、未だ米軍が駐留しており、双方ともに暫定政権側が、力で屈服させることは困難な状態にある。また、隣のイラクには、ペシュメルガという個別軍隊を持ち、自治統治体制を有するクルディスタン政府の例があり、暫定政権側と北東部シリア統治勢力との3月15日の合意の実施に向けた行動計画を一致させることは容易ではない。欧州は暫定政権への制裁は解除したものの、本格的支援には至っていない。8月31日付RUDAWによれば、独政府は、当面、シリア支援は、国連機関やNGOなどを通じて実行し、暫定政権経由で行わないと発表した。シリア暫定政権に影響力を有するトルコは、本国ではPKKとの和解に向けて、議会で委員会を立ち上げて検討を開始しているが、具体的進展は見えてきていない。トルコは、シリアにおける連邦制や地方分権は認められないとの考えで、シャラア政権に働きかけており、着地点は未だ霧の中にあるといわざるをえない。
https://www.rudaw.net/english/world/31082025

Posted by 八木 at 11:32 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

新生シリア政権の下で初めて実施されるシリア人民議会選挙について[2025年08月27日(Wed)]
2025年8月23日、シリア暫定政権は、9月15-20日実施される予定のシリアの国会にあたる人民議会選挙が行われる際に、スウェイダ、ハサカ、ラッカの3県では選挙を行わないと発表した。南部スウェイダ県はドゥルーズ派が多数派を占め、ハサカ県の大部分とラッカ県の一部はクルド人主導のシリア民主軍(SDF)が支配している。高等選挙管理委員会は、政府の完全支配下にはない当該県での投票は、「安全が確保」されるまで、延期されると述べた。

この選挙では、シャラア暫定大統領の支配力維持に二重・三重の保険がかけられている。上述のとおり、@暫定政権の支配が及ばない地域の投票を除外したこと、Aシャラア暫定大統領は新たに選出される人民議会議員210人のうち3分の1を任命する権限を自らに与える法令に署名したこと。B投票する国民は代表者(人民議会議員)を直接選出するのではなく、複数の委員会を経て間接的に選出されること、すなわち、選挙委員会が設置する地区レベルの小委員会が、人民議会の議席1つにつき約50名の選挙機関の委員を選出し、その後、第2段階である選挙段階に移り、これらの選挙機関内で選挙が行われることになる。
https://www.rudaw.net/english/middleeast/syria/230820251
(コメント)人民議会選挙の実施は、シャラア暫定政権にとって、シャーム解放機構(HTS)主導の暫定政権の正統性をアピールし、残った欧米の制裁を解除してもらい、復興支援を得るうえで、必要なプロセスである。シリア人権監視団によれば、3月には、地中海沿岸部のいくつかの場所で、反政府グループと政府軍・政府系部隊との間で戦闘が発生し、アラウィー派住民など約1400名が犠牲になったと伝えられており、7月には、南部スウェイダ県で、ドゥルーズ部隊と政府軍・政府系部隊との間で戦闘が発生し、約1500名が犠牲になったと伝えられている。こうした中、3月10日にクルド人部隊を中心とするSDF(シリア民主軍)のマズルーム・アブディ総司令官とシャラア暫定大統領の間で交わした8項目の合意文書の実施に向けた協議が停滞している。双方は、「国境検問所、空港、石油・天然ガス田を含むシリア北東部のすべての民間および軍事機関をシリア国家の管理に統合する」ことで合意したが、その具体的内容について、暫定政権側は、「国の中に国」、「軍の中に軍」を認めるわけにはいかないとの立場で、一方、SDF・北東部自治統治勢力は、現地での約10年の経験・ノウハウを踏まえ、クルド人・アラブ人・アッシリア人、キリスト教徒、イスラム教徒その他地域住民で構成する地方分権ないし連邦制が必要であり、また、SDFについては、国への所属は認めるものの、部隊や隊員をばらばらにして国軍に統合するのではなく、シリア北東部住民を守る特殊部隊としての存続を主張している。暫定政権側は、ISISなどと戦った経験とノウハウを国軍全体に浸透させるためには、特殊部隊として存続させることは適切ではないとしており、統治と部隊の態様について、議論は進展していない。
そのような中で、暫定政権は、SDF支配地区2県とドゥルーズ支配地区1県の人民議会選挙からの排除を決定し、選挙後、新憲法案の作成に向けて準備を進めていくものとみられる。SDF・北東部自治統治勢力は、大統領に巨大な権限が集中する中央集権的統治は認められないとの立場を崩していない。新憲法草案を議論する委員会などに、SDF・北東部自治統治勢力の参加が認められなければ、暫定政権とSDF合意の実現は困難になることは間違いない。他方で、SDF・北東部自治統治勢力も、トルコで進行中のトルコ政府とPKKとの和解プロセスの行方を注視しながら、トルコ政府の意向を尊重する暫定政権側との協議に臨んでいるといえる。

Posted by 八木 at 14:40 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

イランの治安分野の最重要責任者として表舞台に再登場したアリー・ラリジャニ氏 [2025年08月15日(Fri)]
6月のいわゆる「12日間戦争」で、イランはイスラエルの攻撃により核施設が被害をうけただけでなく、イランの治安分野の幹部多数が殺害された。イラン軍参謀総長ムハンマド・バゲリ少将とイスラム革命防衛隊(IRGC)総司令官ホセイン・サラミ少将がテヘランで殺害され、IRGC航空宇宙軍司令官アミラリ・ハジザデ准将とIRGCが運営する巨大エンジニアリング企業ハタム・アンビア司令部司令官ゴラマリ・ラシド少将も殺害され、アリー・シャムハニ最高指導者上級顧問も自宅を爆撃され、3時間瓦礫に閉じ込められ、元国会議長で、ハメネイ師顧問のアリー・ラリジャニ氏も事前にイスラエル側から殺害予告を受けていたとされる。イランは、2024年9月のイスラエルによるレバノン攻撃で、イスラエルに軍事的に対峙するうえで最も重要なパートナーであるヒズボラの指導者ナスラッラー師をバンカーバスター弾で殺害され、同年12月には、レバノンへの重要な補給路を構成していたシリアのアサド政権を失い、体制の維持、地域での影響力確保に向けて、黄色信号が灯もり始めていた。こうした中、イスラエルからの殺害の脅威を回避したアリー・ラリジャニ氏は、7月20日、ロシアのモスクワを訪問してプーチン大統領と会談した後、8月6日には、国家安全保障最高評議会(SNSC)責任者の書記に任命され、イラク、レバノンを訪問した。イラクでは指導者らと会談し、カセム・ソレイマニIRGCコッズ部隊司令官の殺害現場に花輪を捧げ、その後、テヘランと同盟関係にあるヒズボラの武装解除を求める動きの中、レバノンを訪問した。IRGC創設メンバーでもあるラリジャニ氏は、今や権力の中枢に返り咲き、新たに設置された国防評議会でも主導的な役割が期待されており、地域情勢の緊迫と後継者問題が迫る中でイランにとってのこれまでの友好国関係者訪問を通じて、イランのじり貧状態からの巻き返しを狙っている。
こうした中、ラリジャニ氏は、マヤディーン紙のインタビューに応じたところ、8月14日同紙が報じた主要点は次のとおり。
1. 抵抗運動:抵抗運動は皆のためのもの。シーア派やスンニ派に限定されるものではない。我々はスンニ派抵抗運動であるハマスと、シーア派抵抗勢力であるヒズボラを支援している。我々の立場は宗派主義的なものではない(右矢印1イスラエルへの抵抗活動を続けるヒズボラを支持すべきとの立場を改めて強調したもの
2. ナビー・ベッリ国会議長(注:シーア派組織アマル出身で90年代から国会議長の職にある)との会談:政治的に鋭敏で、豊富な経験を有し、抵抗運動の重要な支柱である。彼はいかなる状況下でもどのように行動すべきかを知っている。私たちは意見交換を行い、彼の包括的な視点に耳を傾けた。彼の考えはレバノンが抱える課題の解決への道を開くものであり、彼は地域に対しても建設的な提案をいくつか行った(右矢印1政府によるヒズボラの武装解除への圧力の中で、シーア派勢力の代表として、イランは、ベッリ議長の役割に期待していることを示している
3. ジョゼフ・アウン大統領とナワフ・サラーム首相との会談:我々は我々の立場を明確に伝えた。我々は他国の事柄に干渉せず、各国は多様な政治グループと協議した上で適切な決定を下せると考えている。我々は我々の見解を公然と表明するが、一部の政治的な『悪魔』が悪意ある目的のために利用するような誤解は避けたいと考えている。各国はそれぞれの気質に応じて指導者を選ぶ。私たちの役割は、異なる性格や志向を持つ人々に適応し、協力する方法を見つけることである。外交においては、誰とでも話し合い、協力できなければならない。政治的な相違は決して敵意になってはならない。進歩は対話から生まれる(右矢印1米国の働きかけもあり、ヒズボラの武装解除を推進しようとするレバノン政治指導部に対して、妥協点を見出すべく努力すべきとの意向を表明したものとみられる)
4. SNSC書記として初の外国訪問先にイラク、レバノンを選んだ理由:イラクとレバノンを選んだのは、両国が長年にわたり協力関係を築いてきた親しい友人だからである。両国とは古くから深い関係を築いている。シリアは現在正式な国交がないため、今回の訪問には含まれていなかったが、レバノンとイラクは地域情勢について協議する上で不可欠な訪問地であった(右矢印1親イランのシーア派民兵組織を抱える両国との対話のルートを確保しておくことの重要性を表明したものとみられる)
5. バッシャール・アル・アサド大統領(当時)と会談した前回のダマスカス訪問:シリアを攻撃し侵略した者たちでさえ、政権転覆が可能だとは思っていなかったと思う。私の訪問は、アサド大統領が協議したい事項について直接話を伺うためであった。しかし、事態は急速に展開した。過去2年間、事態の展開は急速かつ予測不可能であり、それが今の時代の特徴である(右矢印1これまで想定されていなかった出来事が次から次へと発生して、予測不能な時代に突入していることを踏まえ、緊急時に如何なる事態にも対処する必要性を強調したもの)
6. イスラエルによるイラン攻撃:ネタニヤフ首相が公然と宣言したように、彼らの目的はイスラム共和国の体制を転覆させることだった。彼らは14年間これを計画したが、失敗した。ネタニヤフ首相は(イラン国内の)動乱を煽ろうとしたが、イランの反体制勢力でさえ国家側についた。彼は大きな誤算を犯し、イラン国民は彼を好んでいない。事態は彼の予想に反して展開した。地域のどの国もテルアビブ側に付かなかった。多少の違いはあったものの、イスラム世界はイスラム共和国を支持した。彼らが何の成果も上げていないこと自体が、彼らの戦略的敗北の証である。(イスラエルがイランの要人殺害に成功したことを認めつつ)結果的にイスラエル側は何も得ていない。
7. ネタニヤフ首相について:我々は、シオニスト国家からのいかなる攻撃にも、常に全力で対応する用意がある。ネタニヤフ首相が権力の座に居続ける限り、この地域の安定は訪れない。パレスチナに住む人々にとってもそうだ。彼は私利私欲のために危機を煽る悪意ある人物である。レバノン、シリア、そして他の国々でそれが見られる。それは絶え間ない挑発と不安定化策である。
8. 米国との和解の可能性(イランが核問題にとどまらず、米国とのより広範な和解を追求する可能性について):一歩ずつ進めていく必要がある。まず、アメリカが誠実かどうかを見極める必要がある。レバノンやイラクにおける彼らの取り組みが、真に現地の人々の利益を優先するものであれば、交渉の余地はある。しかし、彼らの和平理論が武力、つまり降伏か戦争かのいずれかに基づくものである限り、これはうまくいかないであろう。イランは降伏しないし、これまでも降伏していない。交渉は、双方が戦争では目的を達成できないことを認めた場合にのみ有効となる(右矢印1核協議の継続などを求める米国の真意がどこにあるのかを見極める必要があるとの見解を意味する)
9. 国家安全保障最高会議の議長という新たな役割: 対話による地域紛争の解決を全面的に支持する。サウジアラビアやエジプトのような国々との協議を通じて、すべての地域問題の解決に向けて前進することを強く望んでいる。サウジとは関係を深めなければならない。すべての問題で合意しているわけではないが、良好な合意の枠組みの中で協力を拡大することができる。実務的な共同作業の基盤には大きな違いがあるとは考えていない。あるのは、特定のメカニズムや視点に関する意見の相違だけである。解決策は対話にある。彼らは私たちの友人であり兄弟であり、すべてのイスラム諸国も同様である。そして、私は対話が有益だと考えている(右矢印1アラブ諸国とは、小異はあっても、対話を続けたいとの意向を強調したもの)。
10.イスラエル側からの脅迫について:自身が個人的にイスラエルから標的にされたという報道は事実である。戦闘初日に、電話とモサドを通じて殺害の脅迫を受けた。もちろん、私は彼らに相応しい対応をした(右矢印16月のイスラエル攻撃は、ハメネイ師の最側近が狙われていたことを示めしている)
11.イスラエルのイラン攻撃中の最高指導者ハメネイ師の対応について:ハメネイ師は米イスラエル戦争の均衡を覆した。初日(6月13日)、彼らは多くの司令官を暗殺したが、ハメネイ師は数時間以内に彼らを交代させた。これは極めて重要な動きであった。彼はイラン国民に演説し、対立の本質を説明し、力強く冷静さを伝え、状況を変えた。アメリカが臆面もなく『降伏せよ』と言った時、彼は力強く『我々は降伏せず、力強く立ち向かう』と応えた。サイイド・ハメネイ師は最高司令官として行動した。指導者があらゆる意味で最高司令官として行動し、彼は作戦室から指揮を執り、多くの事柄について協議し、指示を出していた。状況を完全に掌握していた。これは、たとえ指導部全員が暗殺されたとしても、他の者が妨害なく介入できるという、我が国の軍の能力を証明した。その夜、我が国の防空体制があらゆる困難に直面していたにもかかわらず、イスラム共和国からイスラエルに向けてミサイルが発射された。これは比類なき勇気であった(右矢印1イスラエルの攻撃中、ハメネイ師の消息が不明になったと報じられたことがあったが、ハメネイ師は作戦の中心であり、イスラエルへの反撃にも指揮をとったとして、ハメネイ師への信頼をアピールしたもの)。
12.ヒズボラの忍耐力について:100%全幅の信頼を寄せている。私たちが知り、目にするこの精神は決して死なない。彼らは生きており、一人一人が千人の兵士に匹敵する。簡単には排除できない。彼らの基盤は出来事や現実に適応するが、彼らは存続し、イスラム世界のために実を結ぶであろう(右矢印1殉教したナスラッラー師への哀悼の意を表するとともに、ヒズボラが米国の思惑通り、容易に武装解除されることはないとの確信を示したもの)
https://english.almayadeen.net/news/politics/larijani--iran-stands-firm-on-resistance--regional-dialogue
(コメント)2025年6月22日、イランのプレスTVがイラン議会はホルムズ海峡封鎖を承認したと伝えた。同時に、実行には国家安全保障最高評議会(SNSC)の決定が必要とコメントした。このような世界に衝撃を与える最重要事項決定は、もちろん最高指導者の判断が必要にはなるが、機関決定を下す役割を国家安全保障最高評議会が担っており、その書記にアリー・ラリジャニ氏が任命され、表舞台で活動し始めたことは、内政上も外交上もイランのどん底からの巻き返しを図る動きとして注目される。多くのハメネイ師側近が、今回のイスラエルのイラン攻撃で殺害される中、ラリジャニ氏のSNSC書記指名は、イランが、イスラエル攻撃中一時消息が途絶えていたとされるハメネイ師の権威を復活させ、傷ついた近隣諸国との関係の再構築に踏み出した動きととらえることができる。とりわけ、アサド政権を見放したものの、中東で引き続き、一定の影響力を維持するロシアを訪問して、ロシア・イラン関係の継続を中東諸国政府に意識させ、さらに、シーア派民兵組織を抱えるイラク、レバノンを訪問して、イスラエルへの抵抗勢力として容易にヒズボラなどの武装解除に応じるわけにはいかないと、両国指導者に釘をさすことで、イランの影響力を域内に残す行為にでたものと認識される。

Posted by 八木 at 15:05 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

イランから本国帰還を強制されるアフガニスタン人が激増[2025年08月14日(Thu)]
これまで、世界最大の難民を抱えている国は、数年以上300万人規模のシリア人を一時保護の下で受け入れてきたトルコであった。2024年12月8日のアサド政権の崩壊と新生シリア政権の誕生後、トルコが受け入れているシリア人数は255万5560人まで減少(トルコ統計局の数字に基づくUNHCR2025年8月7日統計更新分)してきている。一方、世界最大の難民・非正規移民を受け入れている国のトップをイランが占めていたことがUNHCRの2024年末「グローバル・トレンド・レポート」公表の統計から明らかになってきた。
第一位 イラン 350万人
第二位 トルコ 290万人
第三位 コロンビア 280万人
第四位 ドイツ 270万人
第五位 ウガンダ 180万人

イランが最も多数の難民・非正規移民を受け入れているのは、アフガニスタン人である。欧州はどうであろうか。

EUの統計によれば、国別新規庇護申請登録数は2024年EU全体で、91万2千人で、一位シリア(14万7965人)、二位ベネズエラ(7万2775人)、アフガニスタンが7万2155人で第3位にランクされている。

一方、英国内務省統計によれば、2025年3月までの1年間に英仏海峡を小型ボートで、英国に辿り着いた非正規移民の出身国は、一位アフガニスタン(5766名)、二位シリア(4368名)、三位エリトリア(4229名)となっており、やや減少傾向にあるシリア人に替わって、アフガニスタン人の存在感が目立ってきている。スターマー首相率いる英国政府と仏政府との不法移民と難民申請者の「一人引き渡し、一人受け取り」合意にもかかわらず、英仏海峡を渡って到着した人の数は過去5年間で最速のペースで進んでおり、英国内務省によれば2025年7月30日現在、 25,436人に達している。

このような状況下、ノンルフールマン原則に従って、犯罪者であっても、非正規移民の国外退去を躊躇ってきた欧州諸国も、強制送還に乗り出す国が出てきている。その筆頭は、難民・非正規移民に寛容といわれてきたドイツである。ドイツは、前政権下の2024年8月30日、ドイツで罪を犯したアフガニスタン人28人を強制送還したと発表した。イスラム主義勢力タリバンが2021年8月に実権を握って以降初めての措置であった。ドイツのメルツ政府は2025年7月18日、犯罪歴のあるアフガン人81人を強制送還したと発表し、今後も続ける意向を示した。AP通信によると、トランプ米政権もアフガン移民の滞在や労働を許可する一時保護資格(TPS)を取り消した

戦火と経済制裁に苦しむイランでは、2025年6月中旬以降、イラン当局がアフガニスタン人に本国に帰還するよう求め、要求に従わないと逮捕されることになると警告を発した。この背景には、6月13日にイスラエルがイラン本土への直接攻撃を開始し、12日間の攻撃で核関連施設だけではなく、イスラム革命防衛隊(IRGC)司令官や軍参謀総長など主要な治安部門幹部がピンポイントで殺害されたことで、国内にイスラエルのスパイが多数潜入しており、その一部がアフガニスタン人であるとみなされたことにある。イランメディアからは、スパイ容疑で実際に2万1千人が拘束されたと報じられている。そのため、イラン在住のアフガニスタン人の間に不安が高まり、イランからアフガニスタンへの国境検問所の通過数は劇的に増加し、日によっては約4万人がアフガニスタンに入国したとのことで、国際移住機関(IOM)の報道官によると、2025年6月1日から7月5日までの間に44万9218人のアフガニスタン人がイランから帰還し、2024年からの帰還者総数は90万6326人となったとされる。
しかし、多くのアフガニスタン人帰還者は、タリバン当局からの圧力、逮捕、国外追放、そして性急な出国による経済的損失を経験したと報告している。帰還者への危機対応は第一にアフガニスタンへの対外援助の大幅な削減によって妨げられており、国連、国際NGO、そしてタリバン当局から資金増額を求める声が上がっている。一方、イランのアリー・アクバル・プールジャムシディアン内務副大臣は、国内に滞在する不法滞在のアフガニスタン人は「尊敬すべき隣人であり、信仰の兄弟」である一方で、イランの「能力にも限界がある」と認めた。また、帰還プロセスは「段階的に実施される」と示唆した。
https://www.aljazeera.com/news/2025/7/6/iran-tells-millions-of-afghans-to-leave-or-face-arrest-on-day-of-deadline
https://www.aljazeera.com/news/2025/8/12/iran-says-it-arrested-21000-suspects-during-12-day-war-with-israel-us
(コメント)2021年8月の米軍他のアフガニスタンからの撤退により、多くのアフガニスタン人が迫害の危険を逃れるために、隣国のイランやパキスタン、さらにはそれらの国々を経由して欧州諸国などに脱出した。未だ、アフガニスタンのタリバン政権を正式に承認した国は、ロシア1国にとどまっている(2025年7月3日。但し、中国も事実上の外交関係を構築している)。アフガニスタンでは、未だに女性の高等教育の機会が奪われており、就労の機会も厳しく制限されている。国際社会からの援助も激減している。そうした中で、欧米は、アフガニスタン人を強制帰還あるいは出国を強いる措置を発動し始めている。冒頭のUNHCRの統計でも明らかなように、アフガニスタン人の最大の受け皿は、イランであった。このイランに、イスラエルが6月に核開発を阻止するためとの名目で、大規模な攻撃を加えた。これを、ドイツのメルツ首相は、2025年6月17日、公共放送ZDFのインタビューで、イランの核施設などを攻撃したイスラエルを「私たちのために汚れ仕事をしてくれた」と称賛した。首相は、今回の攻撃がなければテロ行為が続き、イランの核開発も進んだと指摘し、「イスラエル軍と政府が(攻撃を)実施できたことを尊敬する」と評価し、イスラエルに「感謝する」とまで述べた。一方、米国は、イラン産原油を輸入する中国の精製業者や原油を輸送するタンカーなどに追加制裁を科し、経済的に締め上げようとしている。これまで内戦の被害を逃れて脱出したシリア人の欧州への移動の防波堤になってきたのがトルコであり、タリバン政権支配を逃れたアフガニスタン人の欧州への移動の防波堤になってきたのが、イランであった。欧州は、イランの難民・移民受け入れ能力を破壊することによって、ブーメラン被害をうける可能性がこれまで以上に高まっていることを認識しているのであろうか。あるいは、これまで西側諸国にも協力してくれたにもかかわらず、置き去りにしたアフガニスタン人を現状のまま、タリバン支配下に閉じ込めることを期待しているのであろうか。

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新生シリア政権のクルド人地方行政とクルド人部隊存続への見方[2025年08月02日(Sat)]
2025年7月31日、シリア外務省のアメリカ担当局長クタイバ・イドリビ氏は、イラクKDP系通信社ルダウとの独占インタビューで、シリアの新指導部は行政の地方分権化を支持するものの、「軍隊の中に軍隊、国家の中に国家」という考え方は拒否すると述べた。クタイバ局長の発言は、米トランプ政権との良好な関係維持を基本としつつ、シリア北東部を実効支配するクルド人勢力に対する現在のシリア政府とその後ろ盾のトルコ政府の意向を体現するものとして興味深いので、主要点を紹介する。

@シリア・米国関係右矢印1両国は、ダマスカスとワシントンの間に、両国と両国民を結ぶ鉄の橋を架けようとしている
A新生シリアの役割右矢印1シリアは、イラン民兵が撤退した後、シリアはイラン民兵と(イランと連携するレバノンの)ヒズボラ(運動)の地域への再進出を阻止し、それらに伴う不安定化や破壊行為を防ぐ主要な障壁となっている(かつて、アサド政権下で、イラン民兵とヒズボラは政権を支えたが、逆に新政権は、それらの防波堤になるとの意向の表明
Bイスラエルとの関係と懸案処理に対する考え方右矢印1イスラエルは、その初日からシリアの軍事施設を700回以上攻撃し、シリア国民全体、特にシリア政府に対する敵対的と言えるメッセージを数多く発信してきた。もちろん、イスラエルが最近行ったのは、ダマスカスの国防省庁舎への侵攻と爆撃、そして2週間前にスワイダ県の内務省を治安部隊が砲撃である。一方、我々は、イスラエルとの間で政治的枠組みを通じて、問題を解決することに前向きである(米政権との良好な関係維持のためには、攻撃されてもイスラエルとは武力対峙せず、対話を続けるとの考えの表明
C米国の対シリア制裁(米下院におけるシリアに対する制裁措置(具体的にはシーザー法)即時解除には至らず)右矢印1(米議会の動きは)必ずしも米国民の方向性を表明するものではない。この問題に関する最終決定は、リヤドでの投資会議で米国の対シリア政策を明確にしたトランプ大統領の発言を待つべき。トランプ大統領がこの政策を変更しない限り、むしろ、リヤドの会議でトランプ大統領が示した政策を米政権が全面的に確認するのであれば、道筋は明確であり、この点における米国民の声も明確である(右矢印1トランプ大統領は議会を説得できるとの期待)。
D米国の対シリア制裁解除への見通し右矢印1トランプ大統領は、これまで大統領令および大統領決定によって発令されていたすべての大統領令と制裁措置を全面的に解除した。そして、それは6月実現した。残りの制裁措置の解除には、法的および政治的なプロセスが必要であり、当然ながら長い時間がかかる。例えば、1979年に指定されたシリアのテロ支援国家指定を解除するには、大統領が議会に対シリア政策の変更を示唆してから少なくとも6ヶ月かかる。シーザー法についても、共和党内および民主党との審議と協議に時間がかかるため、当然ながら時間がかかる。これら2つの法律は、現状では制裁の全面解除を阻む唯一の障害となっている。ですから、制裁解除への自然な道筋があると考えている。スワイダで起きた不幸な出来事、そしてそれに関連して起きたこと、特にイスラエル側による、これらの出来事を政治的目的に利用するためのメディアによる誤解を招く行為は、制裁解除のプロセスを遅らせる効果があったかもしれないが、道筋に完全に影響を及ぼすとは思わない(右矢印1シーザー法の解除には時間がかかるとの見方)。
Eアサド政権崩壊後の新生シリア政府の治安安定の成果右矢印1解放後、我々が目にした安定状態は、主に政府の努力によるものだが、同時に、シリア全土を守る道はこれだという、シリア国民全員の集団的コミットメントとも言えるものの成果でもあった。この集団的コミットメントは、政府や国家の能力に依存するものではなく、特にまだ新生国家である以上、政府や国家がそれを守る能力に依存するものではないため、当然ながら極めて重要である。ラタキア沿岸部で実際に起こった問題は、この道が破られたことでした。少なくともシリア国民の大部分、そして社会の大部分の観点から見れば、アサド政権と関係のあるグループが待ち伏せ攻撃を仕掛け、治安部隊員を襲撃し、多数の死者を出した事件は、時を巻き戻そうとする試みがあったというシグナルである。内戦後のどの国の枠組みを見ても、内戦から脱却した国の約90%が、この社会的コミットメントの恒久的な違反により、数ヶ月以内に再び内戦状態に戻っている。これまでのところ、今日のシリアの状況とこれらのケースの状況を比較すると、我々は内戦から脱却した大多数のケースよりもはるかに良い状況にある。これは、政府の努力だけでなく、今日のシリア国民の結束と連帯によるものと考えられる(右矢印1ラタキアの事件に拘わらず、新政権はうまく対処していることを誇示)。
Fスワイダ事変右矢印1スワイダで起きた出来事は、沿岸部で起きたことと性質が似ている。アサド政権と繋がりを持つグループが出現し、シリア解放以来スワイダに拠点を置いているが、いかなる合意も遵守していない。シリア政府は、事態が悪化する前に阻止しようと試み、スワイダのコミュニティリーダーたちにも、初日から「これらの事件がエスカレートして制御不能にならないように、沿岸部で起こったような出来事が繰り返されないように、そして社会に誤ったメッセージが送られないように、共に協力しよう」という明確なメッセージを送付した。スワイダのコミュニティリーダーたちと、(ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ハムード・アルヒンナウィー、シェイク・ユーセフ・アルジャルブー、そしてスワイダの武装組織の多くのリーダーたち、ライース・アルバルースだけでなくスレイマン・アブデル・バキーらも大いに協力した(右矢印1スワイダ事件に関し、多くのドゥルーズ派指導者は政府との対立を望んでいなかったとの見方)。
G誰が、スワイダ事変を主導したのか右矢印1ある政党、特に、ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ヒクマト・アルハジャリと関係のある政党が、この軍事状況を終結させるという国家の選択肢に対する県内での支持状況に満足せず、イスラエル側に要請した。イスラエルの介入開始から数時間、スワイダ市内にはシリア軍も国防省の部隊も存在しなかった。実際、政府は不必要な衝突や違反を避けるため、国防省の部隊を撤退させ、直ちに治安維持隊を展開した。なぜなら、軍が民間人の居住地に入る場合、間接的な衝突や違反の可能性は常に存在するからであった。基本的に、初日から政府が主導権を握り、軍を撤退させ、治安維持隊を展開した。ハジャリ師と提携する勢力や組織は、ハジャリ師の同意の有無にかかわらず、イスラエル側に要請を行い、イスラエル側はスワイダ市内の治安部隊だけでなく、県周辺の治安維持隊の展開にも攻撃を仕掛けた。その結果、スワイダは誰からの攻撃にも無防備になり、ベドウィン勢力や部族による「ファザート」(自発的な動員)だけでなく、バディヤ(シリア砂漠)から押し寄せたISISグループの現実の活動さえも目撃した。スワイダ県の地図を見ると、州境の70%はバディヤと接しており、実際、大規模な軍隊や治安維持隊の駐留なしには制御不可能な行政境界線となっている。県を守っていた軍隊と治安維持隊がイスラエルの敵の攻撃を受け、政府は県を効果的に守る能力を奪われた。イスラエルはドゥルーズ派を守ろうとしていたのではなく、実際にはシリア人同士の内紛状態を作り出すことを目指していたのである(右矢印1ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ヒクマト・アルハジャリあるいはその関係者がイスラエルの介入を要請したが、イスラエルはシリアの内部対立を目指していたとの見方)。
Hマイノリティが感じる恐怖右矢印1一般人から見れば、「アラウィー派に何が起こったか、ドゥルーズ派に何が起こったかを見れば、恐怖を感じるのは当然だ」と。しかし、政府は当時も今も、すべての人に手を差し伸べ、「政治的解決によって問題を解決し、いかなる紛争にも外部の勢力を巻き込まないようにしよう」と訴えている。そして、これこそが、今日私たちが改めてすべての人にお伝えしている道筋である。「交渉のテーブルに着き、政治的解決に向けて努力しよう」(右矢印1沿岸部やスワイダ事件にかかわらず、政府を信頼して、対話に努めてほしいとのメッセージ
Iシリア政府とSDF代表団(仏と米代表も出席)によるパリ会合延期の背景右矢印1延期されたのは、純粋に技術的な理由によるもので、当初は直前に調整されたものでした。実際、会談の招待状は会談日のわずか数日前に送付され、スワイダでの出来事のさなか、仲介者によってやや一方的に準備されたものであった。延期の理由は、実際にはスワイダでの出来事と重なっていたことが主な原因である。シリア政府とシリア指導部は、戦闘再開への懸念から、停戦と危機の緩和に注力していた。一方で、会談の準備には十分な時間がなかった。シリア民主軍(SDF)とシリア政府の間で、マズルーム・アブディ司令官・シャラア暫定大統領間の3月10日合意の履行に関する交渉を完了するため、近日中にパリで会談が開催される予定である。具体的な日程は暫定的に決まっており、近日中に発表される(右矢印1クルドと新生シリア政府の対話は止まっていないとの主張)。
Jシリア政府はあらゆる形態の地方分権化を拒否しているのか右矢印1まず、2つの点がある。まず、カミシュリーで行われた会合には、多くのクルド人政党や団体が集まっていた。もちろん、常に問われるのは、「これらのクルド人政党や団体は、クルド人コミュニティ全体を代表しているのだろうか?」という疑問である。シリアのクルド人として、私は実のところ、既存のクルド人グループや政党の多くに、私のような代表者が見当たらない。特に、一部のクルド強硬派が「アラブ化したクルド人」と呼ぶクルド人コミュニティを見れば、私のようなクルド人はたくさん存在する。ハマ、ラタキア、アレッポ、ダマスカスのクルド人コミュニティは、シリアのクルド人の大多数を占めているが、これらの政党には北東部で実効支配するクルド人の代表者は全くおらず、彼らとの交流も全くない(右矢印1シリア北東部を現在実効支配しているクルド人がシリアのクルド人全体を代表しているわけではないとの指摘)。今日、私たちはこう発言する。「我々はアサド政権ではない。我々はバアス・アラブ社会党でもない。我々はアラブ民族主義者でもない。なぜなら、シリア政府の立場から出発するとき、我々はアラブ民族主義の立場から出発するのではなく、すべてのシリア人を一つにするシリア国民の立場から出発するからである。」 そもそも必要のない新たな法的枠組みを作ることで解決する必要はない。例えば、シリア法では、地方自治に関する法律第107号が、行政の地方分権化のための広範な権限を与えている(右矢印1地方分権に関する法律は既に存在しているとの指摘)。
Kシリア民主軍(SDF)の立ち位置右矢印1シリア政府と米国政府は根本的な問題で一致している。それは、軍の中に軍、国家の中に国家が存在することはできないということである。我々は以前、レバノンのヒズボラ、イラクの人民動員軍(PMF)民兵、そして他の地域でも目撃してきた。軍の中に軍が存在することは、健全で安定した国家を築くことはできない。そして、これは常に国家全体の紛争と不安定化を増大させることになる。マズルーム・アブディ将軍は、シリア民主軍は過去の時代に蓄積した多くの専門知識を有していると述べており、その点に同意する。今日我々が主張するのは、シリア軍のあらゆる組織において、この専門知識を活用しようということである。なぜこの専門知識を一つの師団に限定するのか?国家がこの専門知識を活用するためには、各師団内で専門分野に応じて十分に活用されなければならない。そうすれば、一方では、シリア国家はシリア民主軍が築き上げてきた専門知識とクルド人戦闘員の専門知識を十分に活用できるようになる。他方で、他の国々がこのモデルを採用し、失敗したり、抜け出せない不安定な状態に陥ったりしたように、ある時期を経て、軍隊の中に軍隊、国家の中に国家が存在するような事態を、避けたい(右矢印1SDFは解体し、国軍に統一すべしとの考え
Lイラクのクルド人部隊ペシュメルガの先例(ペシュメルガはイラク国防システムの一部であるが、イラク国防省には統合されていない)右矢印1成功例であれ失敗例であれ、他者の経験から学ぶことに積極的であり、これは非常に重要な問題である。しかし、結局のところ、シリアの経験とシリア側の構成要素は、シリア側の構成要素の性質、文化、歴史的および近年における相互関係など、他の経験とは大きく異なる性質と特徴を持っている。したがって、我々はまず他者の経験を理解し、どこで成功し、どこで失敗したかを理解することから始めるが、私たちの経験を踏まえて構築していく必要がある(右矢印1イラク・クルディスタン地域のペシュメルガの例をそのままシリアに当てはめるわけにはいかないとの指摘
Mシリア政府による北東シリア民主自治行政機構(DAANES)の扱いについて右矢印1国家は複数の制度モデルを持つことはできません。制度モデルは一つでなければなりません(右矢印1特殊な地方自治機構の存在は原則認められないとの指摘
(コメント)2025年3月10日、シリア民主軍(SDF)のマズルーム・アブディ司令官と、シリア暫定政府のアハマド・アルシャラア暫定大統領間で覚書が締結され、この合意では、SDFと地域が国家体制に統合されることが同意された。双方は方向性では一致したものの、目指す形態は異なることが明らかになってきた。クルド側の要求は、中央政府の傘下に入るものの、求めているのは、「分権化された民主的なシリア」ということ。すなわち、シリア北東部のロジャヴァ(Rojava)と呼ばれる地域を実効支配してきた北東シリア民主自治行政機構(DAANES)による10年以上にわたる経験を踏まえて構築してきた統治機構を維持したいとの考えである。また、独立した軍隊の設立も要求しているわけではないものの、イラクのクルド人政党が維持するペシュメルガの例に倣ってSDFなどの既存の軍事組織がシリア軍に統合されつつ、シリア北東部を管轄する国軍の一部として機能し続けることである。解体されるのではなく、人々の安全を保証するために、現状のままで機能し続けることを目指している。一方、シリア暫定政府を支えるトルコの最大の目標は依然としてクルド人自治政府の解体とクルド人武装組織の武装解除である。しかし、ラタキア沿岸部(シリア人権監視団SOHRによれば、3月の騒乱でアラウィーを中心に1700名が犠牲)やスワイダ(SOHRによれば、7月20日までに1120名が犠牲)、あるいはダマスカスでのキリスト教徒への事件をみれば、武装組織を解体すれば、住民は無防備になるのではないか、シリア各地で住民が被害に遭う事件が続き、誰の安全も保証されない中で、クルド人の武装解除は住民を見捨てることにつながらないのかという懸念である。7月25日に予定されていたSDFとシリア政府間会合は一旦延期になったが、改めて開催の見通しとなっている。トルコ内でのPKKの武器放棄のセレモニーは開催されたが、その後の対応は、国会での委員会の話し合いの進展を待つ必要がある。クタイバ・イドリビ・シリア外務省アメリカ局長による他の国との比較で、新生シリア政府の対応と成果は、内戦から脱却した大多数のケースよりもはるかに良い状況にあるとの発言にかかわらず、クルド人をはじめとする少数派の不安を払しょくさせるものとはなっていない。シリア政府は新たな議会を9月にも発足させる考えであるが、議員の1/3は暫定大統領が指名し、また、シリア北東部を支配するクルド人にどれだけの議席が割り当てられるかも決定していない。SDFなどの武装解除を進めるのであれば、米軍や仏軍、あるいはアラブ軍などが暫定的に緩衝地帯を設けて、駐留するなどの対応策を示す必要があるのではないかと考えられるものの、トランプ大統領は新規駐留を支持するとは思われない。トルコでのPKKを巡る今後の展開が参考になる可能性がある
https://www.rudaw.net/english/interview/31072025

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PKK武装解除式典に参加した女性隊員のひとりは10年間の行方不明者であったことが判明[2025年07月16日(Wed)]
1.2025年7月15日のイラク・クルディスタン地域のKDP(クルド民主党)系の通信社RUDAW(ルダウ)によれば、7月11日、イラクのスレイマニヤ県で行われたトルコのクルド労働者党(PKK)戦闘員の武装解除式典で撮影された映像で、クルド人の両親が10年前に行方不明になっていた娘を見つけることができたことが判明した。同式典には、PKKの隊員男女15名ずつ合計30名が、大釜の中にカラシニコフ銃と弾丸携帯用ベルトを順番に投げ入れ、カラシニコフ銃が真っ赤に燃え上がる映像が公開された。その女性隊員のひとりが、親からは行方不明になっていたアリア・トカイ(Arya Tokay)(別名アリン・ヘブン;aka. Arin Hebun)であった。ヘブンは、2000年にトルコのマルディン県で生まれ、2014年にPKKに入隊した。母親ベシル・トカイさんは、「彼女が最初に列に並んだ時、私は娘だとは気づきませんでした。2、3分後、外から人が来て、『あなたの娘さんが彼らの中にいます』と言いました」と、ルダウ通信に語り、10年近く連絡が取れなかった娘の姿を見ることができたとのこと。ベシルさんは、「最初は信じられなかった。『10年も経ったのに、どうして娘があんな人たちの中にいるのだろう?』と思った。何の連絡もなく、娘が生きているのか死んでいるのかさえ分からなかった。夫のレザンと私は泣き崩れた」と語った。
PKKは武装解除の儀式を行い、30人の隊員と指揮官が武器を燃やしてからイラクの山岳部カンディール方面の隠れ家へと帰ったとされる。
https://www.rudaw.net/english/middleeast/turkey/15072025

2.PKK関連組織のクルディスタンコミュニティ連合(KCK)共同議長であるベセ・ホザットさんも武装解除式典に参加していた。ホザットさんの母親ゲイク・オラン(92歳)さんも、ルダウ通信に対し、娘の帰還を切望していると語った。「娘が出て行ってから会っていません。30年以上も会っていません。死んだと思っていたほどです。娘は何年も家を離れていたのです。娘が解放されて会いに来てくれることを願っています。私はいつも祈っています。」と、トルコ南東部の自宅で語った。ホザットさんはPKKが設立された1978年にデルシムで生まれ、1994年にPKKに加わり、2013年にはPKKを含む統括組織であるKCKの共同議長に選出された。共同議長は、AFP通信に対し、トルコ政府が「具体的な措置を講じ、法律を制定し、(クルド人に対し)抜本的な法改正を実施する」という条件で、PKKは「トルコに行き、政治活動を行う」ことを望んでいると語った。
https://www.rudaw.net/english/middleeast/turkey/120720251
https://www.france24.com/en/live-news/20250711-pkk-militants-want-to-enter-turkish-politics-top-commander
(コメント)PKK女性隊員のヘブンさんは、なぜ親元を密かに離れ、14歳でPKKに入隊したのか、そのリクルートの経緯は不明である。親は、彼女がなぜPKKに入り、10年間どのような活動をしてきたのかは承知していないものの、彼女の帰還を心待ちにしている。そのためにも、今後、武装解除を進めるPKKに対して、エルドアン政権がどのような措置をとるのかが注目されている。ベセ・ホザットKCK共同議長は、獄中にあるPKK創設者で今回のPKK武装解除を呼びかけたイムラリ監獄に収監中のアブドッラー・オジャラン党首の解放をまず訴えている。エルドアン政権は、PKK関連の諸課題を扱う議会委員会の設置を和平プロセスの「第一歩」となると歓迎している。PKKは、トルコ政府により長年テロ組織に指定されてきた。トルコ政府は、PKKの全面的武装解除と組織解体を要求していることは明らかである。そこで問題になるのは、オジャランやHDPデミルタシュ元共同代表の解放などに加え、武装解除されたかつての「テロ組織」の兵士たちの処遇である。このプロセスを着実かつ平和裡に進めるには、トルコ政府による元PKK隊員への恩赦と社会復帰プロセスを準備することであろう。社会復帰プログラムをトルコ政府や国際社会が支援することにより、トルコ社会にとっても元PKK隊員はもはや国民の安全への脅威ではなく、また、元PKK隊員も差別を受けることなく、一般のトルコ人と同じように仕事を見つけ、生活できるようになることが重要である。政権側とPKKとの戦闘などで約4万人が犠牲になったとされており、PKKに恨みをもっている人々もいると想像されるが、報復を防止することも重要である。ヘブンさんの母親は、娘が家庭で明るく過ごしていたことを振り返り、「とても明るく、いつも笑っていた、彼女は家の花であった」と語ったとされる。ヘブンさんの母親の願いが早期に実現することを期待したい。

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本田圭投稿「トランプ⼤統領による湾岸歴訪−中東秩序再編成に向けた『再接続』とUAEとの多層的な接続−」(ROLES REPORT No.42)のご紹介[2025年07月15日(Tue)]
東京⼤学先端科学技術研究センター創発戦略研究オープンラボ(ROLES)発行のROLES REPORT No.42にUAE在住の本⽥ 圭さん(Kei HONDA)執筆の「トランプ⼤統領による湾岸歴訪−中東秩序再編成に向けた『再接続』とUAEとの多層的な接続−」2025.07が掲載されています。トランプ大統領は、第一期目に続いて、第二期目も中東訪問を初の外遊先に選択し、今回はサウジアラビア、カタール、UAEの順に訪問しました。本田さんは、UAEを「グローバルサウスにおけるAI・テクノロジーの中継拠点」かつ「⻄側と制度的に接続可能なモデル国家」として位置づけているとの見方をとられています。UAEは、2020年8月のイスラエルとの国交正常化以降、ハイテク分野などで同国との戦略的関係強化に努めつつ、2024年1月以降BRICSの正式メンバーとして、中国やロシアとも関係を強化・維持し、また、米国には今後10年間でAI・先端技術を中心に1.4兆ドルを投資すると表明するなど全方位外交を展開している注目国です。UAE駐在が長い本田さんの投稿には、現地で感じた視点が含まれており、ぜひご一読ください。
https://roles.rcast.u-tokyo.ac.jp/publication/20250708

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PKKの武器廃棄セレモニーの開催[2025年07月12日(Sat)]
2025年7月11日、イラクのクルディスタン自治区のスレイマニヤで、午前11時25分から、午前11時45分に、PKKゲリラグループ(「平和と民主的社会のためグループ」と称する)が、武器放棄をアピールする記念式典が開催された。式典には、クルディスタン・コミュニティ連合(KCK)執行委員会共同議長のベセ・ホザット氏、ネディム・セブン氏、テコシン・オザン氏、テキン・ムシュ氏も出席した。ベセ・ホザット氏とネディム・セブン氏に率いられた、女性ゲリラ15名と男性ゲリラ15名からなる30名のグループが式典会場に入った。
式典で最初に演説したベセ・ホザト氏は、「我々はアポ指導者(アブドッラー・オジャラン氏)の呼びかけに応じ、我々の立場を決定すべくここに来た。我々は、このプロセスに弾みをつけるため、否認と殲滅に抗うために武器を取り上げることとした。我々は自由の闘士である。我々は、アポ指導者の呼びかけ、2月27日の呼びかけ、そしてPKK第12回大会の決定に応えて、この措置を講じる」と述べた。
 声明の朗読後、ベセ・ホザト氏は再び演説を行い、「これらすべてを継続し、実現させるためには、法的規制が必要である。このプロセスへの道を開くために武器を破壊した、と付け加えた。 声明とホザト氏の演説の後、ゲリラ戦闘員たちは武器とベルトを燃やした。ゲリラ戦闘員たちがその地域から立ち去り、式典は終了した。
https://anfenglishmobile.com/kurdistan/30-guerrillas-led-by-bese-hozat-lays-down-arms-80236

(参考1)7月11日のPKKを代表する「平和と民主的社会のためのグループ」声明
「平和と民主的社会のためのグループ」は、本日(7月11日)、南クルディスタン(イラク北部)のスレイマニヤ県郊外で行われた武装解除式典において、以下の声明を発表した。
わが人民と皆様へ
民主的な変化と変革のプロセスを加速させるために結成された「平和と民主的社会のためのグループ」の一員として、皆様と、私たちの歴史的な民主主義への動きを目の当たりにしてくださったすべての皆様に、謹んでご挨拶申し上げます。
クルド人の存在を否定と殲滅の攻撃から守るため、私たちは男女を問わず、自由の闘士として、様々な時期にPKKに加わり、様々な地域で自由のための闘争を繰り広げてきました。私たちは今、2025年6月19日にクルド人民党の指導者アブドッラー・オジャラン氏が行った呼びかけに応えるためにここにいます。同時に、私たちのこの訪問は、指導者アブドッラー氏が2025年2月27日に行なった呼びかけ、そしてPKK第12回大会の決議に基づいています。 2025年5月5日から7日に(臨時党大会が)招集されました。
「平和と民主社会のためのプロセス」の現実的成功を確実にし、民主的統合のための法律を制定し、合法的かつ民主的な政治の方法を用いて、自由、民主主義、そして社会主義の闘争を遂行するため、善意と決意の一歩として、皆様の前で自発的に武器を廃棄します。
この一歩が平和と自由をもたらし、我が国民、トルコと中東の人々、そして全人類、特に女性と若者にとって幸先の良い結果をもたらすことを願います。
私は武器ではなく、政治と社会平和の力を信じており、皆様にこの原則を実践するよう呼びかけます」と述べたアブドッラー・オジャラン指導者の発言に、私たちは心から賛同します。私たちは、この歴史的原則のために必要なことを行うことに大きな誇りと栄誉を感じています。
皆様ご存知のとおり、物事は容易に、無償で、闘争なしに達成されたわけではありません。むしろ、すべての成果は、歯を食いしばる闘争と、そして…爪。そして、その後には必ずや、たゆまぬ闘争が必要となるでしょう。私たちはこの事実をよく理解しており、さらなる民主的成果を確保するため、指導者アブドッラー・オジャランの洞察とパラダイムを心から信じ、私たち自身と同志共同体の集合的な力を信じています。
世界中で高まるファシズムの圧力と搾取、そして中東における現在の流血の惨事を考えると、私たちの国民はこれまで以上に平和で自由、平等で民主的な生活を必要としています。このような状況において、私たちは私たちが踏み出した一歩の偉大さ、正義、そして緊急性を深く感じ、理解しています。
若者、女性、労働者、社会主義勢力、民主主義勢力、すべての民族、そして人類、すべての人々が、平和と民主主義のための私たちの一歩の歴史的価値を認識し、理解し、高く評価してくれることを願っています。
私たちは、私たちの国民の苦しみに責任を負う地域および世界の勢力に対し、私たちの国民の最大限の正当な民主的権利と国民的権利を尊重するよう呼びかけます。 「平和と民主的な社会」へのプロセスを支持します。
我々は、すべての人民、社会主義・民主主義界隈、知識人、作家、学者、法律家、芸術家、そして政治家に対し、我々の歴史的歩みを正しく理解し、我々人民と連帯するよう呼びかけます。また、アブドッラー・オジャラン指導者の身体的自由とクルド問題の民主的解決のための闘争に、より積極的に参加し、世界的な民主社会主義インターナショナルの闘争と連帯を発展させ、強化するよう呼びかけます。
我々は、我々人民とその政治勢力に対し、アポ(オジャランのこと)指導者によって発展させられた「平和と民主的な社会」への歴史的プロセスの特徴を正しく理解し、教育、組織、運営の分野における義務と責任を着実に果たし、民主的な生活を築くよう呼びかけます。抑圧と搾取は終焉し、自由と連帯が勝利します。「平和と民主的な社会」へのプロセスは必ず成功します。

(参考2)トルコとイラクのクルド指導者発言
@エルドアン大統領:この一歩の重要性を強調し、「本日の重要な一歩が良い結果をもたらすことを願います。アッラーが、我々が国の安全、国民の平和、そして地域における永続的な平和の確立のために歩むこの道において、我々の目標達成を成功へと導いてくださいますように」と付け加えた。
AバフチェリMHP(民族主義行動党)代表:最新のビデオメッセージで明らかになったように、PKKの創設指導部は約束を守り、その責任を果たし、世界および地域の脅威をタイムリーに予見してきた。人民平等民主主義党(DEM)が慎重かつ責任ある政治的立場を維持したことを称賛する。当初から『テロのないトルコ』という国家政策を支持し、あらゆる犠牲を払ってきた我々の大統領と政府は、このプロセスを全面的に支持してきた。本日、組織が集団で武器を引き渡し始めており、暗黒時代が歴史的な終焉を迎えつつある。挑発的な雰囲気を維持するために搾取、中傷、否定に明け暮れる政治・思想界は、希望が芽生え平和と安定の風潮が広がる中で、失望を味わっている。実に、私たちは国家と地域にとって極めて重要な日々を過ごしている。心に安らぎをもたらすこれらの前向きな進展は、一つの節目であり、集団の良心は喜ばしいものである。『テロのないトルコ』の実現に貢献し、行動し、支援してくださったすべての人々、特に大統領に感謝の意を表する。そして、この新しい時代が私たちの愛する国家にとって幸先の良いものとなるよう、全能の神に祈りを捧げます。
BバルザーニKDP党首:和平プロセスの範囲内で講じられた措置は正当であり、肯定的な結果に至るには忍耐と努力が必要。KDP党首は、解決プロセスの成功のためにあらゆる努力を惜しまない。
Cバーフェル・タラバーニPUK党首:今こそ傷を癒し、北クルディスタンとトルコに平和と共存に基づく新たな章を開く時

(コメント)今回の7月11日にイラクのスレイマニヤで開催されたPKKの武器放棄の式典は、本年2月27日のPKK創始者で指導者のアブドッラー・オジャランの呼びかけにPKKが応じ、5月の臨時党大会を経て、武装解除と組織解体が決議されたことを踏まえ開催された。オジャランの呼びかけの背景には、MHPバフチェリ代表が、エルドアン大統領との間で「テロのないトルコ」構想を打ち上げ、それにオジャランが応えたものであるが、トルコ政府はクルド系DEM党のイムラリ刑務所への訪問を認め、プロセスをサポートしてきた。そもそも政府と反政府武装勢力との和平プロセスは容易ではない。このような動きが出てきても、それに反発するグループが離脱したり、政府軍が、途中で武装勢力側への攻撃を継続したりして、途中でプロセスが挫折することも多い。そうした中で、今回のPKK側の武装放棄の式典は、オジャランの呼びかけに応じて、武装解除する意思を改めてアピールすることで、エルドアン政権側の具体的措置を促しているものととらえることができる。そのための第一歩として、トルコ国民議会内に特別委員会を議会内に設け、必要な法律の策定等に取り組むことが期待されている。その進捗状況を踏まえ、アブドッラー・オジャランは解放されるのか、デミルタシュ元HDP共同代表などクルド系政党の受刑者の釈放は実現するのか、武器を放棄した元PKK戦闘員にエルドアン政権は恩赦を与え、社会復帰させるのか、などを確認しつつ、PKKは全面的武装解除と組織解体に踏み切るものとみられる。今回の、セレモニーには、イラクのクルド自治政府が全面的に協力しており、また、事前にトルコ情報局幹部がクルド自治政府を訪問して、PKK問題を協議しており、PKKの解体が現実のものとなり、トルコ政府とクルド人勢力の関係が改善すれば、イラク山岳部のPKK基地の解体だけでなく、シリアのクルド人武装勢力の武装解除にも良い影響がでることが期待される。

Posted by 八木 at 10:51 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

ハマスが受け入れを伝えた米提案のガザ停戦プランの具体的内容と今後の段取り[2025年07月05日(Sat)]
7月3日マヤディーン紙が、イスラエルのメディアi24NEWSをベースに報じたところによれば、米国政府が計画し、カタールが仲介するガザ停戦合意案の条件と段取りが明らかになった。イスラエルはすでに合意しており、ハマスも関係国に同意の意向を伝えたとされる。
1.イスラエル:イスラエルは60日間の停戦期間後も、一定の条件付きで戦争終結に向けた交渉を再開することに同意した。トランプ政権が、協議が真剣であると判断した場合、停戦を60日間延長することがありえるとのこと。この間、米国大統領は停戦の継続を確保することを約束する。しかし、イスラエルは戦争終結を約束したのではなく、終結に向けた対話を行うことを約束したとされる。停戦期間中のイスラエル軍撤退の範囲については、撤退規模とイスラエル軍の今後の展開について交渉が継続中であるとのこと。
2.ハマス:イスラム組織ハマスは、米国が提示したパレスチナ自治区ガザでのイスラエルとの停戦案に対し「前向きな精神」で7月4日に回答したと明らかにし、人質解放と紛争終結に向け直ちに協議に入る用意があると表明した。ハマスは公式ウェブサイトで、 最新提案を巡る内部協議が完了し、仲介者に前向きな精神をもって回答を提出し、全ての真剣さをもって、 この枠組みを実施するための新たな交渉に 直ちに入る完全な準備ができているとした。
3.停戦プランとその後の具体的段取り
(1)停戦プランの捕虜解放・遺体返還スケジュール(生存捕虜10名と遺体18体)は次のとおり。その見返りとして、2ヶ月間の停戦が実施され、その間に双方がそれぞれの要求を提示し、戦争の恒久的な終結に向けた交渉が行われる。
1日目:生存捕虜8体の解放
• 7日目:遺体5体の返還
• 30日目:追加遺体5体の返還
• 50日目:生存捕虜2体の解放
• 60日目:追加遺体8体の返還

(2)初動段階での取り組み
ハマスが提案を受け入れ次第、十分な量の人道支援が直ちに提供される。支援は国連と赤新月社の監督下で提供される。
初日、捕虜8人の解放後、「イスラエル」は事前に合意された地図に基づきガザ北部からの撤退を開始する。7日目には、5人の遺体の帰還後、ガザ南部からの撤退を開始する。さらに、技術チームが迅速なフォローアップ交渉を行い、撤退境界線の確定に取り組む。
10日目には、ハマスは残存するすべての捕虜に関する完全な情報(生存証明、医療記録、死亡確認)を提供する。これに対し、「イスラエル」は2023年10月7日以降に拘留されているパレスチナ人捕虜に関する包括的なデータを共有する。
(3)長期交渉
停戦初日から恒久的な停戦に向けた交渉が開始される。 2日目には、以下の4つの主要分野に関する協議が開始される。
@残存捕虜交換の基準
A恒久停戦の宣言
Bガザにおける長期的な安全保障体制
C国際保証へのコミットメント

トランプ政権下の米国は、真剣な交渉が続けば2ヶ月間、そして場合によってはそれ以降も停戦を保証することを約束。捕虜交換中は、前回のようなハマス側の解放セレモニーのようなものは行わない
(コメント)ガザ停戦に向けた希望が再び出てきた。本年1月に発行した停戦第一弾は、3月には更新されず、それ以降もイスラエルの攻撃で「ガザ人道財団」が運営する食糧配給所などに集まった人々への銃撃も含め連日死者多数が発生しており、7月2日までの時点で、ガザ保健当局によれば23年10月のガザ危機発生以降の死者数は5万7千人を超えている。ハマス側に捕らえられている生存者数も数えるほどになってきており、生存者の生還は、連日抗議デモに晒されているネタニヤフ政権にとっても最重要課題になってきていることは疑いない。今回の停戦合意は、発行しても前回同様60日間とされており、更新されるのかは予断を許さない。しかし、仲介国カタールが独特の存在感を示し、ハマスも崖っぷちまで追い込まれており、この機会を逃すと持続的停戦の機会を失うことになるため、停戦案に応じるしか選択肢はないと判断したものとみられる。
https://english.almayadeen.net/news/politics/qatari-backed-gaza-ceasefire-proposal--what-does-it-include
https://jp.reuters.com/world/security/77EDS2BC2NNR7CFRFKR2TE2AA4-2025-07-04/

Posted by 八木 at 10:20 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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