2025年7月31日、シリア外務省のアメリカ担当局長クタイバ・イドリビ氏は、イラクKDP系通信社ルダウとの独占インタビューで、
シリアの新指導部は行政の地方分権化を支持するものの、「軍隊の中に軍隊、国家の中に国家」という考え方は拒否すると述べた。クタイバ局長の発言は、米トランプ政権との良好な関係維持を基本としつつ、シ
リア北東部を実効支配するクルド人勢力に対する現在のシリア政府とその後ろ盾のトルコ政府の意向を体現するものとして興味深いので、主要点を紹介する。
@シリア・米国関係

両国は、ダマスカスとワシントンの間に、両国と両国民を結ぶ
鉄の橋を架けようとしている
A新生シリアの役割

シリアは、イラン民兵が撤退した後、シリアはイラン民兵と(イランと連携するレバノンの)ヒズボラ(運動)の地域への再進出を阻止し、それらに伴う不安定化や破壊行為を防ぐ主要な障壁となっている(かつて、アサド政権下で、イラン民兵とヒズボラは政権を支えたが、
逆に新政権は、それらの防波堤になるとの意向の表明)
Bイスラエルとの関係と懸案処理に対する考え方

イスラエルは、その初日からシリアの軍事施設を700回以上攻撃し、シリア国民全体、特にシリア政府に対する敵対的と言えるメッセージを数多く発信してきた。もちろん、イスラエルが最近行ったのは、ダマスカスの国防省庁舎への侵攻と爆撃、そして2週間前にスワイダ県の内務省を治安部隊が砲撃である。一方、我々は、イスラエルとの間で政治的枠組みを通じて、問題を解決することに前向きである(
米政権との良好な関係維持のためには、攻撃されてもイスラエルとは武力対峙せず、対話を続けるとの考えの表明)
C米国の対シリア制裁(米下院におけるシリアに対する制裁措置(具体的にはシーザー法)即時解除には至らず)

(米議会の動きは)必ずしも米国民の方向性を表明するものではない。この問題に関する最終決定は、リヤドでの投資会議で米国の対シリア政策を明確にしたトランプ大統領の発言を待つべき。トランプ大統領がこの政策を変更しない限り、むしろ、リヤドの会議でトランプ大統領が示した政策を米政権が全面的に確認するのであれば、道筋は明確であり、この点における米国民の声も明確である(
トランプ大統領は議会を説得できるとの期待)。
D米国の対シリア制裁解除への見通し

トランプ大統領は、これまで大統領令および大統領決定によって発令されていたすべての大統領令と制裁措置を全面的に解除した。そして、それは6月実現した。残りの制裁措置の解除には、法的および政治的なプロセスが必要であり、当然ながら長い時間がかかる。例えば、1979年に指定されたシリアのテロ支援国家指定を解除するには、大統領が議会に対シリア政策の変更を示唆してから少なくとも6ヶ月かかる。シーザー法についても、共和党内および民主党との審議と協議に時間がかかるため、当然ながら時間がかかる。これら2つの法律は、現状では制裁の全面解除を阻む唯一の障害となっている。ですから、制裁解除への自然な道筋があると考えている。スワイダで起きた不幸な出来事、そしてそれに関連して起きたこと、特にイスラエル側による、これらの出来事を政治的目的に利用するためのメディアによる誤解を招く行為は、制裁解除のプロセスを遅らせる効果があったかもしれないが、道筋に完全に影響を及ぼすとは思わない(
シーザー法の解除には時間がかかるとの見方)。
Eアサド政権崩壊後の新生シリア政府の治安安定の成果

解放後、我々が目にした安定状態は、主に政府の努力によるものだが、同時に、シリア全土を守る道はこれだという、シリア国民全員の集団的コミットメントとも言えるものの成果でもあった。この集団的コミットメントは、政府や国家の能力に依存するものではなく、特にまだ新生国家である以上、政府や国家がそれを守る能力に依存するものではないため、当然ながら極めて重要である。ラタキア沿岸部で実際に起こった問題は、この道が破られたことでした。少なくともシリア国民の大部分、そして社会の大部分の観点から見れば、アサド政権と関係のあるグループが待ち伏せ攻撃を仕掛け、治安部隊員を襲撃し、多数の死者を出した事件は、時を巻き戻そうとする試みがあったというシグナルである。内戦後のどの国の枠組みを見ても、内戦から脱却した国の約90%が、この社会的コミットメントの恒久的な違反により、数ヶ月以内に再び内戦状態に戻っている。これまでのところ、今日のシリアの状況とこれらのケースの状況を比較すると、我々は内戦から脱却した大多数のケースよりもはるかに良い状況にある。これは、政府の努力だけでなく、今日のシリア国民の結束と連帯によるものと考えられる(
ラタキアの事件に拘わらず、新政権はうまく対処していることを誇示)。
Fスワイダ事変

スワイダで起きた出来事は、沿岸部で起きたことと性質が似ている。アサド政権と繋がりを持つグループが出現し、シリア解放以来スワイダに拠点を置いているが、いかなる合意も遵守していない。シリア政府は、事態が悪化する前に阻止しようと試み、スワイダのコミュニティリーダーたちにも、初日から「これらの事件がエスカレートして制御不能にならないように、沿岸部で起こったような出来事が繰り返されないように、そして社会に誤ったメッセージが送られないように、共に協力しよう」という明確なメッセージを送付した。スワイダのコミュニティリーダーたちと、(ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ハムード・アルヒンナウィー、シェイク・ユーセフ・アルジャルブー、そしてスワイダの武装組織の多くのリーダーたち、ライース・アルバルースだけでなくスレイマン・アブデル・バキーらも大いに協力した(
スワイダ事件に関し、多くのドゥルーズ派指導者は政府との対立を望んでいなかったとの見方)。
G誰が、スワイダ事変を主導したのか

ある政党、特に、ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ヒクマト・アルハジャリと関係のある政党が、この軍事状況を終結させるという国家の選択肢に対する県内での支持状況に満足せず、イスラエル側に要請した。イスラエルの介入開始から数時間、スワイダ市内にはシリア軍も国防省の部隊も存在しなかった。実際、政府は不必要な衝突や違反を避けるため、国防省の部隊を撤退させ、直ちに治安維持隊を展開した。なぜなら、軍が民間人の居住地に入る場合、間接的な衝突や違反の可能性は常に存在するからであった。基本的に、初日から政府が主導権を握り、軍を撤退させ、治安維持隊を展開した。ハジャリ師と提携する勢力や組織は、ハジャリ師の同意の有無にかかわらず、イスラエル側に要請を行い、イスラエル側はスワイダ市内の治安部隊だけでなく、県周辺の治安維持隊の展開にも攻撃を仕掛けた。その結果、スワイダは誰からの攻撃にも無防備になり、ベドウィン勢力や部族による「ファザート」(自発的な動員)だけでなく、バディヤ(シリア砂漠)から押し寄せたISISグループの現実の活動さえも目撃した。スワイダ県の地図を見ると、州境の70%はバディヤと接しており、実際、大規模な軍隊や治安維持隊の駐留なしには制御不可能な行政境界線となっている。県を守っていた軍隊と治安維持隊がイスラエルの敵の攻撃を受け、政府は県を効果的に守る能力を奪われた。イスラエルはドゥルーズ派を守ろうとしていたのではなく、実際にはシリア人同士の内紛状態を作り出すことを目指していたのである(
ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ヒクマト・アルハジャリあるいはその関係者がイスラエルの介入を要請したが、イスラエルはシリアの内部対立を目指していたとの見方)。
Hマイノリティが感じる恐怖

一般人から見れば、「アラウィー派に何が起こったか、ドゥルーズ派に何が起こったかを見れば、恐怖を感じるのは当然だ」と。しかし、政府は当時も今も、すべての人に手を差し伸べ、「政治的解決によって問題を解決し、いかなる紛争にも外部の勢力を巻き込まないようにしよう」と訴えている。そして、これこそが、今日私たちが改めてすべての人にお伝えしている道筋である。「交渉のテーブルに着き、政治的解決に向けて努力しよう」(
沿岸部やスワイダ事件にかかわらず、政府を信頼して、対話に努めてほしいとのメッセージ)
Iシリア政府とSDF代表団(仏と米代表も出席)によるパリ会合延期の背景

延期されたのは、純粋に技術的な理由によるもので、当初は直前に調整されたものでした。実際、会談の招待状は会談日のわずか数日前に送付され、スワイダでの出来事のさなか、仲介者によってやや一方的に準備されたものであった。延期の理由は、実際にはスワイダでの出来事と重なっていたことが主な原因である。シリア政府とシリア指導部は、戦闘再開への懸念から、停戦と危機の緩和に注力していた。一方で、会談の準備には十分な時間がなかった。シリア民主軍(SDF)とシリア政府の間で、マズルーム・アブディ司令官・シャラア暫定大統領間の3月10日合意の履行に関する交渉を完了するため、近日中にパリで会談が開催される予定である。具体的な日程は暫定的に決まっており、近日中に発表される(
クルドと新生シリア政府の対話は止まっていないとの主張)。
Jシリア政府はあらゆる形態の地方分権化を拒否しているのか

まず、2つの点がある。まず、カミシュリーで行われた会合には、多くのクルド人政党や団体が集まっていた。もちろん、常に問われるのは、「これらのクルド人政党や団体は、クルド人コミュニティ全体を代表しているのだろうか?」という疑問である。シリアのクルド人として、私は実のところ、既存のクルド人グループや政党の多くに、私のような代表者が見当たらない。特に、一部のクルド強硬派が「アラブ化したクルド人」と呼ぶクルド人コミュニティを見れば、私のようなクルド人はたくさん存在する。ハマ、ラタキア、アレッポ、ダマスカスのクルド人コミュニティは、シリアのクルド人の大多数を占めているが、これらの政党には北東部で実効支配するクルド人の代表者は全くおらず、彼らとの交流も全くない(
シリア北東部を現在実効支配しているクルド人がシリアのクルド人全体を代表しているわけではないとの指摘)。今日、私たちはこう発言する。「我々はアサド政権ではない。我々はバアス・アラブ社会党でもない。我々はアラブ民族主義者でもない。なぜなら、シリア政府の立場から出発するとき、我々はアラブ民族主義の立場から出発するのではなく、すべてのシリア人を一つにするシリア国民の立場から出発するからである。」 そもそも必要のない新たな法的枠組みを作ることで解決する必要はない。例えば、シリア法では、地方自治に関する法律第107号が、行政の地方分権化のための広範な権限を与えている(
地方分権に関する法律は既に存在しているとの指摘)。
Kシリア民主軍(SDF)の立ち位置

シリア政府と米国政府は根本的な問題で一致している。それは、軍の中に軍、国家の中に国家が存在することはできないということである。我々は以前、レバノンのヒズボラ、イラクの人民動員軍(PMF)民兵、そして他の地域でも目撃してきた。軍の中に軍が存在することは、健全で安定した国家を築くことはできない。そして、これは常に国家全体の紛争と不安定化を増大させることになる。マズルーム・アブディ将軍は、シリア民主軍は過去の時代に蓄積した多くの専門知識を有していると述べており、その点に同意する。今日我々が主張するのは、シリア軍のあらゆる組織において、この専門知識を活用しようということである。なぜこの専門知識を一つの師団に限定するのか?国家がこの専門知識を活用するためには、各師団内で専門分野に応じて十分に活用されなければならない。そうすれば、一方では、シリア国家はシリア民主軍が築き上げてきた専門知識とクルド人戦闘員の専門知識を十分に活用できるようになる。他方で、他の国々がこのモデルを採用し、失敗したり、抜け出せない不安定な状態に陥ったりしたように、ある時期を経て、軍隊の中に軍隊、国家の中に国家が存在するような事態を、避けたい(
SDFは解体し、国軍に統一すべしとの考え)
Lイラクのクルド人部隊ペシュメルガの先例(ペシュメルガはイラク国防システムの一部であるが、イラク国防省には統合されていない)

成功例であれ失敗例であれ、他者の経験から学ぶことに積極的であり、これは非常に重要な問題である。しかし、結局のところ、シリアの経験とシリア側の構成要素は、シリア側の構成要素の性質、文化、歴史的および近年における相互関係など、他の経験とは大きく異なる性質と特徴を持っている。したがって、我々はまず他者の経験を理解し、どこで成功し、どこで失敗したかを理解することから始めるが、私たちの経験を踏まえて構築していく必要がある(
イラク・クルディスタン地域のペシュメルガの例をそのままシリアに当てはめるわけにはいかないとの指摘)
Mシリア政府による北東シリア民主自治行政機構(DAANES)の扱いについて

国家は複数の制度モデルを持つことはできません。制度モデルは一つでなければなりません(
特殊な地方自治機構の存在は原則認められないとの指摘)
(コメント)
2025年3月10日、シリア民主軍(SDF)のマズルーム・アブディ司令官と、シリア暫定政府のアハマド・アルシャラア暫定大統領間で覚書が締結され、この合意では、SDFと地域が国家体制に統合されることが同意された。
双方は方向性では一致したものの、目指す形態は異なることが明らかになってきた。クルド側の要求は、中央政府の傘下に入るものの、求めているのは、
「分権化された民主的なシリア」ということ。すなわち、シリア北東部の
ロジャヴァ(Rojava)と呼ばれる地域を実効支配してきた北東シリア民主自治行政機構(DAANES)による10年以上にわたる経験を踏まえて構築してきた統治機構を維持したいとの考えである。また、独立した軍隊の設立も要求しているわけではないものの、イ
ラクのクルド人政党が維持するペシュメルガの例に倣ってSDFなどの既存の軍事組織がシリア軍に統合されつつ、シリア北東部を管轄する国軍の一部として機能し続けることである。解体されるのではなく、人々の安全を保証するために、現状のままで機能し続けることを目指している。一方、
シリア暫定政府を支えるトルコの最大の目標は依然としてクルド人自治政府の解体とクルド人武装組織の武装解除である。しかし、
ラタキア沿岸部(シリア人権監視団SOHRによれば、3月の騒乱でアラウィーを中心に1700名が犠牲)やスワイダ(SOHRによれば、7月20日までに1120名が犠牲)、あるいはダマスカスでのキリスト教徒への事件をみれば、
武装組織を解体すれば、住民は無防備になるのではないか、シリア各地で住民が被害に遭う事件が続き、誰の安全も保証されない中で、クルド人の武装解除は住民を見捨てることにつながらないのかという懸念である。7月25日に予定されていたSDFとシリア政府間会合は一旦延期になったが、改めて開催の見通しとなっている。トルコ内でのPKKの武器放棄のセレモニーは開催されたが、その後の対応は、国会での委員会の話し合いの進展を待つ必要がある。クタイバ・イドリビ・シリア外務省アメリカ局長による
他の国との比較で、新生シリア政府の対応と成果は、内戦から脱却した大多数のケースよりもはるかに良い状況にあるとの発言にかかわらず、クルド人をはじめとする少数派の不安を払しょくさせるものとはなっていない。シリア政府は
新たな議会を9月にも発足させる考えであるが、議員の1/3は暫定大統領が指名し、また、シリア北東部を支配するクルド人にどれだけの議席が割り当てられるかも決定していない。SDFなどの武装解除を進めるのであれば、
米軍や仏軍、あるいはアラブ軍などが暫定的に緩衝地帯を設けて、駐留するなどの対応策を示す必要があるのではないかと考えられるものの、トランプ大統領は新規駐留を支持するとは思われない。
トルコでのPKKを巡る今後の展開が参考になる可能性がある。
https://www.rudaw.net/english/interview/31072025