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急速に進展するシリアとトルコの関係回復に向けての動き[2024年07月12日(Fri)]
トルコのエルドアン大統領は、10年以上前のシリア内戦勃発時に断絶したトルコとシリアの外交関係の回復を妨げる障害はないと述べ、両隣国が緊張を終わらせ関係を正常化する意向を示した。
1.エルドアン大統領のシリア関係改善に向けての最近の発言
(24年6月28日)(外交関係を)樹立しない理由はない。過去にシリアとの関係を維持したのと同じように、アサド大統領とは家族との面会も含めた会見を行ったが、二度とそのようなことは起こらないとは言えない(注:関係が悪化する前の2008年にエルドアン大統領とアサド大統領の家族がトルコ南部で休暇を過ごしたことを含めて指摘しているとのこと)。我々がシリアの内政に干渉する目的を持っていることはありえない。シリアの人々は我々の兄弟だ。
(24年7月5日)ロシアとシリアの大統領をトルコに招待し、アンカラとダマスカスの関係正常化の可能性とシリア情勢全般の解決について話し合うことを検討している。プーチン氏がトルコを訪問できれば、トルコとシリアの関係正常化の新たなプロセスの始まりとなるかもしれない、として「恒久的な解決メカニズム」の設立を求めた。

(2)2024年6月26日、アサド大統領はロシアのプーチン大統領のシリア特使アレクサンダー・ラヴレンチェフ氏に対し、シリア政府は「トルコとの関係改善に向けたあらゆる取り組みにオープンである。ただし、そのプロセスが主権の尊重とシリア国家が国土全体に対する権威を回復したいという願望に基づくものである場合に限られる」と語った。(参考:トルコは、2018年1月の「オリーブの枝」作戦によりシリア北西部アフリーン地区、2016年8月の「ユーフラテスの盾」作戦によりジャラブルス以西のユーフラテス川西部、2019年10月の「平和の泉」作戦によりユーフラテス川東部の帯状地帯に進軍し、支配を継続している)

(3)ラヴレンチェフ特使は、アサド大統領は「一方ではシリア国家の全領土に対する主権に基づき、他方ではあらゆる形態のテロリズムとその組織と闘うことを基盤として、シリアとトルコの関係に関連するあらゆる取り組みに対してシリアがオープンである」ことを明言した。ロシア特使はこれに対し、「現在の状況はこれまで以上に調停の成功に適しているように思われ、ロシアは交渉を前進させる準備ができており、目標はシリアとトルコの関係修復に成功することである」と述べたと、シリア国営通信社SANAが報じた。

(4)トルコ野党指導者の示唆
2024年6月29日、CHPのリーダーであるオズグル・オゼルは、1か月または1か月半以内にシリアでシリアのアサド大統領と会談する予定であると述べた。「私たちはアサドとの裏外交を支持しており、結果は非常に良好。今後1か月または1か月半以内に、うまくいけば、保証はできないが、アサドと会う予定。その前に、トルコの外務大臣やエルドアン大統領と会うかもしれない」とオゼルはジャーナリストのファティ・アルタイリとのインタビューで語った。

(5)シリア反体制派の反発
6月28日、反体制派が支配するシリアの都市イドリブと周辺地域に数百人のデモ参加者が集まり、シリア内戦勃発以来初めて、政府支配地域とアレッポ県のトルコ支援反体制派支配地域を結ぶ主要検問所が商業交通に間もなく再開されるという報道に抗議した。デモ参加者らは「政権との検問所を開放するのは犯罪であり、殉教者の血に対する裏切りだ」と書かれた横断幕を掲げ、「検問所を開放するのではなく、戦闘を開始せよ」と訴えた。(参考:シリアのイドリブ地区は、アサド政権側に反旗を翻したシリア反体制派の最後の拠点で、アルカーイダ系とされるシャーム解放機構勢力(HTS)やトルコが影響力を有する自由シリア軍(SNA)他の勢力など家族を含め300万人、400万人が居住しているとされる。2017年1月に開始されたトルコ、ロシア、イランが主導するアスタナ・プロセスで、政府軍側と反体制派側の緊張緩和、停戦が実現したが、反体制派は、アサド退陣を掲げ、関係修復の見通しは立っていない)

(6)トルコ国民のシリア難民への反発
6月末、シリアのアル・ワタン紙がトルコとダマスカスの関係正常化の可能性を報じた直後、国中で騒乱が勃発した。6月30日深夜、中央州カイセリ市で始まった。これは、26歳のシリア人による7歳の少女への強姦疑惑が地元メディアで報じられた後に起きた。激怒した住民は車をひっくり返し、移民を襲撃し、トルコからの難民全員の国外追放を要求した。暴徒たちは反政府スローガンを連呼し、エルドアンの辞任を要求した。その後、抗議活動はアラニヤ、アンタルヤ、コンヤ、イスタンブール、アンカラ、ブルサなどの大都市に広がった。7月2日、ソーシャルメディアでの声明で、アリ・イェルリカヤ内務大臣は暴動参加者474人の逮捕を発表した(参考:トルコは、シリア難民を難民条約の義務としてではなく、「一時的な保護」対象者として、最大370万人、最近の数字でも310万人前後のシリア人を受け入れており、そのほとんどが都市部で生活しているとされる。義務教育や医療も提供され、就労も条件付きで認められている。しかし、トルコの財政的、社会的、経済的負担は大きく、2011年以来、トルコは難民のための人道支援、医療、教育、インフラ整備に400億ドル以上を費やし、シリア難民1人当たりのコストは年間約8,000ドルに上ると主張しているとされる。トルコ国民とシリア難民間の摩擦もたびたび伝えられ、2023年5月の大統領選挙や、2024年3月の統一地方選挙でも、シリア難民問題は選挙運動の争点にもなってきた。2023年の大統領選挙では、クルチダルオール野党統一候補は、2年以内のシリア人の本国帰還を目指すとしていた。エルドアン政権は、トルコが実効支配するシリア領内にシリア人の町を建設し、そこに100万〜200万人規模のシリア人を帰還させる計画を打ち上げていた
https://blog.canpan.info/meis/archive/538
https://apnews.com/article/turkey-syria-diplomatic-relations-ec9876ed10183ef235c38ca387ac4731#
https://www.rt.com/news/600877-russia-wants-peace-middle-east/

(コメント)エルドアン大統領は、シリア内戦ぼっ発後、険悪な仲となり一時退陣を強く求めていたシリアのバッシャール・アサド大統領を家族ぐるみで交流したこともある「古くからの友人」と称し、関係改善に意欲を示した。欧米諸国は、依然アサド大統領の退陣を求め、シリアに厳しい経済制裁を科しており、2011年の内戦ぼっ発後も、シリアへの自主帰還を果たすシリア人は一向に増えていない(2016年〜23年末までのシリア人自主帰還者数は39万人強)。欧州に移動し、庇護申請を求めるシリア人も再び増加している。シリア内戦開始から12年経過した2023年段階でも、EUへのシリア人新規庇護申請者は約18万人と、出身国別でアフガニスタンを上回り、 3年連続で第一位で、増加傾向にある。トップの申請先は約10万人のドイツとなっている。
エルドアン大統領は、2023年の大統領選挙には勝利したが、2024年の統一地方選挙では、シリア難民問題の早期解決を訴える野党CHP(共和人民党)の躍進をうけ、この問題を、放置できない状況に追い込まれつつある。シリアは、2023年5月にアラブ連盟復帰を果たし、トルコは一時期冷却していたサウジアラビア、UAE、エジプトとの関係を改善しており、これらの主要国がアサド政権を認める方向に転じた今、トルコが、隣国シリアとの関係を悪化したまま放置するメリットは乏しい。トルコは、クルド労働者党(PKK)とPKKと同根とみなすシリアのクルド人武装勢力YPG(クルド人民防衛隊)などをテロ組織とみなしており、クルド系組織の国境をまたぐ活動を取り締まるには、アサド政権との協力が不可欠と考えている。トルコとシリアは、1998年10月にPKKとその協力者の活動を抑制するための、「アダナ」合意を結んでおり、それが、1999年のシリアを追われたアブドッラー・オジャランPKK党首のケニアにおける逮捕・拘束につながっており、トルコ政府は、この合意は、「破棄された」ものとはみておらず、アサド政権との関係回復によって、合意を再び、活性化できると考えている。石油・ガス資源が豊富なシリア北東部は、YPGが主勢力のシリア民主軍(SDF)が米軍の支援を得て、未だ実効支配しているが、米大統領選挙で、トランプ氏が大統領に復帰すれば、シリア北東部からの米軍の撤退もありえないわけではない@米軍のシリアからの撤退、Aアサド政権によるクルド支配地区への管理の拡大、Bトルコ軍のシリア北部国境付近からの撤退、Cイドリブの反体制派武装組織の解体、D湾岸産油国の支援を受けたシリアの復興再建の本格化(トルコの土建業者が復興の中心的役割を果たす)、E300万人におよぶシリア人のシリア本国への本格的帰還、をエルドアン大統領は思い描いているのではないと想像される。

Posted by 八木 at 15:21 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

サウジアラビアへの二つの招待状[2024年06月13日(Thu)]
サウジアラビアは伝統的に親米国家であるものの、OPECプラスの枠組みでは、ロシアと協力し、さらに中国とも二国間SWAP協定を結ぶなど経済関係を強化してきている。6月10日、11日、ロシアでBRICS外相会議が開催され、6月13日から15日までイタリアでは、G7首脳会議が開催される。G7首脳会議には、7つの加盟国やEUのほか、サウジを含む12か国首脳に招待が発せられていたとされる。BRICS外相会談にも、トルコをはじめ多くの国に招待が発せられていたとされ、トルコからはフィダン外相が拡大会合に出席したことがあきらかになっている。BRICS外相会議について、サウジアラビアは拡大関連会合にファイサル外相が出席したものの、集合写真に外相の姿はなかった。一方、G7会合については、サウジアラビアの皇太子兼首相のムハンマド・ビン・サルマンは、イタリアのジョルジア・メローニ首相に対し、G7首脳会議に出席できないことを伝えた。このふたつの重要な会合を巡ってのサウジの動きが非常に不透明である。
1.BRICS:サウジは2023年8月の南アでのBRICS首脳会議で、6つの新たなメンバー国のひとつとして招待された。この招待をうけて、UAE、エジプト、イラン、エチオピアは正式メンバーとなった。一方、右派のミレイ政権が誕生したアルゼンチンは、招待を断ったサウジアラビアについては、当然、加盟したとみられていたが、正式には招待を受けいれるとの返答を行っていないことが明らかになってきた。
2024年6月11日付アラブニュースは、以下のとおり報じている。
「サウジアラビアの外務大臣ファイサル・ビン・ファルハン王子は6月11日(火)、ロシアのニジニ・ノヴゴロドで開かれたBRICSアウトリーチ閣僚会議に出席した。同国は同グループへの参加を招待されたゲスト国として出席した。BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを含む新興経済国グループで、今年初めにはイラン、エジプト、エチオピア、UAEが新たに加わった。アルゼンチンとサウジアラビアも参加を招待されたが、アルゼンチンは11月の大統領交代を受けて申請を取り下げ、サウジアラビアは依然として加盟を検討中だとしている。」
https://www.arabnews.com/node/2528611/saudi-arabia
拡大BRICSの最大の特徴は、大産油国と中国やインドを含む大消費国がひとつのブロックに入り、ドル以外の通貨とSWIFTに依存しない決済システムで、石油をはじめとするコモディティ取引を完結できることであり、欧米の制裁を受けているロシアやイランはそれを強く推進しようとしている。また、米国との経済摩擦を抱える中国も脱ドル化に関心を有している。サウジがBRICSに加わっても、欧米のほか、大消費国である日韓などのアジア諸国とはドル取引を継続することができ、サウジが決済システムで困惑することはほとんどないとみられていただけに、サウジが未だBRICS参加を躊躇っているとすれば、その理由は何か、米国の金融支配にくさびを打ち込もうとするBRICSを主導するロシア、中国の動きをけん制するための米国のMBS皇太子への働きかけが功を奏しているのか、しかし、サウジはバイデン政権に恩を売っても、バイデン大統領が次期選挙で勝利するとは限らず、ロシア、中国との関係を悪化させてまで、BRICS加盟を断るのか、背景がはっきりしない
2.G7首脳会議出席断念
BRICS加盟を躊躇する一方で、6月13日からイタリアで開催されるG7首脳会議にMBS皇太子は招待されていた。6月10日に大勢が明らかになったEU議会選挙では、メローニ首相率いる極右政党「イタリアの同胞」は得票率を29%に伸ばして躍進した。一方、他の首脳はそれぞれ国内に大きな問題を抱えている。英国の保守党政権は、解散した議会選挙で劣勢を伝えられている。仏マクロン大統領は、EU議会選挙で大きく後退し、下院を解散した。米国では、トランプ、バイデン両候補の接戦が続いている。カナダも来年が選挙であるが、野党の支持が拡大している。日本は周知のとおり、政治資金問題で政権への支持率が低迷している。要は、1年たつと今のG7首脳の顔ぶれが一変している可能性も排除できないということである。MBS皇太子は、今後も政権が続くであろうイタリアのメローニ首相との関係は維持したいものの、どうしても今回のG7会合の招待に応じなければならないとのインセンティブは強くなかったものと思われる。ましてや、今回のG7会合は、ロシアの3000億ドルといわれる凍結資金の運用分500億ドル程度をウクライナ支援に回す(注:EUはウクライナ支援のため当面16億ドルを流用。ロシアは反発し、6月13日からモスクワ証券取引所でドル・ユーロ取引排除を発表)ことやロシアとの軍事経済面で関連のある中国企業などへの制裁、ならびに中国製EVへの輸入制限(米国は、中国製EVに100%関税を課し、EUは38%課す見通し)など、サウジにとって連携している国に強力な制裁で合意する場に、サウジの代表が居合わせるということは得策ではないと判断した可能性がある。MBS皇太子は、メローニ首相に送った感謝の電報で、皇太子は、6月14日に始まる毎年恒例のハッジ巡礼の運営を監督するという自身の責務のため、首脳会議に出席できないことを残念に思うと述べた、とサウジ紙は報じている。
G7会合https://www.aljazeera.com/news/2024/6/12/g7-meets-in-italy-whats-on-the-table
サウジG7会合出席辞退https://saudigazette.com.sa/article/643555/SAUDI-ARABIA/Saudi-Crown-Prince-will-not-attend-G7-summit-due-to-Hajj-supervision-nbsp

Posted by 八木 at 11:37 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

イラン大統領・外相のヘリコプター事故(まとめ)[2024年05月30日(Thu)]
1.イランのライシ大統領とアブドラヒアン外相は、2024年5月19日ヘリコプター墜落事故で亡くなりました。搭乗員8名全員が亡くなりました。アゼルバイジャンとの国境付近で行われたキズ・カラシ水力発電ダム記念式典出席のあと、3機のヘリで、現場を離れましたが、大統領搭乗機のみ、上昇せず、墜落したとのことです。機体は数十年前の米国製とのことです。墜落してしばらく後、現場は濃霧が立ち込めて悪天候とのことですが、墜落時点では天候は悪くなかったそうです。イラン政府の公式発表では、事件性はなかったとのことです。トルコがドローンでイラン側の期待捜索活動を支援したとのことです。当日、ライシ大統領は、アリエフ・アゼルバイジャン大統領とダム現場を視察していました。ライシ大統領にとって、アゼルバイジャンとの共同水力発電事業記念式典出席が最後の外交活動の舞台となりました。享年63歳でした。ライシ大統領を含む8名の事故犠牲者の棺を載せた車両にイラン群衆多数が追悼のために集まりました。2020年1月、米軍の攻撃によりバグダッド空港で亡くなったソレイマニIRGCコッズ部隊司令官殺害のあとの群衆の棺を載せた車両への集結を思い起こさせます。イランの最高指導者ハメネイ師は5日間、国をあげて喪に服すると発表しました。ライシ大統領は、出身地である北東部のマシュハドに埋葬されました。

(5月22日の追悼式典主な出席者)(順不同)
アルメニア首相、イラク首相、ロシア国家院議長、チュニジア大統領、インド副大統領、タジキスタン大統領、タリバン高級代表団、レバノン国会議長、アゼルバイジャン共和国首相、ウズベキスタン国会議長、エジプト外相(注:エジプト外相のイラン訪問はイラン革命後初めてとのこと)、シリア首相、ベラルーシ外相、パキスタン首相、イラク・クルディスタン地域大統領、トルコ外相、カタール首長、トルクメニスタン人民評議会議長、セルビア外相、ヨルダン、オマーン、ニカラグアの各特別代表、ハマスの政治局指導者イスマイル・ハニーヤやヒズボラのシェイク・ナイム・カセム副書記局長
(当面のイラン国内の政治日程)
•大統領の職務については、当面モフベル第1副大統領が代行する
•モフベル代行は、アリー・バケリ・カーニ外務次官を外相代行に任命した。
2024年6月28日に新しい大統領を選ぶ選挙が行われるが、立候補希望者は、護憲評議会(監督者評議会)で大統領選出馬資格を得る必要がある。前回選挙では、ライシ候補(当時は司法府長官)のライバルになるとみられる改革派の候補には資格が付与されず、本選挙前に事実上、ライシ候補の勝利が確実になっていた。護憲評議会のメンバーは12名で構成され、うち、6名が最高指導者が選定するので、そもそもハメネイ師が適切とみなさない人物は、大統領選を戦うことができない

2.ライシ大統領事故死に対する各国反応
(1)中国(イラン原油の最大の輸入国で、イランにとっての最大の貿易相手国)右矢印1習近平主席:「ライシ大統領は就任以来、中国とイランの包括的な戦略パートナーシップの発展に積極的に努力してきた。中国国民はよき友を1人失った」
(参考)2021年3月、中国とイランは、25年間の長期戦略的パートナーシップ合意を結んでいます。当初5年間の投資予定額は4千億ドル。
2.ロシア(制裁対象国同士で結束)右矢印1プーチン大統領:「イランの人々を襲った大きな悲劇に心からお悔やみを申し上げる。ライシ大統領は傑出した政治家であり、ロシアの真の友人として善隣関係の発展を図り、戦略的なパートナーシップのレベルに引き上げるために多大な努力を払った」
(参考)イランは、2023年7月に上海協力機構(SCO)の正式メンバーとなり、また、2024年1月から5か国が新たに参加した10か国に拡大されたBRICSの正式メンバーとなった。ロシアの働きかけなくして実現できなかったと考えられる。イランとロシアは、お互いに欧米の制裁下にある国として、取引の脱ドル化、SWIFT以外の決済システムの活用に関心を持っており、本年7月のSCO首脳会議、秋に予定されているロシアがホストするBRICS首脳会議で、この分野でどのような決定がなされるのか注目されている。
3.トルコ(イランからパイプラインで天然ガス輸入。今回墜落ヘリをドローンで捜索支援右矢印1エルドアン大統領:「イラン国民と地域の平穏のための努力に敬意を表する」
(参考)イランとトルコ、ロシアは、シリアの体制派・反体制派間の緊張緩和と停戦をもたらした2017年以来のアスタナ・プロセスの当事国。トルコは、イランからパイプライン経由の天然ガスを輸入しているが、2026年に更新期限を迎える。黒海でも天然ガスが発見されたトルコは、イランからの長期天然ガス供給契約を更新するのか、更新するとすれば、どのような条件(例えば、再輸出条項挿入)をつけるのかにも注目が集まっている。因みに、ウクライナ危機では、トルコは、ロシアへの制裁に参加していないが、ウクライナにドローンを供与し、一方、イランはロシアにドローンを供与している。因みにトルコは、ガザ危機との関連では、イスラエルに対してもっとも強硬な、貿易の一時停止を実施し、これに反発したイスラエルは貿易相がFTAの破棄の意向を表明しています。
4.ハマス(ガザ危機で連帯)右矢印1ハマス声明:「ライシ大統領らはパレスチナの大義とイスラエルへの抵抗を支援してくれた最も優れた指導者たちだ。イランの国民と悲しみと苦痛の感情を共有し、完全な連帯を表明する。イランがこの大きな損失の影響を克服することができると確信している」
(参考)ハニーヤ・ハマス政治部門代表は、弔意を表するため、イラン訪問し、ハメネイ最高指導者と会見しています。
5.イスラエル(イランと対立。4月には双方が直接攻撃)右矢印1ライシ大統領が死亡したことについて、公式な反応なし。ロイター通信は5月20日、イスラエル政府の当局者は関与を否定し、「われわれではない」と述べたと報道
(参考)今回のような要人が乗ったヘリの墜落は、外国のエージェントなどが関与したか、国内の反体制派が関与したのではないかという疑惑も持ち上がりますが、イスラエルはいち早くそれを否定し、イラン政府も、事件性はない旨公表しています。なお、イランの在シリア領事館が、4月1日、イスラエルによるとみられるミサイル攻撃をうけ、それに対して、イランは、4月13日から14日にかけてドローン、ミサイル攻撃を実施し、それに対して、イスラエルもさらに限定的なイラン本土への攻撃を実施しています。
6.米国(イランに経済・金融制裁実施中)右矢印1国務省ミラー報道官:「特に女性や少女に対するいくつかの最悪の人権侵害は彼(ライシ大統領)の大統領在任中に起きたものだ。命が失われたことは残念に思うが、彼の手が血塗られているという現実には変わりない
(参考)2021年8月に誕生したイランのライシ政権は、ローハニ政権の後をうけて、2018年5月にイラン核合意(JCPOA)から一方的に離脱し、イランに経済・金融制裁を再開した米国との間で、核合意再開に向けた間接交渉を実施し、合意が間近とつたられるたびに決着が遠のき、さらにJCPOAの当事国のひとつであるロシアのウクライナ侵攻で、核合意をまとめる追い風がなくなり、現在、まったく見通しは立っていません。唯一の救いは、バケリ外相代行が、バケリ氏は、核合意復帰交渉でイランの首席交渉官を務めてきたことです。
7.日本(イラン革命後も一貫して外交関係維持。但し、原油の輸入停止中)右矢印15月22日、岸田総理は、ライースィ(ライシ)大統領の逝去を受けて、イラン大使館を弔問し、記帳を行いました。
「セイエド・エブラヒーム・ライースィ・イラン・イスラム共和国大統領の突然の訃報に接し、深い悲しみの念に堪えません。ライースィ大統領とは、首脳会談や電話会談等を通じ、日・イランの伝統的友好関係に基づき、二国間関係や地域情勢について率直な対話を積み重ねてきたところでした。日本国政府及び日本国民を代表して、イラン政府及びイラン国民の皆様並びに御遺族に対して謹んで哀悼の意を表します。」

Posted by 八木 at 09:19 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

MBS皇太子の訪日延期(サウジアラビアの関心事項と懸念) [2024年05月21日(Tue)]
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン(通称MBS)皇太子兼首相(現在38歳)は、2024年5月20日から23日まで、日本を公賓として訪問予定でしたが、到着予定日当日の5月20日に、林官房長官から訪日延期の発表が行われました。MBS皇太子の父親サルマン国王(88歳)が肺炎のために入院したことが延期の理由でした。サルマン国王は4月にも一時入退院していました。20日夜上川外相が、サウジのファイサル外相と電話会談を行い、早期の訪日実現を要請しました。MBS皇太子は、サウジの事実上の最高権力者であるものの、二聖モスクの守護者であるサルマン国王がサウジ王国の支配者であり、皇太子は国賓対象にはならないものの、天皇陛下との会見、会食を含む公賓招待は、日本政府として最大の敬意を表したものであり、日本にとっての世界最大の原油供給国であり、液体水素サプライチェーンの構築をはじめ新エネルギー拠点としてビジネス関係構築に向けて足がかりをつけたい日本の経済界にとっても延期を残念がる向きは多いと思われます。この機会に、ご参考までサウジにとっての、関心事項と懸念をまとめておきます。
1.関心事項
(1)石油収入:サウジアラビアの財政均衡価格は、バレル約80ドル程度とみられてきています。ウクライナ危機発生後、WTI原油価格はバレル120ドルを突破したこともありましたが、現在は80ドル台から70ドル台を前後しています。このため、サウジは、欧米の制裁下にあるロシアとも連携し、OPECプラスの枠内で減産調整を行ってきており、原油価格低下に歯止めをかけようとしています。OPECプラスは、2022年10月に11月分から全体で200万b/dの減産を開始し、その後も、2022年10月比530万b/d規模の減産を維持しています。サウジの原油生産は、300万b/dの生産余力を残しながら、現在900万b/dレベルにまで削減されています。6月のOPECプラスの閣僚級会合で、減産が維持されるのか否かに注目が集まっています。
(2)宗教的束縛から解放と娯楽の提供:サウジは、イスラム教スンニー派の中でも特に戒律が厳しいワッハーブ派に属し、これまで女性の活動が大きく制限されてきました。しかし、MBS皇太子が国内で実権を握り始めると、徐々に女性の活動制限緩和に動き出しました。国政選挙がなく、立法権のある議会が存在しないサウジで、MBS皇太子がサルマン国王逝去後50年にわたって実権を維持するには、若者とともに、女性の支持を必要としています。最大の改革は、2018年6月の女性への運転免許解禁と2019年〜21年に発表された後見人なしの女性の海外旅行、旅券の取得、成人の独身、離婚、または未亡人の女性は男性後見人に引き渡されるという規定が削除され、成人女性は独自に住む場所を選択する権利を認めたことです。サウジ国内では娯楽庁も設置され、ゲーム産業振興や、eスポーツワールドカップも開催されようとしています。サウジアラビアは、日本の任天堂の自社以外での筆頭株主にもなっています(8.6%取得)
(3)大型イベントやスポーツ大会の誘致:サウジアラビアは、2030年のリヤド万博を主催することが決定しています。約4千万人の来客を予定し、23年段階で78億ドルの予算を見込んでいます。2029年には、メガプロジェクトNEOM内に建設され、2026年完成予定のTrojenaで、冬季アジアスポーツ大会も主催し、人工雪を降らせてスキー競技も実施する予定です。2034年には、サッカーのFIFAワールドカップを主催することがほぼ決定しています。サウジは、世界の有力サッカー選手のクリスチアーノ・ロナウドやネイマールもサウジのクラブチームに招いて、サッカー新興国としての名声を高めようとしています。
(4)観光立国への変身:サウジはイスラム教の2つの聖地を抱え、伝統的に巡礼客を迎入れ、国家の収入の一部としてきました。いまや、サウジの政府系ファンドの公的投資基金(PIF)は、巡礼客以外に、観光リゾート、テーマパーク建設などを手掛ける企業を積極的に立ち上げ、観光開発を促進し、外国人観光客を招こうとしています。実際、サウジアラビアの観光分野の成果は目覚ましいものがあり、2019年9月に観光ビザを解禁し、2023年には2,740万人の外国人観光客を含む合計1億600万人の観光客を迎えています。中国との直行便も開通させました。
(5) 国家開発計画「ビジョン2030」目標達成への取り組み:サウジはポストオイル時代の産業多角化を進めていますが、そのポイントは、石油は売れるうちに売って外貨を獲得し、それを原資に政府系ファンドPIFにつぎ込み、次世代の産業基盤を整えることです。そのため、PIFは分野を問わず、世界中の有望な事業に投資し、また、海外から投資を呼び込み、外国企業とも連携して、NEOM内でのザ・ライン建設開始はじめ様々なメガプロジェクトを推進し、地域投資会社も設立しています。2024年に創設されたグローバルな製造ハブ拠点となることを目指す企業Alatは日本のソフトバンクとの間で、産業用ロボット製造で提携することが発表されています。PIFの資産拡大は、サウジのビジョン2030成功のためにも、絶対的に必要で、その基金を如何に効果的に活用して経済多角化に貢献し、雇用を創出するかが問われています。
@2030年目標:10兆サウジリアル
A2025年は目標値:4兆サウジリアル(1兆700億米ドル)
B2023年実績は、2.81兆サウジリアル


2.懸念材料
@OPEC協調減産にもかかわらず、原油価格は、バレル80ドルから70ドル台に落ちてきています。サウジは財政の黒字を確保するには、バレル80ドル程度が必要で、OPECプラスの減産調整は原油価格低下を食い止められるのかがやはり不安材料です。サウジPIFが手掛ける巨大プロジェクトや大型イベントの主催なども、オイルマネーが順調に入ってきてこそ実現可能です。
APIFが手掛ける最大のプロジェクトはNEOM(新未来)の推進で、その中でも、高さ500メートル、幅200メートル、長さ170kmの線状未来都市「ザ・ライン」の建設が注目を集めています。NEOMの事業予算は、当初は5千億ドルでしたが、この金額は大幅に拡大しているとみられています。最近のブルームバーグの報道では、ザ・ラインについては2030年時点で、長さ2.4km、居住者も30万人(既存計画では2030年150万人、最終的には900万人収容)と計画が予定通り進みそうにないとの見通しも出始めています。
Bサウジへの人権侵害批判はこのまま収束してくれるのか。2018年のイスタンブールでの著名なジャーナリスト・カショギ氏の殺害で、サウジ政府はMBS皇太子をはじめ、厳しくその責任が問われていました。この件は、その後、事件現場となった当事国トルコのエルドアン大統領が、独自裁判プロセスを放棄し、サウジとの関係修復に動いて、さらにMBS皇太子に批判的であった欧米の首脳もサウジ訪問やMBS皇太子の国内招待を通じて、少なくとも国レベルでは関係は正常化されています。上述の「ザ・ライン」については、砂漠の真ん中にこのような巨大構造物を構築するために、外国人労働者の保護は期待できるのか。海外の投資家、技術者は、サウジの革新的プロジェクトに協力してくれるのかが問われています。NEOMでは、巨大プロジェクトを進めるうえで、強制的な土地収用も行われたとみられています。先祖代々の土地を手放すことを拒否したアルフワイティ族の代表者のひとりが、サウジの特殊部隊に殺害されたとの疑惑も出ており、2024年5月、BBCは、23年英国に亡命した現地作戦に参加した元大佐が、サウジ政府の責任を裏付けたと報じました。
Cサウジは、地域統括会社(RHQ)の推進などで、地域のライバルUAEとの主導権争いに勝利できるのかも課題です。中東湾岸諸国に進出している外国企業の多くは、住環境がよく、交通の便もよく、規制も少ないUAEのドバイに地域を総括する拠点を置いてきています。日本企業の多くもそうです。サウジアラビアは、サウジの政府調達に参加しようとする多国籍企業についてはRHQライセンス取得者を優先すると発表しました。同時に、サウダイゼーション(雇用の現地人化)の適用も10年間免除したり、30 年間の法人所得および源泉税の免除のインセンティブを与えようとしています。この結果、RHQ免許取得企業は、21年44社、22年80社、23年180社(合計304社)と増加しているそうです。ビジョン2030では、480社が目標とのことです。中国のファーウェイもRHQ免許を取得済であると2023年12月に報じられました。
Dサウジは、2016年以来イランとの関係が冷え込んでいましたが、2023年3月中国の仲介で7年ぶりに関係を正常化しました。同年双方の大使の復帰も実現しました。しかし、ハマスのイスラエル領内での殺害事件をきっかけにしたハマス・イスラエル紛争拡大の中で、親イランのイエメンフーシ派がサウジ沿岸の紅海を通過する船舶への攻撃を繰り返しており、また、サウジは、2023年8月のG20の機会にインドや欧米と覚書を結んだ新経済回廊構想で、イスラエルとも関係正常化を進めようとしていた最中に、紛争が発生し、2024年5月には、イランとイスラエルが直接相手を攻撃するという事態も発生し、サウジは、欧米とイランやロシアとの間で微妙なかじ取りを迫られています。

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狙い通りイランによるイスラエル攻撃を誘導したネタニヤフ政権と不安がよぎるヨルダン [2024年04月16日(Tue)]
2024年4月1日の、イスラエル軍によるとみられるダマスカス・メッゼ地区のイラン大使館付属領事部へのミサイル攻撃による破壊の報復として、4月13日〜14日にかけて、イラン軍・革命防衛隊IRGCと周辺国の親イラン武装勢力が、300発以上のドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルを、イラン本土、イラク、イエメン、レバノンから発射し攻撃したものの、米・イスラエルは99%迎撃に成功したと発表している。イランにとっては、外交関連施設への攻撃は、国際法違反であり、本土を攻撃されたのと同じ意味合いを持つとして、今回初めてイラン本土からのイスラエル領内攻撃に踏み切った。一方、イラン側は、ドローンやミサイルが領空を通過する近隣国に警戒を発していたようで、イスラエルも米国も、イランの攻撃が間近に迫っているとして警告を発し、世界のメディアでさえ、事前に大々的に報道していた。このようなタイミングで、本当にイランが攻撃を開始するのか不思議に思っていたが、まさに、米、イスラエルの予言通りにイランが攻撃を開始し、イスラエルとその同盟部隊が迎撃態勢を整えた中で、数時間以上かけてドローンやミサイルが飛来し、撃ち落としてくださいといわんばかりに迎撃されたとのことである。この意味は、イランが自国の大使館関連施設が攻撃されて、イランの国民感情としても黙って見過ごすわけにはいかないとのイラン指導部の立場を反映したものである一方、イスラエル側に甚大な被害が出れば、間違いなく、その10倍以上の反撃をイランが食らうことになる、場合によっては、米軍もその軍事行動を加担して、イラン本土が攻撃されることになるリスクを避けたかった深謀遠慮の現れともいえる軍事作戦だったといえる。事実イラン側は、具体的成果も上がっていないにも関わらず、今回の作戦は終了したと発表している。一方、イスラエル戦争内閣は、3時間にわたった協議の中で、イランに対して報復するとの意思は確認したものの、どのようなタイミングで、どのような形で、どこを標的にするかは議論を持ち越したとのこと。他方で、CNNなどによれば、イスラエルは、イランによる今回の攻撃前までは、ガザのラファ地上作戦を米国などの圧力にもかかわらず、躊躇っていない旨繰り返し主張してきたものの、一旦、作戦を延期することになったと報じている。パレスチナ人140万人近くがガザ南部に集積している中で、地上作戦が実施されれば、大規模な犠牲者が出ることは火を見るより明らかで、したがって、停戦への拒否権を乱発してきた米国でさえ、ガザ作戦の開始を控えるようネタニヤフ政権に求めていた。エジプト政府などは、ラファの検問所を閉じたまま、エジプト領内にイスラエルの攻撃で、パレスチナ人がエジプト領内に逃げ込もうとする際に、エジプト領内に導きつつ、さらなる移動を阻止する壁をエジプト領内に建設中とされる。ネタニヤフ首相にとって、4月1日のダマスカスのイラン領事部破壊とIRGCコッズ部隊幹部の殺害がイランの報復攻撃を誘導することは百も承知で、「レッドライン」を超えた形での作戦は、@安保理では、米国、英国、仏などが、イラン外交関連施設攻撃にもかかわらず、イスラエルを非難せず完全に守ってくれたこと(因みに、英米仏でも、自国の外交施設が破壊されたとしたら、間違いなく相手を激しく非難し、報復に出ることは間違いない)、A今回のイランの攻撃では、米国のみならず、英、仏さらに、アラブの国であるヨルダンが自国領空の安全を守るためとして、イランの攻撃を阻止し、長いアラブ・イスラエルの紛争の歴史の中で、初めてイスラエルの防衛に貢献したこと、Bさらに外交関係のないサウジアラビアが、2023年3月に中国の仲介で、イランとの関係を正常化しているにもかかわらず、アラビア半島の領空を飛行するミサイルやドローンをサウジの迎撃システムが対応したとみられていること、C世界の関心が一時的であれ、ガザからイラン・イスラエルの緊張拡大にシフトし、ラファ攻撃に挙げたこぶしをイスラエルが一旦引っ込める口実ができたこと、があげられる。ヨルダンは、1994年にイスラエルとアラブ世界ではエジプトに続き2番目に国交を正常化した親米国家であるが、多数のパレスチナ人を抱え、ガザ危機でも、パレスチナ人に同情的で、イスラエルの軍事侵攻に反対を唱えてきたにもかかわらず、今回イスラエルを守る側にたったことで、政権への国内世論の風当たりが強まることが予想される。
https://www.middleeasteye.net/opinion/iran-israel-attacks-weakness-exposed-how
https://www.fdd.org/analysis/2024/04/15/sidestepping-tensions-with-israel-jordan-helps-repel-iran-with-u-s-led-coalition/

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IRGCによるイスラエルへの報復攻撃「真実の誓い」作戦開始 [2024年04月14日(Sun)]
4月14日イスラム革命防衛隊(IRGC)は声明で、イランは、イスラエルへの報復攻撃「真実の誓い(ワアダフ・サーディク)」作戦を開始し、イラン航空宇宙軍が占領地域内の特定のイスラエル目標に向けて数十発のミサイルを発射したと述べた。この空爆は、4月1日のダマスカスのイラン大使館領事部への攻撃やシリアでのイラン人司令官や軍事顧問団の殉教など、シオニスト政権が犯した数多くの犯罪への対応であると声明は付け加えた。イスラエル国防軍報道官も、攻撃が13日午後11時に開始され、ミサイルと無人機がイランから発射されたことを認め、イスラエル軍が対ミサイルシステムを警戒状態にしていると述べた。イランが自国領内から直接イスラエルの標的に対して、攻撃を加えるのは、今回が初めてとみられる。イスラエルメディアは約100発のドローンが発射されたと報じている。イスラエル国内では空襲への警戒警報・サイレンが流されている模様。最終的にドローンとミサイルを合わせ、500発近い攻撃がなされる可能性があるとの報道がある。

カタールとクウェートは米国政府に連絡をとり、米軍によるイランに対するあらゆる潜在的な軍事行動のための基地と空域の使用を禁止する旨伝達した。カタールには米中央軍の前線基地ウデイド空軍基地が存在する。クウェートにも大規模な米軍部隊が駐屯しているアリー・アルサーレム空軍基地とアハマド・アルジャーベル空軍基地が存在している。
米ホワイトハウスは米時間4月13日、イランによるイスラエル攻撃を受けて声明を発表し、イスラエルの防衛を支援することを確認した。米軍は、他の湾岸諸国にも部隊を有し、バーレーンには第五艦隊司令部も置かれている。

一方、4月13日、ホルムズ海峡付近では、イスラエル関連の物資を運搬しているとの理由で、IRGCによって、コンテナ船MCS Ariesが拿捕された。拿捕されたのはポルトガル船籍で、イスラエル人が所有する英国企業に関連しているとの報道がある。ホバリングするIRGCヘリコプターから船上に襲撃隊員をおろして急襲し、イラン領海に向かったとされる。

(コメント)これまでは、イランはハマスを巡る地域情勢の悪化にもかかわらず、イスラエルに対して直接攻撃を加えることは控え、イエメンのフーシ派、レバノンのヒズボラ、イラクの親イラン武装勢力(カターイブ・ヒズボラ他)を通じて、いわば間接的攻撃をしかけてきた。今回の攻撃は、イラン本土からの直接の攻撃とみられ、23年10月7日のハマスのイスラエル領内越境攻撃開始後、イランは自国が直接巻き込まれないよう比較的慎重に対応してきたとみられる中で、対立が新たな局面に入ったことを示すものであり、とりあえずの注目点は、次のとおり。
@ イランの攻撃の対象(軍事施設なのか、地域をゴラン高原等に限定したものなのか、それとももっと広い範囲での、民間人も巻き込みかねない攻撃なのか)(注)F35空軍基地を狙ったとの見方もある
A イスラエルの迎撃の効果(ドローンであれ、巡航ミサイルであれ、攻撃を効果的に阻止することができたのか)
B イスラエルは、さらなる報復攻撃に出て、イラン本土を攻撃するのか
C 米軍は、イスラエルを支援するために、中東駐屯の米軍基地からイラン本土を攻撃するのか
D すでにホルムズ海峡付近で、IRGCによるコンテナ船拿捕が発生しているが、紅海につながるバブ・エルマンデブ海峡に加え、ホルムズ海峡での船舶の運航に支障が生じると、世界のエネルギー価格が爆発的に高騰するのではないか
https://en.irna.ir/news/85443281/IRGC-fires-missiles-drones-at-Israeli-positions-in-retaliatory
https://en.irna.ir/news/85443070/Qatar-Kuwait-ban-use-of-their-airspace-against-Iran
https://www.timesofisrael.com/iran-launches-wave-of-drones-at-israel-in-first-ever-direct-attack-idf-braces-to-intercept/

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イスラエル軍によるダマスカスのイラン領事部攻撃と注目点[2024年04月02日(Tue)]
3月31日アレッポ市のウマイヤド・モスクでマグリブ・アザーン(祈りの呼びかけ)が再び鳴り響き、シリア第二の都市で、シリア内戦の激戦地でもあったアレッポに12年間の休止期間を経て活気が戻ってきたことを告げた。アレッポ市近隣の住民1,400名と、この考古学上貴重な建築物の修復と再建に貢献した労働者や職人が集まったラマダン・イフタール晩餐会(注:ラマダン期間中の日没後最初の食事会)のことであった。

このような平和の出来事の直後、シリア、イラン両国の外交当局者は4月1日、シリアの首都ダマスカスのメッゼ地区にあるイラン大使館隣のイラン領事部がイスラエル軍の空爆で破壊されたと発表した。当初イラン革命防衛隊(IRGC)幹部を含む7人が死亡したとされ、その後、シリア人権監視団は11名が死亡したとAFPに伝えている(参考:ラミ・アブドルラフマン(Rami Abdel Rahman)所長はAFPに対し、「死亡したのはイラン人が8人、シリア人が2人、レバノン人が1人と指摘。いずれも戦闘員で、民間人は含まれていない」と述べた)。 IRGCによれば、ムハンマド・レザ・ザヘディ(Mohammad Reza Zahedi)、ムハンマド・ハーディ・ハジ・ラヒーミ(Mohammad Hadi Haji Rahimi)両准将らが死亡した。ザヘディ准将はIRGCの精鋭として知られるコッズ部隊(Quds Force)の司令官で、パレスチナやシリア、レバノンを担当していたとされる。 イランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派(Shiite)組織ヒズボラ(Hezbollah)は4月2日、IRGC幹部が殺害されたのを受け、「この犯罪に対し、敵(イスラエル)は必ず罰と復讐(ふくしゅう)を受ける」と警告した。  

シリア人権監視団によると、2024年に入ってからのイスラエルによるシリア領内への攻撃は、今回が初めてではなく、既に、30件の攻撃を記録しており、その内訳は空爆22件とロケット弾攻撃8件で、その間イスラエルはシリアの複数の拠点を標的にし、建物、武器弾薬倉庫、司令部、センター、車両など59近くの目標を破壊し、 これらの攻撃により戦闘員123名が死亡、47名が負傷したとしている(イラン革命防衛隊隊員21人、レバノンのヒズボラ19人、イラク人12名、イランの支援を受けたシリア民兵23名、イランの支援を受けた非シリア民兵10人、政権軍兵士38名。加えて、これらの攻撃により女性1人を含む民間人10人が死亡)。
4月1日のニューヨーク原油市場は、この件で、中東情勢がさらに緊迫化するとの懸念が高まったことなどから、国際的な原油WTIの先物価格が去年10月下旬以来およそ5か月ぶりに一時1バレル=84ドル台まで上昇した。
(コメント)イスラエルは、今回の攻撃について、実施の有無等コメントしないとしている。上述のシリア人権監視団発表の2024年のイスラエルによるとみられる攻撃30件のうち、首都ダマスカスならびに郊外への攻撃は、15件に達し、ダマスカスが狙われるのは今回が特別ではない。特別なのは、今回イスラエル軍が、ゴラン高原付近から各国大使館などが立ち並ぶメッゼ地区の外交使節をミサイルで白昼攻撃したという点である。イスラエルの攻撃でほぼ完全に破壊された領事部ビルの一部は、駐シリア・イラン大使の公邸でもあった。イラン大使館のとなりの領事部の隣は、カナダ大使館が位置していた。ホセイン・アクバリ・イラン大使は、攻撃時不在で、犠牲になることはなかったが、「イスラエルによるイラン領事部への攻撃は、いかなる国際法も認めず、望むことを達成するために非人道的なことは何でもするシオニスト組織の現実を反映している」とコメントしている。今回の攻撃で、注目されるのは、次の諸点である。
@ 外交関係に関するウィーン条約が支持する国際外交規範によって「保護」されるはずの大使館施設に対するこのような外国正規軍の攻撃は前例のないことであり、この点につき、まもなく開催される安保理緊急理事会でどのような議論が交わされるのか。特に、米国は、イスラエルの安全保障のため、ヒズボラの作戦を支援していたとされるIRGCコッズ部隊司令官の殺害を、大使館領事部という保護された場所への攻撃にもかかわらず正当化するのか
A 今回の攻撃は、ザヘディ司令官やIRGC幹部が協議しているところをピンポイントで狙ったとの見方もあり、シリア国内のIRGC幹部の動きをイスラエル側情報機関が正確かつタイムリーに把握していた可能性もあり、シリア国内に情報密告者が多数潜伏していたのではないか
B ロシア軍は、シリアに2015年9月以来駐屯し、対空ミサイル防衛システムを活用して、イスラエル軍のシリア領内攻撃を防ぐこともできるはずであるのに、なぜそうしないのか。イスラエルによるイラン部隊攻撃は見逃すとのロシア・イスラエル間の了解があるのか
C イスラエルのネタニヤフ政権は、国際社会からのガザ停戦に向けた強い圧力を受けており、最大の同盟国米国も安保理でのラマダン期間中の停戦決議に拒否権を行使せず、バイデン政権との間に溝が生じているとされているだけでなく、国内からも、人質解放の処理を含め、ネタニヤフ政権の責任を問い、政権交代を求める意見が高まっている。この状況を打開するため、戦闘を、イランを直接巻き込む形で拡大することで、分裂し始めている国内世論を再び対イランで団結させ、さらに人道問題で国際社会から厳しい目が向けられているガザから国際社会の関心を、イランとの軍事的対立に向けさせようとしているのではないか。
なお、3月29日には、シリアのアレッポで、軍の武器庫を狙ったイスラエルによる攻撃で、40人以上が亡くなっており、一方、4月1日未明には、親イランとされるイラクの民兵組織によるイスラエルのアカバ湾出入口の港湾都市エイラートの海軍基地への攻撃が実行されており、イスラエル軍は、イランの関与なく、このような攻撃は出来ないとみなして、IRGC幹部を狙った可能性も排除できない。イランは10月7日のガザ危機は発生以降、イエメンのフーシ派によるイスラエル支援につながる船舶への攻撃やレバノンのヒズボラあるいは親イランのイラク民兵組織による散発的なイスラエルあるいはイラク領内の米軍やイスラエル権益への攻撃を間接的に支援してきたとみられるものの、事態のエスカレーションを警戒し、これまで、イスラエルと直接対峙することは避けてきた。しかし、イスラエルは、イランを挑発しているとも考えられ、イランが今回の攻撃への報復攻撃に出れば、国際社会のネタニヤフ政権への支持を再び呼び起こすことができると考えている節があり、今、イランに求められているのは、とにかく自制することであろう
https://en.irna.ir/news/85432290/Attacking-Iran-s-consulate-violates-all-int-l-obligations-conventions
https://www.thenationalnews.com/news/mena/2024/04/01/syria-damascus-iran-embassy-strike/
https://www.syriahr.com/en/329911/
https://www.tasnimnews.com/en/news/2024/03/29/3060595/iran-condemns-israeli-airstrikes-on-aleppo

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英国政府による「過激主義」の再定義[2024年03月15日(Fri)]
2024年3月14日、英国議会において、マイケル・ゴーブ住宅・コミュニティ・地方自治大臣は、「過激主義」の定義を、2011 年のテロ対策戦略で定められていた以前の定義から改めたと表明した。
住宅・コミュニティ・地方自治省局は声明で、報告されている反ユダヤ主義および反イスラム教徒のヘイトクライムの増加を挙げ、「10月7日のイスラエルでのテロ攻撃以来、過激派の脅威が増大している」ことに適切に対処するため定義が更新されたと述べた。新しい定義は政府省庁や当局者が「過激派組織、個人、行動」を特定するのに利用されるだろうと述べた。一方、この定義は法的規定ではなく、現行の刑法には影響を及ぼさず、政府の運営自体に適用されるとしている。
1.過激主義の新たな定義
過激主義とは、暴力、憎悪、または不寛容に基づくイデオロギーの推進または進捗を図るものであり、次のことを目的としている。
(1)他者の基本的権利および自由を否定または破壊する。 または
(2)英国の自由議会制民主主義および民主的権利の制度を弱体化し、覆し、または置き換える。 または
(3)上記(1) または(2)の結果を達成するために、他者が許容できる環境を意図的に創生する
2.新しい定義の下で「過激主義」を評価されることになる組織名
@ 英国の国家社会主義運動British National Socialist Movement
A 愛国的な代替Patriotic Alternative
B 英国ムスリム協会 - ムスリム同胞団の英国支部Muslim Association of Britain - the British affiliate of the Muslim Brotherhood
C ムスリム擁護アドボカシー非営利法人CAGE
D 「ムスリムへの約束と発展」非営利法人MEND:Muslim Engagement & development
https://www.mabonline.net/about-us
https://www.cage.ngo/about
https://www.mend.org.uk/about-mend/aims-and-objectives/

(コメント)ゴーブ大臣は、新定義の下で、再評価を行うと述べた5つの組織のうち、最初の2つの団体は「ネオナチのイデオロギーを促進する」団体であり、他の3つの団体は「イスラム主義的指向と見解に対する懸念を引き起こす」団体であると述べた。すなわち、5つのうち、3つがイスラム関連組織であり、それらの組織は、イスラエルによる対テロ戦争という名目の下でのガザ侵攻を批判しており、イスラエル寄りの姿勢を維持している英国政府の方針に異議を唱えている。ガザ危機においては、英国を含め、世界の各地で、パレスチナ人の被害の拡大を懸念し即時停戦を求めるグループハマス殲滅を含む対テロ戦争の正当性を訴えるグループの両陣営が対立し、分断がますます拡大している。そうした中で、一方では、イスラム教徒への偏見、差別、排斥の動きが拡大し、他方では、反ユダヤ主義の動きも活発化している。今回、英国政府は、「過激主義」の再定義は、法的措置ではないとしつつ、政府の活動において、過激主義を有すると政府が判断した団体への監視と資金の流れなどへの規制を強めていくことを明らかにしている。当然、上記3つのイスラム系団体は、英国政府がこのタイミングでイスラム系団体を特定し、標的とする姿勢を示したことに反発を強めている。そもそも、「テロリズム」や「過激主義」を定義づけること、その対象の範囲を線引きすることは極めて困難である。ある国の政府機関が一旦、特定団体をテロ組織、過激組織と位置付ければ超法規的に何を行っても許されるという実態があり、一般人は、テロや過激分子の脅威を「無力化」「無害化」したとの説明を受け入れるしかない状態におかれる。この定義が、少なくとも、ガザ危機への即時停戦を求める市民運動を抑え込む口実にならないことを願う次第である。
https://www.bbc.com/news/uk-68564429
https://www.middleeasteye.net/news/uk-government-targets-islamists-new-definition-extremism

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インド・モディ政権による市民権改正法(CAA)実施の国内外へのインパクト[2024年03月12日(Tue)]
2024年3月11日、インド内務省の報道官は、4年以上前に成立していた市民権改正法(CAA)についてCAA実施規則を発表し、資格のある個人は「完全なオンラインモード」で申請書を提出できると述べ、5月までに実施される見通しのインドの総選挙を前に、CAAが実施に移されることを明らかにした。申請者には、それ以外の書類は求められないという。CAAは、2019年12月11日にインド上院で可決成立しており、2014年12月31日以前にインドへ入国したアフガニスタン、バングラデシュ及びパキスタンからのヒンドゥー教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、ゾロアスター教徒、キリスト教徒の非正規移民に対して、インドの市民権が与えられることになった。主要宗教の信者としては唯一イスラム教徒(ムスリム)が除外されている。 これについてモディ首相は、新法がイスラム教徒を対象外としているのは、これら3か国ではイスラム教徒が多数を占めており、迫害される危険がないからだと説明してきた。 この新法をめぐって国民の間で怒りが広まり、国内各地で大規模な抗議活動に発展していた。抗議活動の中心となっているインド北東部では、新法によって、ヒンドゥー教徒が大半を占めるバングラデシュ移民に市民権が付与されるのではないかと懸念されている。2020年1月10日CAAは有効になったものの、この法律の実施規則が未成立で、内務省は、8回に渡って、規則整備のための期限延長を求め、実施されていなかった。アミット・シャー内務大臣は以前ツイッター(現在X)に「これらの規則により、パキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンで宗教上の理由で迫害されている少数派が我が国で市民権を取得できるようになる」と書きこんでいた。
https://www.ndtv.com/india-news/4-years-after-bill-passed-citizenship-law-caa-becomes-reality-5218643
(参考)CAA実施に際してのNDTV報道のポイント(2024年3月11日)
1. この法律は、2014 年 12 月 31 日までにバングラデシュ、パキスタン、アフガニスタンからインドに入国したヒンドゥー教徒、ジャイナ教徒、キリスト教徒、シーク教徒、仏教徒、パールシー教徒に市民権を与えることを目的としている。
2. インド市民権は、過去 1 年間および過去 14 年間のうち少なくとも 5 年間にインドに居住した移民に付与される。 以前は移民の市民権獲得には11年必要であった。
3. この法律は、アッサム州カルビ・アンロン部族地域、メガラヤ州ガロ・ヒルズ部族地域、ミゾラム州チャクマ地区、ミゾラム州部族地域地区を含む、憲法第 6 附則に含まれるアッサム州、メガラヤ州、ミゾラム州、トリプラ州の部族地域を除外している。
4. CAAが2019年12月に議会を通過し、大統領の同意を得た後、北東部を含む国内の一部地域で大規模な抗議活動が起きた。
5. アミット・シャー内務大臣は以前、CAA の規則はサバ州の投票前に通知され、施行されるだろうと述べていた。
https://www.ndtv.com/india-news/citizenship-amendment-act-explained-5-points-5218339

(コメント)インドでは、本年5月までに総選挙が実施される予定で、政権3期目を目指すBJP党首のモディ首相は、ヒンドゥー教徒の支持を集めるために、アピール性の高い行動を次々に実施している。例を挙げれば、次のとおり。
@ 2024年1月22日、インドのウッタル・プラデシュ州アヨーディヤで1992年にヒンドゥー至上主義者により破壊されたイスラム教のバブリーモスクの跡地に建設されたヒンドゥー教のラーマ寺院の落成式が、モディ首相他、7千人以上のヒンドゥー教聖職者、政治家、実業界指導者、著名映画俳優、スポーツ選手などを含む招待客が出席して執り行われた。モディ首相が儀式の中心的な役割を演じた。https://blog.canpan.info/meis/archive/553
A 2024年2月25日、モディ首相はグジャラート州のアラビア海沿岸で海に潜り、古代都市ドワルカの王と呼ばれるクリシュナの死後にドワルカが水没したと信じられている場所で祈りをささげた。グジャラート州のゴムティ川とアラビア海の先端に位置する荘厳なドワルカディシュ寺院は、ヴァイシュナ派、特にクリシュナ神の信者にとって重要なヒンドゥー教の巡礼地であり、ドワルカディシュ寺院の主神はドワルカディシュ、またはクリシュナ神とされる。モディ首相は水没した寺院のある場所に潜り、孔雀の羽の杖を奉納した。
B 2024年3月7日、モディ首相は、政府が5年前の2019年に憲法第370号の無効を宣言し、この地域の自治権を剥奪して以来初めてカシミール渓谷を訪問した。同州最大の都市シュリーナガルで開催されたモディ首相の集会には、数千人の警察官と民兵隊員が動員された。モディ首相は群衆に向かって、「私たちが何十年も待ち望んでいたのは、新しいジャンムーとカシミールだ」と語った。第370条により、イスラム教徒が多数を占めるジャンムー・カシミール州では、70年以上にわたって独自の憲法や法律、土地、文化の保護を含む独自の形態の自治権が付与されてきた。
(廃止された憲法第370条とは)憲法370条は、外交や防衛、通信分野については中央政府の管轄となっている一方で、ジャンムー・カシミール州に、独自の立法・行政・司法制度といった一定の自治性を認めており、法案作成も自由に行なえる権限を付与してきた。同州には、国旗とは別に、州旗が存在していた。市民権や財産所有権、基本的権利に関する独自の規定があるほか、州外からのインド人が、州内で物件を購入したり、定住することも禁止していた。

市民権改正法(CAA)の実施は、モディ首相にとっての選挙キャンペーンの重要な政治行為であり、2014年12月31日までにアフガニスタン、バングラデシュ、パキスタンからヒンズー教徒が多数派のインドに移り住んだヒンドゥー教徒、パールシー教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、キリスト教徒に市民権獲得の早道を提供するものである。この法律は、イスラム教徒を除外しており、人口14億人を抱えるヒンドゥー教徒多数のインドの中で、少数宗派人口としては最大の約2億人を擁するイスラム教徒が強く反発してきた。反発の理由は、単に、CAAからイスラム教徒のみが排除されているということだけではない。インドでは2019年8月31日、北東部アッサム(Assam)州の国民登録簿(NRC)が発表された。申請者約3032万人のうち約190万人は、資格なしと判断されて登録簿から除外された者は無国籍状態に置かれ、収容所に送られるか、国外追放される危機に直面することとなった。このうち大多数を占めているのがイスラム教徒であった。 モディ首相の側近アミト・シャー(Amit Shah)内相は、「侵入者」を排除する目的で、2024年までに国民登録簿を全国的に整備すると言明した。 モディ首相は、1期目には多くのイスラム風の地名を変更し、歴史の教科書からインドにおけるイスラム教徒の役割を削除した。このためイスラム教徒は、シャー内相の国民登録簿の整備はイスラム教徒を念頭に置いて、市民権を奪うことにつながるのではないかと懸念している。
このようにイスラム教徒の反発を承知のうえ、ヒンドゥー教徒に強くアピールする政策・行動を次々に繰り出すモディ首相に、イスラム世界の指導者は批判するのではなく、むしろモディ首相との関係を強化している。サウジのMBS皇太子は、2023年9月のG20首脳会合では、インドとサウジ、イスラエル、欧州を結ぶ新経済回廊構想の覚書に署名した。UAEのMBZ大統領は、2024年2月13日、来訪のモディ首相との間で、投資協定他の二国間協定署名や、ガザ危機の発生にもかかわらず、新経済回廊構想が消滅していないことを示す二国間覚書の署名にも立ち会った。インドは、中国やロシアも参加する拡大BRICSの重要メンバー国であるが、欧米は、中国をけん制する狙いもあり、インド取り込みを図っており、欧米と対立するロシアのプーチン大統領も、原油の重要取引先であるインドのモディ首相をあらゆる機会に持ち上げている。世界は、宗教や民族や人権や強権国家であるか民主主義国家であるかの問題より、その国がどれくらい政治力、経済力を有するのか、自国にとってどれくらい利益があるのかの損得勘定によって、対外関係を判断するようになっている。そうした中で、分裂する世界の中で、最も求心力を有する国の筆頭が、インドであるといえる。
https://www.narendramodi.in/prime-minister-narendra-modis-meeting-with-president-of-the-uae-579375

Posted by 八木 at 14:27 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

中東の資源国UAEとグローバルサウス中心国のひとつインドとの関係強化[2024年02月14日(Wed)]
2024年2月13日、UAE訪問中のモディ首相は、インド対外省のプレスリリースによれば、ムハンマド・ビン・ザーイド(通称:MBZ)UAE大統領との会談の機会をとらえて、以下の覚書を交した。モディ首相は、2023年7月15日UAEを公式訪問していた。

@電力相互接続および貿易分野における協力に関する覚書:これにより、エネルギー安全保障やエネルギー貿易を含む、エネルギー分野における協力の新たな分野が開かれる。

Aインド・中東・欧州を結ぶ新経済回廊の強化と運営のための協力に関する政府間枠組み協定:この件に関するこれまでの理解と協力を基礎とし、地域の連結性を促進するインドとUAEの協力を促進する。

Bデジタルインフラプロジェクトにおける協力に関する覚書:デジタルインフラ分野における投資協力を含む幅広い協力の枠組みを構築するとともに、技術的知識、スキル、専門知識の共有を促進する。

CUAE国立図書館・公文書館とインド国立公文書館との間の協力議定書:この議定書は、アーカイブ資料の修復と保存を含む、この分野における広範な二国間協力を形成する。

D国家海洋遺産複合施設(NMHC)の開発に関する覚書:グジャラート州ロタールの海洋遺産複合施設の支援を目的とした両国間の関与を促進する。

E即時決済プラットフォームの相互リンクに関する合意 - UPI (インド) と AANI (UAE) : これにより、両国間のシームレスな国境を越えた取引が促進される。 これは、23年7月のモディ首相のアブダビ訪問中に署名された決済システムとメッセージングシステムの相互リンクに関する覚書に続くものである。

F国内デビット/クレジット カードの相互リンクに関する合意 - RuPay (インド) と JAYWAN (UAE) : 金融セクターの協力関係を構築する上で重要なステップであり、これにより UAE 全体で RuPay の普遍的な受け入れが強化される。首相は、デジタル RuPay クレジットカードとデビットカードをベースにした UAE の国内カード JAYWAN の発行についてシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領に祝意を表した。 両首脳は、JAYWANカードを使用して行われた取引を目撃した。

Gエネルギーパートナーシップの強化:両首脳は、UAEがインドにとって原油とLPGの最大供給源の一つであることに加え、インドが現在LNGの長期契約を結んでいることを評価した。

H港湾関係協力:訪問に先立ち、RITES Limitedはアブダビ港湾会社と、グジャラート海事委員会はアブダビ港湾会社と協定を締結した。 これらは港湾インフラの構築に役立ち、両国間の接続をさらに強化するとみられている。

Iヒンドゥー寺院のアブダビ開設:モディ首相は、ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領の個人的な支援と、アブダビのBAPS寺院建設のための土地の供与に対する寛大なご厚情に感謝の意を表した。 双方は、BAPS寺院がUAEとインドの友好関係、深く根付いた文化的絆を祝うものであり、調和、寛容、平和共存に対するUAEの世界的な取り組みを体現するものであることに留意した。

(コメント)モディ首相の2023年7月以来のUAE訪問が実施され、UAE・インド関係の強化が改めて印象付けられた。両国は、2022年2月に包括的経済連携協定(いわゆる自由貿易協定)を締結しており、貿易関係を拡大している。UAEの総人口は約1千万人であるが、うち350万人がインド系といわれ、貿易量の拡大に加えて、取引の現地通貨使用や、新決済システムの導入、インド系住民が簡単に母国通貨との関係で容易に使用できるクレジット・カード使用が拡大された。さらに、ガザ危機で、見通しがたたなくなっていたインドからアラビア半島を通じて、イスラエル、欧州を結ぶ新経済回廊準備に向けた覚書も交わされた。2024年4月または5月に実施予定のインド総選挙で勝利し、首相3期目を目指すモディ首相は、再選を期して、内外で着実に実績を積み重ねている。今回のUAE訪問で交わされた覚書の一部について注目点を挙げれば次のとおり。
@の貿易拡大右矢印12022年2月18日、UAEとインドは二国間の包括的経済連携協定(CEPA)を締結した。両国の物品に関する貿易額は21年の600億ドル(約6兆9000億円)だが、5年後に1000億ドルまで引き上げることをめざすとのこと。
Aのインド・中東・欧州を結ぶ新経済回廊:新回廊構想は、2023年9月のインドG20開催の機会に米国、インド、サウジ、UAE、欧州諸国との間で合意文書が署名された。しかし、23年10月7日に発生したガザ危機で、サウジは、対イスラエル関係の見直しを強いられた。直前の2023年9月22日、国連総会でネタニヤフ・イスラエル首相はサウジアラビアとの和平が間近であると演説、MBS皇太子は23年9月FOXニュースとのインタビューで、イスラエルとの合意に「日に日に近づいている」と述べていたが、パレスチナ問題はリヤドにとって「非常に重要」であるとも主張した。「私たちはその部分を解決する必要がある。パレスチナ人の生活を楽にする必要がある」と彼は語っていた。10月7日にハマス・イスラエル戦争勃発し、10月14日、サウジは関係正常化協議中断を米国に通報した。これによって、新経済回廊構想は、延期を余儀なくされたが、イスラエルとの関係を正常化しているUAEは、ガザ情勢にもかかわらず、インドとの間で、新回廊の準備は続けていくことを確認し、新経済回廊構想は死に絶えていないことをアピールした。
E、Fについて:インド政府は2023年8月14日UAEとの二国間貿易の決済を自国通貨で始めたと明らかにした。インド石油公社(IOC)はUAE産原油100万バレルの決済をルピーで行い、IOCはアブダビ国営石油会社(ADNOC)に支払った。インドは23年7月、UAEとの間で、ドルではなくルピーで決済する合意をUAEとの間で締結し、ドルとルピーの換金を経由せず、コストを削減する取り組みを強化した。インドのモディ首相がUAEを訪問した際、両国間での国境を越えた送金をより簡単にするために、即時決済システムを導入することで合意していた。モディ首相とUAEのMBZ大統領はで24年2月13日、アブダビでUPIとRuPayカードサービスを導入した。これにより、両国間のシームレスな国境を越えた取引が容易になった。 これは、23年7月の首相のアブダビ訪問中に署名された、決済システムとメッセージングシステムの相互リンクに関する覚書に続くものとなる。さらに、この動きは、ロシアやイランがBRICSや上海協力機構(SCO)のメンバー間で導入をすすめている取引の脱ドル化、新決済システムの導入、運用の動きと相通ずるものと考えられる。
➉について:モディ首相は、インドの総人口の8割を占めるヒンドゥー教徒にアピールするため、24年1月22日には、1992年にヒンドゥー教至上主義者によって破壊されたバブリーモスクの跡地に建設されたアヨーディヤ・ヒンドゥー教「ラーマ」寺院の開所式典で自らの功績をアピールした。そして、アブダビでは、UAEが土地を提供し、BAPSヒンドゥー寺院開設を支援した。
アブダビでは、2023年3月1日、宗教間の融和を謳い、3大一神教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の宗教施設を統合した通称「アブラハム・ファミリー・ハウス」が公開されており、MBZ大統領は、アブダビを多宗教の信者に開かれた場所であることをアピールしている。
https://www.mea.gov.in/press-releases.htm?dtl/37620/Prime_Ministers_meeting_with_President_of_the_UAE

Posted by 八木 at 15:09 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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