新生シリア政権の下で初めて実施されるシリア人民議会選挙について[2025年08月27日(Wed)]
2025年8月23日、シリア暫定政権は、9月15-20日実施される予定のシリアの国会にあたる人民議会選挙が行われる際に、スウェイダ、ハサカ、ラッカの3県では選挙を行わないと発表した。南部スウェイダ県はドゥルーズ派が多数派を占め、ハサカ県の大部分とラッカ県の一部はクルド人主導のシリア民主軍(SDF)が支配している。高等選挙管理委員会は、政府の完全支配下にはない当該県での投票は、「安全が確保」されるまで、延期されると述べた。
この選挙では、シャラア暫定大統領の支配力維持に二重・三重の保険がかけられている。上述のとおり、@暫定政権の支配が及ばない地域の投票を除外したこと、Aシャラア暫定大統領は新たに選出される人民議会議員210人のうち3分の1を任命する権限を自らに与える法令に署名したこと。B投票する国民は代表者(人民議会議員)を直接選出するのではなく、複数の委員会を経て間接的に選出されること、すなわち、選挙委員会が設置する地区レベルの小委員会が、人民議会の議席1つにつき約50名の選挙機関の委員を選出し、その後、第2段階である選挙段階に移り、これらの選挙機関内で選挙が行われることになる。
https://www.rudaw.net/english/middleeast/syria/230820251
(コメント)人民議会選挙の実施は、シャラア暫定政権にとって、シャーム解放機構(HTS)主導の暫定政権の正統性をアピールし、残った欧米の制裁を解除してもらい、復興支援を得るうえで、必要なプロセスである。シリア人権監視団によれば、3月には、地中海沿岸部のいくつかの場所で、反政府グループと政府軍・政府系部隊との間で戦闘が発生し、アラウィー派住民など約1400名が犠牲になったと伝えられており、7月には、南部スウェイダ県で、ドゥルーズ部隊と政府軍・政府系部隊との間で戦闘が発生し、約1500名が犠牲になったと伝えられている。こうした中、3月10日にクルド人部隊を中心とするSDF(シリア民主軍)のマズルーム・アブディ総司令官とシャラア暫定大統領の間で交わした8項目の合意文書の実施に向けた協議が停滞している。双方は、「国境検問所、空港、石油・天然ガス田を含むシリア北東部のすべての民間および軍事機関をシリア国家の管理に統合する」ことで合意したが、その具体的内容について、暫定政権側は、「国の中に国」、「軍の中に軍」を認めるわけにはいかないとの立場で、一方、SDF・北東部自治統治勢力は、現地での約10年の経験・ノウハウを踏まえ、クルド人・アラブ人・アッシリア人、キリスト教徒、イスラム教徒その他地域住民で構成する地方分権ないし連邦制が必要であり、また、SDFについては、国への所属は認めるものの、部隊や隊員をばらばらにして国軍に統合するのではなく、シリア北東部住民を守る特殊部隊としての存続を主張している。暫定政権側は、ISISなどと戦った経験とノウハウを国軍全体に浸透させるためには、特殊部隊として存続させることは適切ではないとしており、統治と部隊の態様について、議論は進展していない。
そのような中で、暫定政権は、SDF支配地区2県とドゥルーズ支配地区1県の人民議会選挙からの排除を決定し、選挙後、新憲法案の作成に向けて準備を進めていくものとみられる。SDF・北東部自治統治勢力は、大統領に巨大な権限が集中する中央集権的統治は認められないとの立場を崩していない。新憲法草案を議論する委員会などに、SDF・北東部自治統治勢力の参加が認められなければ、暫定政権とSDF合意の実現は困難になることは間違いない。他方で、SDF・北東部自治統治勢力も、トルコで進行中のトルコ政府とPKKとの和解プロセスの行方を注視しながら、トルコ政府の意向を尊重する暫定政権側との協議に臨んでいるといえる。
この選挙では、シャラア暫定大統領の支配力維持に二重・三重の保険がかけられている。上述のとおり、@暫定政権の支配が及ばない地域の投票を除外したこと、Aシャラア暫定大統領は新たに選出される人民議会議員210人のうち3分の1を任命する権限を自らに与える法令に署名したこと。B投票する国民は代表者(人民議会議員)を直接選出するのではなく、複数の委員会を経て間接的に選出されること、すなわち、選挙委員会が設置する地区レベルの小委員会が、人民議会の議席1つにつき約50名の選挙機関の委員を選出し、その後、第2段階である選挙段階に移り、これらの選挙機関内で選挙が行われることになる。
https://www.rudaw.net/english/middleeast/syria/230820251
(コメント)人民議会選挙の実施は、シャラア暫定政権にとって、シャーム解放機構(HTS)主導の暫定政権の正統性をアピールし、残った欧米の制裁を解除してもらい、復興支援を得るうえで、必要なプロセスである。シリア人権監視団によれば、3月には、地中海沿岸部のいくつかの場所で、反政府グループと政府軍・政府系部隊との間で戦闘が発生し、アラウィー派住民など約1400名が犠牲になったと伝えられており、7月には、南部スウェイダ県で、ドゥルーズ部隊と政府軍・政府系部隊との間で戦闘が発生し、約1500名が犠牲になったと伝えられている。こうした中、3月10日にクルド人部隊を中心とするSDF(シリア民主軍)のマズルーム・アブディ総司令官とシャラア暫定大統領の間で交わした8項目の合意文書の実施に向けた協議が停滞している。双方は、「国境検問所、空港、石油・天然ガス田を含むシリア北東部のすべての民間および軍事機関をシリア国家の管理に統合する」ことで合意したが、その具体的内容について、暫定政権側は、「国の中に国」、「軍の中に軍」を認めるわけにはいかないとの立場で、一方、SDF・北東部自治統治勢力は、現地での約10年の経験・ノウハウを踏まえ、クルド人・アラブ人・アッシリア人、キリスト教徒、イスラム教徒その他地域住民で構成する地方分権ないし連邦制が必要であり、また、SDFについては、国への所属は認めるものの、部隊や隊員をばらばらにして国軍に統合するのではなく、シリア北東部住民を守る特殊部隊としての存続を主張している。暫定政権側は、ISISなどと戦った経験とノウハウを国軍全体に浸透させるためには、特殊部隊として存続させることは適切ではないとしており、統治と部隊の態様について、議論は進展していない。
そのような中で、暫定政権は、SDF支配地区2県とドゥルーズ支配地区1県の人民議会選挙からの排除を決定し、選挙後、新憲法案の作成に向けて準備を進めていくものとみられる。SDF・北東部自治統治勢力は、大統領に巨大な権限が集中する中央集権的統治は認められないとの立場を崩していない。新憲法草案を議論する委員会などに、SDF・北東部自治統治勢力の参加が認められなければ、暫定政権とSDF合意の実現は困難になることは間違いない。他方で、SDF・北東部自治統治勢力も、トルコで進行中のトルコ政府とPKKとの和解プロセスの行方を注視しながら、トルコ政府の意向を尊重する暫定政権側との協議に臨んでいるといえる。
Posted by 八木 at 14:40 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)



