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イランの治安分野の最重要責任者として表舞台に再登場したアリー・ラリジャニ氏 [2025年08月15日(Fri)]
6月のいわゆる「12日間戦争」で、イランはイスラエルの攻撃により核施設が被害をうけただけでなく、イランの治安分野の幹部多数が殺害された。イラン軍参謀総長ムハンマド・バゲリ少将とイスラム革命防衛隊(IRGC)総司令官ホセイン・サラミ少将がテヘランで殺害され、IRGC航空宇宙軍司令官アミラリ・ハジザデ准将とIRGCが運営する巨大エンジニアリング企業ハタム・アンビア司令部司令官ゴラマリ・ラシド少将も殺害され、アリー・シャムハニ最高指導者上級顧問も自宅を爆撃され、3時間瓦礫に閉じ込められ、元国会議長で、ハメネイ師顧問のアリー・ラリジャニ氏も事前にイスラエル側から殺害予告を受けていたとされる。イランは、2024年9月のイスラエルによるレバノン攻撃で、イスラエルに軍事的に対峙するうえで最も重要なパートナーであるヒズボラの指導者ナスラッラー師をバンカーバスター弾で殺害され、同年12月には、レバノンへの重要な補給路を構成していたシリアのアサド政権を失い、体制の維持、地域での影響力確保に向けて、黄色信号が灯もり始めていた。こうした中、イスラエルからの殺害の脅威を回避したアリー・ラリジャニ氏は、7月20日、ロシアのモスクワを訪問してプーチン大統領と会談した後、8月6日には、国家安全保障最高評議会(SNSC)責任者の書記に任命され、イラク、レバノンを訪問した。イラクでは指導者らと会談し、カセム・ソレイマニIRGCコッズ部隊司令官の殺害現場に花輪を捧げ、その後、テヘランと同盟関係にあるヒズボラの武装解除を求める動きの中、レバノンを訪問した。IRGC創設メンバーでもあるラリジャニ氏は、今や権力の中枢に返り咲き、新たに設置された国防評議会でも主導的な役割が期待されており、地域情勢の緊迫と後継者問題が迫る中でイランにとってのこれまでの友好国関係者訪問を通じて、イランのじり貧状態からの巻き返しを狙っている。
こうした中、ラリジャニ氏は、マヤディーン紙のインタビューに応じたところ、8月14日同紙が報じた主要点は次のとおり。
1. 抵抗運動:抵抗運動は皆のためのもの。シーア派やスンニ派に限定されるものではない。我々はスンニ派抵抗運動であるハマスと、シーア派抵抗勢力であるヒズボラを支援している。我々の立場は宗派主義的なものではない(右矢印1イスラエルへの抵抗活動を続けるヒズボラを支持すべきとの立場を改めて強調したもの
2. ナビー・ベッリ国会議長(注:シーア派組織アマル出身で90年代から国会議長の職にある)との会談:政治的に鋭敏で、豊富な経験を有し、抵抗運動の重要な支柱である。彼はいかなる状況下でもどのように行動すべきかを知っている。私たちは意見交換を行い、彼の包括的な視点に耳を傾けた。彼の考えはレバノンが抱える課題の解決への道を開くものであり、彼は地域に対しても建設的な提案をいくつか行った(右矢印1政府によるヒズボラの武装解除への圧力の中で、シーア派勢力の代表として、イランは、ベッリ議長の役割に期待していることを示している
3. ジョゼフ・アウン大統領とナワフ・サラーム首相との会談:我々は我々の立場を明確に伝えた。我々は他国の事柄に干渉せず、各国は多様な政治グループと協議した上で適切な決定を下せると考えている。我々は我々の見解を公然と表明するが、一部の政治的な『悪魔』が悪意ある目的のために利用するような誤解は避けたいと考えている。各国はそれぞれの気質に応じて指導者を選ぶ。私たちの役割は、異なる性格や志向を持つ人々に適応し、協力する方法を見つけることである。外交においては、誰とでも話し合い、協力できなければならない。政治的な相違は決して敵意になってはならない。進歩は対話から生まれる(右矢印1米国の働きかけもあり、ヒズボラの武装解除を推進しようとするレバノン政治指導部に対して、妥協点を見出すべく努力すべきとの意向を表明したものとみられる)
4. SNSC書記として初の外国訪問先にイラク、レバノンを選んだ理由:イラクとレバノンを選んだのは、両国が長年にわたり協力関係を築いてきた親しい友人だからである。両国とは古くから深い関係を築いている。シリアは現在正式な国交がないため、今回の訪問には含まれていなかったが、レバノンとイラクは地域情勢について協議する上で不可欠な訪問地であった(右矢印1親イランのシーア派民兵組織を抱える両国との対話のルートを確保しておくことの重要性を表明したものとみられる)
5. バッシャール・アル・アサド大統領(当時)と会談した前回のダマスカス訪問:シリアを攻撃し侵略した者たちでさえ、政権転覆が可能だとは思っていなかったと思う。私の訪問は、アサド大統領が協議したい事項について直接話を伺うためであった。しかし、事態は急速に展開した。過去2年間、事態の展開は急速かつ予測不可能であり、それが今の時代の特徴である(右矢印1これまで想定されていなかった出来事が次から次へと発生して、予測不能な時代に突入していることを踏まえ、緊急時に如何なる事態にも対処する必要性を強調したもの)
6. イスラエルによるイラン攻撃:ネタニヤフ首相が公然と宣言したように、彼らの目的はイスラム共和国の体制を転覆させることだった。彼らは14年間これを計画したが、失敗した。ネタニヤフ首相は(イラン国内の)動乱を煽ろうとしたが、イランの反体制勢力でさえ国家側についた。彼は大きな誤算を犯し、イラン国民は彼を好んでいない。事態は彼の予想に反して展開した。地域のどの国もテルアビブ側に付かなかった。多少の違いはあったものの、イスラム世界はイスラム共和国を支持した。彼らが何の成果も上げていないこと自体が、彼らの戦略的敗北の証である。(イスラエルがイランの要人殺害に成功したことを認めつつ)結果的にイスラエル側は何も得ていない。
7. ネタニヤフ首相について:我々は、シオニスト国家からのいかなる攻撃にも、常に全力で対応する用意がある。ネタニヤフ首相が権力の座に居続ける限り、この地域の安定は訪れない。パレスチナに住む人々にとってもそうだ。彼は私利私欲のために危機を煽る悪意ある人物である。レバノン、シリア、そして他の国々でそれが見られる。それは絶え間ない挑発と不安定化策である。
8. 米国との和解の可能性(イランが核問題にとどまらず、米国とのより広範な和解を追求する可能性について):一歩ずつ進めていく必要がある。まず、アメリカが誠実かどうかを見極める必要がある。レバノンやイラクにおける彼らの取り組みが、真に現地の人々の利益を優先するものであれば、交渉の余地はある。しかし、彼らの和平理論が武力、つまり降伏か戦争かのいずれかに基づくものである限り、これはうまくいかないであろう。イランは降伏しないし、これまでも降伏していない。交渉は、双方が戦争では目的を達成できないことを認めた場合にのみ有効となる(右矢印1核協議の継続などを求める米国の真意がどこにあるのかを見極める必要があるとの見解を意味する)
9. 国家安全保障最高会議の議長という新たな役割: 対話による地域紛争の解決を全面的に支持する。サウジアラビアやエジプトのような国々との協議を通じて、すべての地域問題の解決に向けて前進することを強く望んでいる。サウジとは関係を深めなければならない。すべての問題で合意しているわけではないが、良好な合意の枠組みの中で協力を拡大することができる。実務的な共同作業の基盤には大きな違いがあるとは考えていない。あるのは、特定のメカニズムや視点に関する意見の相違だけである。解決策は対話にある。彼らは私たちの友人であり兄弟であり、すべてのイスラム諸国も同様である。そして、私は対話が有益だと考えている(右矢印1アラブ諸国とは、小異はあっても、対話を続けたいとの意向を強調したもの)。
10.イスラエル側からの脅迫について:自身が個人的にイスラエルから標的にされたという報道は事実である。戦闘初日に、電話とモサドを通じて殺害の脅迫を受けた。もちろん、私は彼らに相応しい対応をした(右矢印16月のイスラエル攻撃は、ハメネイ師の最側近が狙われていたことを示めしている)
11.イスラエルのイラン攻撃中の最高指導者ハメネイ師の対応について:ハメネイ師は米イスラエル戦争の均衡を覆した。初日(6月13日)、彼らは多くの司令官を暗殺したが、ハメネイ師は数時間以内に彼らを交代させた。これは極めて重要な動きであった。彼はイラン国民に演説し、対立の本質を説明し、力強く冷静さを伝え、状況を変えた。アメリカが臆面もなく『降伏せよ』と言った時、彼は力強く『我々は降伏せず、力強く立ち向かう』と応えた。サイイド・ハメネイ師は最高司令官として行動した。指導者があらゆる意味で最高司令官として行動し、彼は作戦室から指揮を執り、多くの事柄について協議し、指示を出していた。状況を完全に掌握していた。これは、たとえ指導部全員が暗殺されたとしても、他の者が妨害なく介入できるという、我が国の軍の能力を証明した。その夜、我が国の防空体制があらゆる困難に直面していたにもかかわらず、イスラム共和国からイスラエルに向けてミサイルが発射された。これは比類なき勇気であった(右矢印1イスラエルの攻撃中、ハメネイ師の消息が不明になったと報じられたことがあったが、ハメネイ師は作戦の中心であり、イスラエルへの反撃にも指揮をとったとして、ハメネイ師への信頼をアピールしたもの)。
12.ヒズボラの忍耐力について:100%全幅の信頼を寄せている。私たちが知り、目にするこの精神は決して死なない。彼らは生きており、一人一人が千人の兵士に匹敵する。簡単には排除できない。彼らの基盤は出来事や現実に適応するが、彼らは存続し、イスラム世界のために実を結ぶであろう(右矢印1殉教したナスラッラー師への哀悼の意を表するとともに、ヒズボラが米国の思惑通り、容易に武装解除されることはないとの確信を示したもの)
https://english.almayadeen.net/news/politics/larijani--iran-stands-firm-on-resistance--regional-dialogue
(コメント)2025年6月22日、イランのプレスTVがイラン議会はホルムズ海峡封鎖を承認したと伝えた。同時に、実行には国家安全保障最高評議会(SNSC)の決定が必要とコメントした。このような世界に衝撃を与える最重要事項決定は、もちろん最高指導者の判断が必要にはなるが、機関決定を下す役割を国家安全保障最高評議会が担っており、その書記にアリー・ラリジャニ氏が任命され、表舞台で活動し始めたことは、内政上も外交上もイランのどん底からの巻き返しを図る動きとして注目される。多くのハメネイ師側近が、今回のイスラエルのイラン攻撃で殺害される中、ラリジャニ氏のSNSC書記指名は、イランが、イスラエル攻撃中一時消息が途絶えていたとされるハメネイ師の権威を復活させ、傷ついた近隣諸国との関係の再構築に踏み出した動きととらえることができる。とりわけ、アサド政権を見放したものの、中東で引き続き、一定の影響力を維持するロシアを訪問して、ロシア・イラン関係の継続を中東諸国政府に意識させ、さらに、シーア派民兵組織を抱えるイラク、レバノンを訪問して、イスラエルへの抵抗勢力として容易にヒズボラなどの武装解除に応じるわけにはいかないと、両国指導者に釘をさすことで、イランの影響力を域内に残す行為にでたものと認識される。

Posted by 八木 at 15:05 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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