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イランから本国帰還を強制されるアフガニスタン人が激増[2025年08月14日(Thu)]
これまで、世界最大の難民を抱えている国は、数年以上300万人規模のシリア人を一時保護の下で受け入れてきたトルコであった。2024年12月8日のアサド政権の崩壊と新生シリア政権の誕生後、トルコが受け入れているシリア人数は255万5560人まで減少(トルコ統計局の数字に基づくUNHCR2025年8月7日統計更新分)してきている。一方、世界最大の難民・非正規移民を受け入れている国のトップをイランが占めていたことがUNHCRの2024年末「グローバル・トレンド・レポート」公表の統計から明らかになってきた。
第一位 イラン 350万人
第二位 トルコ 290万人
第三位 コロンビア 280万人
第四位 ドイツ 270万人
第五位 ウガンダ 180万人

イランが最も多数の難民・非正規移民を受け入れているのは、アフガニスタン人である。欧州はどうであろうか。

EUの統計によれば、国別新規庇護申請登録数は2024年EU全体で、91万2千人で、一位シリア(14万7965人)、二位ベネズエラ(7万2775人)、アフガニスタンが7万2155人で第3位にランクされている。

一方、英国内務省統計によれば、2025年3月までの1年間に英仏海峡を小型ボートで、英国に辿り着いた非正規移民の出身国は、一位アフガニスタン(5766名)、二位シリア(4368名)、三位エリトリア(4229名)となっており、やや減少傾向にあるシリア人に替わって、アフガニスタン人の存在感が目立ってきている。スターマー首相率いる英国政府と仏政府との不法移民と難民申請者の「一人引き渡し、一人受け取り」合意にもかかわらず、英仏海峡を渡って到着した人の数は過去5年間で最速のペースで進んでおり、英国内務省によれば2025年7月30日現在、 25,436人に達している。

このような状況下、ノンルフールマン原則に従って、犯罪者であっても、非正規移民の国外退去を躊躇ってきた欧州諸国も、強制送還に乗り出す国が出てきている。その筆頭は、難民・非正規移民に寛容といわれてきたドイツである。ドイツは、前政権下の2024年8月30日、ドイツで罪を犯したアフガニスタン人28人を強制送還したと発表した。イスラム主義勢力タリバンが2021年8月に実権を握って以降初めての措置であった。ドイツのメルツ政府は2025年7月18日、犯罪歴のあるアフガン人81人を強制送還したと発表し、今後も続ける意向を示した。AP通信によると、トランプ米政権もアフガン移民の滞在や労働を許可する一時保護資格(TPS)を取り消した

戦火と経済制裁に苦しむイランでは、2025年6月中旬以降、イラン当局がアフガニスタン人に本国に帰還するよう求め、要求に従わないと逮捕されることになると警告を発した。この背景には、6月13日にイスラエルがイラン本土への直接攻撃を開始し、12日間の攻撃で核関連施設だけではなく、イスラム革命防衛隊(IRGC)司令官や軍参謀総長など主要な治安部門幹部がピンポイントで殺害されたことで、国内にイスラエルのスパイが多数潜入しており、その一部がアフガニスタン人であるとみなされたことにある。イランメディアからは、スパイ容疑で実際に2万1千人が拘束されたと報じられている。そのため、イラン在住のアフガニスタン人の間に不安が高まり、イランからアフガニスタンへの国境検問所の通過数は劇的に増加し、日によっては約4万人がアフガニスタンに入国したとのことで、国際移住機関(IOM)の報道官によると、2025年6月1日から7月5日までの間に44万9218人のアフガニスタン人がイランから帰還し、2024年からの帰還者総数は90万6326人となったとされる。
しかし、多くのアフガニスタン人帰還者は、タリバン当局からの圧力、逮捕、国外追放、そして性急な出国による経済的損失を経験したと報告している。帰還者への危機対応は第一にアフガニスタンへの対外援助の大幅な削減によって妨げられており、国連、国際NGO、そしてタリバン当局から資金増額を求める声が上がっている。一方、イランのアリー・アクバル・プールジャムシディアン内務副大臣は、国内に滞在する不法滞在のアフガニスタン人は「尊敬すべき隣人であり、信仰の兄弟」である一方で、イランの「能力にも限界がある」と認めた。また、帰還プロセスは「段階的に実施される」と示唆した。
https://www.aljazeera.com/news/2025/7/6/iran-tells-millions-of-afghans-to-leave-or-face-arrest-on-day-of-deadline
https://www.aljazeera.com/news/2025/8/12/iran-says-it-arrested-21000-suspects-during-12-day-war-with-israel-us
(コメント)2021年8月の米軍他のアフガニスタンからの撤退により、多くのアフガニスタン人が迫害の危険を逃れるために、隣国のイランやパキスタン、さらにはそれらの国々を経由して欧州諸国などに脱出した。未だ、アフガニスタンのタリバン政権を正式に承認した国は、ロシア1国にとどまっている(2025年7月3日。但し、中国も事実上の外交関係を構築している)。アフガニスタンでは、未だに女性の高等教育の機会が奪われており、就労の機会も厳しく制限されている。国際社会からの援助も激減している。そうした中で、欧米は、アフガニスタン人を強制帰還あるいは出国を強いる措置を発動し始めている。冒頭のUNHCRの統計でも明らかなように、アフガニスタン人の最大の受け皿は、イランであった。このイランに、イスラエルが6月に核開発を阻止するためとの名目で、大規模な攻撃を加えた。これを、ドイツのメルツ首相は、2025年6月17日、公共放送ZDFのインタビューで、イランの核施設などを攻撃したイスラエルを「私たちのために汚れ仕事をしてくれた」と称賛した。首相は、今回の攻撃がなければテロ行為が続き、イランの核開発も進んだと指摘し、「イスラエル軍と政府が(攻撃を)実施できたことを尊敬する」と評価し、イスラエルに「感謝する」とまで述べた。一方、米国は、イラン産原油を輸入する中国の精製業者や原油を輸送するタンカーなどに追加制裁を科し、経済的に締め上げようとしている。これまで内戦の被害を逃れて脱出したシリア人の欧州への移動の防波堤になってきたのがトルコであり、タリバン政権支配を逃れたアフガニスタン人の欧州への移動の防波堤になってきたのが、イランであった。欧州は、イランの難民・移民受け入れ能力を破壊することによって、ブーメラン被害をうける可能性がこれまで以上に高まっていることを認識しているのであろうか。あるいは、これまで西側諸国にも協力してくれたにもかかわらず、置き去りにしたアフガニスタン人を現状のまま、タリバン支配下に閉じ込めることを期待しているのであろうか。

Posted by 八木 at 16:35 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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