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PKK党大会でのPKK武装解除・解体の決議[2025年05月13日(Tue)]
アブドッラー・オジャランが創設し、一時期クルド人支配地区のトルコからの分離独立を訴えて、トルコ政府からはテロ組織に指定されているトルコの反政府武装組織「クルド労働者党(PKK)」は、2025年2月27日現在も収監中のアブドッラー・オジャランの「平和と民主社会への呼びかけ」に応え、2025年5月5日から7日まで、メドゥヤ(Medya)防衛地域で第12回臨時党大会を開催した。大会は「PKKの組織構造を解体し、武装闘争の手段を終結させる。ただし、実際のプロセスはアポ指導者(注:オジャランを指す)が主導・管理し、PKKの名の下に行われてきた活動を終結させる」という決定を採択した。PKK第12回臨時党大会は、「ビジ・セロク・アポ(アポ指導者万歳)」、「ジン・ジヤン・アザディ(女性、生命、自由)」、「人道主義を主張することは社会主義を主張することである」というスローガンで閉幕した。大会の結果は、間もなく国民に公開されることが発表された。今後、武装解除が具体的にどのように進むのか、クルド人は見返りに何を得ることになるのかが注目点である。
https://anfenglishmobile.com/features/pkk-decides-to-dissolve-for-a-new-beginning-79295

(参考1)エルドアン・トルコ大統領反応
エルドアン大統領はPKKによる今回の決定を歓迎し、「PKKが武器を放棄すれば、新たな時代の扉が開かれる。我々は、この決定が我が国の安全保障と国民の永遠の兄弟愛を強化する上で重要であると考えている」と述べ、トルコ政府はこのPKK側声明を、イラク、シリア、そして欧州におけるPKKのあらゆる活動範囲にも適用される決定と捉えていると指摘した。大統領は、諜報機関やその他の関連機関が、いかなる後退も防止し、約束が確実に守られるよう、今後のプロセスを細心の注意を払って監視していくと述べた。さらに、近日中に、より詳細な声明を国民に発表する予定であると述べた。
https://www.dailysabah.com/politics/war-on-terror/pkks-disbandment-to-usher-new-era-in-turkiye-erdogan
(参考2)第12回PKK党大会声明内容
PKK(クルド労働者党)第12回臨時党大会理事会は、以下の声明を発表した。
1. 「2025年2月27日のアブドッラー・オジャラン指導者の声明によって開始されたプロセスは、彼の広範な活動と多角的な視点によってさらに形作られ、同年5月5日から7日にかけて開催された第12回党大会の成功という結実を結びました。継続的な衝突、空襲および地上攻撃、地域への継続的な包囲、そして(イラクの)KDPによる禁輸措置にもかかわらず、私たちの党大会は困難な状況下でも安全に開催されました。安全上の懸念から、大会は2つの異なる場所で同時に開催されました。合計232名の代表が参加したPKK第12回党大会では、指導者、殉教者、退役軍人、PKKの組織構造と武装闘争、そして民主的な社会の構築について議論され、自由運動の新たな時代の幕開けとなる歴史的な決定が下されました。第12回臨時大会は、PKKの闘争が我々国民に課せられた否認と殲滅の政策をなきものとし、クルド問題を民主的な政治によって解決できる地点にまで導いたと評価し、PKKはその歴史的使命を果たしたと結論付けました。これに基づき、第12回大会はPKKの組織機構を解体し、武装闘争を終結させることを決議しました。その実施プロセスは、指導者アポ(アブドッラー・オジャラン)が管理・指揮することとしました。これにより、PKKの名の下に行われたすべての活動は終了しました。
2. 我々の政党PKKは、ローザンヌ条約と1924年憲法に根ざした否認と殲滅の政策に反対するクルド人自由運動として誕生しました。設立当初から真の社会主義の影響を受け、民族自決の原則を掲げ、武装抵抗を通じて正当かつ公正な闘争を展開してきました。 PKKは、クルド人に対する攻撃的な否定、殲滅、ジェノサイド、そして同化政策が支配する状況下で結成されました。1978年以来、PKKはクルド人の存在を認めさせ、クルド問題をトルコの根本的な現実として確立することを目指して、自由を求める闘争を展開してきました。この闘争の成功により、私たちの運動はクルド人のための復活革命を成し遂げ、この地域の人々にとって希望と尊厳ある生活の象徴となりました。1990年代、クルド人が大きく前進した時代において、トルコ大統領トゥルグト・オザルはクルド人問題の政治的解決を模索し始めました。これに対し、アポ指導者は1993年3月17日に停戦を宣言し、新たな局面を迎えました。しかし、真の社会主義の崩壊、ギャングのような戦術を用いた戦争戦略の導入、そしてディープステートによるオザルとその一味の排除により、この取り組みは頓挫しました。国家は否認と殲滅政策を強化し、戦争を激化させました。数千の村が避難させられ、焼き払われました。数百万人のクルド人が避難を強いられ、数万人が拷問を受け、投獄され、数千人が不審な状況下で殺害されました。これに対し、自由運動は規模と勢力を拡大しました。ゲリラ戦はクルディスタンとトルコ全土に広がりました。ゲリラ闘争の影響でクルド人は大規模な蜂起(セルヒルダン)を起こし、戦争が双方にとって第一の選択肢となりました。結果として生じた戦争の相互激化は覆すことができず、アポ指導者によるクルド問題を民主的かつ平和的な手段で解決しようとする努力は最終的に失敗に終わった。
3. 1999年2月15日の国際陰謀事件(シリアとのアダナ合意を受けたトルコと欧米の包囲網の中で、シリアから国外退去させられたオジャランのケニアでの逮捕を指す)を契機に、このプロセスは新たな局面を迎えました。このプロセスにおいて、陰謀の主要目的の一つであったクルド・トルコ戦争は、アポ指導者の多大な犠牲と努力によって阻止されました。イムラル刑務所の拷問と大量虐殺体制に囚われながらも、彼はクルド問題の民主的かつ平和的な解決を模索し続けました。27年間、アポ指導者はイムラルの絶滅体制に抵抗し、国際陰謀を無効化してきました。その闘争の中で、彼は男性優位で権力主導の国家主義体制を分析し、民主的で環境に優しく、女性の自由を重視する社会のパラダイムを構築しました。こうして、彼は私たちの人々、女性、そして抑圧された人類のために、代替的な自由体制を具体化しました。アポ指導者は、ローザンヌ条約および1924年憲法以前の、クルド人とトルコ人の関係が問題となった時期を例に挙げ、共通の祖国と共同創立民族の理念に基づくトルコ民主共和国と民主国家の概念に基づくクルド人問題の解決枠組みを提案しました。共和国の歴史におけるクルド人の蜂起、1000年にわたるクルド人とトルコ人の弁証法的対話、そして52年にわたる指導権争いは、クルド人が共通の祖国と平等な市民権に基づいてのみ解決できることを示している。第三次世界大戦のおそれさえも排除できない中東情勢の展開もまた、クルド人とトルコ人の関係再構築を不可避なものにしています。
4. PKKを解散させ、武力闘争の手段を終結させるという党大会の決定は、永続的な平和と民主的な解決への強固な基盤となります。これらの決定を実行するには、アポ指導者がプロセスを主導し、指導すること、彼の民主的な政治を行う権利が認められること、そして堅固で包括的な法的保障が確立されることが不可欠です。現段階において、トルコ大国民議会が歴史的責任をもってその役割を果たすことが不可欠です。同様に、政府、主要野党、議会に代表されるすべての政党、市民社会組織、宗教・信仰共同体、民主的メディア、オピニオンリーダー、知識人、学者、芸術家、労働組合、女性・青年団体、環境保護運動に対し、責任を負い、平和と民主的な社会の実現プロセスに参加するよう呼びかけます。トルコの左翼社会主義勢力、革命組織、組織、そして個人が平和と民主的な社会の実現プロセスに関与することは、人民、女性、そして抑圧された人々の闘争を新たなレベルに引き上げるでしょう。これは、「トルコ人とクルド人の同胞愛と、完全に独立したトルコ万歳!」を最後の言葉に残した偉大な革命家たちの目標達成を意味するでしょう。民主社会主義が平和と民主主義社会のプロセス、そして社会主義のための闘争における新たな段階を象徴する中で、世界の民主主義運動は前進し、公正で平等な世界が出現するでしょう。この基盤の上に、私たちは民主主義的な世論、特にグローバル・フリーダム・イニシアチブを率いる同志たちに、民主主義近代化理論の枠組みの中で国際的な連帯を拡大するよう呼びかけます。私たちは国際社会に対し、一世紀にわたる私たちの国民に対するジェノサイド政策における責任を認め、民主的な解決を妨害することなく、そのプロセスに建設的に貢献するよう呼びかけます。
https://anfenglishmobile.com/features/pkk-decides-to-dissolve-for-a-new-beginning-79295

(参考3)HTS・SDF合意文書(2025年3月10日)
1)宗教や民族的背景にかかわらず、すべてのシリア人が政治プロセスとすべての国家機関において代表権と参加権を保障すること。
2)クルド人コミュニティはシリア国家の先住民コミュニティであり、シリア国家はクルド人の市民権とすべての憲法上の権利を保障する。
3)シリア全土で停戦を実現する。
4)国境検問所、空港、石油・天然ガス田を含むシリア北東部のすべての民間および軍事機関をシリア国家の管理に統合する
5)避難したシリア人全員が故郷の町や村に戻り、シリア政府によって保護されることを確実にする。
6)アサド政権の残党による脅威、および安全と統一に対する脅威に対するシリア政府の闘いを支援する。
7)シリア社会の構成員の間に分裂を生むことを目的とした呼びかけ、ヘイトスピーチ、不和を広げようとする試みを拒否する。
8)執行委員会は、年末までに合意を確実に実施するために引き続き取り組む。

(参考4)オジャラン提唱の民主連邦制(2011年発表)
民主連邦制とは:国家形態をとらない社会パラダイムで、国家に支配されない。権力独占の中央集権の下での上意下達のヒエラルキー・システムではなく、各地域社会の中で人々が自主的に参加し、意思決定を行い、その結果を上のレベルにあげて調整・実現を目指すというボトム・アップシステムである。
•マイノリティの共存:同制度は草の根参加型の意思決定システムで、様々な少数民族、少数宗派、階級差を克服できる唯一のアプローチである。それは、柔軟で、多文化尊重で、独占に反対し、コンセンサスを重視する。
•環境と女性重視:エコロジーとフェミニズムが中心的な柱である。
主権国家との共存:民主連邦制は、主権国家が(統治の)中心的事項に干渉しない限りにおいて主権国家と妥協し、共存を目指すことがある。
•自衛力の維持:防衛のメカニズムのない地域社会は、アイデンティティを喪失し、民主的な意思決定能力を失う。
•国境外との連携:クルド国家建設が目標ではない。しかし、民主連邦制は、特定の領域内だけでなく、イラン、トルコ、シリア、イラクの各地のすべてのクルド人に開放された連邦構造設置を目指すものであり、さらにクルディスタンの4か所をまたぐアンブレラ連邦体の構成を目指すことができる。

(コメント)PKKの今回の決定の中で、最も重要な点は、PKKはその歴史的使命を果たし、これに基づき、第12回大会はPKKの組織機構を解体し、武装闘争を終結させることを決議したこと、その実施プロセスを指導者アポ(アブドッラー・オジャラン)が管理・指揮すること、これにより、PKKの名の下に行われたすべての活動が終了したことである。これは、25年2月27日のアブドッラー・オジャランのPKK解体の呼びかけに応じたもので、今回の決定は全会一致でなされたとされる。オジャランの呼びかけには、PKKと連携するシリアのクルド人勢力が主体のシリア民主軍(SDF)のマズルーム・アブディ司令官が2025年3月10日、シリア暫定大統領アフマド・アル・シャラアを訪問し、クルド人武装勢力を解体し、暫定政府の管理に統合するという予想外の合意締結にもつながっている。実は、オジャランは、上記参考4のとおり、2011年段階で分離独立路線を放棄し、クルド人の政治的権利を保障する民主連邦制への移行を訴えていた。今回PKKがオジャランの呼びかけにすばやく反応したのは、中東情勢が目まぐるしく変化する中で、トルコのエルドアン政権と手を結ぶことが、クルド人側にとっても、政権側にとっても利益があるとにらんでの判断であることは間違いない。トルコは、2025年5月1日現在、ピーク時よりは約100万人減少したとはいえ、トルコ政府発表で2,758,039人の一時的保護の資格でシリア人を受け入れている。2024年の地方選挙でも、シリア人の帰還を求める国民の声をうけて、与党公正発展党(AKP)が守勢にまわり、共和人民党(CHP)をはじめとする野党側が多数を占めた。シリアでは、HTSのアハマド・シャラアが25年1月29日暫定大統領に就任し、HTS主導暫定政権が発足し、トルコが影響力を有しているが、北東部のクルド人支配地区、南部のドゥルーズ教徒支配地区、地中海側のアラウィー派住民地区などの不安要素を抱え、中でも、北東部はシリアの石油ガス産出地帯でもあり、クルド人勢力をシリア国家再建・統合の道筋に組み入れることは、HTS暫定政権にとっても、トルコ政府にとっても優先事項であると考えられる。トルコ政府からみてPKKと同根のテロ組織とみなすYPG(クルド人民防衛隊)、YPJ(同女性部隊)などのシリアのクルド人武装勢力が参加するSDFは、トルコ軍が支援するシリア国民軍(SNA)とアサド政権崩壊後も戦闘を継続してきたが、PKKが解散し、武装闘争を止めるのであれば、YPG・YPJ主体のSDFも戦闘停止を選択する余地が高まる(もちろん、連邦自治などの要求は継続すると思われる)。トルコでは、エルドアン大統領が憲法を改正して2028年の大統領選3選を目指すともみられており、2013年〜15年の双方の和平取り組みは失敗したものの、エルドアン大統領としては、クルド人の支持をうけて、再選に向けての政権基盤を固めたい、シリアを安定させ、シリア人を帰国させ、政権の実績として国民に支持を訴えたいと思っていることは間違いない。今回の決定で、PKKの武装解除は具体的にどのように進むのか、PKKの戦闘員はどうなるのか、シリアやイラクやイランのPKKと連携する組織への影響が注目される。

Posted by 八木 at 14:29 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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