HTS政権治安部隊による旧アサド政権勢力への報復とみられる衝突拡大[2025年03月09日(Sun)]
3月10日現在、シリア人権監視団(SOHR)は、HTS暫定政権シリア治安部隊と崩壊したバッシャール・アサド政権を支持してきた勢力との3月6日、7日と2日間の衝突とそれに続く報復殺人による死者数は1,300人以上に上ると発表した。主に近距離からの銃撃で民間人830人が死亡したほか、暫定政府治安部隊員231人とアサド大統領と関係のある武装グループの戦闘員250人が死亡したとのこと。これは、アサド政権崩壊後最悪の死者数となっている。SOHRは、ラタキア市周辺の広い地域で電気と飲料水が遮断されたと付け加えた(注:3月8日の発表では、民間人死者は745人、全体で1千人以上が死亡とされていた)。
目撃者は、暴動で最も被害が大きかった町の一つ、バニヤスの住民は、死体が路上に散乱していたり、家や建物の屋根の上に埋葬されずに放置されていたりして、誰も回収できなかったと語った。3月7日の暴動発生から数時間後に家族や近隣住民とともに逃げたバニヤス在住の57歳のアリ・シェハ氏は、アラウィー派が住むバニヤスのある地区で、少なくとも20人の近隣住民や同僚が殺害され、その一部は店や自宅で殺害されたと語った。シェハ氏は、この攻撃をアサド政権による犯罪に対するアラウィー派少数派への「復讐殺人」と呼んだ。他の住民は、(政権側)武装勢力には外国人戦闘員や近隣の村や町の過激派が含まれていたと語った。とてもひどい状況であった、逃走中に「死体が路上に転がっていた」を目撃したと、市街地から約20キロ離れた場所から電話で語った。シェハさんによると、武装集団は自分のアパートから100メートル以内に集まり、「アッラー・アクバル」と叫び、家や住民に無差別に発砲し、少なくとも1件の事件では、住民を殺害する前に身分証明書の提示を求め、宗教や宗派を確認したという。また、武装集団は住宅に火をつけ、車を盗み、強盗も行ったという。
(参考)関係者の反応
(1)シリア担当国連特使ゲイル・ペダーセン氏:「民間人の犠牲者に関する非常に憂慮すべき報告」であり、すべての側に対し、「シリアを不安定にし、信頼性が高く包括的な政治移行を危険にさらす」可能性のある行動を控えるよう求める。
(2)イスラエル・カッツ国防相:7日の出来事について、[アル・シャラア]はローブをスーツに着替え、穏健派の顔をしていた。今、彼はマスクを脱ぎ、本当の顔をさらした。民間人に対して恐ろしい行為を行っているアルカーイダ流のジハード主義テロリストだ。イスラエルはシリアからのいかなる脅威からも自国を守る、(イスラエル)軍は国境沿いの緩衝地帯を占拠し続け、シリア南部の非武装化を維持するよう働き続ける。
(3)EU声明:シリア沿岸部の暫定政府軍に対するアサド支持派による最近の攻撃と民間人に対するあらゆる暴力を強く非難する。
(4)仏声明:仏政府は9日の声明で、「宗教を理由とした民間人に対する残虐行為を、可能な限り強い言葉で非難する」と述べ、シリア暫定政権に対し、独立した調査で「これらの犯罪を完全に解明する」よう求めた。
(5)アハマド・シャラア暫定大統領(7日):反乱軍に対し「手遅れになる前に武器を捨てて降伏する」よう求めた。
(6)マズロウム・アブディSDF(シリア民主軍)司令官(9日):アフマド・シャラア暫定大統領は、シリア西部のアラウィー派に対する攻撃の責任者に責任を取らせるべきであり、虐殺を止めるために介入すべきだ。シリアの新軍の編成方法と武装グループの行動を「見直す」よう求める。一部のグループが軍内での役割を利用して、宗派間の対立を引き起こし、内部紛争に関与している。
(コメント)SOHRの報告によると、殺害は、アラウィー派が多数を占める村で治安部隊が指名手配中の人物を逮捕したことがきっかけで衝突が起きた後に起きたとされる。今回の事態悪化は、外国人戦闘員や支配的なHTSメンバーを含むジハード主義者が、アラウィー派やキリスト教徒など少数派の家に押し入ったり、住居を銃撃し、市民を虐殺しており、犠牲者の大半は暫定政権国防省や内務省に関係する勢力によって即決処刑されたとしている。ジハード主義者は、殺害の様子をインターネットやライブストリーミングでアップロードすることをためらわず、男性、女性、子供、さらには赤ちゃんまでもが残酷に殺害されている、とされる。
イスラエルのカッツ国防相は、アハマド・シャラアは、「マスクを脱ぎ、本当の顔をさらした」と指摘したが、欧州、とりわけ、EU声明は、今回の衝突と市民の犠牲者多数発生についての責任を、旧アサド政権側に押し付け、HTS暫定政権による市民の保護、報復の抑制への取り組みが機能していないことを何ら指摘していないことは、驚くしかない。欧州は、極めて迅速に、HTS暫定政権下のシリアに対して、制裁解除に乗り出している。英国はシリア中央銀行を含む24のシリアの組織に対する制裁を解除した。英国はシリア中央銀行の全資産の凍結を解除した最初の国となった。2月24日、欧州連合(EU)は中央銀行への制限を部分的に撤廃し、エネルギーおよび輸送部門への制裁を停止した。シリア人が本国帰還を果たせるほど、安全な国になっているというシナリオで、制裁解除を進めているとみられるが、今、欧州がやるべきは、一般市民が犠牲になるような政権側治安機関や支持者による報復行為を抑制し、少数派市民も生命への危険を感じることなく、新生シリアに希望を見つけることができるよう暫定政権に圧力を行使し、その行為の見返りとして、制裁を解除し、支援を提供していくことであると考えられる。
https://www.timesofisrael.com/340-civilians-killed-in-clashes-between-syrian-regime-and-pro-assad-forces-says-watchdog/
https://apnews.com/article/syria-alawites-sectarian-killings-coast-assad-hts-610cdee1d5762d3ecb75c700fb7cf5f2
目撃者は、暴動で最も被害が大きかった町の一つ、バニヤスの住民は、死体が路上に散乱していたり、家や建物の屋根の上に埋葬されずに放置されていたりして、誰も回収できなかったと語った。3月7日の暴動発生から数時間後に家族や近隣住民とともに逃げたバニヤス在住の57歳のアリ・シェハ氏は、アラウィー派が住むバニヤスのある地区で、少なくとも20人の近隣住民や同僚が殺害され、その一部は店や自宅で殺害されたと語った。シェハ氏は、この攻撃をアサド政権による犯罪に対するアラウィー派少数派への「復讐殺人」と呼んだ。他の住民は、(政権側)武装勢力には外国人戦闘員や近隣の村や町の過激派が含まれていたと語った。とてもひどい状況であった、逃走中に「死体が路上に転がっていた」を目撃したと、市街地から約20キロ離れた場所から電話で語った。シェハさんによると、武装集団は自分のアパートから100メートル以内に集まり、「アッラー・アクバル」と叫び、家や住民に無差別に発砲し、少なくとも1件の事件では、住民を殺害する前に身分証明書の提示を求め、宗教や宗派を確認したという。また、武装集団は住宅に火をつけ、車を盗み、強盗も行ったという。
(参考)関係者の反応
(1)シリア担当国連特使ゲイル・ペダーセン氏:「民間人の犠牲者に関する非常に憂慮すべき報告」であり、すべての側に対し、「シリアを不安定にし、信頼性が高く包括的な政治移行を危険にさらす」可能性のある行動を控えるよう求める。
(2)イスラエル・カッツ国防相:7日の出来事について、[アル・シャラア]はローブをスーツに着替え、穏健派の顔をしていた。今、彼はマスクを脱ぎ、本当の顔をさらした。民間人に対して恐ろしい行為を行っているアルカーイダ流のジハード主義テロリストだ。イスラエルはシリアからのいかなる脅威からも自国を守る、(イスラエル)軍は国境沿いの緩衝地帯を占拠し続け、シリア南部の非武装化を維持するよう働き続ける。
(3)EU声明:シリア沿岸部の暫定政府軍に対するアサド支持派による最近の攻撃と民間人に対するあらゆる暴力を強く非難する。
(4)仏声明:仏政府は9日の声明で、「宗教を理由とした民間人に対する残虐行為を、可能な限り強い言葉で非難する」と述べ、シリア暫定政権に対し、独立した調査で「これらの犯罪を完全に解明する」よう求めた。
(5)アハマド・シャラア暫定大統領(7日):反乱軍に対し「手遅れになる前に武器を捨てて降伏する」よう求めた。
(6)マズロウム・アブディSDF(シリア民主軍)司令官(9日):アフマド・シャラア暫定大統領は、シリア西部のアラウィー派に対する攻撃の責任者に責任を取らせるべきであり、虐殺を止めるために介入すべきだ。シリアの新軍の編成方法と武装グループの行動を「見直す」よう求める。一部のグループが軍内での役割を利用して、宗派間の対立を引き起こし、内部紛争に関与している。
(コメント)SOHRの報告によると、殺害は、アラウィー派が多数を占める村で治安部隊が指名手配中の人物を逮捕したことがきっかけで衝突が起きた後に起きたとされる。今回の事態悪化は、外国人戦闘員や支配的なHTSメンバーを含むジハード主義者が、アラウィー派やキリスト教徒など少数派の家に押し入ったり、住居を銃撃し、市民を虐殺しており、犠牲者の大半は暫定政権国防省や内務省に関係する勢力によって即決処刑されたとしている。ジハード主義者は、殺害の様子をインターネットやライブストリーミングでアップロードすることをためらわず、男性、女性、子供、さらには赤ちゃんまでもが残酷に殺害されている、とされる。
イスラエルのカッツ国防相は、アハマド・シャラアは、「マスクを脱ぎ、本当の顔をさらした」と指摘したが、欧州、とりわけ、EU声明は、今回の衝突と市民の犠牲者多数発生についての責任を、旧アサド政権側に押し付け、HTS暫定政権による市民の保護、報復の抑制への取り組みが機能していないことを何ら指摘していないことは、驚くしかない。欧州は、極めて迅速に、HTS暫定政権下のシリアに対して、制裁解除に乗り出している。英国はシリア中央銀行を含む24のシリアの組織に対する制裁を解除した。英国はシリア中央銀行の全資産の凍結を解除した最初の国となった。2月24日、欧州連合(EU)は中央銀行への制限を部分的に撤廃し、エネルギーおよび輸送部門への制裁を停止した。シリア人が本国帰還を果たせるほど、安全な国になっているというシナリオで、制裁解除を進めているとみられるが、今、欧州がやるべきは、一般市民が犠牲になるような政権側治安機関や支持者による報復行為を抑制し、少数派市民も生命への危険を感じることなく、新生シリアに希望を見つけることができるよう暫定政権に圧力を行使し、その行為の見返りとして、制裁を解除し、支援を提供していくことであると考えられる。
https://www.timesofisrael.com/340-civilians-killed-in-clashes-between-syrian-regime-and-pro-assad-forces-says-watchdog/
https://apnews.com/article/syria-alawites-sectarian-killings-coast-assad-hts-610cdee1d5762d3ecb75c700fb7cf5f2
Posted by 八木 at 16:18 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)