KCK執行委員会共同議長によるシリア情勢急変への見方[2025年01月06日(Mon)]
PKK(クルド労働者党)の上部組織であるKCK(クルディスタン共同体同盟)執行委員会のジェミル・バイク共同議長は、クルドの通信社ANFとのインタビューで「ロジャヴァ(クルド語で「西クルディスタン」という意味のシリア北東部のクルド人住民多数が住む地域)と北シリアおよび東シリアの将来は、多国籍軍のアプローチではなく、国民と革命勢力の抵抗によって決定されるだろう」と指摘しています。長編のインタビューですが、現地の情勢とシリア情勢の展開をかなり客観的にとらえており、興味深いので、そのごく一部を紹介します。
1.なぜアサド政権がかくも簡単に崩壊したのか
シリア情勢が悪化する前にヒズボラの勢力が弱体化していたことは極めて重要だった。これがなければ、シリアでの展開は今回のような形ではあり得なかっただろう。政権崩壊が計画されていたとしても、これほど早くは起こらなかっただろう。もちろん、ハマス、そしてヒズボラを標的にし、弱体化させることで、この地域におけるイランの勢力は弱体化した。特にシリアにおけるヒズボラの存在が、この地域におけるイランの影響力を可能にしていた。イランは、基本的に唯一の選択肢しか残されていない状況に追い込まれ、それはイラン国家として戦争に突入することだった。しかし、どうやらこれは有益ではないと思われたようで、イランはこの措置を取らなかった。そのため、イランはおそらく、イランが直接対峙する措置を止め、あるいは少なくとも延期したのだろう。しかしいずれにせよ、このプロセスで最も被害を受けたのはイランである。イランはシリアにおける影響力を失っただけでなく、イラクにおける立場も危うくなった。中東における新しいプロセスはハマスの攻撃を口実に開始されたが、ウクライナ戦争ですでに、米国が率いる資本主義近代主義の勢力が世界システムを再設計するか、あるいはすでに始まっていたこの作業を加速し、完了させたいと望んでいることが明らかになった。これが私たちの解釈であり、この基礎の上に準備を整えられた。ウクライナ戦争でこのボタンが押された。少なくともこの戦争の開始でその兆候は示された。ウクライナ戦争がロシアにとって泥沼になったことは明らかである。ロシアを戦争に引きずり込むことで、米国はロシアの力を弱め、その正当性に疑問を投げかけただけでなく、北を通るエネルギールートの計画を混乱させた。ロシアは何とかしてウクライナとの戦争を終わらせようとしていたが、米国、英国、イスラエルの計画に逆らってシリアで政権に有利な戦争を行うことはできなかった。現在議論されているのは、ロシアが米国と取引をしたかどうかである。ロシアがウクライナ戦争で米国と取引をした可能性は高い。ロシアは、バイデン政権とは言わないまでも、トランプ政権とはそのような取引をしたかもしれない。明らかにロシアは、状況を考慮して、最小限の損害で、あるいは可能な限り最大の利益でこの状況を切り抜けようとした。今のところ、シリア北西部の基地は閉鎖されたと言われている。基地が再開されるのか、あるいはロシアが撤退を余儀なくされるのかは分からない。しかし、ロシアが2つの悪い選択肢のうちよりましな方を選んだことは確かであり、中東と東地中海におけるロシアの影響力は大きな打撃を受けた。いずれにせよ、イランとロシアが不在の状態でバアス党政権が効果を発揮するとは予想されていなかった。バアス党政権はとっくの昔に自らの力と意志を失っていた。バアス政権には唯一の道があった。それはクルド人や北・東シリアの自治政府と合意し、これに基づいて民主的な措置を取り、民主的に変革することだった。しかし、バアス党政権はこの賢明さを示すことができなかった。我々の意見では、そのための条件は整っていた。しかし、外国勢力の影響と、変化の危機に瀕しているその一元主義的、教条主義的な構造のために、そうすることができなかった。その結果、シリアで発生した状況は、中東再設計の範囲内で実行された計画に従って生じた。シリアが将来どのような展開を目撃し、どのようなシステムによって統治されるかは、この計画の範囲内での展開によって決まるだろう。
2.トルコとその同盟勢力SNA(シリア国民軍)のクルド支配地域攻撃と、国際社会がとるべき立場について
この点では、シリア情勢に関するトルコとAKP-MHP政府の立場に焦点を宛てねばならない。中東の再設計においてトルコが以前と同じ役割を与えられていないことは明らかである。トルコはシリア情勢に関与することで立場を強化しようとしているようだが、これが本当にトルコの立場を強化することになるかどうかはむしろ不透明である。強化されたと言えるかもしれないが、それが長続きするかどうかは明らかではない。指摘しようとしたように、トルコ国家のアプローチは当初、米国、英国、イスラエルの計画への反対に基づいていた。インドでのG20サミットの機会に発表されたIMEC(注:インド・UAE、サウジ、ヨルダン、イスラエル、欧州を結ぶ東西回廊構想)プロジェクトからトルコが除外されて以来、エルドアン大統領の態度は公然と反対するものであった。彼は、自分たちが関与していないプロジェクトは認めないという明確な態度を示した。1か月も経たないうちに、ハマスが攻撃した。その後、米国、英国、イスラエルはこれを口実に、事前に準備していた計画を実行に移し、中東で新たなプロセスが始まった。明らかに、すべてが事前に準備され、計画されていた。残る火種は1つだけだった(注:この意味は不明ながら、イスラエル・サウジの国交正常化に対する反対の声をあげることが考えられる)。彼らはハマスに、エルドアンを通じてそれを実行させた。エルドアンが故意に利用されたのか、それとも知らず知らずのうちにこの策略に引っかかったのかは分からない(注:反対の声を上げさせることが、ハマスの越境攻撃にまでつながるとは予想していなかったことか?)。しかし、彼らはこの状況が自分たちに悪影響を及ぼしていることに気付いていたに違いなく、米国と取引をした。今や彼ら(トルコ)は、米国、英国、イスラエルのシリアに対する計画の一部として行動している。
トルコ国家がロジャヴァを攻撃することは予想外ではなかった。トルコは、この目的のために、シリア国民軍と呼ぶ傘下のギャングや傭兵を準備してきた。シリアで新たな状況が浮上すると、トルコはそれをチャンスに変え、トルコの兵士や将校を含むSNAを前進させることで新たな攻撃を開始した。繰り返すが、SNA はトルコの将軍によって率いられており、トルコ国家の目的と目標は明らかである。それは、ロジャヴァに侵攻して自治政府を解体することである。これが彼らの攻撃の目的である。
シリアで新たな状況が浮上したとき、最も危機的な場所はシャーバ(アレッポの一部地区)とテル・リファト(アザーズとアレッポの中間地点)だった。アフリンから移住してきた(クルドの)人々が滞在していたキャンプがあった(注:2018年1月からトルコ軍は「オリーブの枝」作戦を実行し、シリア北西部アフリン地区に越境進軍し、クルド人を同地から追い払った)。イランとロシアはこれらのキャンプとアレッポの間の地域にいたが、この地域をギャングに任せて撤退した。テル・リファトは完全に包囲された。その後、SDF(クルド人部隊主体のシリア民主軍)の部隊は回廊を作り、この地域との連絡を確立しようとした。しかし、彼らはこれに成功しなかった。これが失敗すると、その地域から人々を避難させることが決定され、シャーバとテル・リファトに残っていたアフリンの人々が避難できるように合意が成立した。トルコ政府とSNAギャングは、あたかも戦争でこの地域を占領したかのように宣伝した。しかし、実際には戦争はなく、撤退は合意によるものだった。攻撃があった他の場所では、人々とSDFの戦闘員の抵抗が続いている。 SDF はティシュリーン・ダム周辺とカラコザフで激しい抵抗を見せ、敵に大きな損害を与えているようだ。敵がこれらの場所を占領できない限り、他の場所に目を向ける余裕はない。トルコ政府は SNA ギャングだけに頼っていては SDF に勝てないと悟り、(アハマド・アルシャラア率いる)HTS に圧力をかけ、SDF に対抗する姿勢も取らせようとしている。
ロジャヴァと北シリアおよび東シリアの将来は、多国籍軍のアプローチではなく、国民と革命勢力の抵抗によって決まるだろう。今日まで、トルコ政府による侵略と攻撃はすべて多国籍軍の目の前で行われてきた。しかし、多国籍軍はこれに反対する姿勢を取らなかった。彼らの承認がなければ、トルコ政府はこれらの攻撃を実行できなかっただろう。彼ら(多国籍軍)に何も期待すべきではない。ロジャヴァ、北シリアおよび東シリアの人々は、あらゆる意味で戦争に備えなければならない。どこでも、国民は自らの防衛を自らの手で行わなければならない。このように、国民と革命勢力が手を携えて共に攻撃に抵抗すれば、敵は決して成果を上げることはできないであろう。クルディスタンの他の地域や海外にいる私たちの国民と友人たちもロジャヴァと連帯し、あらゆる場所で動員しなければならない。彼らはデモを組織し、世論を形成し、トルコ国家による攻撃を止めるための政治的圧力を強めなければならない。
(コメント)ジェミル・バイクKCK共同議長は、2024年11月下旬以降のシリア情勢の展開と今後のシリア北東部ロジャヴァ(西クルディスタン)を管轄する自治組織がHTS暫定政権やトルコとの関係でどのような対応をとるべきかに大きな影響力を有する指導者であり、彼が現在の情勢をどのようにみているかは極めて興味深い。一部紹介した上述のインタビュー発言の中で特に注目されるのは若干の解説を加えれば、次のとおりである。
@ロシアは悪い二つの選択肢のうち、より痛手の少ないとみられる選択を行ったすなわち、アサドを見捨てた。トランプ側と話した可能性も否定できない。痛手は少ないといっても、フメイミム空軍基地とタルトゥース海軍基地を失うことは痛手である。
Aシリアの新たな展開で最も被害を受けたのはイランである。イランはシリアにおける影響力を失っただけでなく、イラクにおける立場も危うくなったシリアにおけるヒズボラの存在が、この地域におけるイランの影響力を可能にしていたが、事態の急変でイランは、基本的に唯一の選択肢しか残されていない状況に追い込まれ、それはイラン国家としてHTSとの戦争に突入することだったが、ヒズボラはイスラエルの攻撃で勢いを失い、指導部も殺害され、シリアで戦闘を行う能力とインセンティブを失い、さらには、アサド政権を支えてきたロシア軍がHTS進軍を抑える気が全くないことで、イランは参戦を断念した。すなわち、アサド政権をしぶしぶ見捨てた。しかし、これは、イランからヒズボラへの補給路が断たれることにもなり、さらには、イラクにおけるイランの影響力も減退することを意味し、イランは大きな痛手を被った。
Bトルコ国家の目的と目標は明らかである。それは、ロジャヴァに侵攻して自治政府を解体することであるトルコはシリアにおける新たな展開をうけて、シリア北東部を支配する自治統治機構の拠点を傀儡勢力であるSNA(シリア国民軍)を動員して、アレッポ近郊のクルド人避難民居住区シャーバやテル・リファットを包囲し、クルド人を撤退させたほか、マンビジ、ティシュリーンダム周辺ほかにも攻撃を加えているが、SDFの抵抗にあって思うように進軍できていないとのこと。そのため、トルコは、クルド自治組織への圧力を高めるためHTS暫定政権への働きかけを強めているとのこと。米軍主体の多国籍軍は、SDFへの攻撃を阻止するわけでもなく、傍観しているだけで、トルコの動きを黙認している状態にあるとのこと。
今後の焦点は、HTS暫定政権が、ロジャヴァのクルド人勢力とどのような取引を行うのかである。背広姿のアハマド・シャラアには、1月3日英仏外相が会談したほか、1月5日にはカタールのムハンマド首相兼外相も暫定政権外相とドーハで会談した。もはや、HTS暫定政権幹部はイスラム原理主義的装いを捨て去り、民主主義的政権の代表のようにふるまっており、欧米政権や世界のメディアもそれを好意的に扱っている。HTS暫定政権のアバジード財務相は、シリアの公務員の給与を2月から400%上げると宣言した。欧米の制裁下にあり、インフラが破壊されたシリアで、いきなりかかる大幅な給与の引き上げを実施するには、諸外国からの資金援助の見通しが立ちつつあることが前提である。アサド政権下では、公務員の月額平均給与は25ドル程度であったとのこと。HTS新政権の出だしを後押しするには、公務員や治安要員の忠誠が不可欠であり、その意味では、給与の大幅引き上げで新政権を直接支える人々による支持を拡大し、政権の基盤固めを行うことは、政権側、支援する側双方の利益になるとみていることは間違いない。そういう中でも、新たな法務長官シャディ・アルワイシが、イドリブ統治時代の裁判官として、「汚職と売春」の罪で起訴された二人の女性の死刑執行に関与したとの報道もクルド系メディアでは流れている。HTSの新政権メンバーの過去の振る舞いは、暫定政権の安定のため、水に流すのは仕方がないとの見方が欧米でも急速に広がっていると思われるが、シリアが安定したとみなされることで、欧州政権にとっては多数押し寄せていたシリア難民申請者、一時保護対象者を本国に大量帰還させる口実になることも忘れてはならない。KCK共同議長の上述の発言は、HTS暫定政権側との共存策の模索には、まず、クルド人自身がロジャヴァ防衛のため結束し、クルド人勢力への圧力を跳ね返すことがなにより重要であると信じていることを示唆している。
https://anfenglishmobile.com/features/bayik-the-future-of-rojava-will-be-determined-by-the-resistance-of-people-and-revolutionary-forces-77265
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/D66H7D6APBJJLG6HMIVD6Y323Q-2025-01-05/
https://anfenglishmobile.com/rojava-syria/the-new-minister-of-justice-of-damascus-proved-to-be-a-killer-of-women-77271
1.なぜアサド政権がかくも簡単に崩壊したのか
シリア情勢が悪化する前にヒズボラの勢力が弱体化していたことは極めて重要だった。これがなければ、シリアでの展開は今回のような形ではあり得なかっただろう。政権崩壊が計画されていたとしても、これほど早くは起こらなかっただろう。もちろん、ハマス、そしてヒズボラを標的にし、弱体化させることで、この地域におけるイランの勢力は弱体化した。特にシリアにおけるヒズボラの存在が、この地域におけるイランの影響力を可能にしていた。イランは、基本的に唯一の選択肢しか残されていない状況に追い込まれ、それはイラン国家として戦争に突入することだった。しかし、どうやらこれは有益ではないと思われたようで、イランはこの措置を取らなかった。そのため、イランはおそらく、イランが直接対峙する措置を止め、あるいは少なくとも延期したのだろう。しかしいずれにせよ、このプロセスで最も被害を受けたのはイランである。イランはシリアにおける影響力を失っただけでなく、イラクにおける立場も危うくなった。中東における新しいプロセスはハマスの攻撃を口実に開始されたが、ウクライナ戦争ですでに、米国が率いる資本主義近代主義の勢力が世界システムを再設計するか、あるいはすでに始まっていたこの作業を加速し、完了させたいと望んでいることが明らかになった。これが私たちの解釈であり、この基礎の上に準備を整えられた。ウクライナ戦争でこのボタンが押された。少なくともこの戦争の開始でその兆候は示された。ウクライナ戦争がロシアにとって泥沼になったことは明らかである。ロシアを戦争に引きずり込むことで、米国はロシアの力を弱め、その正当性に疑問を投げかけただけでなく、北を通るエネルギールートの計画を混乱させた。ロシアは何とかしてウクライナとの戦争を終わらせようとしていたが、米国、英国、イスラエルの計画に逆らってシリアで政権に有利な戦争を行うことはできなかった。現在議論されているのは、ロシアが米国と取引をしたかどうかである。ロシアがウクライナ戦争で米国と取引をした可能性は高い。ロシアは、バイデン政権とは言わないまでも、トランプ政権とはそのような取引をしたかもしれない。明らかにロシアは、状況を考慮して、最小限の損害で、あるいは可能な限り最大の利益でこの状況を切り抜けようとした。今のところ、シリア北西部の基地は閉鎖されたと言われている。基地が再開されるのか、あるいはロシアが撤退を余儀なくされるのかは分からない。しかし、ロシアが2つの悪い選択肢のうちよりましな方を選んだことは確かであり、中東と東地中海におけるロシアの影響力は大きな打撃を受けた。いずれにせよ、イランとロシアが不在の状態でバアス党政権が効果を発揮するとは予想されていなかった。バアス党政権はとっくの昔に自らの力と意志を失っていた。バアス政権には唯一の道があった。それはクルド人や北・東シリアの自治政府と合意し、これに基づいて民主的な措置を取り、民主的に変革することだった。しかし、バアス党政権はこの賢明さを示すことができなかった。我々の意見では、そのための条件は整っていた。しかし、外国勢力の影響と、変化の危機に瀕しているその一元主義的、教条主義的な構造のために、そうすることができなかった。その結果、シリアで発生した状況は、中東再設計の範囲内で実行された計画に従って生じた。シリアが将来どのような展開を目撃し、どのようなシステムによって統治されるかは、この計画の範囲内での展開によって決まるだろう。
2.トルコとその同盟勢力SNA(シリア国民軍)のクルド支配地域攻撃と、国際社会がとるべき立場について
この点では、シリア情勢に関するトルコとAKP-MHP政府の立場に焦点を宛てねばならない。中東の再設計においてトルコが以前と同じ役割を与えられていないことは明らかである。トルコはシリア情勢に関与することで立場を強化しようとしているようだが、これが本当にトルコの立場を強化することになるかどうかはむしろ不透明である。強化されたと言えるかもしれないが、それが長続きするかどうかは明らかではない。指摘しようとしたように、トルコ国家のアプローチは当初、米国、英国、イスラエルの計画への反対に基づいていた。インドでのG20サミットの機会に発表されたIMEC(注:インド・UAE、サウジ、ヨルダン、イスラエル、欧州を結ぶ東西回廊構想)プロジェクトからトルコが除外されて以来、エルドアン大統領の態度は公然と反対するものであった。彼は、自分たちが関与していないプロジェクトは認めないという明確な態度を示した。1か月も経たないうちに、ハマスが攻撃した。その後、米国、英国、イスラエルはこれを口実に、事前に準備していた計画を実行に移し、中東で新たなプロセスが始まった。明らかに、すべてが事前に準備され、計画されていた。残る火種は1つだけだった(注:この意味は不明ながら、イスラエル・サウジの国交正常化に対する反対の声をあげることが考えられる)。彼らはハマスに、エルドアンを通じてそれを実行させた。エルドアンが故意に利用されたのか、それとも知らず知らずのうちにこの策略に引っかかったのかは分からない(注:反対の声を上げさせることが、ハマスの越境攻撃にまでつながるとは予想していなかったことか?)。しかし、彼らはこの状況が自分たちに悪影響を及ぼしていることに気付いていたに違いなく、米国と取引をした。今や彼ら(トルコ)は、米国、英国、イスラエルのシリアに対する計画の一部として行動している。
トルコ国家がロジャヴァを攻撃することは予想外ではなかった。トルコは、この目的のために、シリア国民軍と呼ぶ傘下のギャングや傭兵を準備してきた。シリアで新たな状況が浮上すると、トルコはそれをチャンスに変え、トルコの兵士や将校を含むSNAを前進させることで新たな攻撃を開始した。繰り返すが、SNA はトルコの将軍によって率いられており、トルコ国家の目的と目標は明らかである。それは、ロジャヴァに侵攻して自治政府を解体することである。これが彼らの攻撃の目的である。
シリアで新たな状況が浮上したとき、最も危機的な場所はシャーバ(アレッポの一部地区)とテル・リファト(アザーズとアレッポの中間地点)だった。アフリンから移住してきた(クルドの)人々が滞在していたキャンプがあった(注:2018年1月からトルコ軍は「オリーブの枝」作戦を実行し、シリア北西部アフリン地区に越境進軍し、クルド人を同地から追い払った)。イランとロシアはこれらのキャンプとアレッポの間の地域にいたが、この地域をギャングに任せて撤退した。テル・リファトは完全に包囲された。その後、SDF(クルド人部隊主体のシリア民主軍)の部隊は回廊を作り、この地域との連絡を確立しようとした。しかし、彼らはこれに成功しなかった。これが失敗すると、その地域から人々を避難させることが決定され、シャーバとテル・リファトに残っていたアフリンの人々が避難できるように合意が成立した。トルコ政府とSNAギャングは、あたかも戦争でこの地域を占領したかのように宣伝した。しかし、実際には戦争はなく、撤退は合意によるものだった。攻撃があった他の場所では、人々とSDFの戦闘員の抵抗が続いている。 SDF はティシュリーン・ダム周辺とカラコザフで激しい抵抗を見せ、敵に大きな損害を与えているようだ。敵がこれらの場所を占領できない限り、他の場所に目を向ける余裕はない。トルコ政府は SNA ギャングだけに頼っていては SDF に勝てないと悟り、(アハマド・アルシャラア率いる)HTS に圧力をかけ、SDF に対抗する姿勢も取らせようとしている。
ロジャヴァと北シリアおよび東シリアの将来は、多国籍軍のアプローチではなく、国民と革命勢力の抵抗によって決まるだろう。今日まで、トルコ政府による侵略と攻撃はすべて多国籍軍の目の前で行われてきた。しかし、多国籍軍はこれに反対する姿勢を取らなかった。彼らの承認がなければ、トルコ政府はこれらの攻撃を実行できなかっただろう。彼ら(多国籍軍)に何も期待すべきではない。ロジャヴァ、北シリアおよび東シリアの人々は、あらゆる意味で戦争に備えなければならない。どこでも、国民は自らの防衛を自らの手で行わなければならない。このように、国民と革命勢力が手を携えて共に攻撃に抵抗すれば、敵は決して成果を上げることはできないであろう。クルディスタンの他の地域や海外にいる私たちの国民と友人たちもロジャヴァと連帯し、あらゆる場所で動員しなければならない。彼らはデモを組織し、世論を形成し、トルコ国家による攻撃を止めるための政治的圧力を強めなければならない。
(コメント)ジェミル・バイクKCK共同議長は、2024年11月下旬以降のシリア情勢の展開と今後のシリア北東部ロジャヴァ(西クルディスタン)を管轄する自治組織がHTS暫定政権やトルコとの関係でどのような対応をとるべきかに大きな影響力を有する指導者であり、彼が現在の情勢をどのようにみているかは極めて興味深い。一部紹介した上述のインタビュー発言の中で特に注目されるのは若干の解説を加えれば、次のとおりである。
@ロシアは悪い二つの選択肢のうち、より痛手の少ないとみられる選択を行ったすなわち、アサドを見捨てた。トランプ側と話した可能性も否定できない。痛手は少ないといっても、フメイミム空軍基地とタルトゥース海軍基地を失うことは痛手である。
Aシリアの新たな展開で最も被害を受けたのはイランである。イランはシリアにおける影響力を失っただけでなく、イラクにおける立場も危うくなったシリアにおけるヒズボラの存在が、この地域におけるイランの影響力を可能にしていたが、事態の急変でイランは、基本的に唯一の選択肢しか残されていない状況に追い込まれ、それはイラン国家としてHTSとの戦争に突入することだったが、ヒズボラはイスラエルの攻撃で勢いを失い、指導部も殺害され、シリアで戦闘を行う能力とインセンティブを失い、さらには、アサド政権を支えてきたロシア軍がHTS進軍を抑える気が全くないことで、イランは参戦を断念した。すなわち、アサド政権をしぶしぶ見捨てた。しかし、これは、イランからヒズボラへの補給路が断たれることにもなり、さらには、イラクにおけるイランの影響力も減退することを意味し、イランは大きな痛手を被った。
Bトルコ国家の目的と目標は明らかである。それは、ロジャヴァに侵攻して自治政府を解体することであるトルコはシリアにおける新たな展開をうけて、シリア北東部を支配する自治統治機構の拠点を傀儡勢力であるSNA(シリア国民軍)を動員して、アレッポ近郊のクルド人避難民居住区シャーバやテル・リファットを包囲し、クルド人を撤退させたほか、マンビジ、ティシュリーンダム周辺ほかにも攻撃を加えているが、SDFの抵抗にあって思うように進軍できていないとのこと。そのため、トルコは、クルド自治組織への圧力を高めるためHTS暫定政権への働きかけを強めているとのこと。米軍主体の多国籍軍は、SDFへの攻撃を阻止するわけでもなく、傍観しているだけで、トルコの動きを黙認している状態にあるとのこと。
今後の焦点は、HTS暫定政権が、ロジャヴァのクルド人勢力とどのような取引を行うのかである。背広姿のアハマド・シャラアには、1月3日英仏外相が会談したほか、1月5日にはカタールのムハンマド首相兼外相も暫定政権外相とドーハで会談した。もはや、HTS暫定政権幹部はイスラム原理主義的装いを捨て去り、民主主義的政権の代表のようにふるまっており、欧米政権や世界のメディアもそれを好意的に扱っている。HTS暫定政権のアバジード財務相は、シリアの公務員の給与を2月から400%上げると宣言した。欧米の制裁下にあり、インフラが破壊されたシリアで、いきなりかかる大幅な給与の引き上げを実施するには、諸外国からの資金援助の見通しが立ちつつあることが前提である。アサド政権下では、公務員の月額平均給与は25ドル程度であったとのこと。HTS新政権の出だしを後押しするには、公務員や治安要員の忠誠が不可欠であり、その意味では、給与の大幅引き上げで新政権を直接支える人々による支持を拡大し、政権の基盤固めを行うことは、政権側、支援する側双方の利益になるとみていることは間違いない。そういう中でも、新たな法務長官シャディ・アルワイシが、イドリブ統治時代の裁判官として、「汚職と売春」の罪で起訴された二人の女性の死刑執行に関与したとの報道もクルド系メディアでは流れている。HTSの新政権メンバーの過去の振る舞いは、暫定政権の安定のため、水に流すのは仕方がないとの見方が欧米でも急速に広がっていると思われるが、シリアが安定したとみなされることで、欧州政権にとっては多数押し寄せていたシリア難民申請者、一時保護対象者を本国に大量帰還させる口実になることも忘れてはならない。KCK共同議長の上述の発言は、HTS暫定政権側との共存策の模索には、まず、クルド人自身がロジャヴァ防衛のため結束し、クルド人勢力への圧力を跳ね返すことがなにより重要であると信じていることを示唆している。
https://anfenglishmobile.com/features/bayik-the-future-of-rojava-will-be-determined-by-the-resistance-of-people-and-revolutionary-forces-77265
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/D66H7D6APBJJLG6HMIVD6Y323Q-2025-01-05/
https://anfenglishmobile.com/rojava-syria/the-new-minister-of-justice-of-damascus-proved-to-be-a-killer-of-women-77271
Posted by 八木 at 13:55 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)