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急速に不法移民排斥に動き出した欧州諸国[2024年09月23日(Mon)]
オランダ政府は9月18日、欧州共通庇護制度からの適用除外(opt-out)をEU委員会に申し入れたことを明らかにした。欧州共通庇護制度(参考1)は、EU内で、域外からの庇護申請者を原則として最初の上陸国で審査するというダブリン規則をはじめとする域内共通ルールを制度化したものである。これに先立ち、オランダ政府は9月13日、2024年5月の連立合意に基づき、庇護と移民に対する重大な制限を含む計画を発表した(参考2)。適用除外要請については、オランダ政府は先行のデンマークに倣ったとしている。さらに、輪番制で現EU議長国のハンガリーも共通庇護制度からの離脱を申請する意向を表明した(参考3)。EU内では、イタリアが地中海で身柄を確保した庇護申請者の庇護審査をEU域外のアルバニアで行うための協定を2023年11月アルバニアと結んでいる(注:アルバニア議会は、2024年2月協定を支持可決)。ドイツは、チューリンゲン州議会議員選挙などで極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」の躍進をうけ(注:9月22日のブランデンブルグ州選挙では、シュルツ首相率いる社会民主党が、かろうじてAfDをおさえ、勝利した)、危機感を覚えたシュルツ政権は、8月30日裁判で有罪が確定したアフガニスタン人28名をカタールの協力を得て、本国に強制送還したほか、9月16日からシェンゲン規則の事実上の停止を意味する半年間、9つの陸上国境すべてで国境管理を再開するとともに、ダブリン規則を履行せず、最初のEUメンバー国で庇護申請せず、ドイツで庇護申請した域外人の最初の到着国への移送を迅速かつ厳密に実施することを決定した。もはやEU加盟国でない英国のスターマー首相は、7月の就任直後、スナク前政権が約束していた非正規移民の庇護申請をルワンダに移送の上実施する計画を廃棄する旨表明したが、9月16日イタリアを訪問し、メローニ首相と会談し、イタリアへの不法移民の到着数が減少傾向を示していることも踏まえ、メローニ政権の移民政策、とりわけアルバニアでの庇護申請制度から学びを得たい旨表明した。英国では、7月末から8月上旬にかけての国内大騒乱事件でも明らかになったように、不法移民の大半がムスリムであるとみなされており、移民排斥、ムスリム・ヘイトの動きが強まっている。極右の「UKリフォーム」は不法移民の仏送還を主張している。フランスでは7月の国民議会(下院)選挙で、マクロン大統領の与党連合が第2勢力に転落。フランス下院は左派の政党連合「新人民戦線(NFP)」と、極右の流れをくむ右翼「国民連合(RN)」による三つの勢力間で分裂状態になっており、特に第一党となったNFPは、マクロン大統領と新内閣への反発を強めている。バルニエ首相は今回の組閣で、移民問題や治安を担当する内相に、共和党の中でも移民に最も厳しい立場をとるとされるルタイヨ氏を起用した。また、移民排斥を訴えてきた極右の国民連合が、政権にまでは手が届かなかったものの、3番目に大きな議会勢力に躍進しており、新政権が不安定化する中、移民排斥の声はますます強くなるものとみられている。

(参考1)欧州共通庇護制度
EUは、庇護希望者が申請場所を問わず、透明性があり、公正な制度で平等に扱われることを保証するために、共通の基準と協力を定めている。この制度は、5 つの立法手段と 1 つの機関によって管理されている。
@ 庇護手続き指令右矢印1公正で迅速かつ質の高い庇護決定の条件を定めることを目的としている。特別な支援を必要とする庇護希望者は、その主張を説明するために必要な支援を受け、特に保護者のいない未成年者と拷問の被害者の保護が保証される。
A 受入条件指令右矢印1EU 全域の庇護希望者に、基本権憲章に従って尊厳ある生活水準を保証するために、受入条件 (住居、食料、衣服、一定の条件の下での医療、教育、雇用へのアクセスなど) の共通基準が提供される。
B 資格指令右矢印1国際保護を付与する根拠を明確にし、庇護決定をより強固なものにする。また、国際保護の受益者に対して、権利へのアクセスと統合措置を提供する。
C ダブリン規則右矢印1庇護申請の審査を担当する国を定めるプロセス(原則として最初の上陸国が庇護申請審査の責任を負う)。庇護希望者の保護を強化し、国家間の関係を規定する規則を明確化する。国の庇護申請への対応または受け入れシステムにおける問題を早期に検出し、危機に発展する前にその根本原因に対処する。
D EURODAC規則右矢印1ダブリン規則に基づく加盟国の責任の決定をサポートし、殺人やテロなどの最も深刻な犯罪を防止、検出、または調査するために、法執行機関が厳密に制限された状況下で庇護希望者の指紋を記録保存したEUデータベースにアクセスできるようにする。
E 欧州連合庇護庁右矢印1共通欧州庇護制度の機能と実施の改善に貢献する。欧州全域での国際保護の申請の評価において、加盟国に運用および技術支援を提供する。

(参考2)オランダに居住する第三国人に対する権利行使の厳格化
@帰化(国籍取得)要件の厳格化
政府は、オランダ国籍を取得するための要件を厳格化している。言語要件はB1レベルに引き上げられ、帰化の待機期間は5年から10年に延長される。さらに、政府は、特定の例外が適用されない限り、可能な限り、新国民が元の国籍を放棄することを目指している。
A選択的かつ対象を絞った労働移民政策
政府は、移民労働者の削減を目指しており、低賃金雇用を制限し、劣悪な労働条件を見直すための厳格な措置を導入する。家族移民、難民、許可を取得する可能性のある庇護希望者を含むオランダ居住者は、オランダの労働市場に参加するよう奨励される。
B留学生の流入に対する管理強化と高等教育の「英語化」の制限
政府は留学生の流入をより適切に規制し、オランダの高等教育の「英語化」を制限することを目指している。大学やカレッジには、留学生の受け入れを調整し、オランダ語の役割を強化し、受け入れ人数上限設定を拡大することが求められる。
Cウクライナ難民の自立と参加
政府はウクライナ難民の自立と統合に引き続き重点を置く。2024年夏以降、政府は就労による十分な収入がある難民に対する生活手当の段階的廃止を開始した。「ウ」難民には、可能な場合は居住費を負担することも求められる。

(追加)庇護希望者に対する制限右矢印1政府は「庇護に関する危機」を宣言し、両院の即時承認なしに庇護希望者の流入を管理する暫定措置を認めた。承認は後日行われる予定。
(1)庇護認定者は、居住資格を少なくとも2年間保持し、適切な住居を持ち、「安定して十分な収入」がある場合に限り、家族呼び寄せができる。成人した子供の家族再統合にも制限が設けられる。
(2)庇護申請が繰り返される場合は、新たな事実や状況についてより厳格に精査される。庇護に関する危機法の導入により、既存の規制も変更される。新たな庇護申請は停止され、受け入れ施設は格下げされ、滞在権のない個人は強制的に退去させられる可能性がある。
(3)庇護希望者は5年後に自動的に永住許可を受けるという規則は廃止される。オランダに5年以上滞在している庇護希望者は、安全と判断された場合には母国に帰国するよう求められる可能性がある。

(参考3)ハンガリーの欧州共通庇護制度への対応
ハンガリーは長い間EU共通庇護制度を事実上無視してきた。近年、オルバン首相率いる国家主義的ハンガリー政府は、難民申請手続きに関するEUの規則に縛られないことで、事実上の制度「適用免除」を演出してきた。ルクセンブルクの欧州司法裁判所は、ハンガリーによるセルビアとの国境警備は違法であると繰り返し判決を下している。同裁判所は最新の判決で、難民申請者が国境で難民申請できず、キエフとベオグラードのハンガリー大使館でしか申請できないのは違法であるとの判断を示した。ハンガリー政府はこの慣行を変えることを拒否したため、裁判所はハンガリーに2億ユーロ(2億2,300万ドル)の罰金と1日100万ユーロの罰金を課した。オルバン首相は罰金を支払うつもりはないと公言した。9月18日、EU委員会は、EU司法裁判所が2024年6月にハンガリーに対し、EU難民法の「前例のない、極めて重大な違反」を理由に科した2億ユーロの罰金(不遵守日数1日につき100万ユーロの追加支払いの対象)を回収するための特別手続きを開始した。ハンガリーは罰金の支払いを公式に拒否し、その後1回目は8月下旬、2回目は9月17日の2回の支払い期限を守らなかった。その結果、EU委員会はハンガリーに対するEU予算から今後の支払い額2億ユーロを差し引く「相殺手続き」を開始した。 EUが相殺手続きを開始した翌日、ハンガリーのゾルターン・コヴァーチ国際関係担当国務大臣は、ハンガリーは「EU裁判所の移民判決に対処するための交渉を開始し、罰金を支払うことなく状況を解決することを目指している」と投稿した。コヴァーチは、欧州連合担当大臣のボカ・ヤーノシュの言葉を引用し、「ハンガリーの目標は、問題を解決しながら1日100万ユーロの罰金を止めることである」と述べ、双方は「継続中の協議のチャネルで合意し、さらなる交渉の明確なスケジュールを設定した」と述べた。
因みにこうしたハンガリー政府の対応もあり、2023年の統計をみてもハンガリーへの庇護申請者は、ほとんどいない。
(参考)2023年EU諸国への出身国別庇護申請登録者数
1) ハンガリー: 25名のみ(ロシア10名、アゼルバイジャン5名、その他10名

2) オランダ:38180名(シリア1万3030名、トルコ2865名、エリトリア2345名、イエメン1985名、ソマリア1805名、その他1万6150名)
3) ドイツ:32万9035名 (シリア10万2930名、トルコ6万1180名、アフガニスタン5万1275名、イラク1万1150名、イラン9385名、その他9万3115名)

(コメント)移民・難民に一時期寛容であった欧州の移民排斥の動きが止まらない。こうした中、2023年11月の総選挙で勝利したヘルト・ウィルダース率いる極右政党自由党(PVV)が主導権を握るオランダの4党新連立政権(7月2日発足)は、欧州共通庇護制度の適用除外をEU委員会に正式に申し入れるとともに、「史上最も厳格な難民制度」を構築することを表明した。オランダに先立ち、既にデンマークが適用除外を申し入れており、さらに、ハンガリーも同様の申し入れを行うことを表明した。オランダは、EU創設メンバー国のひとつであり、EUの連帯にくさびをうちこむ前例のない動きに出たことになる。但し、9月18日、オランダのファーバー移民難民相は、欧州委員会のイルバ・ヨハンソン内務委員に宛てた書簡の中で、「オランダは、同国への移民の量を大幅に削減することを目指しており、オランダがこの目的を達成できるように、条約改正があった場合、オランダ政府は欧州の難民・移民制度からの適用除外を求める」として、適用除外条項はEU条約の改定が行われた場合にのみ達成できると認めており、オランダに対する欧州共通庇護制度の適用除外は、容易に達成できるものではないことを認識している。すなわち、今回の申し入れは、選挙で、ウィルダース党首の自由党などを支持した有権者へのアピールであるとともに、国内法のもとで外国人のオランダ居住の条件を厳格化することで、移民難民の流入をできるかぎり阻止するとの意思を内外に示すものである。ハンガリーに至っては、2023年の庇護申請数25名から判る通り、実質的に欧州共通庇護制度をスルーしている。オランダは、2024年5月に、2020年9月のフォンデアライエンEU委員長の提案から4年近くの厳しい交渉の末に成立した移民と庇護に関する新協定の実施に賛成票を投じているところ、この改正の最大の目玉である「強制連帯」制度の下で、一定数の庇護希望者を受け入れるか、あるいは、拒否した庇護希望者1人につき2万ユーロを支払うかの選択の中では、資金支払いオプションを選択するのではないかとみられている。
https://www.dw.com/en/hungary-and-the-netherlands-want-to-exit-eu-asylum-policy/a-70278674
https://migrant-integration.ec.europa.eu/news/netherlands-government-presents-new-asylum-and-migration-restrictions_en
https://www.euronews.com/my-europe/2024/09/18/netherlands-requests-opt-out-clause-from-eu-asylum-rules-a-bold-move-with-low-chances-of-s
https://home-affairs.ec.europa.eu/policies/migration-and-asylum/common-european-asylum-system_en

Posted by 八木 at 12:21 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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