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ドイツ当局、2021年8月以来初めてアフガン人の本国送還開始 [2024年08月31日(Sat)]
ドイツ当局者によると、8月30日早朝、28人のアフガニスタン人を乗せたカブール行きの強制送還機がドイツを出発した。CNNなどの報道によれば、ザクセン州内務省の報道官はアフガニスタン人を乗せたカタール航空のボーイング787は現地時間午前7時前にライプツィヒを出発し、金曜午後にアフガニスタンの首都カブールに着陸したとみられている。同機で本国に送還されたアフガニスタン人はドイツの各州で有罪判決を受けた犯罪者で、内務省が選定した人々だと報道官は付け加えた。2021年8月15日にタリバンが政権を奪還して以来、ドイツがアフガニスタン人を母国に強制送還する初めてのケースとなる。ドイツのシュピーゲル誌によると、この強制送還は数か月に及ぶ交渉と計画の結果とされる。シュピーゲル誌は、強制送還された全員が男性で、各自1,000ユーロ(1,100ドル)が支払われたと報じた。ザクセン州内務省の報道官はこれを確認しなかった。

1.強制送還された28名の犯罪情報等
ドイツ当局は、8月30日に強制送還した28人のアフガニスタン人が有罪判決を受けた犯罪内容について詳細を明らかにしなかった。しかし、AFPはバーデン=ヴュルテンベルク州司法省の報道を引用し、1人は14歳の少女に対する集団強姦に関与した罪で有罪判決を受け、もう1人は160件以上の犯罪歴があると報じた。その他、すべて深刻な犯罪を犯し判決をうけた者たちとされている。

2.強制送還実施までの経緯
2024年5月末に南西部の都市マンハイムで起きた刃物による襲撃事件で、この攻撃で警察官1人が致命傷を負い、他にも数人が負傷した。ドイツ当局は容疑者を25歳のアフガニスタン難民と特定した。以後、ドイツ政府は重大犯罪を犯した移民をアフガニスタンとシリアに強制送還するために「集中的な取り組み」を行ってきたとされる。2021年8月に実権を掌握したタリバン政権を正式に承認している国は、現時点でも世界中で皆無(但し、中国のように事実上の「大使」を駐在させている国もある)であり、ドイツもタリバン政権とは公式には接触はない。しかし、アフガニスタンから撤退した欧米諸国も、カタールの首都ドーハで非公式にタリバン側と接触することが可能になっているされる。今回の強制送還は、カタール航空のチャーター機を使用し、ドイツ・ライプツィヒからカブールまでのダイレクト・フライトになっていることからも、カタール政府がドイツ、タリバン双方の間にたって、タリバン側によるアフガニスタン人の強制送還受け入れを可能にした。カタールは、米軍のアフガン撤退に際しても、米政府とタリバン側の直接交渉の場所を提供し、協議がまとまることを支援してきており、タリバン政権側もカタールに一定の信頼感を有している
(参考)アフガン出身の男は2024年5月31日、ドイツ西部マンハイムでイスラム過激派に反対する団体「パクス・エウロパ」が主催した集会で、ナイフで次々に人を襲ったとされる。襲撃を阻止しようとした警官(29)が繰り返し刺され、その時のけがが原因で6月2日に死亡。参加者5人も負傷した。 この事件を機に、アフガンへの強制送還の再開をめぐる議論が再燃していた。 報道によれば、スレイマン・アティ容疑者は2013年3月、14歳の時に庇護を求めてドイツに入国。独日刊紙ビルトによれば、難民とは認定されなかったが、年齢を理由に国内滞在を認められた。シュピーゲル誌によれば、その後ドイツで学校に通い、2019年にはトルコ系ドイツ人女性と結婚、2人の子どもをもうけていた。当局からは危険人物としてマークされていなかったとされる。
https://www.afpbb.com/articles/-/3522813
3.なぜこのタイミングでの送還か
ISISとの関係が疑われているシリア人による8月23日のゾーリンゲンでの殺傷事件発生の前から、ドイツ政府は、国内で不法移民排斥の声が高まっており、これを訴え、支持を拡大していることを背景に、難民としての保護に値しないアフガニスタン人やシリア人の国外退去の実施を検討してきており、とりわけ、9月1日のザクセン州とテューリンゲン州の選挙戦で「ドイツのための選択肢(AfD)」が有利に立っていると伝えられており、選挙戦の最中にアフガニスタン人による殺傷事件に続いて、シリア人による殺傷事件が発生したことを踏まえ、政権側として、現状を放置しない、不法移民に対して強い態度に出ているということを国民に示す必要があった。この事件のあとシュルツ首相はゾーリンゲン訪問中に「ドイツに滞在できない、または滞在を許可されていない人々が本国に送還され、強制送還されるよう、できる限りのことをしなければならない」と宣言した。

4.ドイツ政府の今後の対応
アフガニスタン人の強制送還が再開されたとの報道を受けて、緑の党の共同代表オミッド・ヌーリプール氏は、重大犯罪者の追放に向けた取り組みを歓迎するが、大規模な強制送還の開始を意味するものではないとして、「法を遵守する人々、特にイスラム過激派から逃れてきた家族や子どもたちは」ドイツで保護されていると述べた。内務省は強制送還の影響を受けるのは少数の人々だけだと強調しつつ、フェザー内務大臣は記者会見で、「送還のペースを速める」ことと「不法移民を減らすためのさらなる措置を講じる」ことを約束し、イスラム過激派と戦う当局の権限も強化すると強調した。

(コメント)メルケル首相時代のドイツは、シリア内戦ピーク時の2015年〜16年ごろには、100万人以上の庇護申請者を受け入れてきた。シリア内戦から13年が経過する現在でも、欧州で庇護申請をするシリア人は、出身国別でも常にトップクラスである。シリア人と争っているのがアフガニスタン人である。
(1)2023年のEUでの出身国別庇護申請数 一位シリア人183,035、二位アフガン人100,935
(2)2023年の独への出身国別庇護申請数 一位シリア人102,930、三位アフガン人51,275
(3)2023年のEU一時庇護認定率 シリア人94% アフガン人80%
(4)2023年度(24年3月まで)の英国の原審庇護認定率 シリア人98%、アフガン人98%
(5)2023年度(24年3月まで)の英仏海峡を渡った不法移民数 一位アフガン人5,727、五位シリア人2,641
(6) 2024年の最初の7か月間のドイツにおける庇護申請者数は前年比19.7%減の140,783件で、第一位シリア44,191件、第二位アフガニスタン22,698件

トルコは、欧州へのシリア人やアフガン人、イラク人、イラン人などの動きを抑えるために2016年3月のEUトルコ合意も踏まえ、取り組みを行ってきたが、それでも現在も、300万人以上のシリア人がトルコ国内に一時保護規則に従って滞在している。トルコの負担が大きくなっており、選挙のたびにシリア人の本国帰還が争点の一つに浮上してきている。
こうした中、国内での不法移民・庇護希望者による事件が繰り返し発生することで、シュルツ政権は、強制送還を含む不法移民対策を強化する必要に迫られている。ドイツは、シリアのアサド政権との公式の接触は絶っており、アフガニスタンのタリバン政権とも公式の接触はない。そのため、犯罪を犯した人物であっても、これらの国に不法移民を送り返すべく、その方法を探ってきた。アフガニスタンのタリバン政権と一定の信頼関係があるカタールの仲介を得て、シュルツ政権は今回28名の犯罪者の判決をうけたアフガン人の本国送還を実現した。しかし、そのタリバン政権は、女性の高等教育禁止だけでなく、全身をまとう衣装を身に着けるよう強制するなど国民への締め付けを、ますます強化しつつある。今回送還されたアフガン人のドイツ国内での犯罪内容は部分的にしか報じられていないが、その内容にかかわらず、強制帰還された人たちがどうなるのか、今後送還数を拡大するのか、受け入れ拡大をタリバンが認めれば、その見返りを求められるのではないかという懸念が広がる。シリアについても、アラブ世界やトルコは、徐々にアサド政権との和解の途をたどりつつある。しかし、欧米は、アサド政権に厳しい制裁を科したままで、シリアの復興は一向に進まない。当然、シリアに帰還しようと考える人は多くはないアサド政権崩壊まで、国民を巻き込んで放置する戦略を見直す時に来ているのではないかと思われる。
https://www.rferl.org/a/afghanistan-germany-refugee-stabbing-crime/33099323.html
https://www.reuters.com/world/germany-says-it-resumes-deportations-afghanistan-2024-08-30/
https://edition.cnn.com/2024/08/30/europe/germany-deports-28-afghan-migrants-intl/index.html

Posted by 八木 at 14:58 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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