ヒズボラとイスラエルの緊張拡大(マジュダル・シャムス村での死傷事件の真相)[2024年08月09日(Fri)]
2024年7月27日、イスラエルの占領下にあるゴラン高原のマジュダル・シャムス村のサッカー場に爆発物が落ち、12人の子どもが死亡(下記サイトのイスラエルのドゥルーズ・ヘリテージ・センターで犠牲者の写真が掲載されている)した。イスラエルはレバノンのシーア派組織ヒズボラを非難し、着弾現場で見つかったとされる破片は、イラン製のファラク 1 ロケットと一致したと発表した。ヒズボラは、その件の前4件については、攻撃の事実を認めたが、マジュダル・シャムスの件については、攻撃を完全否定した。イスラエルは、この攻撃の報復として、7月30日、ベイルートのヒズボラ幹部フワード・シュクル司令官を殺害し、翌31日には、イラン大統領就任宣誓式出席のため、テヘランを訪問中のイスマイール・ハニーヤ・ハマス政治局長を殺害したとみられている。
そもそも、ヒズボラがゴラン高原のドゥルーズコミュニティを攻撃し、多数の死傷者を出したとイスラエル側が発表したことについて、現地事情を知る人であれば、誰もが疑問を感じることであろう。その主要な理由は次のとおり。
@今回被害に遭ったのは、イスラエルの占領下にあるゴラン高原の人口約2万5千人のアラビア語を話すマジュダル・シャムス村のドゥルーズコミュニティの市民であること
Aドゥルーズは、イスラム教の異端ともみられる「輪廻転生(タカッムス)」を信じる独特の宗派に属し、シリア、レバノン、イスラエルの山岳部で主に居住する人々で、レバノンに拠点を有して政治・経済活動も行うヒズボラが、シリアやレバノン社会で同胞ともみなすドゥルーズを敵に回す、あるいは攻撃する理由が全くないこと(注:但し、イスラエル軍には、イスラエル国籍を有するドゥルーズも含まれる)
B今回、死傷したドゥルーズの多くは、イスラエル国籍取得を拒否している者がほとんどであったとされること(MEEの報道参照)。
そのうえで、次のとおりいくつか可能性が考えられる。
1) ヒズボラが発射したロケットが進路を誤ったか、イスラエル軍の防御行動により、進路をふさがれ、サッカー場に着弾したのか3km離れたところヘルモン山のイスラエル軍基地が存在するため、そこを狙ったが進路をそれたか、あるいは妨害され、サッカー場に着弾した可能性は排除できない。しかし、迎撃の結果進路が反れたのであれば、ヒズボラはそれを認める可能性は高いが全面否定している。マヤディーン紙は、イラン製ファラク1ロケットならもっと大きなクレーターができたはずと指摘している(サッカー場着弾地点の画像は、下記のマヤディーン紙リンクから)。
2) イスラエル軍のアイアン・ドームが標的を外れ、サッカー場に着弾したのかアイアン・ドームは無敵ではなく、これまでも度々迎撃に失敗していることが指摘されている。これには、2023年12月初旬にテルアビブで発生したアイアン・ドーム迎撃機の墜落や、2024年7月25日にヒズボラのドローンの迎撃に失敗した後、引き起こされた火災が含まれるとのこと。また、直近の例で、イスラエル軍は、8月6日に「ヒズボラのドローン攻撃」にアイアン・ドームによる迎撃を行い、その結果ナハリヤ近郊の国道4号線に物的被害をもたらしたことを認めている。しかし、マジュダル・シャムスの件では、イスラエルは、レバノンのヒズボラによる攻撃であることを発表し、ネタニヤフ首相も現場を訪れている(但し、犠牲者の家族は面会を断ったとされる)ことから、仮にアイアン・ドームの迎撃失敗であったとしても、いまさら発表を否定することはできない。
3) 上記のいずれかにかかわらず、ネタニヤフ政権によるイランならびにその補完勢力に対する戦闘エスカレーションの口実を用意するため米国訪問で共和党議員多数の激励を受けたネタニヤフ首相は、フワード・シュクル・ヒズボラ司令官とイスマール・ハニーヤ・ハマス政治局長暗殺を決定しており、米国からの圧力で、ガザ停戦を実行する前に、主な脅威をすべて取り除く(すわなち、ハニーヤ・ハマス政治局長、カッサーム旅団のムハンマド・ディーフ、ヤヒヤ・シンワル・ガザ現地代表(現政治局長)抹殺のタイミングを計っていたところ、原因が、上記1)か2)にかかわらず、多数のドルゥーズの少年少女が亡くなった件を、イランとその補完勢力への攻撃エスカレーションの口実にしようとした可能性が高いこと。
(コメント)レバノン進歩社会党の元党首で、レバノン・ドゥルーズコミュニティの代表的人物であるワリード・ジュンブラートは、イスラエルが地域の諸グループ間の紛争を煽ろうとしていることに警戒する必要があると強調し、占領下のシリア領ゴラン高原で亡くなった殉教者の遺族に心からの哀悼の意を表したとされる。今回、ヒズボラが直接、ゴラン高原のドゥルーズの人々を標的にしたことは、100%ありえないと考えられる。もちろん、イスラエルとの交戦で、ヒズボラがレバノン側からドローンやミサイル攻撃を行っていることは事実である。しかし、イスラエル側の、その直後のヒズボラ司令官暗殺やハニーヤ政治局長のイラン国内での殺害は、イスラエルがイランやその補完勢力を巻き込み、戦闘をエスカレートさせ、停戦を強いられる前に、イスラエルが脅威と考える人物の実力による排除(殺害)を行い、イスラエルへの主要な脅威は取り除かれたという主張を行い、人質の犠牲者が出たことは、イスラエルの安全のために仕方なかったというシナリオを完結させるための行動としか考えられない。イスラエル政府は、8月15日からのガザ停戦の協議のためにカイロにチーム派遣に同意したとされるが、ハニーヤ後継のシンワル新政治局長暗殺とヒズボラがさらに攻撃を激化させるのであれば、長年実行を躊躇ってきたナスラッラー・ヒズボラ事務局長殺害を視野に入れていることは想像に難くない。
https://www.middleeasteye.net/news/majdal-shams-claims-and-counterclaims-deadly-attack
https://english.almayadeen.net/news/politics/did-an-israeli-iron-dome-missile-cause-the-majdal-shams-mass
https://english.almayadeen.net/news/politics/lebanon-s-jumblatt-urges-unity-as--israel--tries-to-sow-disc
https://archive.org/details/factcheck-israel-victim-misidentified_20240802_1117
そもそも、ヒズボラがゴラン高原のドゥルーズコミュニティを攻撃し、多数の死傷者を出したとイスラエル側が発表したことについて、現地事情を知る人であれば、誰もが疑問を感じることであろう。その主要な理由は次のとおり。
@今回被害に遭ったのは、イスラエルの占領下にあるゴラン高原の人口約2万5千人のアラビア語を話すマジュダル・シャムス村のドゥルーズコミュニティの市民であること
Aドゥルーズは、イスラム教の異端ともみられる「輪廻転生(タカッムス)」を信じる独特の宗派に属し、シリア、レバノン、イスラエルの山岳部で主に居住する人々で、レバノンに拠点を有して政治・経済活動も行うヒズボラが、シリアやレバノン社会で同胞ともみなすドゥルーズを敵に回す、あるいは攻撃する理由が全くないこと(注:但し、イスラエル軍には、イスラエル国籍を有するドゥルーズも含まれる)
B今回、死傷したドゥルーズの多くは、イスラエル国籍取得を拒否している者がほとんどであったとされること(MEEの報道参照)。
そのうえで、次のとおりいくつか可能性が考えられる。
1) ヒズボラが発射したロケットが進路を誤ったか、イスラエル軍の防御行動により、進路をふさがれ、サッカー場に着弾したのか3km離れたところヘルモン山のイスラエル軍基地が存在するため、そこを狙ったが進路をそれたか、あるいは妨害され、サッカー場に着弾した可能性は排除できない。しかし、迎撃の結果進路が反れたのであれば、ヒズボラはそれを認める可能性は高いが全面否定している。マヤディーン紙は、イラン製ファラク1ロケットならもっと大きなクレーターができたはずと指摘している(サッカー場着弾地点の画像は、下記のマヤディーン紙リンクから)。
2) イスラエル軍のアイアン・ドームが標的を外れ、サッカー場に着弾したのかアイアン・ドームは無敵ではなく、これまでも度々迎撃に失敗していることが指摘されている。これには、2023年12月初旬にテルアビブで発生したアイアン・ドーム迎撃機の墜落や、2024年7月25日にヒズボラのドローンの迎撃に失敗した後、引き起こされた火災が含まれるとのこと。また、直近の例で、イスラエル軍は、8月6日に「ヒズボラのドローン攻撃」にアイアン・ドームによる迎撃を行い、その結果ナハリヤ近郊の国道4号線に物的被害をもたらしたことを認めている。しかし、マジュダル・シャムスの件では、イスラエルは、レバノンのヒズボラによる攻撃であることを発表し、ネタニヤフ首相も現場を訪れている(但し、犠牲者の家族は面会を断ったとされる)ことから、仮にアイアン・ドームの迎撃失敗であったとしても、いまさら発表を否定することはできない。
3) 上記のいずれかにかかわらず、ネタニヤフ政権によるイランならびにその補完勢力に対する戦闘エスカレーションの口実を用意するため米国訪問で共和党議員多数の激励を受けたネタニヤフ首相は、フワード・シュクル・ヒズボラ司令官とイスマール・ハニーヤ・ハマス政治局長暗殺を決定しており、米国からの圧力で、ガザ停戦を実行する前に、主な脅威をすべて取り除く(すわなち、ハニーヤ・ハマス政治局長、カッサーム旅団のムハンマド・ディーフ、ヤヒヤ・シンワル・ガザ現地代表(現政治局長)抹殺のタイミングを計っていたところ、原因が、上記1)か2)にかかわらず、多数のドルゥーズの少年少女が亡くなった件を、イランとその補完勢力への攻撃エスカレーションの口実にしようとした可能性が高いこと。
(コメント)レバノン進歩社会党の元党首で、レバノン・ドゥルーズコミュニティの代表的人物であるワリード・ジュンブラートは、イスラエルが地域の諸グループ間の紛争を煽ろうとしていることに警戒する必要があると強調し、占領下のシリア領ゴラン高原で亡くなった殉教者の遺族に心からの哀悼の意を表したとされる。今回、ヒズボラが直接、ゴラン高原のドゥルーズの人々を標的にしたことは、100%ありえないと考えられる。もちろん、イスラエルとの交戦で、ヒズボラがレバノン側からドローンやミサイル攻撃を行っていることは事実である。しかし、イスラエル側の、その直後のヒズボラ司令官暗殺やハニーヤ政治局長のイラン国内での殺害は、イスラエルがイランやその補完勢力を巻き込み、戦闘をエスカレートさせ、停戦を強いられる前に、イスラエルが脅威と考える人物の実力による排除(殺害)を行い、イスラエルへの主要な脅威は取り除かれたという主張を行い、人質の犠牲者が出たことは、イスラエルの安全のために仕方なかったというシナリオを完結させるための行動としか考えられない。イスラエル政府は、8月15日からのガザ停戦の協議のためにカイロにチーム派遣に同意したとされるが、ハニーヤ後継のシンワル新政治局長暗殺とヒズボラがさらに攻撃を激化させるのであれば、長年実行を躊躇ってきたナスラッラー・ヒズボラ事務局長殺害を視野に入れていることは想像に難くない。
https://www.middleeasteye.net/news/majdal-shams-claims-and-counterclaims-deadly-attack
https://english.almayadeen.net/news/politics/did-an-israeli-iron-dome-missile-cause-the-majdal-shams-mass
https://english.almayadeen.net/news/politics/lebanon-s-jumblatt-urges-unity-as--israel--tries-to-sow-disc
https://archive.org/details/factcheck-israel-victim-misidentified_20240802_1117
Posted by 八木 at 11:29 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)