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MBS皇太子の訪日延期(サウジアラビアの関心事項と懸念) [2024年05月21日(Tue)]
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン(通称MBS)皇太子兼首相(現在38歳)は、2024年5月20日から23日まで、日本を公賓として訪問予定でしたが、到着予定日当日の5月20日に、林官房長官から訪日延期の発表が行われました。MBS皇太子の父親サルマン国王(88歳)が肺炎のために入院したことが延期の理由でした。サルマン国王は4月にも一時入退院していました。20日夜上川外相が、サウジのファイサル外相と電話会談を行い、早期の訪日実現を要請しました。MBS皇太子は、サウジの事実上の最高権力者であるものの、二聖モスクの守護者であるサルマン国王がサウジ王国の支配者であり、皇太子は国賓対象にはならないものの、天皇陛下との会見、会食を含む公賓招待は、日本政府として最大の敬意を表したものであり、日本にとっての世界最大の原油供給国であり、液体水素サプライチェーンの構築をはじめ新エネルギー拠点としてビジネス関係構築に向けて足がかりをつけたい日本の経済界にとっても延期を残念がる向きは多いと思われます。この機会に、ご参考までサウジにとっての、関心事項と懸念をまとめておきます。
1.関心事項
(1)石油収入:サウジアラビアの財政均衡価格は、バレル約80ドル程度とみられてきています。ウクライナ危機発生後、WTI原油価格はバレル120ドルを突破したこともありましたが、現在は80ドル台から70ドル台を前後しています。このため、サウジは、欧米の制裁下にあるロシアとも連携し、OPECプラスの枠内で減産調整を行ってきており、原油価格低下に歯止めをかけようとしています。OPECプラスは、2022年10月に11月分から全体で200万b/dの減産を開始し、その後も、2022年10月比530万b/d規模の減産を維持しています。サウジの原油生産は、300万b/dの生産余力を残しながら、現在900万b/dレベルにまで削減されています。6月のOPECプラスの閣僚級会合で、減産が維持されるのか否かに注目が集まっています。
(2)宗教的束縛から解放と娯楽の提供:サウジは、イスラム教スンニー派の中でも特に戒律が厳しいワッハーブ派に属し、これまで女性の活動が大きく制限されてきました。しかし、MBS皇太子が国内で実権を握り始めると、徐々に女性の活動制限緩和に動き出しました。国政選挙がなく、立法権のある議会が存在しないサウジで、MBS皇太子がサルマン国王逝去後50年にわたって実権を維持するには、若者とともに、女性の支持を必要としています。最大の改革は、2018年6月の女性への運転免許解禁と2019年〜21年に発表された後見人なしの女性の海外旅行、旅券の取得、成人の独身、離婚、または未亡人の女性は男性後見人に引き渡されるという規定が削除され、成人女性は独自に住む場所を選択する権利を認めたことです。サウジ国内では娯楽庁も設置され、ゲーム産業振興や、eスポーツワールドカップも開催されようとしています。サウジアラビアは、日本の任天堂の自社以外での筆頭株主にもなっています(8.6%取得)
(3)大型イベントやスポーツ大会の誘致:サウジアラビアは、2030年のリヤド万博を主催することが決定しています。約4千万人の来客を予定し、23年段階で78億ドルの予算を見込んでいます。2029年には、メガプロジェクトNEOM内に建設され、2026年完成予定のTrojenaで、冬季アジアスポーツ大会も主催し、人工雪を降らせてスキー競技も実施する予定です。2034年には、サッカーのFIFAワールドカップを主催することがほぼ決定しています。サウジは、世界の有力サッカー選手のクリスチアーノ・ロナウドやネイマールもサウジのクラブチームに招いて、サッカー新興国としての名声を高めようとしています。
(4)観光立国への変身:サウジはイスラム教の2つの聖地を抱え、伝統的に巡礼客を迎入れ、国家の収入の一部としてきました。いまや、サウジの政府系ファンドの公的投資基金(PIF)は、巡礼客以外に、観光リゾート、テーマパーク建設などを手掛ける企業を積極的に立ち上げ、観光開発を促進し、外国人観光客を招こうとしています。実際、サウジアラビアの観光分野の成果は目覚ましいものがあり、2019年9月に観光ビザを解禁し、2023年には2,740万人の外国人観光客を含む合計1億600万人の観光客を迎えています。中国との直行便も開通させました。
(5) 国家開発計画「ビジョン2030」目標達成への取り組み:サウジはポストオイル時代の産業多角化を進めていますが、そのポイントは、石油は売れるうちに売って外貨を獲得し、それを原資に政府系ファンドPIFにつぎ込み、次世代の産業基盤を整えることです。そのため、PIFは分野を問わず、世界中の有望な事業に投資し、また、海外から投資を呼び込み、外国企業とも連携して、NEOM内でのザ・ライン建設開始はじめ様々なメガプロジェクトを推進し、地域投資会社も設立しています。2024年に創設されたグローバルな製造ハブ拠点となることを目指す企業Alatは日本のソフトバンクとの間で、産業用ロボット製造で提携することが発表されています。PIFの資産拡大は、サウジのビジョン2030成功のためにも、絶対的に必要で、その基金を如何に効果的に活用して経済多角化に貢献し、雇用を創出するかが問われています。
@2030年目標:10兆サウジリアル
A2025年は目標値:4兆サウジリアル(1兆700億米ドル)
B2023年実績は、2.81兆サウジリアル


2.懸念材料
@OPEC協調減産にもかかわらず、原油価格は、バレル80ドルから70ドル台に落ちてきています。サウジは財政の黒字を確保するには、バレル80ドル程度が必要で、OPECプラスの減産調整は原油価格低下を食い止められるのかがやはり不安材料です。サウジPIFが手掛ける巨大プロジェクトや大型イベントの主催なども、オイルマネーが順調に入ってきてこそ実現可能です。
APIFが手掛ける最大のプロジェクトはNEOM(新未来)の推進で、その中でも、高さ500メートル、幅200メートル、長さ170kmの線状未来都市「ザ・ライン」の建設が注目を集めています。NEOMの事業予算は、当初は5千億ドルでしたが、この金額は大幅に拡大しているとみられています。最近のブルームバーグの報道では、ザ・ラインについては2030年時点で、長さ2.4km、居住者も30万人(既存計画では2030年150万人、最終的には900万人収容)と計画が予定通り進みそうにないとの見通しも出始めています。
Bサウジへの人権侵害批判はこのまま収束してくれるのか。2018年のイスタンブールでの著名なジャーナリスト・カショギ氏の殺害で、サウジ政府はMBS皇太子をはじめ、厳しくその責任が問われていました。この件は、その後、事件現場となった当事国トルコのエルドアン大統領が、独自裁判プロセスを放棄し、サウジとの関係修復に動いて、さらにMBS皇太子に批判的であった欧米の首脳もサウジ訪問やMBS皇太子の国内招待を通じて、少なくとも国レベルでは関係は正常化されています。上述の「ザ・ライン」については、砂漠の真ん中にこのような巨大構造物を構築するために、外国人労働者の保護は期待できるのか。海外の投資家、技術者は、サウジの革新的プロジェクトに協力してくれるのかが問われています。NEOMでは、巨大プロジェクトを進めるうえで、強制的な土地収用も行われたとみられています。先祖代々の土地を手放すことを拒否したアルフワイティ族の代表者のひとりが、サウジの特殊部隊に殺害されたとの疑惑も出ており、2024年5月、BBCは、23年英国に亡命した現地作戦に参加した元大佐が、サウジ政府の責任を裏付けたと報じました。
Cサウジは、地域統括会社(RHQ)の推進などで、地域のライバルUAEとの主導権争いに勝利できるのかも課題です。中東湾岸諸国に進出している外国企業の多くは、住環境がよく、交通の便もよく、規制も少ないUAEのドバイに地域を総括する拠点を置いてきています。日本企業の多くもそうです。サウジアラビアは、サウジの政府調達に参加しようとする多国籍企業についてはRHQライセンス取得者を優先すると発表しました。同時に、サウダイゼーション(雇用の現地人化)の適用も10年間免除したり、30 年間の法人所得および源泉税の免除のインセンティブを与えようとしています。この結果、RHQ免許取得企業は、21年44社、22年80社、23年180社(合計304社)と増加しているそうです。ビジョン2030では、480社が目標とのことです。中国のファーウェイもRHQ免許を取得済であると2023年12月に報じられました。
Dサウジは、2016年以来イランとの関係が冷え込んでいましたが、2023年3月中国の仲介で7年ぶりに関係を正常化しました。同年双方の大使の復帰も実現しました。しかし、ハマスのイスラエル領内での殺害事件をきっかけにしたハマス・イスラエル紛争拡大の中で、親イランのイエメンフーシ派がサウジ沿岸の紅海を通過する船舶への攻撃を繰り返しており、また、サウジは、2023年8月のG20の機会にインドや欧米と覚書を結んだ新経済回廊構想で、イスラエルとも関係正常化を進めようとしていた最中に、紛争が発生し、2024年5月には、イランとイスラエルが直接相手を攻撃するという事態も発生し、サウジは、欧米とイランやロシアとの間で微妙なかじ取りを迫られています。

Posted by 八木 at 11:10 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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