出口の見えないシリア内戦(ISISによるシリア人53名の殺害)[2023年02月19日(Sun)]
2023年2月17日、シリア国営テレビは、同国中部のシリア第三の都市ホムス県砂漠地帯のアル・スクナ地区で過激派組織「イスラム国」(ISIS)による銃撃をうけ、砂漠でトリュフ(雷雨の後で採れることで知られる。高値で販売される)を採取していた民間人ら53人が殺害されたと報じた。過去1年間に起きたイスラム過激派による攻撃で最多の犠牲者となったとのこと。襲撃後に53体の遺体が運び込まれたパルミラ病院の院長は地元ラジオ「シャームFM」に、殺害されたのは民間人46人、兵士7人だと語った。過去にもトリュフを集めていた民間人がISISに狙われたことがあり、2019 年 4 月、少なくとも 19 人が誘拐された。ISISは、シリア、イラクの拠点のほとんどを失ったにもかかわらず、依然活動が鎮静化していない。
2月6日のトルコ・シリア大地震では、トルコ、シリア在住のクルド人にも犠牲者が多数発生した。クルド人の各勢力との関係をまとめれば次のとおり。シリアでは、各勢力が周辺国や政権側の思惑に翻弄されて、利害関係が複雑に絡み合っており、シリアのクルド人は、シリア内戦発生後12年が経過したにもかかわらず、世界から「見捨てられた」状況が続いている。
@シリアのクルド人民防衛隊(YPG)は、米軍を主体とする有志連合軍の最も信頼できる地上部隊であるシリア民主軍(SDF)の主力勢力として、対ISIS掃討作戦に多大の人的犠牲を払いながらも参加している。
Aトルコ政府からは、YPGはトルコのクルド労働者党(PKK)と同根のテロ組織に位置付け。トルコはYPG/PKKグループを国家の脅威とみなして、2018年、2019年二度にわたってシリアへの越境攻撃を実施し、今も、シリア領内の一部を実効支配している。
Bシリアのアサド政権は、シリア内戦において反体制派を分断する必要にかんがみ、クルド人に暫定的自治を容認したが、SDFが事実上米軍の保護下に置かれている関係上、クルド人地区の再統合や侵攻は控えている。
Cシリアのアサド政権の後ろ盾であるロシアのプーチン大統領は、反体制派のイドリブでの保護を主張するトルコのエルドアン大統領との間で、体制側と反体制側の停戦を実現し、イドリブ県は反体制派の最後の拠点となっている。
Dプーチン大統領は、ウクライナ危機において、トルコとの関係維持がロシアの生命線のひとつであるとみており、クルド人とアサド政権の関係修復には動いておらず、むしろ、アサド政権のトルコ接近を後押ししている。
Eすなわち、クルド人は、ISISとの戦いで、今も米軍と連携し、戦闘の中心になっているものの、トルコ軍からも攻撃をしかけられ、今回の地震でも大被害をうけ、救援物資の搬送も滞っている。
1.ISISによるカリフ国宣言から現在まで
ISISは、2014年6月イラク、シリアの領土の一部を実効支配するカリフ国を宣言。これに対して、イラクのシーア派は大アヤトラ・アリー・シスターニ師のファトワで、カリフ国との戦いを宣言。同年8月には米軍を主体とする有志連合軍が対ISIS作戦を開始した。ISISは有志連合軍に対して、次第に劣勢に追い込まれ、2017年7月、イラクの拠点モスルを失い、同年10月カリフ国の首都と評されたシリアのラッカを失った。その後、2019年3月にシリアの町バグーズでの1か月にわたる血なまぐさい戦いの末、最後の領土を失った。しかし、拠点を失ったものの、未だに政府軍や民間人ほかへの襲撃を繰り返し、脅威は解消していないばかりか、最近では、むしろ活動が活発化している観がある。
2.2022年のシリアにおける米軍のISIS掃討作戦の成果
(以下米国ウィルソンセンター記事ポイント)
2022 年、米国中央軍 (CENTCOM) は ISIS に対して 300 以上の掃討作戦を実施し、指導者と数十人の地域司令官を含め、シリアで 466 人、イラクで少なくとも 220 人の工作員計 686 人を殺害した。 同年2月、米国の特殊作戦部隊が、シリア北西部イドリブ県でアブー・バクル・アルバクダーディの後継者であったISIS指導者のアブー・イブラヒーム・アル・ハーシミ・アル・クレイシーを急襲し、同指導者が自爆に追い込まれた。同年 7 月には、シリアの ISIS のリーダーであるマーヘル・アル・アガルが、米国の無人機攻撃で殺害された。作戦の大部分は、米国が軍事作戦で連携するシリアのシリア民主軍(SDF)やイラク政府の治安部隊との共同で実行されている。
(参考1)米中央軍(CENTCOM)発表の2022年暦年に実施された対ISIS作戦
計313
(1) シリア:
@ パートナー部隊との連携した作戦108件
A 米国の独自の作戦14件
B ISIS 工作員の拘束215人
C ISIS 工作員の殺害466人(アルクライシ指導者殺害を含む)
(2)イラク:
@ パートナー部隊との連携した作戦191件
A ISIS 工作員の拘束159人
B ISIS 工作員の殺害少なくとも 220 人
(参考2)クレイシーISIS指導者の殺害
2019年10月27日のイドリブ県バリシャ村での米軍特殊部隊に追い詰められたアルバグダーディ1SIS指導者自害後、ISIS指導者となったアブー・イブラヒーム・アルハーシミ・アルクレイシーは、2022年2月3日早朝イドリブ県アトマ村の住居で米軍ヘリ4機から降下した特殊部隊員に追い詰められて自害したとされる。なお、クレイシーの居場所について、イラク情報部が有志連合に伝えた情報に基づき、作戦が実行されたとされる。
3.2022 年 12 月 28 日から 2023 年 1 月 5 日までのSDFによるISIS掃討作戦
2022 年 12 月 28 日から 2023 年 1 月 5 日まで、シリア民主軍と連合軍(生来の決意作戦統合任務部隊:Operational Inherent Resolve)は、シリア北東部アルジャジーラ域内で ISIS メンバーを追跡し、将来の攻撃を抑止するために大規模な作戦を実施した。アルジャジーラ 「サンダーボルト」作戦では、シリア民主軍SDFの約 1,000 人のメンバーが、テル・ハミス、テル・バラク、およびアル・ホール周辺地域を捜索した。8 日間の作戦中に、SDF は 150 回以上の襲撃と 40 回以上の村の掃討作戦を実施し、170 人以上の ISIS 工作員を拘束し、数百の武器、ISIS の補給・兵站物資を回収した。
4.ISIS戦闘員の拘留
イラクとシリアには未だ数多くのISIS戦闘員が拘留されている。 今日、シリア全土の収容施設には 10,000 人を超える ISIS 司令官・戦闘員がおり、イラクの収容施設には 20,000 人を超える ISIS 司令官・戦闘員がいる。 2022 年 1 月には、シリアのアル・ハサカで発生した ISIS の脱獄事件は、これらの刑務所がリスクにさらされていることを想起させる。 脱獄を封じ込めるための戦闘とその後の戦いにより、420 人以上の ISISメンバー が死亡し、120 人以上のパートナー部隊員が殺害された。また、アル・ホールキャンプの25,000人以上の子どもたちも、次世代戦闘員候補としてISISが狙いをつけている。2022年9 月、ISIS は、シリア北東部にある 60,000 人を超える ISIS の家族が収容されているアル・ホール拘置所に攻撃をしかけたが、失敗した。
https://www.wilsoncenter.org/article/centcom-fight-against-isis-2022
(参考)ISISによるハッサケ県シーナ刑務所襲撃
●2022年1月20日、ISIS傭兵部隊が、5千名の5,000人のISIS元戦闘員が収容されているシリア北東部ハッサケ県のシーナ刑務所を襲撃。トルコ占領地域とイラクからの200人の自爆テロ犯を含む戦闘員が参加。
●クルド人部隊主体のシリア民主軍(SDF)が迎撃し、23日時点で刑務所の支配をほぼ取り戻した。有志連合軍が、空からSDFを支援した。
●襲撃は、ISIS側の声明によれば、準備の6か月間の準備期間を経て、1月20日の午後7時30分頃に車両爆弾攻撃に続いて、刑務所内のISIS元戦闘員は、同時に医療スタッフ、料理人、警備員を攻撃し、脱出を試みた。
●直接の戦闘で、175名のISIS戦闘員が殺害され、27名のSDF隊員が死亡した。
2月6日のトルコ・シリア大地震では、トルコ、シリア在住のクルド人にも犠牲者が多数発生した。クルド人の各勢力との関係をまとめれば次のとおり。シリアでは、各勢力が周辺国や政権側の思惑に翻弄されて、利害関係が複雑に絡み合っており、シリアのクルド人は、シリア内戦発生後12年が経過したにもかかわらず、世界から「見捨てられた」状況が続いている。
@シリアのクルド人民防衛隊(YPG)は、米軍を主体とする有志連合軍の最も信頼できる地上部隊であるシリア民主軍(SDF)の主力勢力として、対ISIS掃討作戦に多大の人的犠牲を払いながらも参加している。
Aトルコ政府からは、YPGはトルコのクルド労働者党(PKK)と同根のテロ組織に位置付け。トルコはYPG/PKKグループを国家の脅威とみなして、2018年、2019年二度にわたってシリアへの越境攻撃を実施し、今も、シリア領内の一部を実効支配している。
Bシリアのアサド政権は、シリア内戦において反体制派を分断する必要にかんがみ、クルド人に暫定的自治を容認したが、SDFが事実上米軍の保護下に置かれている関係上、クルド人地区の再統合や侵攻は控えている。
Cシリアのアサド政権の後ろ盾であるロシアのプーチン大統領は、反体制派のイドリブでの保護を主張するトルコのエルドアン大統領との間で、体制側と反体制側の停戦を実現し、イドリブ県は反体制派の最後の拠点となっている。
Dプーチン大統領は、ウクライナ危機において、トルコとの関係維持がロシアの生命線のひとつであるとみており、クルド人とアサド政権の関係修復には動いておらず、むしろ、アサド政権のトルコ接近を後押ししている。
Eすなわち、クルド人は、ISISとの戦いで、今も米軍と連携し、戦闘の中心になっているものの、トルコ軍からも攻撃をしかけられ、今回の地震でも大被害をうけ、救援物資の搬送も滞っている。
1.ISISによるカリフ国宣言から現在まで
ISISは、2014年6月イラク、シリアの領土の一部を実効支配するカリフ国を宣言。これに対して、イラクのシーア派は大アヤトラ・アリー・シスターニ師のファトワで、カリフ国との戦いを宣言。同年8月には米軍を主体とする有志連合軍が対ISIS作戦を開始した。ISISは有志連合軍に対して、次第に劣勢に追い込まれ、2017年7月、イラクの拠点モスルを失い、同年10月カリフ国の首都と評されたシリアのラッカを失った。その後、2019年3月にシリアの町バグーズでの1か月にわたる血なまぐさい戦いの末、最後の領土を失った。しかし、拠点を失ったものの、未だに政府軍や民間人ほかへの襲撃を繰り返し、脅威は解消していないばかりか、最近では、むしろ活動が活発化している観がある。
2.2022年のシリアにおける米軍のISIS掃討作戦の成果
(以下米国ウィルソンセンター記事ポイント)
2022 年、米国中央軍 (CENTCOM) は ISIS に対して 300 以上の掃討作戦を実施し、指導者と数十人の地域司令官を含め、シリアで 466 人、イラクで少なくとも 220 人の工作員計 686 人を殺害した。 同年2月、米国の特殊作戦部隊が、シリア北西部イドリブ県でアブー・バクル・アルバクダーディの後継者であったISIS指導者のアブー・イブラヒーム・アル・ハーシミ・アル・クレイシーを急襲し、同指導者が自爆に追い込まれた。同年 7 月には、シリアの ISIS のリーダーであるマーヘル・アル・アガルが、米国の無人機攻撃で殺害された。作戦の大部分は、米国が軍事作戦で連携するシリアのシリア民主軍(SDF)やイラク政府の治安部隊との共同で実行されている。
(参考1)米中央軍(CENTCOM)発表の2022年暦年に実施された対ISIS作戦

(1) シリア:
@ パートナー部隊との連携した作戦108件
A 米国の独自の作戦14件
B ISIS 工作員の拘束215人
C ISIS 工作員の殺害466人(アルクライシ指導者殺害を含む)
(2)イラク:
@ パートナー部隊との連携した作戦191件
A ISIS 工作員の拘束159人
B ISIS 工作員の殺害少なくとも 220 人
(参考2)クレイシーISIS指導者の殺害
2019年10月27日のイドリブ県バリシャ村での米軍特殊部隊に追い詰められたアルバグダーディ1SIS指導者自害後、ISIS指導者となったアブー・イブラヒーム・アルハーシミ・アルクレイシーは、2022年2月3日早朝イドリブ県アトマ村の住居で米軍ヘリ4機から降下した特殊部隊員に追い詰められて自害したとされる。なお、クレイシーの居場所について、イラク情報部が有志連合に伝えた情報に基づき、作戦が実行されたとされる。
3.2022 年 12 月 28 日から 2023 年 1 月 5 日までのSDFによるISIS掃討作戦
2022 年 12 月 28 日から 2023 年 1 月 5 日まで、シリア民主軍と連合軍(生来の決意作戦統合任務部隊:Operational Inherent Resolve)は、シリア北東部アルジャジーラ域内で ISIS メンバーを追跡し、将来の攻撃を抑止するために大規模な作戦を実施した。アルジャジーラ 「サンダーボルト」作戦では、シリア民主軍SDFの約 1,000 人のメンバーが、テル・ハミス、テル・バラク、およびアル・ホール周辺地域を捜索した。8 日間の作戦中に、SDF は 150 回以上の襲撃と 40 回以上の村の掃討作戦を実施し、170 人以上の ISIS 工作員を拘束し、数百の武器、ISIS の補給・兵站物資を回収した。
4.ISIS戦闘員の拘留
イラクとシリアには未だ数多くのISIS戦闘員が拘留されている。 今日、シリア全土の収容施設には 10,000 人を超える ISIS 司令官・戦闘員がおり、イラクの収容施設には 20,000 人を超える ISIS 司令官・戦闘員がいる。 2022 年 1 月には、シリアのアル・ハサカで発生した ISIS の脱獄事件は、これらの刑務所がリスクにさらされていることを想起させる。 脱獄を封じ込めるための戦闘とその後の戦いにより、420 人以上の ISISメンバー が死亡し、120 人以上のパートナー部隊員が殺害された。また、アル・ホールキャンプの25,000人以上の子どもたちも、次世代戦闘員候補としてISISが狙いをつけている。2022年9 月、ISIS は、シリア北東部にある 60,000 人を超える ISIS の家族が収容されているアル・ホール拘置所に攻撃をしかけたが、失敗した。
https://www.wilsoncenter.org/article/centcom-fight-against-isis-2022
(参考)ISISによるハッサケ県シーナ刑務所襲撃
●2022年1月20日、ISIS傭兵部隊が、5千名の5,000人のISIS元戦闘員が収容されているシリア北東部ハッサケ県のシーナ刑務所を襲撃。トルコ占領地域とイラクからの200人の自爆テロ犯を含む戦闘員が参加。
●クルド人部隊主体のシリア民主軍(SDF)が迎撃し、23日時点で刑務所の支配をほぼ取り戻した。有志連合軍が、空からSDFを支援した。
●襲撃は、ISIS側の声明によれば、準備の6か月間の準備期間を経て、1月20日の午後7時30分頃に車両爆弾攻撃に続いて、刑務所内のISIS元戦闘員は、同時に医療スタッフ、料理人、警備員を攻撃し、脱出を試みた。
●直接の戦闘で、175名のISIS戦闘員が殺害され、27名のSDF隊員が死亡した。
Posted by 八木 at 11:36 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)