シリアへの支援を渋る欧州への警鐘[2023年02月11日(Sat)]
2016年3月、メルケル独首相(当時)はトルコを訪問し、内戦下のシリアからの難民の欧州への移動を、トルコが盾となる約束をエルドアン大統領から取り付けて、阻止することに成功しました。トルコからギリシャに海路入国する非正規移民は、すべてトルコに一旦送り返されることになったため、海路欧州を目指すシリア人等の数は劇的に減少しました。その後、トルコは、世界最大の難民受け入れ国となり、現在も360 万人以上のシリア難民と 32万 人の他の国籍者を保護しています。 開発イニシアチブのレポートによると、2022年トルコは、人道支援に 55 億 9000 万ドルを費やし、GDP の 0.86% を占め、世界のリーダーとなっています。
そのトルコ南部とアサド政権下にあるアレッポなどのシリア北部地帯、トルコ軍が事実上支配しているアフリーン、アザーズ・ジャラブルス間などの国境周辺地帯、ならびにシリアの反体制派の支配地となっているシリア北西部イドリブが今回の巨大地震に見舞われました。マグニチュード7.8を測定したトルコ-シリア地震は、750万トンのTNTに相当する爆発エネルギーを放出したとのことです。 これに続いて、トルコ中部および東部でマグニチュード 6.7 の余震が続き、トルコとシリアの国境でマグニチュード 5.6 の余震が発生しました。余震は800回近く記録されています。NHKや中東メディアによれば、11日10時時点の最新の統計で、これまでに死者2万3千人以上(トルコ国内2万213人、シリア国内少なくとも3553人:ホワイトヘルメット発表2166人、シリア保健省発表1387)が死亡し、東日本大震災の関連死者も含めた数字2万2212人を上回ったとのことです。トルコでは、1999年1万7千人以上が死亡したイズミット大地震の犠牲者を上回っており、1939年以来最悪の地震被害となっているとされます。UNHCRによれば、シリアでは530万人が地震で住居を失い、国民の3/4の1530万人が緊急支援を必要としているとみています。
こうした中、ロンドンを拠点とする中東をカバーするメディア「ミドル・イースト・アイ」の共同創設者兼編集長のデービッド・ハーストは、英国はウクライナに2022年 27 億ドルの武器を提供し、23年も同額の軍事支援が予想される中、トルコとシリアの 2,300 万人の災害救援のために 600 万ドルしか提供を表明しておらず、信じがたい額であると指摘しています。英国、フランス、ドイツからはまだ多額の救援資金が集められておらず、サウジアラビアは、シリアとトルコの救援のためにサヘム プラットフォームが立ち上げ 4 日後に、5,100 万ドル以上を集めたとのことです。
シリアの反体制派の拠点イドリブは、プーチン・エルドアン合意により、停戦ラインが設けられ、アサド政権側からは、通常物資の輸送が行われることはなく、トルコのハタイ県側のバーブ・アルハワーが物資や人の往来の通過地点になっていました。しかし、ハタイ県が地震で大きな被害をうけ、検問所や途中の道路も被害をうけ、支援が困難な状態に陥っています。トルコは、急遽新たに2か所の通過地点の設置を認め、アサド政権も国際的な支援物資のイドリブ搬入のため、政権側からの輸送を認めたとのことです。米国はシリアのアサド政権とそれに関連する企業や団体に制裁を課しており、これが、シリア側への緊急支援の妨げになっているため、バイデン政権は、2月9日、Wally Adeyemo財務省副長官が、シリアへの今回の地震に関連した取引等について6か月間外国資産制限局(OFAC)の制裁適用を免除すると表明し、支援金のシリアへの送金が可能になるのではないかと期待されています。他方、アサド政権が、緊急の人道支援実施には、政権側との調整の下、進めることが効果的であると述べているものの、米国など西側諸国は、アサド政権とのかかわりなしに支援を行う意向を変えていません。
こうした中、懸念されるのは、欧州がシリア内戦下経験したシリアほかの難民・移民の大量流入の再現です。欧州は、すでにウクライナ避難民800万人を受け入れています。そして、今回、トルコに一時避難していたシリア人360万人、イドリブのシリア人400万人以上、さらにアサド政権支配地のシリア人、クルド人など多数が被災しました。これらの人々の多くは住む家を失い、生活の糧を失いつつあります。欧州がシリアやトルコへの本格的支援を躊躇っていれば、これらの人々がこれからどこに向かうのかは自明であると思われます。欧州は、アサド政権との間であっても制裁を一時凍結して、必要な支援提供を急ぐべきであると思われます。
https://www.middleeasteye.net/opinion/turkey-syria-earthquake-europe-heartless-face-billions-war
https://www.middleeasteye.net/live/live-turkey-syria-huge-quake-kills-hundreds
https://www.aljazeera.com/news/2023/2/10/quake-hit-syria-approves-aid-delivery-to-rebel-held-areas
https://www.aljazeera.com/news/2023/2/10/us-issues-sanctions-general-exemption-for-aid-to-syria
そのトルコ南部とアサド政権下にあるアレッポなどのシリア北部地帯、トルコ軍が事実上支配しているアフリーン、アザーズ・ジャラブルス間などの国境周辺地帯、ならびにシリアの反体制派の支配地となっているシリア北西部イドリブが今回の巨大地震に見舞われました。マグニチュード7.8を測定したトルコ-シリア地震は、750万トンのTNTに相当する爆発エネルギーを放出したとのことです。 これに続いて、トルコ中部および東部でマグニチュード 6.7 の余震が続き、トルコとシリアの国境でマグニチュード 5.6 の余震が発生しました。余震は800回近く記録されています。NHKや中東メディアによれば、11日10時時点の最新の統計で、これまでに死者2万3千人以上(トルコ国内2万213人、シリア国内少なくとも3553人:ホワイトヘルメット発表2166人、シリア保健省発表1387)が死亡し、東日本大震災の関連死者も含めた数字2万2212人を上回ったとのことです。トルコでは、1999年1万7千人以上が死亡したイズミット大地震の犠牲者を上回っており、1939年以来最悪の地震被害となっているとされます。UNHCRによれば、シリアでは530万人が地震で住居を失い、国民の3/4の1530万人が緊急支援を必要としているとみています。
こうした中、ロンドンを拠点とする中東をカバーするメディア「ミドル・イースト・アイ」の共同創設者兼編集長のデービッド・ハーストは、英国はウクライナに2022年 27 億ドルの武器を提供し、23年も同額の軍事支援が予想される中、トルコとシリアの 2,300 万人の災害救援のために 600 万ドルしか提供を表明しておらず、信じがたい額であると指摘しています。英国、フランス、ドイツからはまだ多額の救援資金が集められておらず、サウジアラビアは、シリアとトルコの救援のためにサヘム プラットフォームが立ち上げ 4 日後に、5,100 万ドル以上を集めたとのことです。
シリアの反体制派の拠点イドリブは、プーチン・エルドアン合意により、停戦ラインが設けられ、アサド政権側からは、通常物資の輸送が行われることはなく、トルコのハタイ県側のバーブ・アルハワーが物資や人の往来の通過地点になっていました。しかし、ハタイ県が地震で大きな被害をうけ、検問所や途中の道路も被害をうけ、支援が困難な状態に陥っています。トルコは、急遽新たに2か所の通過地点の設置を認め、アサド政権も国際的な支援物資のイドリブ搬入のため、政権側からの輸送を認めたとのことです。米国はシリアのアサド政権とそれに関連する企業や団体に制裁を課しており、これが、シリア側への緊急支援の妨げになっているため、バイデン政権は、2月9日、Wally Adeyemo財務省副長官が、シリアへの今回の地震に関連した取引等について6か月間外国資産制限局(OFAC)の制裁適用を免除すると表明し、支援金のシリアへの送金が可能になるのではないかと期待されています。他方、アサド政権が、緊急の人道支援実施には、政権側との調整の下、進めることが効果的であると述べているものの、米国など西側諸国は、アサド政権とのかかわりなしに支援を行う意向を変えていません。
こうした中、懸念されるのは、欧州がシリア内戦下経験したシリアほかの難民・移民の大量流入の再現です。欧州は、すでにウクライナ避難民800万人を受け入れています。そして、今回、トルコに一時避難していたシリア人360万人、イドリブのシリア人400万人以上、さらにアサド政権支配地のシリア人、クルド人など多数が被災しました。これらの人々の多くは住む家を失い、生活の糧を失いつつあります。欧州がシリアやトルコへの本格的支援を躊躇っていれば、これらの人々がこれからどこに向かうのかは自明であると思われます。欧州は、アサド政権との間であっても制裁を一時凍結して、必要な支援提供を急ぐべきであると思われます。
https://www.middleeasteye.net/opinion/turkey-syria-earthquake-europe-heartless-face-billions-war
https://www.middleeasteye.net/live/live-turkey-syria-huge-quake-kills-hundreds
https://www.aljazeera.com/news/2023/2/10/quake-hit-syria-approves-aid-delivery-to-rebel-held-areas
https://www.aljazeera.com/news/2023/2/10/us-issues-sanctions-general-exemption-for-aid-to-syria
Posted by 八木 at 13:09 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)