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悲惨なシリア人の状況に追い打ちをかけたトルコ・シリア大地震[2023年02月07日(Tue)]
トルコ・シリア地震は、忘れ去られたかにみえるシリアの悲惨な状況がまったく解消しておらず、それに追い打ちをかけていることを国際社会に強く訴えることとなりました。
NHK等が報じたところでは、2月6日未明に発生したトルコ南部を震源とするMG7.8の地震で、7日日本時間午前11時の段階で、トルコの防災当局によれば2921人が死亡しました。シリアでは保健省がシリア北西部を中心にこれまでに711人が死亡したと発表しているほか、北西部の反政府勢力の支配地域で救助活動を行う団体は少なくとも700人が死亡したとしており、トルコとシリアの両国の死者は計4300人以上に上っており、さらに死者、負傷者数が増えると懸念されています。

これを受けて、6日、ロシアのプーチン大統領は、アサド大統領、エルドアン大統領と夫々電話会談し、お見舞いと支援を申し出ています。シリアのアサド大統領は、6日緊急閣議召集し、各省庁や県知事に救援活動を指示し、国連でもシリア大使が国際社会に支援を要請しました。シリアでは、既に駐留のロシア兵3百人以上が救援活動を開始したとされています。UAEのムハンマド・ビン・ザーイド(MBZ)大統領は、シリア、トルコ大統領に電話し、支援を申し出ています。カタールは救援チームをトルコに派遣し、1万移動住宅ユニットをシリア、トルコに提供する旨表明しました。サウジのサルマン国王はトルコ大統領に見舞い電報を発出し、MBS皇太子は、エルドアン大統領に電話し、見舞いを伝達しています。エジプト・シュクリー外相は、トルコのチャウシュオール外相、シリアのメクダード外相に電話し、支援を表明しました。

こうした中、懸念されるのは、シリア北西部のイドリブです。イドリブは、シリア内戦で拠点を政府軍側に奪われた反体制勢力派約4百万人が居住する地域です。トルコに近い反政府勢力のほか、旧ヌスラ戦線の流れを組むアブー・ムハンマド・アルジューラーニが指揮するHTS(シャーム解放機構)の拠点でもあります。また、イドリブでは、ISISのリーダーであったアブー・バクル・アルバグダーディ、さらに後任の指導者アブー・イブラヒーム・アルハーシミー・アルクレイシーبو إبراهيم الهاشمي القرشيが身を隠し、前者は、2019年10月27日トランプ政権によって、後者は、2022年2月3日バイデン政権によって米軍の特殊部隊に殺害されたトルコ国境に近い地域でもあります(下記参考1)。アサド政権は、国内の全土解放を目指して、イドリブ進攻を望んでいましたが、2018年9月反体制派を支えるトルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領が、イドリブでの停戦実現、安全地帯設定で合意(下記参考2)し、アサド政権は、それを受け入れざるを得ない状況にありました。

今回の地震で、シリア政権側から隔離されたイドリブで、トルコ側から迅速かつ効果的な支援が実施できるのか否か、この地震で、イドリブでのHTSが中心となっている権力構造に変化が出るのかシリアのアサド政権とアラブ諸国の関係修復につながるのかが注目されます。

参考1:アルクレイシーIS指導者のイドリブでの殺害
バイデン米大統領によると、本名がアミール・ムハンマド・サイード・アブドルラハマン・アル・マウラであるアブー・イブラヒーム・アルハーシミー・アルクレイシーは、2022年2月3日イドリブ北西部のアトマ村に滞在していた家に米軍兵士が4機のヘリから降下してきたときに爆弾で、彼自身と女性、子供を含む彼の家族を爆死させた。サッダーム・フセインの軍隊所属から、米国の情報提供者へ、さらに悪名高きISの長に就任するまで、アルクレイシーについて次のとおり。
アブドッラー・カルダシュまたはハッジ・アブドッラーとしても知られるマウラは、1976年にトルクメン人が多数の町であるイラク北部のタルアファルで生まれた。2021年発表されたBBCアラビア語放送の調査によると、彼の父親は2人の妻を持つムアッジン(注:モスクで、礼拝時間に呼びかけを行う役の人)であった。モースル大学でコーラン研究とイスラム教育を受けた後、マウラはバグダッド郊外のサッダーム・フセイン軍の将校として18か月間務めた。2003年に米国がイラクに侵攻した頃、マウラは過激派として活動を開始した。その後、彼はモースルに移り、そこでイスラム学の修士号を取得し、アルカーイダの階級を上げ始め、グループの宗教裁判官になった。2008年、米軍兵士はマウラのモースルの家を襲撃し、イラク南部のウンムカスルにあるキャンプ・ブッカの施設に彼を投獄した。ここにはアブー・バクル・アルバグダーディも投獄されていた。 それ以来、何人かの当局者は、そこで訓練と教化が促進されたため、そこを「ジハーディ大学」と呼んでいる。マウラは2009年に釈放されるまで、何ヵ月もの間、繰り返し尋問された。マウラは釈放されるとまもなくアルカーイダのイラク支部組織であるイラクのイスラム国の長であったバグダーディに合流した。彼はイラク北部のニナワ県で宗教指導者に指名された。バグダーディのように、マウラは影の(表舞台に立たない)指導者として選任され、意図的に戦闘から遠ざけられたと伝えられている。彼は前任者が殺害される前にイスラム国の「カリフ制」の運営に関与し、裁判官と宗教指導者を訓練し、大臣相当のさまざまな役職を歴任した。伝えられるところによると、2014年にISがイラク北部でシンジャールを占領したとき、彼はヤズィーディーの女性を奴隷にする制度に賛成するよう強く主張した。ISのトップリーダーたちが有志連合に連行され、グループが領土を失い始めたとき、マウラはバグダーディの右腕になり、BBCによれば、組織が再編成されたときに組織の財政を担当した。
ISは、2019年3月にシリアの町バグーズでの1か月にわたる血なまぐさい戦いの末、最後の領土を失った。5か月後の10月27日、米軍特殊部隊がトルコ国境近くのバリシャ村で彼のコンパウンドを襲撃したため、バグダーディは軍犬に追われてトンネルに逃げ込み、爆発物のベルトを爆発させ、自らと3人の子供が爆死した。マウラは、2019年10月にバグダーディが亡くなってから5日後に後継者に指名された。
https://www.middleeasteye.net/news/islamic-state-syria-iraq-what-we-know-islamic-state-leader-al-qurayshi
https://www.bbc.com/news/world-middle-east-60246129

参考2:イドリブに関するロシア・トルコ合意
◆2018年9月17日、ロシアのソチで開催されたプーチン・エルドアン首脳会談で、情勢が緊迫化していたシリアのイドリブ情勢への対応で、両首脳は、@政府軍・反体制派の境界線に沿って幅15〜20kmの非武装地帯の設置と旧ヌスラ戦線を含む過激派の撤収、A重火器等の撤去、Bトルコ・ロシア共同の非武装地帯の監視、C年末までのアレッポ・ラタキア間とアレッポ・ハマ間の幹線道路の通行の確保、に合意した。一方、エルドアン大統領は、「穏健な」反体制派は支配地区に留まると補足。プーチン大統領は合意に沿って、シリア政権側の了解を取り付けるとしており、政府軍・ロシア軍によるイドリブの反体制派への大規模軍事作戦は見合わせることになった。この合意の基本的枠組みは、依然変化していない。

1.プーチン大統領記者会見発言
●我々は、イドリブの状況に関する重大な問題を解決するための進捗を成し遂げ、調整された解決策に到達することができた。
●ロシアは緊張緩和地帯を設置した国のひとつである。我々の懸念は、イドリブの過激派からのアレッポ県、アレッポ市ならびにシリア領内に存在するロシアの軍事基地であるタルトゥース海軍基地とフメイミム空軍基地への脅威と関係している。
●プーチン大統領が言及した両首脳合意事項
@非武装地帯の設置:2018年10月15日までに、武装勢力と政府軍の境界に沿って15〜20kmの幅の非武装地帯設置を決定。旧ヌスラ戦線を含む過激派は非武装地帯から撤収する。
A重火器の撤収:2018年10月10日までに、トルコ大統領の提案に基づき、すべての反体制派の軍事的重装備、戦車、複合式ロケット発射機、大砲とモルタルの撤収を確保する。
B合同監視:トルコの移動偵察隊とロシアの軍事警察は、非武装地帯の監視を行う。
C主要幹線路の開通:トルコ側提案により、2018年末までにアレッポ・ラタキア間とアレッポ・ハマ間の幹線道路の交通を可能にする。
●ロシアとトルコは、シリアであらゆる形のテロと戦うコミットメントを再確認した。計画された手順を履行する実践的な取り組みは、シリアにおける政治的解決プロセスをさらに強化し、ジュネーブ・プラットフォームの作業を強化し、シリアに平和をもたらすことに貢献するというのが我々の共通の見解である。
●ロシアとトルコの両国が、アスタナ協議枠組みの完全なる活用を継続し、国連後援の下で、ジュネーブで長期的な政治的解決策を見つける機会を得ることが重要である。我々は、シリア政府、反体制派および市民社会の代表者の中から憲法委員会を構成するために引き続き努力する。目標はできるだけ早く作業を開始することである。
http://en.kremlin.ru/events/president/news/58574

2.エルドアン大統領補足
●穏健な反体制派は、彼らの支配下にある地域にとどまる。一方、テロリスト集団PKKのシリアでの同根組織クルド人民防衛隊(YPG)は、国家に脅威を与えている。
●トルコとロシアは、最近のイドリブ情勢に関する両国間の不一致と懸念の一部を克服するため、大いに努力してきた。

Posted by 八木 at 13:08 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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