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パレスチナ人にとっての衝撃の年2020年を振り返る[2020年12月31日(Thu)]
2020年、パレスチナ人はコロナ感染症拡大に直撃されたことだけでなく、アラブの同胞の多くに見捨てられる衝撃の年となった。イスラエルが1967年と73年の中東戦争で占領した領土のアラブ側への返還なしに、イスラエルとの関係正常化をアラブ側が受け入れるという70年に及ぶイスラエル・パレスチナ紛争において、イスラエルが軍事的側面だけでなく、政治的にも勝利したことを意味する。

(参考1)2020年のアラブ諸国とイスラエルとの関係正常化の動き
2020年8月13日 UAEがイスラエルとの国交正常化発表
2020年9月11日 バーレーンがイスラエルとの国交正常化発表
2020年9月15日 ホワイトハウスで、アブドッラーUAE外相、ザヤニ・バーレーン外相、ネタニヤフ・イスラエル首相、トランプ大統領が出席して、UAE、バーレーン、イスラエル、米国間の「アブラハム宣言」に署名
2020年10月23日 スーダンがイスラエルとの国交正常化発表
2020年11月22日 ネタニヤフ・イスラエル首相が、サウジの未来都市NEOMを事前公表なしに訪問し、ポンペイオ国務長官、ムハンマド・ビン・サルマン(通称MBS)皇太子と会談(注:ファイサル・サウジ外相は会談を否定したが、ネタニヤフ首相は肯定も否定もせず。5時間ほどNEOMに滞在したとみられている)
2020年12月10日 モロッコがイスラエルとの国交正常化発表
2020年12月24日 ポンペイオ国務長官は西サハラ領事館を開設すると発表(当面は、モロッコの米大からの遠隔業務。米国は、12月19日には、西サハラをモロッコ領とする地図を公認)

(参考2)アラブ和平提案(2002年)
置き去りにされるアラブ和平提案(2002年3月、アブドッラー・サウジ皇太子の提案に基づき、アラブ首脳会議で採択)
@イスラエルに対し、全アラブ占領地からの完全撤退、難民問題の公正な解決、および東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家の樹立の受諾を要請。
Aその場合、アラブ諸国は、イスラエルとの紛争終結・和平合意、および正常な関係の構築を実施。
B本提案に対する国際社会への支援要請、および連盟特別委員会の設立要請。

(参考3)アラブ諸国とイスラエルとの国交正常化の歩み
1.エジプト:シナイ半島を回復。1979年から90年まで、エジプトはアラブ連盟加盟資格を停止されていた。
2.ヨルダン:一部領土を交換した。パレスチナ・イスラエル和平協議が開始されたタイミングであり。和平後押しの意味あり。
3.UAE:イスラエルによるヨルダン渓谷の入植地併合を一時的に停止させたとしているが、イスラエル側は放棄したものではないと主張。UAEの資金力とイスラエルのサイバー技術等のマッチングによる経済・安全保障の推進に期待
4.バーレーン:サウジが直ちに、イスラエルとの正常化に踏み切れない中、UAE一国ではなく複数が正常化したと言えるために米、サウジ、UAEが働きかけた結果と考えられる。
5.スーダン:1993年から米国によりテロ支援国家に指定されており、その解除と、サウジ等からの援助が「見返り」と考えられる(注:スーダンはサウジの要請で、イエメンに地上軍を派遣し、援助も受けている)。
6.モロッコ:モロッコが主張する西サハラへのモロッコの領有権(注:領有権をめぐっては、ポリサリオ戦線と対立)をトランプ政権が認めることの見返りに、イスラエルとの関係正常化を受け入れたものと考えられる。因みに、モロッコには、欧州からのユダヤ人が多数居住し、20世紀前半には、20−25万人に達していたとみられる。その多くが、イスラエルに移住した。

(コメント)エジプト、ヨルダンのイスラエルとの国交正常化は、パレスチナ人の土地と権利回復への支援という意味合いがあった。しかし、2020年8月以降のUAE、バーレーン、スーダン、モロッコのイスラエルとの国交正常化は、パレスチナ問題を棚上げして、自国の利益を前面に押し出した結果といえる。UAEのイスラエルとの正常化の動きは、2015年にUAEが国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のイスラエル常駐代表部のアブダビ設置を認め、2018年10月アブダビで開催された柔道選手権には、11名のイスラエル選手が参加し、ミリ・レゲヴ文化・スポーツ相が出席する中、金メダルを獲得した柔道選手を讃えて史上初めてイスラエル国歌が演奏された。さらに、2020年5月、6月のパレスチナ側との調整なしにエッテハド機によるコロナ禍での医薬物資のテルアビブへの直接輸送されるなどに象徴的に表れていたが、直接的には、トランプ政権、なかでもクシュナー上級顧問が、UAEの実質的指導者ムハンマド・ビン・ザーイド(通称MBZ)アブダビ皇太子との密接な関係をてこに、米国大統領選前にトランプ政権の外交的成果をアピールするため、親米アラブ諸国指導者にイスラエルとの関係正常化を猛烈に働きかけた結果とみられる。もちろん、UAEの正常化は、湾岸アラブ諸国の大国であるサウジの実質的指導者MBS皇太子のゴーサインがあったことは想像に難くない。MBS自身も、サウジとイスラエルの国交正常化を進めたかったが、サウジが2002年のアラブ和平提案の提唱者であり、旧世代を代表するサルマン国王が首を縦に振らなかったため、MBS皇太子も国交正常化を強行できなかったが、かわりにイスラエル航空機の領空通過を認め、MBS自身、11月22日にサウジの未来都市NEOMで、ポンペイオ国務長官を交え、ネタニヤフ首相と会見する等、サウジも、実質的にはイスラエルと関係を正常化していますとの印象を国内外に発信している。

これに対して、パレスチナ人は、背中からアラブの同胞に刺されたと表現し、不満と失望をあらわにしているものの、アッバース大統領率いるパレスチナ暫定自治政府も有効な対応策を打ち出すことができず、また、パレスチナの民衆も、西岸とガザを分断され、民衆蜂起も武装闘争も行えるような状態ではなくなっている。こうした中、本年11月にはアラファト時代を知り、また、イスラエルとの和平協議にも臨んだことのある国際的にも著名なパレスチナ旧世代であるサイエブ・エラカートPLO執行委員会事務局長がコロナで亡くなり、ハナーン・アシュラーウィ同委員会メンバーも辞表を提出し、表舞台から退場しつつある。マフムード・アッバース・パレスチナ暫定自治政府大統領も、パレスチナ人に何らの展望を開くことができず求心力を失いつつある。代わって10年間UAEに庇護されてきたムハンマド・ダハラーン元ファタハ治安部門トップのような人物が、イスラエルとパレスチナ側の橋渡し役として、台頭するのか見守る必要がある。

パレスチナ難民に対して、最大のドナーであった米国が2018年にUNRWAへの拠出を停止しており、また、その穴を埋めるために支援を継続してきたUAEなどが、イスラエルとの関係正常化後も支援を続けるのか、また、アラブボイコットを停止したUAEほかが、入植地での農産品も含めて、イスラエル産品を輸入することになれば、経済的にもパレスチナの大義が葬り去られることになる。パレスチナ人は、アラブとイスラエルの正常化の動きに対して、有効なカードを所持しておらず、バイデン次期政権に期待するしかないが、バイデン政権にとっても、イスラエルとの関係は重要であり、政権末期にトランプ大統領が置き土産として残した既成事実を4年前に戻すことは容易でない

Posted by 八木 at 15:13 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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