• もっと見る
イスラム世界との結びつきを通じて、多様性を許容する社会の構築についてともに考えるサイトです。

« 新井春美研究員執筆のトルコの意外な結婚事情レポートのご紹介 | Main | トランプ大統領はイスラエル・パレスチナ間の新和平プラン「世紀の取引」を発表 »

検索
検索語句
<< 2024年04月 >>
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
最新記事
最新コメント
タグクラウド
カテゴリアーカイブ
月別アーカイブ
プロフィール

中東イスラム世界社会統合研究会さんの画像
日別アーカイブ
https://blog.canpan.info/meis/index1_0.rdf
https://blog.canpan.info/meis/index2_0.xml
アマゾンCEOの携帯電話ハッキング疑惑で再び注目されるサウジのMBS皇太子[2020年01月28日(Tue)]
アマゾンCEOで米国の有力政治紙ワシントン・ポストの所有者であるジェフリー・ベゾス氏の携帯電話から大量の個人情報を含むデータが、サウジのムハンマド・ビン・サルマン(通称MBS)皇太子個人のWhatsAppアカウントから送信されたMP4ビデオファイルを2018年5月1日に受領後から大量に流失しはじめたことが明らかになった。ワシントン・ポストでは、一昨年までサウジ人の著名なジャーナリストであったジャマール・カショーギ氏が皇太子に批判的な投稿をコラムに掲載しており、サウジ政府は、それに神経を尖らせていたとみられている。カショーギ氏は、その後、2018年10月2日、トルコ人女性との婚姻に必要な書類を受け取りに、在イスタンブールのサウジ領事館を訪問した際に本国から派遣され、待ち伏せていた15名の暗殺団により殺害されたことが明らかになった。ベゾス氏の携帯からの大量のデータ流出について、ベゾス氏のITチームが、フォレンジック分析を行い、かなり高い確率で、MBS皇太子からWhatsAppで送られたファイルに忍び込まれていたハッキングツールで、データの流失が始まったと結論付けている。これに、国連の人権チームで、カショーギ氏殺害に関するレポートをまとめた国連特別報告者であるカラマール女史ほか1名が、声明を発出し、本件の米政府や関係機関による調査を求めた。自社製のスパイウェアを使用されたとの疑惑が生じているイスラエルのサイバー機器企業NSOは関連を否定するとともに調査に協力する用意がある旨表明した。サウジ政府は、疑惑を「馬鹿げたこと」であると一蹴している。
(参考1)国連人権特別報告者による声明(於ジュネーブ、2020年1月22日)
国連の人権専門家は、基本的な国際人権基準に違反して、2018年にサウジアラビア王国の皇太子に属するWhatsAppアカウントがデジタルスパイウェアを活用したことを示唆する情報に深刻な懸念を抱いている。ワシントン・ポストの所有者でありAmazonのCEOであるジェフリー・ベゾス氏の監視を可能にするものである。
独立した専門家で、超法規的殺害に関する国連特別報告者のアグネス・カラマール、および表現の自由に関する国連特別報告者のデビッド・ケイは次のように述べた。
●我々が受け取った情報は、沈黙させるためではないにしても、ワシントンポストのサウジアラビアの報告に影響を与えるために、ベゾス氏の監視に皇太子が関与する可能性を示唆している。この申し立ては、特定された敵対者や、自国民や自国民以外を含むサウジ当局にとってより戦略的に重要な者たちを対象とする監視のパターンを指し示す他の報告を補強するものである。これらの申し立ては、2018年のサウジ人のワシントンポストのジャーナリストであったジャマール・カショーギ殺害への皇太子の関与に関する主張の継続的な評価にも関連している。
●ベゾス氏の携帯電話およびその他の電話のハッキング疑惑は、米国および他の関係当局による即時の調査を要求するものである。これには、特定された敵を標的とする取り組みにおける皇太子の継続的、複数年にまたがる、直接的および個人的な関与の調査が含まれる。
●この報告されたベゾス氏のサーベイランスは、民間企業によって開発および販売され、その使用を司法管理することなくある政府に移転されたとされるソフトウェアを通じてのものであり、真実であれば、制約のないスパイウェアのマーケティング、販売の結果生じる被害の具体例である。デジタル手段による監視は、その悪用の容易さから保護するために、司法当局ならびに国内および国際的な輸出管理制度によるものを含む、最も厳格な管理下に置かれなければならない。民間監視技術の販売および移転に関する一時的禁止の必要性が高まっていることを物語っている。
●ベゾスのハッキングとサーベイランスの状況とタイミングは、イスタンブールでカショーギ氏を標的にし、殺害した作戦を皇太子が命じた、扇動した、あるいは計画を知っていたが少なくとも停止しなかったという申し立てについて、米国およびその他の関連当局によるさらなる調査の支援の必要性を強化する。
●サウジアラビアがカショーギ氏の殺害を調査し、責任があるとみなした人々を起訴したとき、ベゾス氏とアマゾンを、同氏がまずワシントンポストの所有者であることをもって狙った大規模なオンラインキャンペーンをひそかに実施していた。
●人権理事会によって任命された2人の専門家は、ベゾス氏のiPhoneが2019年5月1日にサウジアラビア王国のMBS皇太子が個人的に利用したWhatsAppアカウントから送信されたMP4ビデオファイルを介して「中程度から高い確率」で侵入されたと評価したベゾス氏のiPhoneに関するフォレンジック分析結果を知った。 分析によると、皇太子とベゾス氏は、ハッキング疑惑の前月に互いの携帯/ WhatsApp番号を交換していた。フォレンジック分析では、皇太子のアカウントからMP4ビデオファイルを受信して数時間以内に、電話からの大量かつ(ベゾス氏の電話の)前例のないデータの流出が始まり、データの流出が突然29,156%増加して126 MBになることが判明した。 その後、データ流失の急上昇は、数か月にわたって検知されずに継続し、ベゾス氏の電話のビデオ受領前の430KBのデータ流失水準よりも106,032,045%(4.6 GB)高いレートで増加した。
●フォレンジック分析では、サウジの政府関係者によって購入および活用されたことが広く報告されている製品であるNSOグループのPegasus-3マルウェアなど、サウジアラビアの他の監視事例で特定された著名なスパイウェア製品を使用して侵入が行われた可能性が高いと評価された。 これは他の情報と一致する。 たとえば、デバイスへのPegasusのインストールを可能にするプラットフォームとしてのWhatsAppの使用は十分に確認されており、Facebook / WhatsAppによるNSOグループに対する訴訟の対象となっている。
●申し立てはまた、反体制派や特定された敵を標的にしたサウジのその他の証拠によって補強されている。たとえば、米国は2人のTwitter従業員と1人のサウジ国民に対して、「特定のTwitterユーザーのアカウントの個人情報にアクセスし、その情報をサウジアラビア王国政府関係者に提供するそれぞれの役割」について刑事訴訟を起こした。米国の検察によれば、3人の個人全員がサウジアラビアの違法代理人であると告発されており、サウジアラビア政府の指示と管理の下で、「反体制派や著名な批判家から個人データを標的にして入手する」ことに従事してきた。
●特別報告者は、ベゾス氏の携帯電話のハッキングに関する申し立ては、反体制派や政治的敵対者に対するキャンペーンを主導する皇太子の広く報告された役割とも一致していることに留意している。 ベゾス氏の電話のハッキングは、2018年5月から6月にかけて発生し、ペガサス・マルウェアを使用して、ジャマール・カショーギの2人の親しい同僚であるヤヒヤ・アッシーリ(Yahya Assiri)とオマル・アブドルアジーズ(Omar Abdulaziz)の電話もハッキングされた。
●2018年5月のベゾス氏の電話がハッキングされたとされる時期は、ジャマール・カショーギ氏が、ワシントンポスト紙の著名なコラムニストであり、その記事は皇太子の支配についての懸念をますます高めていた時であった。 2018年10月2日、サウジアラビア政府当局者は、トルコのイスタンブールにあるサウジアラビア領事館でカショーギ氏を殺害した。ポスト紙は失踪と殺人捜査の実質的な報道をすぐに開始し、サウジアラビアでの皇太子の支配に関連する多くの側面での報告にまで拡大した。
●フォレンジック分析によると、ベゾス氏の電話のハッキングに続いて、2018年11月と2019年2月に、皇太子はベゾス氏にWhatsAppメッセージを送信し、彼はベゾス氏の私生活に関する公けの情報源からは入手できない個人情報および秘密情報を明らかにしたと伝えられている。同じ時期に、ベゾス氏はサウジアラビアのソーシャルメディアで王国の敵対者として広く標的にされていた。これは、ベゾス氏とアマゾンに対する大規模な隠密裡のオンラインキャンペーンの一部であり、主に同氏がワシントンポストの所有者であったことをもって明らかに彼を標的にしていた。国連の専門家はさらに、サウジの検察官によってカショーギ氏の誘拐を扇動したと名指しされたサウード・アル・カハタニ(Saud al-Qahtani)氏は、ポスト紙を激しく非難し、ベゾス氏と所有企業のボイコットを呼びかけるオンラインキャンペーンの組織化にも繰り返し関与していたことに留意した。
●この声明の付録には、2019年に行われたベゾス氏のデバイスの専門家のフォレンジック分析に関する詳細が記載されている。特別報告者は、カショーギ氏殺害に対する責任の調査と、ジャーナリスト、人権擁護者、およびメディアアウトレットの所有者を威嚇するためのスパイウェアの不当な使用を許可するサーベイランス産業の役割の拡大について調査を続けることを期待している。
https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=25488
(参考2)NSO声明
●NSOは、ジェフ・ベゾス氏の電話のハッキング疑惑に関して公開された物語にショックを受け、唖然としている。この話が真実ならば、そのようなサービスを提供しているすべての機関による完全な調査に値し、彼らのシステムがこのような悪用に使用されていないことを保証すべきである。これらの話が最初に数か月前に表面化したときに述べたように、我々の技術はこの例では使用されなかったと明確に言うことができる。
●これらのタイプの監視システムの悪用は、サイバー・インテリジェンス・コミュニティの評判を落として、正当なツールを使用して深刻な犯罪やテロと戦う能力に負担をもたらす。この分野のすべての関係者は、システムが不正使用されないことを保証するために、我々が導入したような厳格な手順と技術的制御を実行することを期待している。
●これらのタイプの物語は、監視コミュニティが我々のリードに従い、厳格な人権ポリシーを実施し、コンプライアンスに則って行動する必要性を強調している。
●この種のポリシーを最初に実行するサイバー企業として、これらの問題を完全に理解し、監視機器の販売および使用において人権の保護を保証するためのガイドラインと能力を設定しようとする国連、ベゾス氏あるいはその他の機関と喜んで協力していきたい。
https://www.nsogroup.com/Newses/535/
(参考3)ガーディアン紙が伝えたベゾスCEOの携帯からの情報流出に関するタイムライン
•2017年6月21日MBSとして広く知られているムハンマド・ビン・サルマン副皇太子は、サウジアラビアの皇太子に指名された。
•2017年7月17日 トランプ大統領は、MBSの西洋人顧問と、ナショナルエンクワイアーを発行するAmerican Media Inc(AMI)のCEOであるデイビッド・ペッカー(David Pecker)との私的ディナーをホワイトハウスで開催。
•2017年9月28日MBSは、サウジアラビアでデイビッド・ペッカーと皇太子の西洋人顧問と会見。
•2017年9月 側聞されるところでは、MBSは、ワシントン・ポストで重要なコラムを執筆しているジャマール・カショーギに対して「弾丸」を使いたいとトップの補佐官に伝えたとされる。
•2018年3月19日 MBSは、米国内の最上級なVIP、ビジネスリーダー、政府関係者に対するサウジアラビアの評判を高めるためのツアーに参加するため米国に到着。
•2018年3月20日 トランプ大統領はホワイトハウスでMBSと会談し、大統領は彼らを「良い友達」と呼んだ。
•2018年3月26日 AMIは、サウジアラビアとMBSを称賛する約100ページの高級な雑誌を発行。
•2018年4月4日 MBSは、ハリウッドでの晩さん会に主賓として招かれた。 晩さん会にはAmazon CEOのジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)が出席した。
•2018年5月1日 ジェフ・ベゾスとMBSは、Whats Appのアドレスを交換しており、情報筋によると、同日皇太子からベゾスに送られたテキストメッセージには、携帯電話に侵入した悪意のあるファイルが含まれていたと考えられている。
•2018年5月 ジェフ・ベゾスは、親密でプライベートなテキストメッセージをガールフレンドに送信
•2018年10月2日 ジャマール・カショーギがトルコのサウジ領事館で殺害された。
•2019年1月10日 ナショナル・エンクワイアーは、親密なテキストメッセージを含む、ベゾスの婚外交際を暴露し公開
•2019年2月7日 ジェフ・ベゾスは、ナショナル・エンクワイアーによる恐喝を告発するブログ投稿を公開。
•2019年2月8日 サウジアラビアは、ベゾス記事の出版への関与を否定。 AMIは追ってサウジ関与の主張を退け、ベゾスのガールフレンドの疎遠な兄弟によって、事件がこっそり伝えられたものであると主張。
•2019年3月30日 ベゾスのセキュリティチーフであるGavin de Beckerは、サウジがベゾスの携帯電話にアクセスできたと調査者が高い信頼で結論付けたとするディリービースト(Daily Beast)の記事を公開。
•2019年6月19日 国連特別報告者のアグネス・カラマールは、サウジアラビアがジャマール・カショーギの計画的殺人に責任があるという信頼できる証拠を見つけたと報告。
•2020年1月21日 ガーディアン紙は、ベゾス氏がMBSの個人アカウントから送信されたWhatsAppメッセージを受信した後、2018年5月にベゾス氏の携帯電話が明らかに「ハッキング」されたと報じた。情報筋によると、大量のデータが数時間以内に携帯電話から盗み出された。ガーディアン紙は、盗まれたとされる資料の正確な性質、またはそれを使って何が行われたのかについては知識を持ち合わせていない。
https://www.theguardian.com/technology/2020/jan/22/jeff-bezos-un-calls-for-investigation-into-alleged-saudi-hack

(コメント)2018年10月2日に、カショーギ氏がイスタンブールのサウジ領事館で殺害された後、サウジ政府はカショーギ氏の領事館訪問後の行方は知らないと主張していたが、18日後に殺害を認めた。ベゾス氏は、カショーギ氏がワシントン・ポストのコラムニストを務めていたこともあり、失踪直後から、カショーギ氏の事件を取り上げ、その後のサウジ政府の対応ならびに、サウジ政府の対応を擁護するトランプ政権も強く批判してきた。こうした中、2019年1月10日サウジと関係の深い米企業AMIが所有するナショナル・エンクワイアー誌がベゾス氏の不倫疑惑を報じた。ベゾス氏側はこの情報は、同氏の携帯がハッキングされ個人情報が流出した結果であるとみている。カショーギ氏の殺害については、サウジで11名が起訴され、裁判プロセスが進行しているが、いまだ被告の名前は公表されておらず一審で5名に死刑、3名に有期刑、3名が証拠不十分で解放されたものの、本国で暗殺団の指揮にあたったとされるカハタニ元王宮顧問は起訴もされておらず、さらにその上で、暗殺団の動きを認識していた可能性が高いMBS皇太子については、国家機関の長としての管理責任は認めたものの、事件への関与の疑惑は一切否定している。事件の現場となったトルコのエルドアン大統領や、有力メディアは本件を執拗に追求してきたが、サウジとの経済関係を重視するトランプ大統領をはじめ、ロシアや西欧各国は、MBS追求には二の足を踏み、カショーギ事件の風化もささやかれる状況にあった。今回のベゾス氏形態のハッキング疑惑は、ベゾス氏とMBS皇太子が個人携帯のWhatsAppを介する通話関係を結ばなければ生じなかったものであり、スパイファイルを忍び込ませたのは、皇太子自身ではないにしても、皇太子の承認がなければ、実行できるものではないとみられる。国連の特別報告者の問題提起に国際社会は積極的に応えるのか、あるいはこれまでどうり、「business as usual 」で何事もなかったように振舞うのかについては後者の可能性が高いが、カショーギ氏殺害に関与した疑惑から解放されようとしていたタイミングで、今回のハッキング疑惑が明らかになったことで、MBS皇太子の信頼性に打撃になることは間違いない。

Posted by 八木 at 11:30 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

この記事のURL

https://blog.canpan.info/meis/archive/316

トラックバック

※トラックバックの受付は終了しました

 
コメントする
コメント