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社会デザイン学会で承認された中東イスラム世界社会統合研究会が運営する団体ブログです。
中東イスラム世界社会統合研究会公式サイト http://meis.or.jp
社会デザイン学会研究会案内 http://www.socialdesign-academy.org/study/study_application.htm
日本とイスラム世界とのネットワーク強化を目的として、以下の項目で記事を発信していきたいと考えています。
日本とイスラム世界との出会い:日本人や日本がどのようなきっかけでイスラム世界への扉を開いていったかを紹介します。
イスラム世界で今注目されている人物:イスラム教徒であるか否かを問わず、イスラム世界で注目されている人物を紹介していきます。
イスラムへの偏見をなくすための特色のある活動:イスラムフォビア(Islamophobia)と呼ばれるイスラム教への偏見、イスラム教徒排斥、イスラム教徒警戒の動きが非イスラム世界で高まっています。これらの偏見や排斥をなくすための世界の各地で行われている特色のある活動を紹介していきます。
中東イスラム世界に関心を抱くあなたへの助言:さまざまな分野で中東・イスラム世界に関心を抱き、これから現実に接点を持っていこうと考えておられるあなたへのアドバイスを掲載します。

情報共有:当研究会のテーマに関連したイベント、活動、寄稿などの情報を提供しています。

新着情報:中東イスラム世界社会統合研究会公式サイトの「中東イスラム世界への扉」に、現地駐在の本田圭さんから投稿のあった2020年11月の「UAE、ある日の砂漠」と題する紀行文を掲載しました。UAEの砂漠がとても魅力的なので、ぜひ一度アクセスしてみてください。
http://meis.or.jp/products/door2me/OnceUponATimeInUAEDesert01.php




イラン国内抗議活動の拡大を導いた米国によるイラン通貨安操作[2026年02月09日(Mon)]
イランの通貨リアルは、2025年12月28日に対ドル約140万リアル(2026年2月9日時点で、約160万リアル)とこの半年で、7割価値を失い、史上最安値を記録し、暴落寸前まで下落したことがバザール商人たちの抗議活動を引き起こし、その後、イラン31州に広がる大規模反体制暴動のきっかけとなった。当局は、抗議活動の拡大を抑えるために、インターネットを遮断し、治安部隊による実弾使用も認めて、暴動の拡大の鎮静化に努めた。この間、JETROによれば、イラン統計センターが2026年1月25日に発表したデータによると、イラン暦1404年10月(2025年12月22日〜2026年1月20日)の消費者物価指数(CPI)は、引き続き高水準で推移し、前月比で7.9%上昇、前年同月比で60.0%上昇した。また、当月を含む直近12カ月間の平均では、前年同期比44.6%の上昇となった。項目別の上昇率を前年同月比でみると、上昇率が最も高かったのは「食品・飲料」の89.9%で、特に「パンと穀類」が2.3倍と高い伸びになったとのことで、これが、国民の体制側への怒りと不満爆発の原動力となった。バザール商人たちの昨年12月28日の反体制抗議運動開始のきっかけとなった通貨安については、2026年2月6日の上院公聴会で、ケイティ・エリザベス上院議員がベセント財務長官に対し、トランプ政権のイランに対するいわゆる「最大限の圧力」政策を強化するために講じた措置について質問したところ、長官は、「我々が行ったのは、イラン国内にドル不足を作り出すことだった。イラン最大の銀行の一つ(参考1)が破綻したことで、事態は急激かつ壮大な頂点に達したと言えるだろう。中央銀行は紙幣を刷らざるを得なくなり、イラン通貨は暴落し、インフレが爆発的に進んだ」と答えた。
米国は、イランに対する武力行使の選択肢を放棄しておらず、2月6日のマスカットでの米側との間接協議についてアラグチ外相は、有意義であったとしつつ、協議に参加した米国ウィットコフ中東担当特使とトランプ大統領娘婿のクシュナー氏は、協議終了後、7日に米空母「USSエイブラハム・リンカーン(USS Abraham Lincoln)」に立ち寄った動画を公開し、イラン側は、真剣に交渉に臨む気があるのか不信感を強めている。

(参考1)2025年10月25日、国内270支店(テヘランには150支店)を有するイラン最大の民間金融機関の一つであるアヤンデ銀行が正式に破産宣告を受け、全土でパニックが勃発し、約52億ドルの貯蓄を失う恐れから預金者たちは長蛇の列に並ばざるを得なくなった。政府は直ちに介入し、アヤンデ銀行の資産を国営Bank Melli Iranに移し替え、保護することとなった。
https://caspianpost.com/iran/major-iranian-bank-declares-bankruptcy-sparks-financial-alarm
(参考2)反体制デモ関連死者数
米拠点の人権活動家通信(HRANA)は、25年12月末に騒乱が始まって以降、5633人の抗議参加者を含む6000人近くの死亡を確認したと述べた。また、約3週間に及ぶインターネット遮断にもかかわらず寄せられた、さらに1万7000件の死亡報告について調査を進めているとしている。ノルウェーに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は(IHR)は、最終的な死者数は2万5000人を超える可能性があると警告した。一方、イラン当局は1月中旬、3100人以上が死亡したと述べたが、その大半は治安要員か、あるいは「暴動参加者」に攻撃された、その場にいた人々だと主張した。

(参考3)2026年2月6日、ホワイトハウスによると、トランプ米大統領は、イランから商品やサービスを購入している国からの輸入品に追加関税を課す大統領令に署名した。大統領令には、「この大統領令の発効日から、イランから直接または間接的に商品やサービスを購入、輸入、その他の方法で取得している国の製品で、米国に輸入される商品には、例えば25%などの従価税率の追加関税が課される可能性がある」とやや一律の制裁発動ではないともとれる記述となっている。これに先立ち、26年1月12日、トランプ大統領は、イランと取引する国は米国とのあらゆる取引に対して新たに25%の関税を課される。即時発効させる。この命令は最終的かつ決定的なものだ」とTruth Socialに投稿していた。ホワイトハウスは、この関税やトランプ政権の実施計画に関する追加情報の開示を拒否し、イランとの「取引」の定義の明示を避けていた。この投稿は、これらの追加関税がどのように機能するのか、どの国が対象となるのか、製品だけでなくサービスにも高い関税が課されるのかなどの疑問を提起した。この発表は、イランと米国双方の主要貿易相手国である中国からの製品の輸入コストが大幅に上昇することを示唆。新たな関税導入により、中国からの輸入品に対する関税率は、現行の20%から最低45%に引き上げられる可能性がある。中国税関のデータによると、2025年の最初の11ヶ月間で、中国はイランに62億ドル相当の製品を輸出し、28億5000万ドルを輸入した。これは中国が公表していない石油購入額を考慮に入れていない数字。アナリストの推計によると、近年のイランの石油貿易の90%以上は、仲介業者を通じて中国が輸入している。中国に加えて、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコもイランの主要貿易相手国とされている。
(参考4)米国などの対イラン制裁
1979年1月 イラン・イスラム革命。シャー・ムハンマド・レザー・パフラヴィ体制崩壊
1979年、米国はイランからの石油輸入を停止し、120億ドル相当のイラン資産を凍結。
1995年、クリントン大統領は、米国企業によるイランの石油・ガスへの投資、およびイランとの貿易を禁止する大統領令を発令。
1996年、米国議会は、イランのエネルギー部門に年間2,000万ドル以上を投資する外国企業に対して米国政府が制裁を課すことを義務付ける法律を可決。
2006年12月、国連安全保障理事会は、イランの原子力関連資材および技術の貿易に対して独自の制裁を課し、それに関連する活動に携わる個人および企業の資産を凍結。
その後数年間、国連は制裁を強化し、欧州連合(EU)もそれに追随。
2015年7月、イランは米国(オバマ政権)、英国、中国、フランス、ドイツ、ロシア、EUとの間で核合意(包括的共同行動計画(JCPOA))に署名。ウラン濃縮は3.67%までに制限することとなった。
2018年5月、米国(トランプ第一次政権)は核合意から一方的に離脱
2018年8月、米国核合意離脱後の第イラン制裁第一弾発動
2018年11月、米国核合意離脱後の第イラン制裁第二弾(エネルギー、金融ほか)発動
2019年4月15日、米国は、IRGC(イスラム革命防衛隊)を外国テロ組織に指定
2019年5月、米国イラン産主要原油輸入国8か国への制裁発動免除措置を終了
2019年5月、米国イランの輸出額の約10%にあたるイランの鉄、鋼、アルミニウム、銅の分野での取引に制裁を発動
2020年9月 米国ポンペイオ国務長官は、2015年7月のイラン核合意で解除された国連によるイラン制裁が、国連安保理決議(UNSCR)2231に基づくスナップバック・プロセスに従って、国連による対イラン制裁が復活したと宣言(バイデン政権発足後撤回)
2020年9月21日、トランプ大統領は、イランの核開発、弾道ミサイルおよび通常兵器への追求を制限するため新たな制裁、規制措置をとったと表明
2021年 米国バイデン政権は、イランとの核合意復帰に向けた交渉開始 進展なし
2025年4月 米国トランプ第二次政権は、イランとの核協議開始(マスカットとローマで5回実施)
2025年6月21日 米軍はイラン本土の核関連施設3カ所を空爆
2025年9月28日 ロシア、中国提出の国連制裁(スナップバック)再発動延期提案が否決され、国連制裁復活
2026年1月29日、EUは、IRGC(イスラム革命防衛隊)をテロ組織に指定
2026年2月 オマーンで米・イラン核協議実施 イラン側は、高濃度の濃縮ウランの海外搬送を提示した趣き
(コメント)トランプ米大統領は、2025年2月4日、ワシントンD.C.のホワイトハウス大統領執務室で、「イランに最大限の圧力を再びかける」大統領令に署名した。これをうけて、米国財務省は、イラン産原油の対中国輸送に関わる国際ネットワークに制裁を発動した。米国は、25年6月21日にイランの核関連施設3カ所を空爆し、さらに、金融面でも、ドル不足に苦しむイランの為替急落を導き、25年末のイランの反体制デモ拡大を支援してきた。さらに、26年2月6日、トランプ大統領は、イランとの取引を継続する国々に、例示的に25%の追加関税を課すとの大統領令に署名した。米軍は、イラン周辺海域に、空母エイブラハム・リンカーンを派遣して、イランに対する軍事的圧力も強化している。EUもこれに呼応して、1月29日イスラム革命防衛隊(IRGC)を「テロ組織」に指定した。これに対して、イランの司法当局は1月10日、国内のデモに参加した市民を「神の敵」と位置づけ、死刑に値する可能性があると表明した(その後、米国の要請などもあり死刑執行は思い止まっているとのこと)。また、国防や外交政策を司る最高安全保障評議会は、デモが米国やイスラエルの支援を受けているとし、「無慈悲に対応する」と警告している。湾岸アラブ諸国は、国内に米軍基地を抱えており、これらの基地が標的になったり、自国領空を通じて、イラン攻撃が実行されることや、ホルムズ海峡の封鎖などを回避するために、米側にも接触し、オマーンでの核協議実施を働きかけたとされる。協議は、高濃縮ウランの国外搬送など前向きな点があったとされるものの、この機会に、イスラム革命体制を崩壊させたいとのイスラエルなどの思惑もあり、米国が、イラン攻撃を控えるのか、予断を許さない状況が続いている。

Posted by 八木 at 17:59 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

UAE大統領の国賓訪日延期にあたって求められるバランスのとれた経済外交[2026年02月08日(Sun)]
アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザーイド・アールナヒヤーン(通称MBZ)大統領は、本来であれば、2月8日から10日まで、国賓として訪問予定であったが、残念ながら延期になった。報道によれば。イラン情勢の緊迫化などが理由とされる。日本にとって、UAEはサウジと並んで、原油輸入のトップを争う国であり、とりわけ24年、25年には、UAEからの原油輸入量は、サウジをやや上回った(財務省通関統計によれば、25年UAEは約43%で、サウジは約40%。なお同年の日本の原油中東依存度は約94%)。UAEは、OPEC2025年次報告による2024年の確認原油埋蔵量としては、世界第5位(1130億バレル)であり、世界第2位のサウジ(2672億バレル)には及ばないものの、再生可能エネルギーや水素、燃料アンモニアなどの新エネルギー分野でも日本との協力を進めている。UAEとサウジはともにGCC(湾岸協力理事会)メンバー国で親米国家でもあり、伝統的に両国関係は良好であったが、最近、イエメンやスーダンといった地域情勢への対応や地域の経済的主導権争いでも、緊張が目立ち始めている。因みに、サウジの実質的指導者ムハンマド・ビン・サルマン・アールサウード(通称MBS)皇太子兼首相は、2025年5月公賓として訪日予定であったが、直前にサルマン国王の健康状態を理由に、訪日を延期している。MBZ訪日延期の機会をとらえて、両国の特徴と、両者が抱える地域問題を整理しておく。
1.両国の経済的特徴
(1)UAEの強みと課題
外国企業にとっての中東の地域拠点、住環境充実右矢印1日本企業をはじめ多くの外国企業は商業・金融・観光の中心地であるドバイに地域拠点を置いている。一方、サウジが地域統括会社(RHQ)免許を通じて、多国籍企業の地域拠点の選択で、サウジをとるかUAEなのかの踏み絵を踏まそうとしており、その影響を受ける可能性あり。
国際交通の便よし右矢印1エミレーツ航空、エティハド航空などが運航。但し、カタール航空やトルコ航空もライバルであり、最近設立されたリヤド航空との競争も激しくなる可能性あり。
巨額の政府系ファンド運用右矢印1アブダビ投資庁(ADIA)、ムバダラ投資会社など。投資先によっては、サウジやカタール、トルコの政府系ファンドと競合することもある。
再生可能エネルギー・新エネルギー生産拠点造り・活用推進右矢印12009年に国際再生エネルギー機関IRENA誘致。水素製造計画については、2023年11月国家水素戦略2050を公式に発表し、UAEが2031年までに世界有数の水素生産国になる目標を掲げている。水素生産では、サウジが競合国になるとみられる。また、韓国製バラカ原発の運用が開始されており、現在国内電力需要の25%を原発が供給しているとされる。
温暖化対策推進右矢印1COP28ホスト、カーボンニュートラル達成目標年2050年(サウジより10年早い)
イスラエルとの連携により地域のハイテク拠点目指す。米企業とも連携し、AI拠点化も推進右矢印1イスラエルとは包括的経済連携協定を締結。ガザ危機によっても貿易量は拡大してきたが、パレスチナ人の犠牲者が7万にも達する中で、二国間関係を強化するUAEの姿勢にアラブ世界では批判の声もある模様。今後のガザ停戦第二弾においてUAEに如何なる役割が求められるのかが注目される。AI拠点化では、アブダビで建設中の1ギガワット・データセンター・プロジェクト「スターゲイトUAE」は、UAEと米国が共同で計画する巨大なAIキャンパスの中核となる予定。G42のKhazna Data Centersが開発し、OpenAI、Oracle、Nvidiaも参加するこのデータセンターの最初の20%は、2026年のオープン予定。
観光・娯楽・エンタメも推進右矢印1ディズニー・テーマパークも誘致。宗教的寛容をうたい文句としてアブダビで建設されたシナゴーグを含む国立宗教施設「アブラハム・ファミリー・ハウス」を2023年3月1日正式オープンしている。
(2)サウジの強みと懸念
OPECプラスの指導的国家右矢印1今や世界最大の石油生産国は、サウジではなく米国。そのため、OPECの主導的国家サウジは、非OPECの大産油国ロシアと組んで、OPECプラスによる原油生産調整を2017年1月以来開始。2020年5月には、970万B/Dの大幅減産を実行。その後、減産幅を縮小(すなわち、増産)していったが、@2022年11月からは、200万b/dの減産を開始。さらに、A2023年5月には、有志国8か国による166万b/dの追加減産開始。そして、B2024年1月には、220万b/dの追加減産を開始してきたが、2025年以降、方針を転換して、増産を開始。Bについては、25年8月に繰り上げ終了。Aについても、減産幅縮小を進めてきたが、現在、その動きを一時停止中。OPEC創設国ベネズエラの石油が米国の管理下に入ることで、OPECの結束力にくさびが撃ち込まれることになった。
メガプロジェクト推進右矢印1サウジのPIF公式サイトによる設立された新企業数は103。なかでも、ギガプロジェクトNEOM(新未来の意味)のプロジェクトである線状新未来都市建設事業「ザ・ライン」(砂漠に、全長170km、高さ500m、幅200m、端から端まで20分の高速鉄道で結ぶ計画)が注目されてきたが、原油価格低迷の中、費用見積が膨れ上がり、計画の大幅後退を余儀なくされている模様。他に完成時世界最大となる浮上式物流拠点Oxagon、山岳リゾートTrojena、海洋観光リゾートShindalaなどが計画されているが、人工雪を降らすことで2029年アジア冬季スポーツ大会の会場とされていたTrojenaでの開催をサウジが断念して、大会はカザフスタンのアルマティに変更することが決定した模様。
政府系ファンド「公的投資基金(PIF)」による積極的投資右矢印1PIFは、MBS皇太子が推進するサウジ経済の多角化を実現する「ビジョン2030」の各種目標を達成するための主要な手段であり、2030年にPIF管理資産を10兆サウジリアル(2.67兆ドル)に増大させる計画(2024年段階の達成値は9400億ドルで目標を4%上回っている)
再生可能エネルギー・新エネルギー生産拠点造り・活用推進右矢印1紅海沿岸の未来都市「NEOM」で、ACWAパワー、エア・プロダクツ、NEOMの合弁事業として進行中。また、2030年までに電力の50%を再生可能エネルギーにする目標を掲げている。
米企業とも連携し、AI拠点化推進右矢印1政府系ファンドPIFは2025年5月12日、同基金の会長を務めるMBS皇太子がAI企業HUMAINを立ち上げ、よく13日HUMAINとNVIDIAは、サウジアラビアに未来のAI工場を建設するための戦略的パートナーシップを結んだと発表。更に、2025年10月29日、PIFとアラムコは、両社の人工知能(AI)プログラムを統合し、HUMAINを通じて共同事業を展開することを発表
中東地域投資会社を6か国で設立右矢印1PIFは、2022年設立のエジプトに加えて、バーレーン、イラク、ヨルダン、オマーン、スーダンに地域投資会社を設立すると発表
地域統括会社(RHQ)免許取得で外国企業を選別右矢印12024年末段階で当初計画を上回る571件の免許付与。25年10月26日報道によるファーリフ投資大臣の発言によれば、多国籍企業の地域拠点となる675社にRHQ免許が付与されたとされる。RHQ免許が付与されると政府調達への優先的参入と10年間のサウダイゼーション(従業員のサウジ人化)免除などの特典あり
サウジ/中東グリーンイニシアティブ推進右矢印1サウジで100億本、中東で500億本の植樹を行い、CO2の削減を支援する計画を発表
巡礼客・観光客誘致、スポーツ大会誘致、娯楽提供右矢印1サウジは、2030年リヤド万博、2034年FIFAサッカーワールドカップホストが決定している。また、2024年から毎年eスポーツワールドカップをホストすることが決定している。加えて、ゲーム、アニメ分野での日本企業との協力も進んでいる。さらに、2019年観光ビザを解禁し、2024年には、2,970万人の外国人を含む1億1,590万人の来訪者数を記録。
2.地域情勢に関する彼我の立場
(1)イエメンの分離主義勢力STCへの支援
UAEは、イエメン南部の民兵組織、特に南部暫定評議会(STC)を積極的に支援してきたとされる。UAEは、2014年のフーシ派への攻撃ではサウジ主導のアラブ連合軍に参加したものの、その後、参加を見合わせてきた。とくに、2024年12月30日サウジはイエメン南部の港湾都市ムカッラをサウジが空爆し、UAEとの関係が悪化した。それにもかかわらず、UAEはSTC関係部隊に対し、訓練、資金提供、装備提供を行ってきた。サウジからの圧力により、UAEは2025年後半に軍の撤退を宣言したものの、これらのグループとの関係は維持しており、UAEが支援する分離主義とされるSTCはハドラマウトやアデンなどの南部地域での支配を大幅に強化しているとされる。また、BBC報道によれば、イエメンにおけるサウジアラビア主導の連合軍は、イエメン大統領評議会から追放され反逆罪で告発されたSTC指導者アル・ズバイディ議長の国外への密航をUAEが支援したと主張しており、サウジとの緊張が高まっている。
(2)スーダン内戦における対立勢力への支援
スーダン内戦が開始された以降、UAEは即応支援部隊(RSF)という準軍事組織を、サウジはスーダン軍部をそれぞれ支援している。UAEは、スーダン政府軍と対峙する即応支援部隊(RSF)に財政的、政治的、軍事的支援を提供してきたとされる。UAEは公式にはこれらの主張を否定しているものの、スーダン政府は、2025年5月UAEとの外交関係を断絶している。RSFがスーダンで使用している軍事設備には、UAE製の装甲車両、ドローンなどが含まれているとされる。また、UAEはスーダンとの間で、特に金に深い経済的利益を有しており、RSFがダルフールで管理する鉱山から採掘された大量の金がUAEで取引されているとされる。UAEは、スーダンの港湾建設にも参画してきており、紅海周辺海域での影響力確保のため、RSFとの結びつきを重視してきた。
この対峙は、アフリカの角情勢にも影響を与え、サウジとエジプトがソマリアを支援し、UAEとエチオピアとイスラエルが分離独立を目指すソマリランドを支援する構図となっており、トランプ政権も親米国家間の対立に手をこまねいているとされる。
https://www.theguardian.com/world/2025/nov/04/sudan-rsf-militia-uae-united-arab-emirates
https://biz.chosun.com/jp/jp-international/2026/02/05/QKPDSOEKWBCHPPQQN4CC4OPH4I/

(コメント)2025年5月のMBSサウジ皇太子の公賓訪日延期と今回のMBZ・UAE大統領の国賓訪日延期は、石油だけでなく、新エネルギー分野で、連携が期待される両国のトップとの関係構築に結びつかなかったことで残念である。2024年5月下旬に予定されていたMBS皇太子の公賓訪問に際し、日本、サウジアラビア両政府は液化水素のサプライチェーン(供給網)強化に関する協力に合意する方向で最終調整に入ったと報じられていた。しかし、MBS皇太子は、国王の急病を理由に、来日一日前に訪問キャンセルとなった。サウジは、エネルギー資源だけでなく、レアアースはじめ鉱物資源輸出国の潜在性を秘めた国であり、世界中でレアアースの争奪戦が始まっている現在、この分野でもサウジとの関係を強化していく必要がある。一方、UAEのMBZムハンマド大統領は、過去に5度訪日し、うち2度はアブダビ皇太子として訪日(2007年12月、2014年2月)しており、1990年に父であるザーイド大統領(当時)が国賓として訪日した際にも同行した経緯がある。UAEは液化水素運搬実験を行う日本企業に注目しており、2023年4月川崎重工とアブダビの国営石油会社ADNOC社との間で、液化水素サプライチェーン構築に向けた戦略的協業契約の締結している。また、2023年7月、INPEXはアブダビのマスダール社とのグリーン水素・CO2を利用した「e-メタン」製造事業の実現に向けた共同調査に関する契約締結を発表。2024年1月には、東京ガス、大阪ガスが調査参加を表明している。両国は、新エネルギー分野、とりわけ、サプライチェーン構築において、日本にとって重要なパートナーとなる可能性を秘めている。日本は、次の首脳の訪日の機会を待つのではなく、ドイツのメルツ首相が最近、サウジ、カタール、UAEを訪問したように、新内閣は積極的に訪問外交を展開することが望まれる。両国のほか、カタールについては、2月にJERAがカタールエネジーと2028年から27年間のLNG供給の長期契約を結んだことが明らかになった。JERAは、2021年末で、カタールとの長期契約を打ち切ったところで、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。日本にとって、サウジ、UAE、カタールは日本のエネルギー安全保障の観点から引き続き、重要な国々である。日本政府要人の中東訪問にあたっては、地域情勢を巡ってサウジ・UAE間の摩擦が発生していることも念頭に、バランスのとれた経済外交を積極的に展開すべきであると思われる。

Posted by 八木 at 15:54 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

自由で開かれた国を放棄する米トランプ政権と従うしかない国際社会[2026年01月15日(Thu)]
2026年1月14日、トランプ政権は、75カ国の国民に対する移民ビザの発給を1月21日から停止すると発表した。米国務省は、「米国民の福祉を容認できないほどの水準で奪っている移民がいる75カ国からの移民ビザの発給を停止する。この停止措置は、新規移民が米国民の富を搾取しないことを保証できるまで継続される。我々は、米国民の寛大さがこれ以上悪用されることのないよう取り組んでいる」と、同省はXへの投稿で述べた。中東北アフリカ関係では、アフガニスタン、政権交代して1年となるシリア、GCC諸国の一角であるクウェート、イスラエルと最初に国交を正常化したアラブ諸国であるエジプトや親米国ヨルダンなどが含まれている。
(参考1)Fox News報道による対象国(MEE記事)
アフガニスタン、アルバニア、アルジェリア、アンティグア・バーブーダ、アルメニア、アゼルバイジャン、バハマ、バングラデシュ、バルバドス、ベラルーシ、ベリーズ、ブータン、ボスニア、ブラジル、ビルマ、カンボジア、カメルーン、カーボベルデ、コロンビア、コートジボワール、キューバ、コンゴ民主共和国、ドミニカ国、エジプト、エリトリア、エチオピア、フィジー、ガンビア、ジョージア、ガーナ、グレナダ、グアテマラ、ギニア、ハイチ、イラン、イラク、ジャマイカ、ヨルダン、カザフスタン、コソボ、クウェート、キルギスタン、ラオス、レバノン、リベリア、リビア、マケドニア、モルドバ、モンゴル、モンテネグロ、モロッコ、ネパール、ニカラグア、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ共和国、ロシア、ルワンダ、セントクリストファー・ネイビス、セントルシア、セントビンセントおよびグレナディーン諸島、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、南スーダン、スーダン、シリア、タンザニア、タイ、トーゴ、チュニジア、ウガンダ、ウルグアイ、ウズベキスタン、イエメン
(参考2)移民ビザとは
米国のビザは、「移民ビザ」と観光や商用、留学などの一時的な滞在を目的とした「非移民ビザ」で構成されている。移民ビザは、米国に永住することを希望する外国人に可能にするもので、入国後に合法的永住者(グリーンカード保持者)になるための第一歩。通常、海外の米国領事館に申請する前に、家族または雇用主からのスポンサーシップと、米国市民権・移民業務局(USCIS)による承認された請願書が必要。
(参考3)一時保護ステータス(TPS)
2025年3月31日時点で、米政府は17か国からの約1,297,635人にTPS保護を提供していた。その後、アフガニスタンやカメルーン、エチオピアなど順次TPSが廃止されている。近くミャンマー人もTPS廃止の予定。最大の受益者であったベネズエラ人は、司法プロセスにより、本年10月まで労働許可が認められている人はTPSが継続されるとのこと。トランプ政権はソマリア人移民に対するTPSを廃止し、強制送還を容易にする予定。クリスティ・ノエム国土安全保障長官は、「ソマリアの状況は改善し、もはや法律の要件を満たしていない」と述べた。TPSは、米国当局が安全でないと判断された国への移民の強制送還を阻止するものだ。3月17日以降、約2,500人のソマリア人が就労許可と法的地位を失い、強制送還の対象となる見通し。

(コメント)トランプ大統領は2026年1月7日、66の国際機関からの脱退または資金拠出の停止を指示する覚書に署名。具体的には、米国の国益・安全保障・経済的繁栄・主権に反するとして、35の非国連機関に加えて、国連貿易開発会議(UNCTAD)や国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)、国連大学を含む31の国連機関からの脱退や資金拠出停止を命じた。米国の優先事項よりもグローバリズムの議題を推進する機関、あるいは重要な課題を非効率的・非効果的に扱う機関への米国納税者の資金提供と関与が終了する」として、「米国納税者の資金は他の方法でより適切に配分される」とその意義を強調した(JETRO解説による)。米国は気候変動対策として、気温上昇を産業革命前との比較で1.5℃以内に収めることを目標とするパリ協定からも離脱を決定している。米国務省は、2025年7月には、新興・途上国への援助事業を担う米国際開発局(USAID)を事実上、閉鎖すると発表し、同年8月には、「米国第一」の方針に反する対外援助や国際機関への拠出50億ドル分を停止すると発表していた。なお、米国のUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)支援は、バイデン政権下の2024年1月以降停止されたままである。ベネズエラの石油権益やグリーンランド支配を臆面もなく顕わにするトランプ政権は、イランに対しては、イランと取引する国には25%の追加関税を課すことを即時決定したと表明し、イラン市民にはデモを継続し、国の機関を乗っ取れとはっぱをかけている。これにより、デモ隊と治安部隊双方の死者が拡大し、ニューヨークタイムズ紙などの報道では、すでに3千名が犠牲になっているとのこと。トランプ政権は現時点ではイランについては、本格的軍事侵攻を躊躇っているようにみえるが、市民を扇動し、当局との衝突を煽る行為は、内政干渉そのものである。しかし、ドイツのメルツ首相は13日、イランの指導部は「最後の数日・数週間」にあるとの見解⁠を示した。以前にも、2025年6月イスラエルが、イランを攻撃した際、同首相は、イスラエルが我々の替わりに汚れ仕事をやってくれたとして、ネタニヤフ政権を大称賛している。内政不干渉や国際法遵守という既存の国際秩序はもはや崩壊の瀬戸際に追い込まれ、グテーレス事務局長でさえ、ひかえめな発言しかできず、世の中は、「強いものに従うか、逆らうか」の選択肢を突き付けられ、逆らうと実力で排除されるので、沈黙を続けるか、長いものに巻かれるか、迎合するしか生き延びる道はなくなるといる一択の時代に入ろうとしている。
https://www.middleeasteye.net/news/trump-administration-expands-visa-ban-75-countries

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世界に衝撃を与えた2026年の幕開け[2026年01月08日(Thu)]
2026年1月3日早朝、数十機以上の米軍機がベネズエラの防空システムを攻撃し始め、軍用ヘリコプターに搭乗した攻撃部隊が、マドゥロ大統領夫妻が滞在する要塞化された施設に着陸した。着陸から数分後、特殊部隊は施設内に突入し、マドゥロ大統領とマドゥロ夫人を捕らえた。夫妻は安全な部屋に逃げ込もうとしたが、その前に拘束された。トランプ大統領が作戦開始を命じてから、マドゥロ大統領夫妻を拘束した突撃部隊がベネズエラ領空から無事に撤退するまで、わずか5時間も経たない電撃作戦であった。作戦は米国人の死者を一人も出さずに完了した。特別軍事作戦は、米政権側からみて大成功であった。しかし、警護にあたっていたとされるキューバ人32名(キューバ政府言及)を含め約80名(ベネズエラ暫定政府言及)が犠牲になったとみられる。マドゥロ氏夫妻は米東部ニューヨーク州で麻薬テロやコカイン輸入の共謀の容疑で裁判にかけられ、5日の初法廷では、マドゥロ夫妻はそれぞれ無罪を主張した。海外に逃れていた野党指導者でノーベル平和賞受賞者のマチャド氏はトランプ政権の行動を称賛し、トランプ大統領と親密なアルゼンチンのミレー政権も支持した。一方、中国やロシアは、国際法違反であると非難した。英国は、自国は今回の米国の行動に一切関与していないとしたうえで、状況は複雑であるとして米国非難を避けた。西側の多くの国々も、おそらく国際法違反であると多くの指導者が認識しつつも、米国からの反発を恐れて、批判を避けた。

1. 今回の前例
(1)テロ組織のトップへの襲撃:テロ組織のリーダーを他国領域で、ピンポイントで急襲して成功を収めた件としては、アルカーイダの指導者であったオサマ・ビン・ラーデンの潜伏先への襲撃があげられる。2001年9月11日、アルカーイダ・メンバー19名(全員中東出身のイスラム教徒。うち15名がサウジ出身者)が航空機4機をハイジャックし、米国で世界貿易センタービルや国防総省などで同時多発テロを実行した(いわゆる、9.11事件)。これに対して、米国情報部はビンラーデンを追跡し、2011年5月2日、ビンラーデンは、アフガニスタンではなく、隣国パキスタンのアボッタバードのコンパウンドに対する米海軍シールズによる急襲作戦で殺害された。 ビンラーデンの遺体は持ち運ばれ、海に投棄された。 作戦はCIAによる10年間の追跡の成果であったとされる。世界貿易センタービルでは2977人が犠牲になった。ビンラーデンを拘束せず、殺害し、遺体も海中に投棄したことも含め、米国民の多数は、行動を支持したとみられている。ビンラーデンへの襲撃は、ホワイトハウスで当時のオバマ大統領やクリントン国務長官が映像を見守る中で実行され、今回も同様に、トランプ大統領ほか側近が見守る中で実行された。

(2)政権中枢の人物の拉致:今回のマドゥロ拘束・拉致は、米ブッシュ(父)政権が1990年1月3日に中米パナマのノリエガ将軍を拘束し、米国に連行した後、裁判にかけた事案と酷似している。@拘束の日がノリエガのケースと一致すること、A他国の領土内での政治トップの拘束の理由として、米国内で「麻薬密輸」などで起訴されていたことを拉致の根拠に挙げていること、Bパナマ運河という米国の経済にとっての国際輸送の最重要拠点を抱える国での反米指導者を排除する必要があったこと、である。@の1月3日は、まさにノリエガ将軍が36年前に米軍に拘束された同じ日であった。Aについては、ノリエガ将軍は、米政府から敵視されて1988年、マイアミとタンパの連邦大陪審により、恐喝、麻薬密輸、マネーロンダリングの罪で起訴されていた。米国は、ノリエガの辞任を求める交渉が失敗(参考:今回もトランプ大統領はマドゥロ大統領に電話で退任を呼びかけたとされる)し、ノリエガが1989年のパナマ総選挙を無効にした(参考:西側諸国のほとんどが2024年7月のベネズエラ大統領選挙結果は不正に操作されたとみている)後、同年12月にパナマに軍事侵攻した。ノリエガは捕らえられて米国に飛ばされ、そこでマイアミの起訴状で裁判にかけられ、ほとんどの容疑で有罪判決を受け、40年の懲役を言い渡され、減刑された後、17年服役した。その後ノリエガは2010年に仏に引き渡され、そこで有罪判決を受け、マネーロンダリングで7年の禁固刑を言い渡された。ノリエガは83年に国防軍司令官となり、パナマを実質的な独裁者として支配。当初はCIAにも協力し、米政権と良好な関係にあったが、コロンビアの麻薬カルテルともつながりがあったことで不信を買った(参考:今回、マドゥロ大統領が麻薬密売に関わっていたことが、拉致の理由であるとすれば、ベネズエラ以上にコロンビアが標的になってもおかしくはなかったはずである)。当時のブッシュ(父)大統領はトランプ大統領と同様に麻薬を「国内最大の脅威」と位置付け(参考:今回、トランプ政権は、麻薬を第四の大量破壊兵器に指定し、ベネズエラが米国に脅威を与えていると主張)、「麻薬戦争」を展開。当時も米軍のパナマ侵攻は国際法違反との批判が上がっていた。ノリエガは2011年に仏から本国に送還され、本国で収監されたが、2017年に脳腫瘍と診断され、手術後しばらくしてパナマ市で死去した。Bについては、本来米国の支配下に置くべき海上交通の要衝であるインフラが、反米主義者の下に置かれることは容認できないとの思いがあったとみられる(参考:今回トランプ政権は米企業が開発してきた石油資源がベネズエラの政権に搾取されてきたとの立場とみられる)。
2.石油資源:今回の拉致事件後、トランプ政権は、ベネズエラを運営し、ベネズエラの石油資源の販売を管理する意向を表明している。ベネズエラは、OPECの年次統計資料2025年版で、2024年末時点で世界第一の3030億バレルの確認原油埋蔵量を誇る国(2位がサウジアラビア、3位がイラン)ではあるが、チャベス政権以降の長年の米国による制裁の影響によるインフラの老朽化やそもそもベネズエラ原油は、アスファルトに活用されるような重質油が多いことなどにより、原油(コンデンセートを含む)生産量は、英国エネルギー研究所年次報告2025年版によれば、2000年に293.6万b/dであったものが、2024年には、91.4万b/dに留まっている。
マドゥロの前任者チャベス氏が1999年に政権を掌握して、76年設立の国営石油会社PDVSA(ペトロレオス・デ・ベネズエラ)を直接支配下に置き、さらにその後エクソンモービルやコノコフィリップスを含む外国石油企業の資産を国有化したとされる。チャベス大統領の死後の2013年、マドゥロ氏が国の実権を握った。1年後の2014年には、原油価格が再び暴落し、ベネズエラは激しいインフレと国外への大規模な移民を伴う経済的災難に陥った。米政府は2005年からベネズエラに制裁を科しており、トランプ政権1期目の19年にはPDVSAからの米国向け原油輸出を事実上すべて停止した。その後、22年に当時のバイデン大統領は石油価格抑制策の一環として、シェブロン社にベネズエラでの操業許可を与えた。この許可はトランプ政権が2025年3月に一旦取り消したが、後にマドゥロ政権に収益が渡らないことを条件に再発行された。ベネズエラのインフラ崩壊とPDVSAの資源不足により、同国の石油会社は潜在能力に見合った量の原油を生産できなくなっていた。
ベネズエラの苦境に当初手を差し伸べたのは、2018年から米国の制裁下にあったイランであった。
(これまでのイランとベネズエラの石油輸送に関する協力概要)
•イランの最初の石油製品の輸送は2020年5月にベネズエラに向けて5隻のイランタンカーがペルシャ湾岸のバンダル・アッバース近くの製油所を出発し、総額4500万ドル、153万バレル以上のガソリンを5月23日から6月2日の間に、ベネズエラに届けた。タンカーは、カリブ海に入った後、ベネズエラ軍によって護衛された。
•米海軍は燃料の輸送を妨害しなかった。代わりに、トランプ政権は海運会社と船長に対する制裁を科した。 米政府は、同年8月には、ベネズエラに向かう途中の5隻のタンカー(ベラ、ベリング、パンディ、ルナ)の船主、保険会社、船長が貨物を引き渡さなかった場合、制裁措置を受けると警告した。ギリシャの船の所有者が従わず、2020年 8月14日、米国は貨物(110万バレルのガソリン)を押収した。のちに、燃料は売却された。
•しかし、ベネズエラへのイランの石油輸送は、米国の制裁にもかかわらず続いた。 同年9月末に100万バレル以上のガソリンを運ぶ3隻の艦隊がベネズエラに到着した。イランはまた、ベネズエラが石油を輸出するのを助けるために偽装のタンカーを使い始めた
•2021年2月23日、イランはガソリンの出荷と引き換えにベネズエラからジェット燃料を受け取っている。 ベネズエラは、国内の空の旅の制限のためにジェット燃料の余剰がある。 燃料は、イランがベネズエラにガソリンを送るために使用したのと同じタンカーで輸送された。
•さらに、2021年イランは、主にサウス・パースガス田からのコンデンセートをベネズエラに輸出し、かわりにベネズエラ産原油Mereyを輸入してきた。
•2023年2月、イランの海運産業会社SADRAはベネズエラの国営エネルギー会社PDVSAから大型石油タンカー2隻の建設を受注した。既に引き渡していた2隻とあわせて合計4隻を請け負うこととなった。2023年2月イランのSADRAはまた、日量95万5000バレルのパラグアナ製油所複合施設を改修するためPDVSAと4億6000万ユーロの契約を結ぶことになった。
その後、イランとベネズエラの関係が、冷え込むと、ロシアがベネズエラ産原油を買い取り、中国に販売するという戦略を取り始めた。米国はかつてベネズエラ産原油の主な購入国だったが、制裁の導入以降、直近10年は中国が主な輸出先となっていた。中国はチャベス前政権下でベネズエラへの最大の融資国となった。対中債務は約100億ドルに上る。ベネズエラは、かつて中国と共同所有していた3隻の大型石油タンカー(VLCC)で輸送される原油で債務を返済している。但し、中国のベネズエラ産原油の輸入は、2024年の税関総署データに基づくと、ベネズエラのシェアは0.25%で、2025年1月〜11月だとベネズエラのシェアは0.06%に過ぎず、中国はベネズエラ産原油が入らなくとも全く困らない状況にはある。
米国は、1月7日、ホワイトハウス報道官が、石油の販売再開に向け米国がベネズエラに科している制裁を段階的に解除していることを明らかにした。 また、ライト・エネルギー長官は、石油の販売を「アメリカが無期限に管理する。石油販売とその収益を管理すれば、ベネズエラに大きな影響力を持つことができる」と強調し、収益はベネズエラに還元する考えを示した。トランプ政権は、米国石油企業にベネズエラの石油産業再活性化に参加するようはっぱをかけており、その第一人者はベネズエラの国営石油大手PDVSAとの合弁事業により、既に石油事業を行っているシェブロンであり、次にベネズエラによる07年の石油産業国有化で撤退したエクソンとコノコフィリップスにも働きかけているとされる。

(コメント)今回のマドゥロ大統領の拉致について米国は、パナマの指導者であったノリエガ将軍拉致・裁判を前例に、米国の司法に基づく正当な行為としているが、国際法違反は明らかであり、どのように正当化しようとも許されるのは、ベネズエラ国外での拘束までであると考えられる。他国の領土内に入って、大統領警護隊員や民間人を犠牲にし、「国家元首」を拉致、連行するという行為は、米国が世界の唯一の保安官であり、その他の国がすべて、保安官に逆らえないという状況のみでありうるということであり、安保理常任理事国で、かつ世界最強の軍隊を有する国が、仮に政権の正統性に疑問があったとしても、ひれ伏さない国のトップを有無を言わさず拉致連行することはあってはならない。しかも、その国を運営し、石油資源を自国の利益になるように管理するということは、ベネズエラ人の総意がない限り、盗人行為としか思われない。
また、今回、トランプ政権は当面暫定大統領となったロドリゲス前副大統領の政権に米国の指示に従い、国の運営を米国の指導の下、行うよう圧力をかけ、従わなければ、マドゥロ大統領より厳しい状況に直面するだろうと脅している。しかし、ロドリゲス暫定大統領以下、政権中枢には、国防大臣や内務大臣はじめ、マドゥロ政権を支えてきた人物たちがそのまま居残っており、マドゥロ氏と責任を分かち合ってきた人々である。その人たちを操って、米国の利益のために、石油資源の米企業による活用をはじめとする米国の利益のために働くよう命じている
今回のマドゥロ大統領拉致は、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」と中国やロシアの影響を自国の勢力圏から排除し、いわゆる「西半球」を支配するとの野望(参考:25年末に発表された米国国家安全保障戦略の一環として、米国は「モンロー主義への『トランプの論理』を主張・行使する」と明記した。トランプ氏はこれを現在、「ドンロー主義」と呼んでいる。この文書では、「米大陸を中心とする西半球における米国の優位性を回復する」という目標が掲げられている。その地域において、米国は各国政府に対し、「麻薬テロリスト、麻薬カルテル、その他の国境を越えた犯罪組織」との戦いに協力するよう求めている。域外の勢力に対しては、西半球で「敵対的な外国勢力による侵略や重要資産の取得がない状態を維持する」として、実質的に中国やロシアなど域外大国の排除する方針を明確にしている)に基づいている。米政権の目標達成には、米石油企業がベネズエラの石油生産能力の拡大とインフラ整備において、実質的支配を確保することが必要になるとみられる。石油業界幹部らはこれにかかる費用が年間100億ドル(約1兆5600億円)に達する可能性があると主張している。ベネズエラ国営石油会社PDVSAは自社のパイプラインが50年間更新されていないことを認めており、インフラを更新してピーク生産レベルに戻すには580億ドルの費用がかかるとしている。
さらに複雑な問題として、PDVSAは数十年にわたり実質ベネズエラ軍が運営してきており、ベネズエラ経済は同社の成功に完全に依存してきた。トランプ大統領は、米国石油企業にはっぱをかけているが、ベネズエラの石油インフラを確保するためには、巨額の資金のほか、米軍による現地での長期的な駐留が必要になるとみられている
中東産油国にとっての懸念も付け加えたい。ベネズエラは、OPEC創設国のひとつであり、世界最大の確認原油埋蔵量を誇る国である。OPECは、1960年9月に西側メジャーが独占してきた石油利権を産油国に取り戻そうとして立ち上がった機関である。そのOPECの最重要国の石油が、OPEC外の米国の支配下に置かれ、石油の生産や販売を管理されるということになれば、OPECは事実上崩壊ということになる。さらに、ベネズエラの野党系市民は、今回のトランプ政権の行動を称賛していると伝えられているが、自分たちの資源を米国に自由に操られ、それも、当面は、マドゥロを支えてきた側近たちの新政権に委ねるということを本当に受け入れられるのであろうか。すなわち、正義や人権ではなく、「トランプ政権に従うか、逆らうのか」で、自国の未来が決定されるということを本当に受け入れられるのであろうか。また、世界は、トランプ政権が国際社会に示した「ジャングルの掟」すなわち、弱肉強食、弱者は強者に従うしかないという論理を受け入れるしかないのであろうか。これが認められれば、グリーンランドもウクライナも台湾も、軍事的強者に従うしかなく、力のない羊たちは、沈黙を守るしかないのであろうか。そして、吹き荒れる嵐が静まるのを待つしかないのであろうか。
https://www.cnn.co.jp/business/35242355.html
https://www.sankei.com/article/20260105-BKYOQY3SUVIIPADOM6BFRGWY74/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8C%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%82%AC
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f7d701293ed97ae7b5ade50fcec191e4f9911d44

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トランプ大統領に嫌われる2人目の世界的ムスリム市長の誕生確実となる[2025年11月05日(Wed)]
現地時間11月4日投票が行われたニューヨーク市長選挙で、民主党の候補ゾーラン・クワメ・マムダニ氏の当選が確実になった。マムダニ氏は、無所属で立候補したクオモ前ニューヨーク州知事と共和党スリワ氏を大差で破り去る情勢となった。2月の投票率1%未満という劣勢からスタートしたが、わずか4ヶ月後、草の根運動を展開し、数万人を動員して市内100万戸以上を戸別訪問し、56%の得票率で予備選を制し、民主党の市長候補の座を奪い取った。マムダニ氏のカリスマ性、キャッチーな動画、そして「ニューヨーク市を誰もが住みやすい場所にする」という彼の強い思いを発信し、有権者の心をつかんだ。
1)マムダニ氏生い立ち:マムダニ氏はウガンダのカンパラで、ウガンダ系インド人の父とインド人の母の間に生まれた。父マフムード・マムダニ氏は著名な学者で、植民地主義と帝国主義について多くの著作を残している。父親は1946年、インドのボンベイ(現ムンバイ)で、インドのグジャラート州にルーツを持つタンザニア系イスラム教徒の両親のもとに生まれた。1979年にアミンが打倒されると、マフムードはウガンダに戻り、その後ケープタウン大学、ダルエスサラーム大学、マケレレ大学などで教鞭をとり、現在はコロンビア大学人類学部のハーバート・レーマン政治学教授である。マムダニの母、ミーラー・ナイルは、人種、ジェンダー、階級に関する従来の見方に異議を唱える、アカデミー賞ノミネート経験のある著名な独立系映画監督で、彼女は1957年、インド東部のオリッサ州でパンジャブ系ヒンドゥー教徒の家庭に生まれた。マムダニが7歳の時、家族はニューヨーク市に移住した。高校卒業後、マムダニ氏はメイン州ブランズウィックのボウディン大学でアフリカ系アメリカ人研究を学び、批判的人種理論家や反植民地主義作家フランツ・ファノンの作品などを研究した。また、学生新聞の編集者として働き、同意に関する意見記事を執筆した。マムダニ氏はまた、「パレスチナ正義のための学生」の大学支部を設立した。アラブの春でムバラク政権が倒れたあとの2013年には、カイロのアラビア語学校に通っていた。
2)選挙キャンペーン:2024年10月23日、マムダニ氏はニューヨーク市長選への立候補を表明した。運動開始当時当時「テレビカメラは1台もなかった」と述べ、何ヶ月もの間、誰も彼に注目していなかった。選挙活動では、ウルドゥー語、スペイン語、アラビア語で長編ビデオに出演し、イディッシュ語のチラシを配布した。また、イマーム(イスラム教指導者)、ラビ(ユダヤ教指導者)、ヒンドゥー教徒のコミュニティを訪問し、面談を行った。洗練されたソーシャルメディア戦略や支持層の戸別訪問作戦も成功し、支持率1%台からの番狂わせを演じたことになる。
3)訴えた政策:マムダニ氏は、ニューヨークに住むすべての人にとって住みやすい街にすることを最優先とする政策を掲げて選挙戦を展開してきた。彼の政策案には、100万戸のアパートの家賃凍結、20万戸の低所得者向け住宅の建設、高速バスの無料化、5歳未満児の保育料無料を含むユニバーサル・チャイルドケアなどが含まれている。「家賃を凍結」「全ての人に保育を」「バスを速く、無料に」が、マムダニ氏が、最も強く訴えてきたキャッチフレーズである。
4)政敵の反応:マムダニ氏の社会主義的な政治的傾向とイスラム教徒としてのアイデンティティは、テロリスト、反イスラエル、反警察、反米主義者との非難の中で、党派を超えた攻撃の標的となってきた。トランプ米大統領は、一貫して彼を「共産主義者」と呼び、当選した場合、ニューヨーク市への資金提供を削減する可能性を示唆してきており、最終版ではクオモ元州知事支持を表明した。彼の最大のライバルであるクオモ氏と現ニューヨーク市長のエリック・アダムズ氏は、選挙日の2週間前にイスラム恐怖症に基づく攻撃を開始した。10月クオモ候補は、「神よ、再び9.11が起きることをお許しください。マムダニ氏が議席に就く姿を想像できますか?」と述べた。これに対し、マムダニ氏は後に「これはアンドリュー・クオモ氏の公職生活最後の瞬間なのに、彼はそれを人種差別的な攻撃に費やすことを選んだのだ。」と反論した。
https://www.middleeasteye.net/profile/who-is-zohran-mamdani-new-york-mayor
(コメント)トランプ大統領に嫌われている国際的な大都市の代表的市長は、サーディク・カーン・ロンドン市長である。カーン市長は、2021年5月選挙で再選された人気の高いパキスタン系ムスリムである。2025年7月末、 4日間の非公式夏季訪問中のスコットランドで行われた記者会見でトランプ大統領は、カーン・ロンドン市長を「ひどい仕事をした」「意地悪な人物」と非難した。2025年9月18日国賓として、英国に招かれたトランプ大統領は、カーン市長を「世界最悪の市長の一人だ」と酷評した。晩さん会には、カーン市長の姿はなかった。さらに、国賓訪英を終えたトランプ米大統領は9月18日、カーン市長を「世界最悪の市長の一人だ」と酷評した。25年9月23日トランプ大統領は国連総会で、 「ロンドンにはひどい市長がいる。今はシャリア法をやろうとしている。でも国が違う。そんなことできない」と主張した。2019年6月の英国訪問に際し、トランプ大統領(第一期目)はこう書き込んだ。「ロンドン市長としてひどい仕事をしたと誰もが認めるサーディク・カーン氏は、英国にとって間違いなく最も重要な同盟国である米国大統領に対し、愚かにも『意地悪』な態度を取った。彼は冷酷な負け犬で、ロンドンの犯罪に焦点を当てるべきであって、私ではない。カーン氏は、同じくひどい仕事をした、非常に愚かで無能なニューヨーク市長、デブラシオ氏を強く思い起こさせる。身長は彼の半分しかない」と述べていた。これに対して、サーディク・カーン・ロンドン市長報道官は、「(トランプ氏の)とんでもない、偏見に満ちた発言をまともに相手にして、回答するつもりはない、ロンドンは世界で最も偉大な都市で、米国の主要都市よりも安全だ。私たちは、記録的な数でここに移住している米国民を歓迎する」とコメントしていた。
今回マムダニ氏の勝利が予想される中、トランプ大統領は、マムダニ氏を共産主義者と称し、当選した場合、ニューヨーク市への資金提供を削減ないし廃止の可能性を示唆していた。世界中がトランプ旋風に巻き込まれて、トランプ大統領にいかに気に入られるか、取り入られるかで世界の多くの指導者が競い合っている中、トランプ大統領の足元で、トランプ旋風とは別の風が吹き始めていることを感じざるを得ない。マムダニ氏については、ニューヨーク初のムスリム市長になるが、ムスリムでありながら、ユダヤ教のラビやヒンドゥー教のコミュニティとも良好な関係を築こうとしており、中でも、インフレで苦しんできたニューヨークの低中所得層に焦点をあてて、まさに富裕層と戦う姿勢を見せていることである。来年11月の中間選挙を見据えて、米国民の意識も変化していく可能性があることに注目すべきであろう。

Posted by 八木 at 18:37 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

着地点の見えないシリア暫定政府・SDF合意の行く末[2025年09月01日(Mon)]
1.8月31日付ANF通信によれば、北東部シリア民主自治行政区を代表するクルド政党PYD(クルド民主統一党)の有力メンバーであるサーレハ・ムスリムはクルディスタンNweとのインタビューで要旨次のとおり語った。
@シリア暫定政権との関係:シリア政府との意見の相違は平和的に解決したい。戦争は解決策ではなく、我々はシリア分割も求めていない。クルド問題は国際問題であり、国際的な努力によって解決されなければならない。国際勢力もまた、戦争で勝利する者はいないため、中東和平を望んでいる。しかし、ダマスカスは不公平な平和を求めているのに対し、我々は公正な平和を求めている。公正な平和なしには、シリアにおける永続的な平和は実現しない。抑圧的で独裁的な国家は解決策ではない。西クルディスタン(シリアのクルド地区)にとって唯一実現可能な道は民主主義である。
A統治体制:この地域にとって最善の体制は地方分権であり、それは自治、地域統治、連邦制、さらには連合制など、様々な形態を取り得る。我々は、シリアにおける完全な中央集権体制への回帰も、2011年以前の状況も決して受け入れない。もしシリアの新政府が地方分権を認めなければ、我々は独立を要求せざるを得なくなるだろう。
BSDFシリア民主軍(SDF)の解散は受け入れられない。我々の地域は我々自身の軍隊によって守られ続けなければならない。これがSDF設立の理念である。
Cトルコとの関係:トルコは国内で平和を要求しながら、同時に西クルディスタンのクルド人を脅かすことはできない。そのため、トルコ政府はこの問題に関する立場を変えざるを得ない。我々クルド人はトルコに敵対しておらず、トルコとの間に問題を抱えているわけでもない。シリアにおける我々の権利を要求するために武器を取ったのだ。トルコはクルド人問題を解決するため、ダマスカス政府に圧力をかけなければならない。
Dクルディスタンの4つの地域におけるクルド人の関係:クルド人はクルディスタンの4つの地域すべてで団結し続けなければならない。西クルディスタンと南クルディスタン(イラクのクルド地区)の関係は特に緊密であり、特にクルド愛国者同盟(PUK)との関係は良好だ。2014年に(PUKの)ペシュメルガ部隊がコバニ(トルコ国境に近いシリアの町で、ISISとSDFの激戦の地であった)に進駐した際、クルド人全体が彼らを大喜びで歓迎した。PYDとPUKは戦略的な関係を維持している。PYDの設立以来、PUKは一貫して支援を続けており、このパートナーシップはさらに拡大していく可能性がある。PUKは、対ISIS国際連合の枠組みを含め、西クルディスタンのあらゆる成果を支援してきた。
https://anfenglishmobile.com/news/salih-muslim-we-will-never-accept-a-return-to-a-fully-centralised-system-in-syria-81044

2.8月30日SDFのマズルーム・アブディ司令官はドイツで開催されたクルド人青年イベントに送ったビデオメッセージで次のとおり述べた。
1)シリア北東部では数ヶ月にわたり停戦と安定が保たれてきたが、最終合意に至っていないため、敵対行為が再発する可能性は依然として残っている。紛争が再発しないことを願う一方で、我々は常に我々の組織と国民を守る用意がある。我々は(和平)交渉の成功を望んでいる。15年間続いたシリア内戦は必ず終結しなければならないと信じている。
2)前進する唯一の道は分権化されたシステムであり、その目標に向けて努力を続けている。そのための努力は進行中である。シリア国民と国際部隊の全員が、徐々にこれが適切だと認識するようになると信じている。2011年以前のシリアの全体主義的で超中央集権的なシステムは復活しないだろう。
https://www.rudaw.net/english/middleeast/syria/300820252
(コメント)二人のシリアのクルド人の政治的・軍事的指導者が相次いで発信したメッセージは、北東部シリアを事実上自治運営しているクルド人勢力にとって、シリアにおける中央集権的なシステムへの回帰は認めないSDFの国軍への統合は認めても、解散するのではなく、北東部シリアの防衛部隊として存続させる、との原則的立場を改めて強調したものとなっている。これは、シリア暫定政権側の「国の中の国」、「軍隊の中の軍隊」は認めないとする立場と相いれない。シャラア暫定大統領は、9月にシリアの北東部のクルド支配地区と南部のドゥルーズ支配地区を除外する形で、人民議会選挙を実施し、自身の権力基盤を固めようとしているものの、ドゥルーズ支配地区については、イスラエル軍に保護されており、シリア北東部については、未だ米軍が駐留しており、双方ともに暫定政権側が、力で屈服させることは困難な状態にある。また、隣のイラクには、ペシュメルガという個別軍隊を持ち、自治統治体制を有するクルディスタン政府の例があり、暫定政権側と北東部シリア統治勢力との3月15日の合意の実施に向けた行動計画を一致させることは容易ではない。欧州は暫定政権への制裁は解除したものの、本格的支援には至っていない。8月31日付RUDAWによれば、独政府は、当面、シリア支援は、国連機関やNGOなどを通じて実行し、暫定政権経由で行わないと発表した。シリア暫定政権に影響力を有するトルコは、本国ではPKKとの和解に向けて、議会で委員会を立ち上げて検討を開始しているが、具体的進展は見えてきていない。トルコは、シリアにおける連邦制や地方分権は認められないとの考えで、シャラア政権に働きかけており、着地点は未だ霧の中にあるといわざるをえない。
https://www.rudaw.net/english/world/31082025

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新生シリア政権の下で初めて実施されるシリア人民議会選挙について[2025年08月27日(Wed)]
2025年8月23日、シリア暫定政権は、9月15-20日実施される予定のシリアの国会にあたる人民議会選挙が行われる際に、スウェイダ、ハサカ、ラッカの3県では選挙を行わないと発表した。南部スウェイダ県はドゥルーズ派が多数派を占め、ハサカ県の大部分とラッカ県の一部はクルド人主導のシリア民主軍(SDF)が支配している。高等選挙管理委員会は、政府の完全支配下にはない当該県での投票は、「安全が確保」されるまで、延期されると述べた。

この選挙では、シャラア暫定大統領の支配力維持に二重・三重の保険がかけられている。上述のとおり、@暫定政権の支配が及ばない地域の投票を除外したこと、Aシャラア暫定大統領は新たに選出される人民議会議員210人のうち3分の1を任命する権限を自らに与える法令に署名したこと。B投票する国民は代表者(人民議会議員)を直接選出するのではなく、複数の委員会を経て間接的に選出されること、すなわち、選挙委員会が設置する地区レベルの小委員会が、人民議会の議席1つにつき約50名の選挙機関の委員を選出し、その後、第2段階である選挙段階に移り、これらの選挙機関内で選挙が行われることになる。
https://www.rudaw.net/english/middleeast/syria/230820251
(コメント)人民議会選挙の実施は、シャラア暫定政権にとって、シャーム解放機構(HTS)主導の暫定政権の正統性をアピールし、残った欧米の制裁を解除してもらい、復興支援を得るうえで、必要なプロセスである。シリア人権監視団によれば、3月には、地中海沿岸部のいくつかの場所で、反政府グループと政府軍・政府系部隊との間で戦闘が発生し、アラウィー派住民など約1400名が犠牲になったと伝えられており、7月には、南部スウェイダ県で、ドゥルーズ部隊と政府軍・政府系部隊との間で戦闘が発生し、約1500名が犠牲になったと伝えられている。こうした中、3月10日にクルド人部隊を中心とするSDF(シリア民主軍)のマズルーム・アブディ総司令官とシャラア暫定大統領の間で交わした8項目の合意文書の実施に向けた協議が停滞している。双方は、「国境検問所、空港、石油・天然ガス田を含むシリア北東部のすべての民間および軍事機関をシリア国家の管理に統合する」ことで合意したが、その具体的内容について、暫定政権側は、「国の中に国」、「軍の中に軍」を認めるわけにはいかないとの立場で、一方、SDF・北東部自治統治勢力は、現地での約10年の経験・ノウハウを踏まえ、クルド人・アラブ人・アッシリア人、キリスト教徒、イスラム教徒その他地域住民で構成する地方分権ないし連邦制が必要であり、また、SDFについては、国への所属は認めるものの、部隊や隊員をばらばらにして国軍に統合するのではなく、シリア北東部住民を守る特殊部隊としての存続を主張している。暫定政権側は、ISISなどと戦った経験とノウハウを国軍全体に浸透させるためには、特殊部隊として存続させることは適切ではないとしており、統治と部隊の態様について、議論は進展していない。
そのような中で、暫定政権は、SDF支配地区2県とドゥルーズ支配地区1県の人民議会選挙からの排除を決定し、選挙後、新憲法案の作成に向けて準備を進めていくものとみられる。SDF・北東部自治統治勢力は、大統領に巨大な権限が集中する中央集権的統治は認められないとの立場を崩していない。新憲法草案を議論する委員会などに、SDF・北東部自治統治勢力の参加が認められなければ、暫定政権とSDF合意の実現は困難になることは間違いない。他方で、SDF・北東部自治統治勢力も、トルコで進行中のトルコ政府とPKKとの和解プロセスの行方を注視しながら、トルコ政府の意向を尊重する暫定政権側との協議に臨んでいるといえる。

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イランの治安分野の最重要責任者として表舞台に再登場したアリー・ラリジャニ氏 [2025年08月15日(Fri)]
6月のいわゆる「12日間戦争」で、イランはイスラエルの攻撃により核施設が被害をうけただけでなく、イランの治安分野の幹部多数が殺害された。イラン軍参謀総長ムハンマド・バゲリ少将とイスラム革命防衛隊(IRGC)総司令官ホセイン・サラミ少将がテヘランで殺害され、IRGC航空宇宙軍司令官アミラリ・ハジザデ准将とIRGCが運営する巨大エンジニアリング企業ハタム・アンビア司令部司令官ゴラマリ・ラシド少将も殺害され、アリー・シャムハニ最高指導者上級顧問も自宅を爆撃され、3時間瓦礫に閉じ込められ、元国会議長で、ハメネイ師顧問のアリー・ラリジャニ氏も事前にイスラエル側から殺害予告を受けていたとされる。イランは、2024年9月のイスラエルによるレバノン攻撃で、イスラエルに軍事的に対峙するうえで最も重要なパートナーであるヒズボラの指導者ナスラッラー師をバンカーバスター弾で殺害され、同年12月には、レバノンへの重要な補給路を構成していたシリアのアサド政権を失い、体制の維持、地域での影響力確保に向けて、黄色信号が灯もり始めていた。こうした中、イスラエルからの殺害の脅威を回避したアリー・ラリジャニ氏は、7月20日、ロシアのモスクワを訪問してプーチン大統領と会談した後、8月6日には、国家安全保障最高評議会(SNSC)責任者の書記に任命され、イラク、レバノンを訪問した。イラクでは指導者らと会談し、カセム・ソレイマニIRGCコッズ部隊司令官の殺害現場に花輪を捧げ、その後、テヘランと同盟関係にあるヒズボラの武装解除を求める動きの中、レバノンを訪問した。IRGC創設メンバーでもあるラリジャニ氏は、今や権力の中枢に返り咲き、新たに設置された国防評議会でも主導的な役割が期待されており、地域情勢の緊迫と後継者問題が迫る中でイランにとってのこれまでの友好国関係者訪問を通じて、イランのじり貧状態からの巻き返しを狙っている。
こうした中、ラリジャニ氏は、マヤディーン紙のインタビューに応じたところ、8月14日同紙が報じた主要点は次のとおり。
1. 抵抗運動:抵抗運動は皆のためのもの。シーア派やスンニ派に限定されるものではない。我々はスンニ派抵抗運動であるハマスと、シーア派抵抗勢力であるヒズボラを支援している。我々の立場は宗派主義的なものではない(右矢印1イスラエルへの抵抗活動を続けるヒズボラを支持すべきとの立場を改めて強調したもの
2. ナビー・ベッリ国会議長(注:シーア派組織アマル出身で90年代から国会議長の職にある)との会談:政治的に鋭敏で、豊富な経験を有し、抵抗運動の重要な支柱である。彼はいかなる状況下でもどのように行動すべきかを知っている。私たちは意見交換を行い、彼の包括的な視点に耳を傾けた。彼の考えはレバノンが抱える課題の解決への道を開くものであり、彼は地域に対しても建設的な提案をいくつか行った(右矢印1政府によるヒズボラの武装解除への圧力の中で、シーア派勢力の代表として、イランは、ベッリ議長の役割に期待していることを示している
3. ジョゼフ・アウン大統領とナワフ・サラーム首相との会談:我々は我々の立場を明確に伝えた。我々は他国の事柄に干渉せず、各国は多様な政治グループと協議した上で適切な決定を下せると考えている。我々は我々の見解を公然と表明するが、一部の政治的な『悪魔』が悪意ある目的のために利用するような誤解は避けたいと考えている。各国はそれぞれの気質に応じて指導者を選ぶ。私たちの役割は、異なる性格や志向を持つ人々に適応し、協力する方法を見つけることである。外交においては、誰とでも話し合い、協力できなければならない。政治的な相違は決して敵意になってはならない。進歩は対話から生まれる(右矢印1米国の働きかけもあり、ヒズボラの武装解除を推進しようとするレバノン政治指導部に対して、妥協点を見出すべく努力すべきとの意向を表明したものとみられる)
4. SNSC書記として初の外国訪問先にイラク、レバノンを選んだ理由:イラクとレバノンを選んだのは、両国が長年にわたり協力関係を築いてきた親しい友人だからである。両国とは古くから深い関係を築いている。シリアは現在正式な国交がないため、今回の訪問には含まれていなかったが、レバノンとイラクは地域情勢について協議する上で不可欠な訪問地であった(右矢印1親イランのシーア派民兵組織を抱える両国との対話のルートを確保しておくことの重要性を表明したものとみられる)
5. バッシャール・アル・アサド大統領(当時)と会談した前回のダマスカス訪問:シリアを攻撃し侵略した者たちでさえ、政権転覆が可能だとは思っていなかったと思う。私の訪問は、アサド大統領が協議したい事項について直接話を伺うためであった。しかし、事態は急速に展開した。過去2年間、事態の展開は急速かつ予測不可能であり、それが今の時代の特徴である(右矢印1これまで想定されていなかった出来事が次から次へと発生して、予測不能な時代に突入していることを踏まえ、緊急時に如何なる事態にも対処する必要性を強調したもの)
6. イスラエルによるイラン攻撃:ネタニヤフ首相が公然と宣言したように、彼らの目的はイスラム共和国の体制を転覆させることだった。彼らは14年間これを計画したが、失敗した。ネタニヤフ首相は(イラン国内の)動乱を煽ろうとしたが、イランの反体制勢力でさえ国家側についた。彼は大きな誤算を犯し、イラン国民は彼を好んでいない。事態は彼の予想に反して展開した。地域のどの国もテルアビブ側に付かなかった。多少の違いはあったものの、イスラム世界はイスラム共和国を支持した。彼らが何の成果も上げていないこと自体が、彼らの戦略的敗北の証である。(イスラエルがイランの要人殺害に成功したことを認めつつ)結果的にイスラエル側は何も得ていない。
7. ネタニヤフ首相について:我々は、シオニスト国家からのいかなる攻撃にも、常に全力で対応する用意がある。ネタニヤフ首相が権力の座に居続ける限り、この地域の安定は訪れない。パレスチナに住む人々にとってもそうだ。彼は私利私欲のために危機を煽る悪意ある人物である。レバノン、シリア、そして他の国々でそれが見られる。それは絶え間ない挑発と不安定化策である。
8. 米国との和解の可能性(イランが核問題にとどまらず、米国とのより広範な和解を追求する可能性について):一歩ずつ進めていく必要がある。まず、アメリカが誠実かどうかを見極める必要がある。レバノンやイラクにおける彼らの取り組みが、真に現地の人々の利益を優先するものであれば、交渉の余地はある。しかし、彼らの和平理論が武力、つまり降伏か戦争かのいずれかに基づくものである限り、これはうまくいかないであろう。イランは降伏しないし、これまでも降伏していない。交渉は、双方が戦争では目的を達成できないことを認めた場合にのみ有効となる(右矢印1核協議の継続などを求める米国の真意がどこにあるのかを見極める必要があるとの見解を意味する)
9. 国家安全保障最高会議の議長という新たな役割: 対話による地域紛争の解決を全面的に支持する。サウジアラビアやエジプトのような国々との協議を通じて、すべての地域問題の解決に向けて前進することを強く望んでいる。サウジとは関係を深めなければならない。すべての問題で合意しているわけではないが、良好な合意の枠組みの中で協力を拡大することができる。実務的な共同作業の基盤には大きな違いがあるとは考えていない。あるのは、特定のメカニズムや視点に関する意見の相違だけである。解決策は対話にある。彼らは私たちの友人であり兄弟であり、すべてのイスラム諸国も同様である。そして、私は対話が有益だと考えている(右矢印1アラブ諸国とは、小異はあっても、対話を続けたいとの意向を強調したもの)。
10.イスラエル側からの脅迫について:自身が個人的にイスラエルから標的にされたという報道は事実である。戦闘初日に、電話とモサドを通じて殺害の脅迫を受けた。もちろん、私は彼らに相応しい対応をした(右矢印16月のイスラエル攻撃は、ハメネイ師の最側近が狙われていたことを示めしている)
11.イスラエルのイラン攻撃中の最高指導者ハメネイ師の対応について:ハメネイ師は米イスラエル戦争の均衡を覆した。初日(6月13日)、彼らは多くの司令官を暗殺したが、ハメネイ師は数時間以内に彼らを交代させた。これは極めて重要な動きであった。彼はイラン国民に演説し、対立の本質を説明し、力強く冷静さを伝え、状況を変えた。アメリカが臆面もなく『降伏せよ』と言った時、彼は力強く『我々は降伏せず、力強く立ち向かう』と応えた。サイイド・ハメネイ師は最高司令官として行動した。指導者があらゆる意味で最高司令官として行動し、彼は作戦室から指揮を執り、多くの事柄について協議し、指示を出していた。状況を完全に掌握していた。これは、たとえ指導部全員が暗殺されたとしても、他の者が妨害なく介入できるという、我が国の軍の能力を証明した。その夜、我が国の防空体制があらゆる困難に直面していたにもかかわらず、イスラム共和国からイスラエルに向けてミサイルが発射された。これは比類なき勇気であった(右矢印1イスラエルの攻撃中、ハメネイ師の消息が不明になったと報じられたことがあったが、ハメネイ師は作戦の中心であり、イスラエルへの反撃にも指揮をとったとして、ハメネイ師への信頼をアピールしたもの)。
12.ヒズボラの忍耐力について:100%全幅の信頼を寄せている。私たちが知り、目にするこの精神は決して死なない。彼らは生きており、一人一人が千人の兵士に匹敵する。簡単には排除できない。彼らの基盤は出来事や現実に適応するが、彼らは存続し、イスラム世界のために実を結ぶであろう(右矢印1殉教したナスラッラー師への哀悼の意を表するとともに、ヒズボラが米国の思惑通り、容易に武装解除されることはないとの確信を示したもの)
https://english.almayadeen.net/news/politics/larijani--iran-stands-firm-on-resistance--regional-dialogue
(コメント)2025年6月22日、イランのプレスTVがイラン議会はホルムズ海峡封鎖を承認したと伝えた。同時に、実行には国家安全保障最高評議会(SNSC)の決定が必要とコメントした。このような世界に衝撃を与える最重要事項決定は、もちろん最高指導者の判断が必要にはなるが、機関決定を下す役割を国家安全保障最高評議会が担っており、その書記にアリー・ラリジャニ氏が任命され、表舞台で活動し始めたことは、内政上も外交上もイランのどん底からの巻き返しを図る動きとして注目される。多くのハメネイ師側近が、今回のイスラエルのイラン攻撃で殺害される中、ラリジャニ氏のSNSC書記指名は、イランが、イスラエル攻撃中一時消息が途絶えていたとされるハメネイ師の権威を復活させ、傷ついた近隣諸国との関係の再構築に踏み出した動きととらえることができる。とりわけ、アサド政権を見放したものの、中東で引き続き、一定の影響力を維持するロシアを訪問して、ロシア・イラン関係の継続を中東諸国政府に意識させ、さらに、シーア派民兵組織を抱えるイラク、レバノンを訪問して、イスラエルへの抵抗勢力として容易にヒズボラなどの武装解除に応じるわけにはいかないと、両国指導者に釘をさすことで、イランの影響力を域内に残す行為にでたものと認識される。

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イランから本国帰還を強制されるアフガニスタン人が激増[2025年08月14日(Thu)]
これまで、世界最大の難民を抱えている国は、数年以上300万人規模のシリア人を一時保護の下で受け入れてきたトルコであった。2024年12月8日のアサド政権の崩壊と新生シリア政権の誕生後、トルコが受け入れているシリア人数は255万5560人まで減少(トルコ統計局の数字に基づくUNHCR2025年8月7日統計更新分)してきている。一方、世界最大の難民・非正規移民を受け入れている国のトップをイランが占めていたことがUNHCRの2024年末「グローバル・トレンド・レポート」公表の統計から明らかになってきた。
第一位 イラン 350万人
第二位 トルコ 290万人
第三位 コロンビア 280万人
第四位 ドイツ 270万人
第五位 ウガンダ 180万人

イランが最も多数の難民・非正規移民を受け入れているのは、アフガニスタン人である。欧州はどうであろうか。

EUの統計によれば、国別新規庇護申請登録数は2024年EU全体で、91万2千人で、一位シリア(14万7965人)、二位ベネズエラ(7万2775人)、アフガニスタンが7万2155人で第3位にランクされている。

一方、英国内務省統計によれば、2025年3月までの1年間に英仏海峡を小型ボートで、英国に辿り着いた非正規移民の出身国は、一位アフガニスタン(5766名)、二位シリア(4368名)、三位エリトリア(4229名)となっており、やや減少傾向にあるシリア人に替わって、アフガニスタン人の存在感が目立ってきている。スターマー首相率いる英国政府と仏政府との不法移民と難民申請者の「一人引き渡し、一人受け取り」合意にもかかわらず、英仏海峡を渡って到着した人の数は過去5年間で最速のペースで進んでおり、英国内務省によれば2025年7月30日現在、 25,436人に達している。

このような状況下、ノンルフールマン原則に従って、犯罪者であっても、非正規移民の国外退去を躊躇ってきた欧州諸国も、強制送還に乗り出す国が出てきている。その筆頭は、難民・非正規移民に寛容といわれてきたドイツである。ドイツは、前政権下の2024年8月30日、ドイツで罪を犯したアフガニスタン人28人を強制送還したと発表した。イスラム主義勢力タリバンが2021年8月に実権を握って以降初めての措置であった。ドイツのメルツ政府は2025年7月18日、犯罪歴のあるアフガン人81人を強制送還したと発表し、今後も続ける意向を示した。AP通信によると、トランプ米政権もアフガン移民の滞在や労働を許可する一時保護資格(TPS)を取り消した

戦火と経済制裁に苦しむイランでは、2025年6月中旬以降、イラン当局がアフガニスタン人に本国に帰還するよう求め、要求に従わないと逮捕されることになると警告を発した。この背景には、6月13日にイスラエルがイラン本土への直接攻撃を開始し、12日間の攻撃で核関連施設だけではなく、イスラム革命防衛隊(IRGC)司令官や軍参謀総長など主要な治安部門幹部がピンポイントで殺害されたことで、国内にイスラエルのスパイが多数潜入しており、その一部がアフガニスタン人であるとみなされたことにある。イランメディアからは、スパイ容疑で実際に2万1千人が拘束されたと報じられている。そのため、イラン在住のアフガニスタン人の間に不安が高まり、イランからアフガニスタンへの国境検問所の通過数は劇的に増加し、日によっては約4万人がアフガニスタンに入国したとのことで、国際移住機関(IOM)の報道官によると、2025年6月1日から7月5日までの間に44万9218人のアフガニスタン人がイランから帰還し、2024年からの帰還者総数は90万6326人となったとされる。
しかし、多くのアフガニスタン人帰還者は、タリバン当局からの圧力、逮捕、国外追放、そして性急な出国による経済的損失を経験したと報告している。帰還者への危機対応は第一にアフガニスタンへの対外援助の大幅な削減によって妨げられており、国連、国際NGO、そしてタリバン当局から資金増額を求める声が上がっている。一方、イランのアリー・アクバル・プールジャムシディアン内務副大臣は、国内に滞在する不法滞在のアフガニスタン人は「尊敬すべき隣人であり、信仰の兄弟」である一方で、イランの「能力にも限界がある」と認めた。また、帰還プロセスは「段階的に実施される」と示唆した。
https://www.aljazeera.com/news/2025/7/6/iran-tells-millions-of-afghans-to-leave-or-face-arrest-on-day-of-deadline
https://www.aljazeera.com/news/2025/8/12/iran-says-it-arrested-21000-suspects-during-12-day-war-with-israel-us
(コメント)2021年8月の米軍他のアフガニスタンからの撤退により、多くのアフガニスタン人が迫害の危険を逃れるために、隣国のイランやパキスタン、さらにはそれらの国々を経由して欧州諸国などに脱出した。未だ、アフガニスタンのタリバン政権を正式に承認した国は、ロシア1国にとどまっている(2025年7月3日。但し、中国も事実上の外交関係を構築している)。アフガニスタンでは、未だに女性の高等教育の機会が奪われており、就労の機会も厳しく制限されている。国際社会からの援助も激減している。そうした中で、欧米は、アフガニスタン人を強制帰還あるいは出国を強いる措置を発動し始めている。冒頭のUNHCRの統計でも明らかなように、アフガニスタン人の最大の受け皿は、イランであった。このイランに、イスラエルが6月に核開発を阻止するためとの名目で、大規模な攻撃を加えた。これを、ドイツのメルツ首相は、2025年6月17日、公共放送ZDFのインタビューで、イランの核施設などを攻撃したイスラエルを「私たちのために汚れ仕事をしてくれた」と称賛した。首相は、今回の攻撃がなければテロ行為が続き、イランの核開発も進んだと指摘し、「イスラエル軍と政府が(攻撃を)実施できたことを尊敬する」と評価し、イスラエルに「感謝する」とまで述べた。一方、米国は、イラン産原油を輸入する中国の精製業者や原油を輸送するタンカーなどに追加制裁を科し、経済的に締め上げようとしている。これまで内戦の被害を逃れて脱出したシリア人の欧州への移動の防波堤になってきたのがトルコであり、タリバン政権支配を逃れたアフガニスタン人の欧州への移動の防波堤になってきたのが、イランであった。欧州は、イランの難民・移民受け入れ能力を破壊することによって、ブーメラン被害をうける可能性がこれまで以上に高まっていることを認識しているのであろうか。あるいは、これまで西側諸国にも協力してくれたにもかかわらず、置き去りにしたアフガニスタン人を現状のまま、タリバン支配下に閉じ込めることを期待しているのであろうか。

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新生シリア政権のクルド人地方行政とクルド人部隊存続への見方[2025年08月02日(Sat)]
2025年7月31日、シリア外務省のアメリカ担当局長クタイバ・イドリビ氏は、イラクKDP系通信社ルダウとの独占インタビューで、シリアの新指導部は行政の地方分権化を支持するものの、「軍隊の中に軍隊、国家の中に国家」という考え方は拒否すると述べた。クタイバ局長の発言は、米トランプ政権との良好な関係維持を基本としつつ、シリア北東部を実効支配するクルド人勢力に対する現在のシリア政府とその後ろ盾のトルコ政府の意向を体現するものとして興味深いので、主要点を紹介する。

@シリア・米国関係右矢印1両国は、ダマスカスとワシントンの間に、両国と両国民を結ぶ鉄の橋を架けようとしている
A新生シリアの役割右矢印1シリアは、イラン民兵が撤退した後、シリアはイラン民兵と(イランと連携するレバノンの)ヒズボラ(運動)の地域への再進出を阻止し、それらに伴う不安定化や破壊行為を防ぐ主要な障壁となっている(かつて、アサド政権下で、イラン民兵とヒズボラは政権を支えたが、逆に新政権は、それらの防波堤になるとの意向の表明
Bイスラエルとの関係と懸案処理に対する考え方右矢印1イスラエルは、その初日からシリアの軍事施設を700回以上攻撃し、シリア国民全体、特にシリア政府に対する敵対的と言えるメッセージを数多く発信してきた。もちろん、イスラエルが最近行ったのは、ダマスカスの国防省庁舎への侵攻と爆撃、そして2週間前にスワイダ県の内務省を治安部隊が砲撃である。一方、我々は、イスラエルとの間で政治的枠組みを通じて、問題を解決することに前向きである(米政権との良好な関係維持のためには、攻撃されてもイスラエルとは武力対峙せず、対話を続けるとの考えの表明
C米国の対シリア制裁(米下院におけるシリアに対する制裁措置(具体的にはシーザー法)即時解除には至らず)右矢印1(米議会の動きは)必ずしも米国民の方向性を表明するものではない。この問題に関する最終決定は、リヤドでの投資会議で米国の対シリア政策を明確にしたトランプ大統領の発言を待つべき。トランプ大統領がこの政策を変更しない限り、むしろ、リヤドの会議でトランプ大統領が示した政策を米政権が全面的に確認するのであれば、道筋は明確であり、この点における米国民の声も明確である(右矢印1トランプ大統領は議会を説得できるとの期待)。
D米国の対シリア制裁解除への見通し右矢印1トランプ大統領は、これまで大統領令および大統領決定によって発令されていたすべての大統領令と制裁措置を全面的に解除した。そして、それは6月実現した。残りの制裁措置の解除には、法的および政治的なプロセスが必要であり、当然ながら長い時間がかかる。例えば、1979年に指定されたシリアのテロ支援国家指定を解除するには、大統領が議会に対シリア政策の変更を示唆してから少なくとも6ヶ月かかる。シーザー法についても、共和党内および民主党との審議と協議に時間がかかるため、当然ながら時間がかかる。これら2つの法律は、現状では制裁の全面解除を阻む唯一の障害となっている。ですから、制裁解除への自然な道筋があると考えている。スワイダで起きた不幸な出来事、そしてそれに関連して起きたこと、特にイスラエル側による、これらの出来事を政治的目的に利用するためのメディアによる誤解を招く行為は、制裁解除のプロセスを遅らせる効果があったかもしれないが、道筋に完全に影響を及ぼすとは思わない(右矢印1シーザー法の解除には時間がかかるとの見方)。
Eアサド政権崩壊後の新生シリア政府の治安安定の成果右矢印1解放後、我々が目にした安定状態は、主に政府の努力によるものだが、同時に、シリア全土を守る道はこれだという、シリア国民全員の集団的コミットメントとも言えるものの成果でもあった。この集団的コミットメントは、政府や国家の能力に依存するものではなく、特にまだ新生国家である以上、政府や国家がそれを守る能力に依存するものではないため、当然ながら極めて重要である。ラタキア沿岸部で実際に起こった問題は、この道が破られたことでした。少なくともシリア国民の大部分、そして社会の大部分の観点から見れば、アサド政権と関係のあるグループが待ち伏せ攻撃を仕掛け、治安部隊員を襲撃し、多数の死者を出した事件は、時を巻き戻そうとする試みがあったというシグナルである。内戦後のどの国の枠組みを見ても、内戦から脱却した国の約90%が、この社会的コミットメントの恒久的な違反により、数ヶ月以内に再び内戦状態に戻っている。これまでのところ、今日のシリアの状況とこれらのケースの状況を比較すると、我々は内戦から脱却した大多数のケースよりもはるかに良い状況にある。これは、政府の努力だけでなく、今日のシリア国民の結束と連帯によるものと考えられる(右矢印1ラタキアの事件に拘わらず、新政権はうまく対処していることを誇示)。
Fスワイダ事変右矢印1スワイダで起きた出来事は、沿岸部で起きたことと性質が似ている。アサド政権と繋がりを持つグループが出現し、シリア解放以来スワイダに拠点を置いているが、いかなる合意も遵守していない。シリア政府は、事態が悪化する前に阻止しようと試み、スワイダのコミュニティリーダーたちにも、初日から「これらの事件がエスカレートして制御不能にならないように、沿岸部で起こったような出来事が繰り返されないように、そして社会に誤ったメッセージが送られないように、共に協力しよう」という明確なメッセージを送付した。スワイダのコミュニティリーダーたちと、(ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ハムード・アルヒンナウィー、シェイク・ユーセフ・アルジャルブー、そしてスワイダの武装組織の多くのリーダーたち、ライース・アルバルースだけでなくスレイマン・アブデル・バキーらも大いに協力した(右矢印1スワイダ事件に関し、多くのドゥルーズ派指導者は政府との対立を望んでいなかったとの見方)。
G誰が、スワイダ事変を主導したのか右矢印1ある政党、特に、ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ヒクマト・アルハジャリと関係のある政党が、この軍事状況を終結させるという国家の選択肢に対する県内での支持状況に満足せず、イスラエル側に要請した。イスラエルの介入開始から数時間、スワイダ市内にはシリア軍も国防省の部隊も存在しなかった。実際、政府は不必要な衝突や違反を避けるため、国防省の部隊を撤退させ、直ちに治安維持隊を展開した。なぜなら、軍が民間人の居住地に入る場合、間接的な衝突や違反の可能性は常に存在するからであった。基本的に、初日から政府が主導権を握り、軍を撤退させ、治安維持隊を展開した。ハジャリ師と提携する勢力や組織は、ハジャリ師の同意の有無にかかわらず、イスラエル側に要請を行い、イスラエル側はスワイダ市内の治安部隊だけでなく、県周辺の治安維持隊の展開にも攻撃を仕掛けた。その結果、スワイダは誰からの攻撃にも無防備になり、ベドウィン勢力や部族による「ファザート」(自発的な動員)だけでなく、バディヤ(シリア砂漠)から押し寄せたISISグループの現実の活動さえも目撃した。スワイダ県の地図を見ると、州境の70%はバディヤと接しており、実際、大規模な軍隊や治安維持隊の駐留なしには制御不可能な行政境界線となっている。県を守っていた軍隊と治安維持隊がイスラエルの敵の攻撃を受け、政府は県を効果的に守る能力を奪われた。イスラエルはドゥルーズ派を守ろうとしていたのではなく、実際にはシリア人同士の内紛状態を作り出すことを目指していたのである(右矢印1ドゥルーズ派の精神的指導者シェイク・ヒクマト・アルハジャリあるいはその関係者がイスラエルの介入を要請したが、イスラエルはシリアの内部対立を目指していたとの見方)。
Hマイノリティが感じる恐怖右矢印1一般人から見れば、「アラウィー派に何が起こったか、ドゥルーズ派に何が起こったかを見れば、恐怖を感じるのは当然だ」と。しかし、政府は当時も今も、すべての人に手を差し伸べ、「政治的解決によって問題を解決し、いかなる紛争にも外部の勢力を巻き込まないようにしよう」と訴えている。そして、これこそが、今日私たちが改めてすべての人にお伝えしている道筋である。「交渉のテーブルに着き、政治的解決に向けて努力しよう」(右矢印1沿岸部やスワイダ事件にかかわらず、政府を信頼して、対話に努めてほしいとのメッセージ
Iシリア政府とSDF代表団(仏と米代表も出席)によるパリ会合延期の背景右矢印1延期されたのは、純粋に技術的な理由によるもので、当初は直前に調整されたものでした。実際、会談の招待状は会談日のわずか数日前に送付され、スワイダでの出来事のさなか、仲介者によってやや一方的に準備されたものであった。延期の理由は、実際にはスワイダでの出来事と重なっていたことが主な原因である。シリア政府とシリア指導部は、戦闘再開への懸念から、停戦と危機の緩和に注力していた。一方で、会談の準備には十分な時間がなかった。シリア民主軍(SDF)とシリア政府の間で、マズルーム・アブディ司令官・シャラア暫定大統領間の3月10日合意の履行に関する交渉を完了するため、近日中にパリで会談が開催される予定である。具体的な日程は暫定的に決まっており、近日中に発表される(右矢印1クルドと新生シリア政府の対話は止まっていないとの主張)。
Jシリア政府はあらゆる形態の地方分権化を拒否しているのか右矢印1まず、2つの点がある。まず、カミシュリーで行われた会合には、多くのクルド人政党や団体が集まっていた。もちろん、常に問われるのは、「これらのクルド人政党や団体は、クルド人コミュニティ全体を代表しているのだろうか?」という疑問である。シリアのクルド人として、私は実のところ、既存のクルド人グループや政党の多くに、私のような代表者が見当たらない。特に、一部のクルド強硬派が「アラブ化したクルド人」と呼ぶクルド人コミュニティを見れば、私のようなクルド人はたくさん存在する。ハマ、ラタキア、アレッポ、ダマスカスのクルド人コミュニティは、シリアのクルド人の大多数を占めているが、これらの政党には北東部で実効支配するクルド人の代表者は全くおらず、彼らとの交流も全くない(右矢印1シリア北東部を現在実効支配しているクルド人がシリアのクルド人全体を代表しているわけではないとの指摘)。今日、私たちはこう発言する。「我々はアサド政権ではない。我々はバアス・アラブ社会党でもない。我々はアラブ民族主義者でもない。なぜなら、シリア政府の立場から出発するとき、我々はアラブ民族主義の立場から出発するのではなく、すべてのシリア人を一つにするシリア国民の立場から出発するからである。」 そもそも必要のない新たな法的枠組みを作ることで解決する必要はない。例えば、シリア法では、地方自治に関する法律第107号が、行政の地方分権化のための広範な権限を与えている(右矢印1地方分権に関する法律は既に存在しているとの指摘)。
Kシリア民主軍(SDF)の立ち位置右矢印1シリア政府と米国政府は根本的な問題で一致している。それは、軍の中に軍、国家の中に国家が存在することはできないということである。我々は以前、レバノンのヒズボラ、イラクの人民動員軍(PMF)民兵、そして他の地域でも目撃してきた。軍の中に軍が存在することは、健全で安定した国家を築くことはできない。そして、これは常に国家全体の紛争と不安定化を増大させることになる。マズルーム・アブディ将軍は、シリア民主軍は過去の時代に蓄積した多くの専門知識を有していると述べており、その点に同意する。今日我々が主張するのは、シリア軍のあらゆる組織において、この専門知識を活用しようということである。なぜこの専門知識を一つの師団に限定するのか?国家がこの専門知識を活用するためには、各師団内で専門分野に応じて十分に活用されなければならない。そうすれば、一方では、シリア国家はシリア民主軍が築き上げてきた専門知識とクルド人戦闘員の専門知識を十分に活用できるようになる。他方で、他の国々がこのモデルを採用し、失敗したり、抜け出せない不安定な状態に陥ったりしたように、ある時期を経て、軍隊の中に軍隊、国家の中に国家が存在するような事態を、避けたい(右矢印1SDFは解体し、国軍に統一すべしとの考え
Lイラクのクルド人部隊ペシュメルガの先例(ペシュメルガはイラク国防システムの一部であるが、イラク国防省には統合されていない)右矢印1成功例であれ失敗例であれ、他者の経験から学ぶことに積極的であり、これは非常に重要な問題である。しかし、結局のところ、シリアの経験とシリア側の構成要素は、シリア側の構成要素の性質、文化、歴史的および近年における相互関係など、他の経験とは大きく異なる性質と特徴を持っている。したがって、我々はまず他者の経験を理解し、どこで成功し、どこで失敗したかを理解することから始めるが、私たちの経験を踏まえて構築していく必要がある(右矢印1イラク・クルディスタン地域のペシュメルガの例をそのままシリアに当てはめるわけにはいかないとの指摘
Mシリア政府による北東シリア民主自治行政機構(DAANES)の扱いについて右矢印1国家は複数の制度モデルを持つことはできません。制度モデルは一つでなければなりません(右矢印1特殊な地方自治機構の存在は原則認められないとの指摘
(コメント)2025年3月10日、シリア民主軍(SDF)のマズルーム・アブディ司令官と、シリア暫定政府のアハマド・アルシャラア暫定大統領間で覚書が締結され、この合意では、SDFと地域が国家体制に統合されることが同意された。双方は方向性では一致したものの、目指す形態は異なることが明らかになってきた。クルド側の要求は、中央政府の傘下に入るものの、求めているのは、「分権化された民主的なシリア」ということ。すなわち、シリア北東部のロジャヴァ(Rojava)と呼ばれる地域を実効支配してきた北東シリア民主自治行政機構(DAANES)による10年以上にわたる経験を踏まえて構築してきた統治機構を維持したいとの考えである。また、独立した軍隊の設立も要求しているわけではないものの、イラクのクルド人政党が維持するペシュメルガの例に倣ってSDFなどの既存の軍事組織がシリア軍に統合されつつ、シリア北東部を管轄する国軍の一部として機能し続けることである。解体されるのではなく、人々の安全を保証するために、現状のままで機能し続けることを目指している。一方、シリア暫定政府を支えるトルコの最大の目標は依然としてクルド人自治政府の解体とクルド人武装組織の武装解除である。しかし、ラタキア沿岸部(シリア人権監視団SOHRによれば、3月の騒乱でアラウィーを中心に1700名が犠牲)やスワイダ(SOHRによれば、7月20日までに1120名が犠牲)、あるいはダマスカスでのキリスト教徒への事件をみれば、武装組織を解体すれば、住民は無防備になるのではないか、シリア各地で住民が被害に遭う事件が続き、誰の安全も保証されない中で、クルド人の武装解除は住民を見捨てることにつながらないのかという懸念である。7月25日に予定されていたSDFとシリア政府間会合は一旦延期になったが、改めて開催の見通しとなっている。トルコ内でのPKKの武器放棄のセレモニーは開催されたが、その後の対応は、国会での委員会の話し合いの進展を待つ必要がある。クタイバ・イドリビ・シリア外務省アメリカ局長による他の国との比較で、新生シリア政府の対応と成果は、内戦から脱却した大多数のケースよりもはるかに良い状況にあるとの発言にかかわらず、クルド人をはじめとする少数派の不安を払しょくさせるものとはなっていない。シリア政府は新たな議会を9月にも発足させる考えであるが、議員の1/3は暫定大統領が指名し、また、シリア北東部を支配するクルド人にどれだけの議席が割り当てられるかも決定していない。SDFなどの武装解除を進めるのであれば、米軍や仏軍、あるいはアラブ軍などが暫定的に緩衝地帯を設けて、駐留するなどの対応策を示す必要があるのではないかと考えられるものの、トランプ大統領は新規駐留を支持するとは思われない。トルコでのPKKを巡る今後の展開が参考になる可能性がある
https://www.rudaw.net/english/interview/31072025

Posted by 八木 at 14:49 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)

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