2022年度「ベンチャービジネス論(前期)」は、毎週水曜日5時限(17:10〜18:50)に駿河台リバティタワー1133教室で実施
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受講生のみなさん
今回のゲスト講師は、20年以上前に私を取材して以来、公私共々お世話になっている恩人で、日本経済新聞社 人材教育事業局次長の長島 芳明さんです。
冒頭から事前課題に寄せられた質問に矢継ぎ早に答えていただく新しいzoom講義スタイルで驚きました。
そして、学生向けにとっておきの日経の読み方も教えてくださいました。
圧巻は、後日送られてきました、学生たちの受講レポートの質問への回答です。許可をいただいて転載させていただきます。長島さん どうもありがとうございました。
▽いまメディアは批判されることが多いと思いますが、それでも続けられるモチベーションは何ですか。
批判されることは「よくなってほしい」という期待への裏返しでしょう。批判すらされず、無視されるようになったらおしまいです。
▽就職のこともあるので、家で講読している読売新聞を日本経済新聞に変えることを検討しています。長島さんから見て、各新聞社の特徴や良いところはありますか?
日経新聞以外の新聞は、記事をわかりやすく書こうとしています。政治へのスタンスは新聞によって異なるので、自分と相性のよい新聞を購読してみてはいかがでしょうか。そのうえで自分とは相いれない新聞を図書館などで読むと、多様な物の見方ができると思います。
▽コロナ後の内定に必要なものは、何だとお考えでしょうか。
内定の取り方について何か申し上げられる能力は私にはありません。
▽なぜトイレが汚い会社はだめな企業なのでしょうか。
職場は1日のうちでもっとも長い時間を過ごす場所です。そこのトイレが汚かったら社員はどのように感じると思いますか。
▽アフターコロナの世界はまだ予想できませんが、今の時点で何か考えていることはありますか。
あまり先入観を持たずに、起きている出来事の意味をまず考えるようにしています。それによって何が起こるのかを考えています。
▽新聞記事と共同通信や時事通信の記事に違いはあるのでしょうか。
通信社は新聞記事を新聞社に卸売りしているところだと考えてください。日経新聞はお身に事件ネタやスポーツに関する記事を通信社から仕入れています。地方の新聞社は東京や大阪といった大都市で起きているニュースを通信社から入手しています。
▽新聞業界が抱えている課題、この先乗り越えなくてはいけないであろう問題は何ですか?
日本語を使う人の減少だと思います。日本語の記事だけでは日本国内にしか情報を発信できません。
▽現在も仕事形態や新聞の電子化など昔とは全く違った働き方になっていると思います。今後の新聞業界でさらなる変化があると思いますが、何か予想していることはありますか。
働き方ではテレワークがより普及すると思います。新聞業界の変化については、全国紙といわれる新聞社が今の5つから3つぐらいまでに減ると思っています。
▽株についての知識はやはり社会人として必要でしょうか?
中学校3年生の公民の授業で習った程度のことは必要でしょう。
▽新聞記事の良し悪しはどのように判断するのでしょうか。久米先生のお話の中でも、「良い記事」といった言葉がでてきましたが、取材を受けた側から見て事実をそのまま書いてくれているのが良い記事なのか、読者に喜ばれるように多少なり事実を変えて話題を呼ぶ記事が良い記事なのでしょうか。もちろん事実をそのまま書くことは正しいと思いますが、商売として新聞を発行しているわけですし、多少盛っても悪いとは言えないように思います。
よりわかりやすく伝えるためだったり、読者の注目をひくために、記事の中のある部分を強調したり、省いたりすることはあります。ただ、これもやりすぎると読者から羊頭狗肉と思われ、メディアのブランド価値を落としてしまいます。何事も過ぎたるは猶及ばざるが如しなのでしょう。
▽本質的な理解をするためには何が必要なのでしょうか?
「なぜ」という疑問を繰り返すことだと思います。
▽日経新聞社の中でユーモアあふれる人材はいますか?
個人的なつきあいはほとんどありませんが、中村直文という編集委員はユーモアあふれる人物だと思います。
▽記事を書く際は会社が決めた文言に沿って書きますか?
言葉の使い方や表現については社内でルールがあるので、それに従います。
▽講義の中で家族の話が出てきて、Facebookにも家族の写真を投稿されていましたが、長島先生は家族の大切さはどこにあるとお考えでしょうか。
家族が大切であることに疑問を持ったことがないので、よくわかりません。強いて言えば、自分が窮地に陥った時に最後まで自分の味方になってくれるのが家族なのだと思います。
▽本日の講義を聞いて、新聞記者はやっぱり忙しいのだと感じました。仕事を続けてこられたモチベーションはどこにありましたか。
お金を払ってでも記事を読んでくれている人がいるということです。
▽アフターコロナの社会が今と比べて良くなるとは思うのですが長島さんは良くなると思いますか?例えば、毎日の満員電車は分散勤務により解消されたり、飛行機で言えば、エコノミークラスという概念がなくなりビジネスクラスが主流となったり、旅行が年に一度の贅沢な旅という風になったりする可能性が高くなると強く思います。
正直、よくわかりません。何が良くて悪いのかは人によって異なります。満員電車の解消はさておき、飛行機で旅行することがぜいたくになると、人と人の交流が乏しくなると思います。それによって国同士の相互理解が難しくなるのかもしれません。一方で温暖化ガスの排出量削減につながるとの見方もあります。
▽このような人は意外と新聞社に向いているかもしれない、など、就職面で意外な情報などがあれば知りたいです。また、日経新聞を読むにあたって、キーワード集を買おうか迷っているのですが、持っておいたほうがいいのでしょうか。
「ここだけの話」とか「耳寄りな情報」といった文言を聞いたら、眉に唾を付けたほうがいいと思います。「意外な情報」もそのたぐいの一つだと私は思います。自ら課題を見つけて自ら学ぶ人が新聞社に向いているとは思いますが、それは新聞社以外の会社にとっても同じでしょう。
キーワード集に限らず、本を買うかどうか迷ったら、まずは買って読んでください。読まずに悩むぐらいだったら、読んで後悔したほうがまだいいと思います。
▽私はなかなかその場ですぐに質問を考えることができないのですが、質問する力はどのように培っていけばいいと思いますか
私も質問をすぐに考えられません。取材では、事前に何を聞くべきかを考え、場合によってはそれを取材先に伝えておくこともしました。
▽日経新聞を読むのは、アプリでも問題ないか。
問題ありません。
▽本質をつかむ方法が気になりました。
きちんと勉強をして読み込んでいれば自分が何を取材すればよいのか見えてくるとおっしゃっていましたが、私は今一つ核心的なところを突けていないと思うことが多々あります。具体的に何に注意して調べればよいのかを教えていただきたいです。
核心的なところを毎回突ける人はそんなにいません。うまくいかなかったときにその理由を考え、次回に生かす。これを繰り返すしかないと思います。
▽取材から執筆のプロセスの中で正直一番めんどうくさい、やりたくないと思うところはどこですか。
原稿を書くことです。
▽話の終わらせ方のコツはありますか?
適当なタイミングで腕時計をみるようにはしていました。
▽物事への興味の源泉は何ですか?
申し訳ありません。あまり考えたことはありません。物事への興味がわかない人生はつまらなくないですか。
▽自身の経験から、会社の良し悪しを判断する基準としてトイレの清掃が行き届いているかを見ることを挙げられていましたが、ほかにもわかりやすいところで注目すべき点がございましたら切実に知りたいです。
工場や店舗よりも本社オフィスにお金をかけている会社はあまりお勧めできないです。顧客との接点や価値の源泉の場所に重きを置く会社はいい会社だと思います。
▽ニュースについて考えるときに大切にしていることはなんですか。
読者にとってそれがどのような意味があるのかということです。
▽変化に対応できる人が新聞記者に向いているというお話の中で、自分はあまり新聞記者に向いていないとおっしゃっていました。そのなかでも日経新聞一筋で来られたと思いますが、転職などをしようとは思わなかったのですか?
転職しようと思った時期が数年おきにありました。今もたまに考えたりします。
▽紙の新聞を読むというメリットは何かありますか。
誰もが言っていることですが、ある程度の量の情報を短時間で一覧できることです。
▽多少強引な取材をしている新聞記者の方もいらっしゃるのでしょうか。
いると思います。本人はそう思っていないかもしれませんが。
▽記事を書くコツが知りたいです
私も知りたいです。
▽今後どのような企業が伸びるかを見ることも大切だとは思いますが、今後どのような人が評価されるような世の中になっていくと感じていますか。
自分で課題を見つけ、自分で学べる人だと考えています。これまでもそうだったと思いますし、これからもそうあり続けるでしょう。
▽アフターコロナの中で、就職活動における企業選びの軸が多様化し、本当の意味の“安定”について考える方が増えてくるとは思うのですが、そういった学生が多い中でどのような点で差別化を図るべきでしょうか。
就職活動であまり策を弄さないほうがいいと私は思います。他者との違いを強調したくなる気持ちは理解できますが、やりすぎると自分で作った虚像と実際の自分とのギャップに悩んでしまうでしょう。
▽今後社会に出るにあたって、雑談力、アイスブレイクが重要になると思います。取材をする際に、アイスブレイクをすると思いますがコツなどがあれば教えていただきたいです。
私も知りたいです。
▽ニュースや記事を自分ゴト化して考える、ニュースに対して自分の意見をもつということがなかなか難しいのですが、長島さんがニュースに対して自分の意見をもつために心がけていることはありますでしょうか?
先入観を持たず、何が事実なのかをまず理解することだと思います。そこから先はアタマの体操です。
▽数学を学びなおしたいとおっしゃっていましたがわたしも数学が苦手です。これからさらにデータを読み取る力やインターネットを使っての仕事が増えると思うのですが、具体的にいまどんな勉強をしたいと考えていますか。また、大学生である今こういう勉強をしたらよい等ございましたら教えていただきたいです。
中学校の数学を学びなおしました。高校の数学をやり直そうと思ったのですが、挫折しています。中学校の数学をもう一度繰り返そうと思っています。大学生であれば、まだ学習能力が高いはずなので、高校の数学の教科書をやり直してみてはいかがでしょうか。
▽先を読む力をどのように付けるべきでしょうか?やはり日経新聞などを読んで情報を集めることがためになるでしょうか?
情報を集めたうえで、そこから何がこれから起きるのかを自分の頭の中で予測してみてはどうでしょうか。アタマの体操を繰り返すことが大事だと思います。
▽初めて会う方の予習が大切とおっしゃっていらっしゃいましが、入手した情報を効果的に使うコツのようなものはございますか?
あったら私も知りたいです。
▽今日の御講義とは関係なくて申し訳ないのですが、日経新聞のコラムである優しい経済学に、明治大学の富野教授が出ていらっしゃいますが、出てきてくださる教授の方はどのように選んでいるのでしょうか。
コラムを担当している編集者が誰にどのようなテーマで書いてもらえばよいのかを考えています。まれに執筆者から提案されることもあります。
▽知識を積む小さな生活習慣が色々だと思うので、幾つか教えてもらえますか?
ゲームをしないことでしょうか。スマホのアプリで毎日の学習記録を残せるものがあるので、それを使っています。
▽テレビは見ますか。
昔のドラマ、今であれば「刑事コロンボ」をみています。深夜に放送されているドラマはたまに面白いのがあるので、いくつか選んで録画しています。
▽新聞記者として初対面でこころを開かれていない取材相手から本音を引き出すために心がけていることがあれば教えていただきたいです!
相手に真摯に向き合うこと。「私はあなたに強い関心を持っている」という気持ちを伝えるようにしています。
▽今まで出会った新聞記者の方で一番凄みを感じた人はいますか。
身内になりますが、日経新聞の杉本貴司編集委員です。
▽これからの仕事のありかたであってほしい仕事方法は何ですか。
労働時間の長さよりも仕事の成果で評価されることだと思います。
▽新聞は最低でも2社読むべきと聞いたことがあるのですが、日本経済新聞と併せて読むとよい新聞社はどこなのでしょうか?
どこでもいいと思います。
▽新聞を読む上で日本経済の状況をある程度理解すると読みやすいとおっしゃっていましたが、日経新聞を読むにあたって長島さんが他に意識されていることはありますか?
特にありません。
▽今回のお話で長島さんは『有言実行する人』だと感じました。それとは反対に、手先が不器用という理由で家業を継ぐことを諦めたというとのことでした。英語の勉強やダイエットなど、一度決めたことを最後までやり通すことへのモチベーションはどんなものでしょうか。
数学の勉強のように、最後までやり通せていないものも多いので、何とも言えません。強いて言えば、自分がやったことを記録に残しておくことでしょうか。
▽思い出に残っているお仕事は何ですか?入社1年目で気を付けるべきポイントや姿勢は何でしょうか?
大阪本社にいたときに経済団体の統合に関するニュースを取材したことです。スクープは取れませんでしたが、読者をミスリードする記事は書かなかったとの自負はあります。
入社1年目で気を付けるポイントや姿勢は、謙虚であること。でも、これは入社2年目以降も同じです。
▽ペストのお話の中で、世界史の授業で習ったけれど忘れてしまっていたことが多くあったことに気づかされました。長島さんがそういった歴史の記憶を保つためにされていることがあれば教えていただきたいです。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があります。大学生時代にこの言葉に触発されて歴史に関する新書を読むようになりました。
▽自身が日経新聞のひとであるという点を考えずに、新聞を読む習慣のない学生に対しておススメしたい、これをよんでほしい、と思うような新聞はどちらの新聞だと思いますか?
本当に新聞を読む習慣がないのであれば、各社が出している小学生や中学生向けの新聞を読んでみてはどうでしょうか。大人が読んでも勉強になることが書かれています。それに何よりわかりやすいです。
▽直接報道されていないことを読みとくために、訓練したことや努力したことは。
仮説を立て、それを取材で検証し、修正する。その繰り返しで仮説の精度が上がると思います。私の仮説の精度は低いままでしたが。
▽講義の冒頭でもおっしゃっていたように、新聞やテレビを見ているとフェイクニュースが非常に多いことに気づきます。世論のコントロールなのかと思うこともあり新聞を読むことが嫌になったこともありました。私は日本語英語でニュースをみることが多いのですが情報が都合の良いように切り取られていることが多くそれを国民が信じているという事実に悲しくなります。長島さんはこれについてどのようにお考えになりますか?
我々のようなオールドメディアがこれからも社会の中で存在させてもらうには、フェイクニュースを流さないことが大前提だと思っています。また、「情報が都合の良いように切り取られていることが多く」とありました。誤解を恐れずに言えば、編集という作業は情報を切り取ることです。何のフィルターもかけずにそのまま情報を流していったら、あまりにも量が膨大になり、読み手は価値判断ができなくなると思います。もちろん、ある特定の人や勢力にとって「都合の良い」論理がそこにあってはならないとは思っています。
▽どんな企業が成長してくると着目していますか
時代の変化に対応できる企業だと思います。
▽新聞社は広告ビジネスではありますが、デジタルにシフトした場合、紙面以上にコストがかかると思います。今後の新聞社と有益な情報を提供する評論家との差別化が難しくなると思いますが、その中での生き残りの政策は何かありますか。
ニュースにコメントされる方と我々とは共存関係にあると考えています。コメントの対象となるニュースを正確に早く報じるのが我々の役割なのでしょう。
▽今までのご経験と、勤められている会社の関係上もあるとは思いますが、長島先生が数字を重視していることが伝わってきました。人の気持ち以外、世の中数字で測れないことはあると思いますか?
ないと思います。
▽「風が吹けば桶屋が儲かる」みたいな時の「風」にあたる部分を見抜く力の養い方、コツがあれば教えていただきたいです。
私も知りたいです。コツとか秘訣といった、いわば魔法の杖的なものはないと思ったほうが期待外れにならずに済むと思います。無駄をいとわず、愚直に努力を積み重ねるしかないでしょう。