
オルガン・オーバーホール便り VOL.4[2024年05月30日(Thu)]
最終ミッション!〜整音〜
プラバホール専属オルガニストの米山麻美さんによる、オーバーホール作業のレポートブログ!
いよいよ今回が最終回!VOL.4をお届けします

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@整音とは何?
さて、2023年の11月から始まったオーバーホールもいよいよ最後の仕上げです。
そのオルガンの個性を決める、なくてはならない大切な工程が「整音」です。
「調律」はパイプ1本1本の音程を決めてバランスをとる作業。
「整音」はひとつの音色のグループの性格づけを行います。パイプの歌口などを調整して発音の「スピードはゆっくり・はやく」、「やわらかめ・かため」、「明るめ・暗め」などの性格が最終的に決まります。
料理で言えば、そのシェフ特有の味付けというところでしょうか。

ベッケラート社整音チームのロルフ・ミール氏(左)とクヴァック・ソングン氏(右)と一緒に♪
2024年1月、ベッケラート社の整音師として新たにおふたりが松江入りされました。
ドイツ人のロルフさんは開館当時も作業に参加されていたということで、またプラバに来られたことを、大変喜んでいらっしゃいました

当時のオルガンの音色のキャラクターを決めた整音師はティム・スコップ氏(故人)。ロルフさんは彼の下で長年一緒に働いてきた方なので、プラバのオルガンの生まれた当時の音を再現するには最も適した方なのでした。
A五感が頼り!
音色のキャラクターを決めるのは、なんと、整音師の耳!

パイプ1本1本の音色を聴きながら決めていき、そのグループ全体のバランスを調整していきます。プラバホールの場合、36の音色の違うパイプ群があり、手鍵盤はひとつの音色で58本、足鍵盤は32本のパイプの音色を整えていくことになります。繊細で根気のいる作業をひとりの人間の耳で行うのですから、なんと大変なことでしょう!

1音1音聴きながら音色のキャラクターを決めていくロルフさん。
ロルフさんの指示を受け、ソングンさんは内部でパイプを調整していきます。
パイプの設計の段階で、それぞれの個性のあるパイプ群の材質や形状、スケール(直径などの寸法)は決まっていますが、一般的に整音師は組み立てた段階でふいごから送られてくる風を受けて、パイプがどのように鳴るのかを聴いてから中心になる音の音色を決め、その後に周辺のパイプを整えます。同じ音色でも低音域、中音域、高音域によって表情は微妙に変わります。
手鍵盤にはオルガンの中心となるPrinzipal 8’プリンツィパル8フィートという58本のグループがありますが、まずそのパイプ群から整音していきます。同じPrinzipal 8’でも、オルガン工房や整音師によって音色は微妙に違います。ベッケラート社の伝統の音色と、スコップ氏直伝の技術を受け継いだロルフさんがどのようにその音を決めるのか?感覚の世界なので言葉で説明するのは大変難しく、また職人として明かせない部分もあるようです。

オルガン内部に運ぶ前のパイプたち。Scharfシャルフという音色のパイプは一度に4本の高さの違うパイプが鳴るため、あらかじめ綿を詰めて鳴らないようにして、整音時に1本ずつ綿を外します。
B不思議な瞬間
さて、Prinzipalの音色の作業が始まってある日のこと。ロルフさんはなかなかしっくりと腑に落ちない状態が続いていたそうですが、ある時、鍵盤の中低音域を作業していて、突然「これだ!」という瞬間がやって来たのだそうです

C新しいパイプ
今回新しく加わった3種のパイプ群は、第3鍵盤のCelesteセレステ(弦楽系の音色と併せて使う)、足鍵盤のG Gedacktbassゲダクトバス(柔らかい音色)とQuintbassクィントバス(5度の倍音でオクターヴ低い効果を出す)の85本。
そのうち足鍵盤のパイプは新しく演奏台裏のスペースに設置するため、おおまかなサイズで用意されていたので、製作の仕上げは現地で行われました。

もくもくと仕事に向かうソングンさん。パイプの歌口の高さを調節しているところ。

パイプは錫(すず)と鉛(なまり)の合金なので意外と柔らかい。音程を作るために余分な長さをジョキジョキ切ってその後にキャップを被せると出来上がり


歌口の調整中。おなかが支えになっている??

パイプの足元からこの細いすきま(赤い枠)を通って風が運ばれ、歌口の上部にあたって音が生まれます


演奏台のすぐ裏のスペースに新たに設けられた風箱。ここがゲダクトのパイプたちの住処に
なりました。
D温故知新の共同作業
毎日、性格づけられていくパイプたちが増えていき、2月に入ると私も少しずつ出来上がった音色を試し弾きしながらロルフさん達と発音やバランス、色味についてセッションして行きました。あくまでも基本はこの楽器が生まれた時のオリジナルを大切にするということ。しかしながら、プラバホールの様々な演奏シーンに合う音色が作り出せるというリクエストもしながら、楽器の持つ能力を120%引き出せるようにと。
まるで一つの作品を一緒に創り上げるような作業に参加できて、オルガニストとして大変貴重な機会に立ち会えたことに感謝しています。
2024年2月23日、約3か月かけてのオーバーホールが無事終わり、生まれ変わったオルガンが私たちに語り始めました。全く新しいオルガンのように新鮮に響き、またこれまで慣れ親しんだ音色のようにも聴こえ、不思議な感覚になりました。
人間の肺にあたる「ふいご」のラバーが新しく張り替えられ、パイプは生まれた当時のようにいきいきと鳴り出しました。38年前のオリジナルのパイプは清掃と調整のみで1本も交換することなく、この先何十年も鳴り続けます。
プラバホール構想当時からのたくさんの方々の熱い想いで生まれたオルガン。
公共ホールとして中四国で唯一のパイプオルガンです。
さぁ、これからまたみなさまに聴いていただき、
愛を注いでいただきながらご一緒に育てていきましょう

新生オルガンをこれまで以上にどうぞよろしくお願い申し上げます。
プラバホール専属オルガニスト 米山麻美
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パイプオルガンのオーバーホールが終わり、4月1日よりついに大ホールを含めた全館がリニューアルオープンとなりました。
オープニング事業も4月、5月と多くのお客様にご来場いただき7月にはいよいよ初めてのオルガンコンサートを開催します♪
公演詳細はこちら
生まれ変わったパイプオルガンに是非会いに来てくださいね


スタッフM