
オルガン・オーバーホール便り VOL.3[2024年03月14日(Thu)]
コンソール(演奏台)はパイロットの運転席?
プラバホール専属オルガニストの米山麻美さんによる、オーバーホール作業のレポートブログ
VOL.3をお届けします
〜*〜*〜*〜*〜
オルガンの演奏台をご覧になったことがありますか?客席から見ると鍵盤部分と左右に丸いボタンのようなものがあり、オルガニストが演奏しながらそれを触ったりしています
コンサートホール・オルガンの演奏台は他の鍵盤楽器とは異なり様々な装置がついていますが、主に次のような構成になっています。
・鍵盤
・レギスター/ストップ(異なる音色のパイプ群を選ぶためのノブ)
・音色の記憶装置ボタン(手元と足元)
・スウェル・ペダル(第3鍵盤のシャッターを開閉するもの)
・電源スイッチ(モーターで風を送るため)&ライトスイッチ
・譜面台
・ミラー(ステージの演奏者・指揮者を見るため)
まるで車や飛行機の運転席のようですね。挿絵画家のホフヌング(Hoffnung1925-59)はオルガン奏者をタクシーの運転手に例えて描いています。

演奏台Before
a ストップ b ストップを組み合わせて作った音色を記憶するボタン
c スウェルペダル d カプラーピストン
《コンソールのリニューアル》
◆レギスターの追加
今回のオーバーホールでは2種類のパイプ群が増えたので、そのパイプ群に風を送る指令を出すレギスター(ストップ・ノブ)を新たに取り付ける必要がありました。
また、カプラー(複数の鍵盤をつないで同時にそのパイプを鳴らす機能)や水笛(鳥の鳴き声を模倣したパイプ)やツィンベルシュテルン(複数のベルが鳴る装置)など、新たに8つ加わりました。
これらをどの位置にどんな順番で取り付けたら演奏しやすいのか……
そこで、専属オルガニストの出番です
あらかじめベッケラート社からはノブの位置の提案がありましたが、果たして実際の演奏台に座ってみてどの位置が演奏しやすいか、見えやすいのかを毎日技師さんとああだ、こうだとやりとりしながら決めていきました

「このあたりにつけようか?」「いやぁ、手が届きにくいかも」「こっちはどうかな」と続く…

赤枠のところに元々あったストップを移動し、新たなストップを黒い部分に入れました
この時はまだ足場を組んだ状態だったのでオルガンの長いベンチを置くことが出来ず、パイプ椅子を台の上に乗せて実際の高さを想定しながら手足を動かして決めていったのですが、今思い出すとよくやったなぁと笑ってしまいます。

ストップ・ノブのボックスに新たなストップの穴を開けていくロルフさん

ボックスの裏側。ここに電子制御の部品が仕込まれるとぎゅうぎゅう詰め
新しいストップ・ノブは足鍵盤用に3つ、第3鍵盤(スウェル鍵盤)用に3つ、そのほか2つ必要で、狭いボックス内に回路部品が上手く入るように調整していきます。
ロルフさんは家具職人でもあるので、とても細やかな上に美しさも追及されていました。
◆音色のメモリー装置の最新化〜表現の幅が格段に広がる!
オルガンは異なる音色や音の高さのパイプ群をいろいろに組み合わせて演奏しますが、作品によっては最初から最後まで音色が変わらないものあれば、途中で何カ所も変わっていく曲もあります。
さて、今回のオーバーホールの最大の目玉は記憶装置のコンピューター化です
演奏する際、ストップを操作して音色を変化させるのですが、途中で一度に複数のノブを操作する場合はアシスタントが操作したり、メモリーボタンを使ったりします。
これまでのプラバホールのオルガンはまだ電気信号的な記憶装置だったので6通りしか記憶できませんでした。1曲で6通り使ってしまうと足りない所はアシスタントさんに手伝ってもらい、曲間にトークでつないでいる間に違う6通りを仕込み直したり、プログラムの制約があったりとこれまで大変苦労していました。
それが、今回電子制御システムに変わったことによって一挙に1万通り可能となりました

新しい鍵盤まわり a記憶装置/0000から9999までのセットが可能 b手元は一の位から千の位に各10個のボタンがセットでき、前後に進むボタンを押すだけで簡単に音色の変化が可能に
c前後に進めるボタンは足ピストンでも操作可能に
これによって、特にロマン派以降の作品の演奏に於いて、1曲の中でも10や20も音色の変化が可能になり、水彩画のグラデーションのような表現をすることができるようになりました。

アシスタント用ボタン 操作しやすいように演奏台の左右につけてもらいました
ベッケラート社が新たに開発した記憶装置を今回導入するのは、ヤンさん。彼もとても細やかなやりとりをしてくださいました。

メモリーボタンを製作中のヤンさん

オルガン内部の回路につなげていきます

鍵盤を弾きながら瞬時にボタンを押すために、深さを調節しているところ
弾きながら、また休符の間に一瞬でボタンを押すのにどのくらいの深さが適切なのか調べながら設置しました

メモリー盤を垂直ではなく演奏しやすいように角度をつけて
記憶装置の改修は演奏表現の幅がとてつもなく広がるので、これまでずっと待ち望んでいました。
現代のコンサートホールオルガンにおいて、最新の記憶装置はその楽器の持つ能力を120パーセント、いやそれ以上に引き出して活かすことが出来る素晴らしいツールと言えるでしょう。
また、音色を準備する時間や練習時間、アシスタントとのあわせ時間も断然効率的になり、例えば複数のオルガニストによるフェスティバルや、これまでおこなってきたオルガン学園生の発表会なども開催しやすくなります。
今まで以上に多彩な響きを奏でるオルガンを皆様に聴いていただけると思うと本当にワクワクしています。

次回は、いよいよオーバーホールのクライマックス、一番重要な「整音」についてお送りいたします。
to be continued
プラバホール専属オルガニスト
米山麻美
〜*〜*〜*〜*〜
11月から年末にかけて、ここまでの作業が行われました。
年明けからは、職人の皆さんも「整音」のスペシャリストにバトンタッチ。
次回もお楽しみに!
(平江)
プラバホール専属オルガニストの米山麻美さんによる、オーバーホール作業のレポートブログ

VOL.3をお届けします

〜*〜*〜*〜*〜
オルガンの演奏台をご覧になったことがありますか?客席から見ると鍵盤部分と左右に丸いボタンのようなものがあり、オルガニストが演奏しながらそれを触ったりしています

コンサートホール・オルガンの演奏台は他の鍵盤楽器とは異なり様々な装置がついていますが、主に次のような構成になっています。
・鍵盤
・レギスター/ストップ(異なる音色のパイプ群を選ぶためのノブ)
・音色の記憶装置ボタン(手元と足元)
・スウェル・ペダル(第3鍵盤のシャッターを開閉するもの)
・電源スイッチ(モーターで風を送るため)&ライトスイッチ
・譜面台
・ミラー(ステージの演奏者・指揮者を見るため)
まるで車や飛行機の運転席のようですね。挿絵画家のホフヌング(Hoffnung1925-59)はオルガン奏者をタクシーの運転手に例えて描いています。


演奏台Before
a ストップ b ストップを組み合わせて作った音色を記憶するボタン
c スウェルペダル d カプラーピストン
《コンソールのリニューアル》
◆レギスターの追加
今回のオーバーホールでは2種類のパイプ群が増えたので、そのパイプ群に風を送る指令を出すレギスター(ストップ・ノブ)を新たに取り付ける必要がありました。
また、カプラー(複数の鍵盤をつないで同時にそのパイプを鳴らす機能)や水笛(鳥の鳴き声を模倣したパイプ)やツィンベルシュテルン(複数のベルが鳴る装置)など、新たに8つ加わりました。
これらをどの位置にどんな順番で取り付けたら演奏しやすいのか……
そこで、専属オルガニストの出番です

あらかじめベッケラート社からはノブの位置の提案がありましたが、果たして実際の演奏台に座ってみてどの位置が演奏しやすいか、見えやすいのかを毎日技師さんとああだ、こうだとやりとりしながら決めていきました


「このあたりにつけようか?」「いやぁ、手が届きにくいかも」「こっちはどうかな」と続く…
赤枠のところに元々あったストップを移動し、新たなストップを黒い部分に入れました
この時はまだ足場を組んだ状態だったのでオルガンの長いベンチを置くことが出来ず、パイプ椅子を台の上に乗せて実際の高さを想定しながら手足を動かして決めていったのですが、今思い出すとよくやったなぁと笑ってしまいます。


ストップ・ノブのボックスに新たなストップの穴を開けていくロルフさん

ボックスの裏側。ここに電子制御の部品が仕込まれるとぎゅうぎゅう詰め

新しいストップ・ノブは足鍵盤用に3つ、第3鍵盤(スウェル鍵盤)用に3つ、そのほか2つ必要で、狭いボックス内に回路部品が上手く入るように調整していきます。
ロルフさんは家具職人でもあるので、とても細やかな上に美しさも追及されていました。

◆音色のメモリー装置の最新化〜表現の幅が格段に広がる!
オルガンは異なる音色や音の高さのパイプ群をいろいろに組み合わせて演奏しますが、作品によっては最初から最後まで音色が変わらないものあれば、途中で何カ所も変わっていく曲もあります。
さて、今回のオーバーホールの最大の目玉は記憶装置のコンピューター化です

演奏する際、ストップを操作して音色を変化させるのですが、途中で一度に複数のノブを操作する場合はアシスタントが操作したり、メモリーボタンを使ったりします。
これまでのプラバホールのオルガンはまだ電気信号的な記憶装置だったので6通りしか記憶できませんでした。1曲で6通り使ってしまうと足りない所はアシスタントさんに手伝ってもらい、曲間にトークでつないでいる間に違う6通りを仕込み直したり、プログラムの制約があったりとこれまで大変苦労していました。

それが、今回電子制御システムに変わったことによって一挙に1万通り可能となりました

新しい鍵盤まわり a記憶装置/0000から9999までのセットが可能 b手元は一の位から千の位に各10個のボタンがセットでき、前後に進むボタンを押すだけで簡単に音色の変化が可能に
c前後に進めるボタンは足ピストンでも操作可能に
これによって、特にロマン派以降の作品の演奏に於いて、1曲の中でも10や20も音色の変化が可能になり、水彩画のグラデーションのような表現をすることができるようになりました。

アシスタント用ボタン 操作しやすいように演奏台の左右につけてもらいました
ベッケラート社が新たに開発した記憶装置を今回導入するのは、ヤンさん。彼もとても細やかなやりとりをしてくださいました。

メモリーボタンを製作中のヤンさん

オルガン内部の回路につなげていきます

鍵盤を弾きながら瞬時にボタンを押すために、深さを調節しているところ
弾きながら、また休符の間に一瞬でボタンを押すのにどのくらいの深さが適切なのか調べながら設置しました

メモリー盤を垂直ではなく演奏しやすいように角度をつけて
記憶装置の改修は演奏表現の幅がとてつもなく広がるので、これまでずっと待ち望んでいました。
現代のコンサートホールオルガンにおいて、最新の記憶装置はその楽器の持つ能力を120パーセント、いやそれ以上に引き出して活かすことが出来る素晴らしいツールと言えるでしょう。

また、音色を準備する時間や練習時間、アシスタントとのあわせ時間も断然効率的になり、例えば複数のオルガニストによるフェスティバルや、これまでおこなってきたオルガン学園生の発表会なども開催しやすくなります。
今まで以上に多彩な響きを奏でるオルガンを皆様に聴いていただけると思うと本当にワクワクしています。


次回は、いよいよオーバーホールのクライマックス、一番重要な「整音」についてお送りいたします。
to be continued
プラバホール専属オルガニスト
米山麻美
〜*〜*〜*〜*〜
11月から年末にかけて、ここまでの作業が行われました。
年明けからは、職人の皆さんも「整音」のスペシャリストにバトンタッチ。
次回もお楽しみに!
(平江)